風「ビュー!ビュー!」
指「カタカタカタッ」
なにこれ?三月じゃなくない?12月から1月くらいの寒さなんですけど…
皆さん風邪をひかないように気をつけてくださいね。
『……そうですか分かりました。では引き続きお願いしますね』
「・・・・・・(コクリ)」
『いや、だからメッセージなんですから喋りましょうよ』
「・・・了解した」
現在状況の報告を済ませたぼっちは軽く体内の空気を吐き出す。
あの一件よりコキュートスの頑張りには目を見張る物があった。指摘したものを改善しようと必至に部下達に指示を出し、自らは陣形や戦術などを学習しようとぼっちより借りた戦国関係の書物を読みふけっていた。
我が子の成長を見ているようで嬉しかった。
しかし二つ問題があった。
一つはあの一件の事を謝れてない事。
もう一つは時刻だった。
現在深夜0時。部下の者達は休ませコキュートス一人指揮所に篭って策を練っているのだ。
……そうだ。謝るついでに夜食でも作っていこう。
そうと決まれば立ち上がり用意してもらっていた厨房用の天幕に移動しようと思うのだがソファに座っている自分の膝元を見る。
「すー、すー」
エントマが寝息を立てて眠っていた。紅茶を持ってきた彼女に何かしてあげようかなと思って膝枕を提案したところ、10分もしない間に眠ってしまったのだ。
うーむと悩み起こさぬようにエントマをお姫様抱っこしてベットへと運ぶ。すでにベットには先客がいるが…
同じく寝息を立てているマインの横にエントマを横たわらせ布団をかける。起きた様子はなしと確認して自分の天幕から出て行く。
厨房用の天幕には調理器具一式が用意されていた。正確にはして貰ったのだが…
服装を新しい物に変え、手を洗い厨房に立ったのは良いが何を作ろうか悩む。
別にアイテムを所持しているからと言ってこんな時間に重いものを出すのもどうだろうか?なら軽いもの?サンドイッチとかおにぎり…うーむ…そうだ。うどんにしよう。
置いてある食品用アイテムボックスよりうどん、にんじん、かまぼこ、長ネギ、椎茸、合鴨、小松菜、卵を取り出す。そこで出汁はどうするか悩んでインスタントではなく作る為、昆布に鰹節、醤油、酒、塩を取り出した。
鍋で水と昆布を入れて出汁を取る間に海老の腸を取ったり、食材を切り始める。途中で鰹節を投入して再び作業に戻る。その時天幕が開いたのが分かった。
「……ん…アルカード様?」
「何をなさっているのですか?」
そこに居たのは先ほどベットで寝ていたエントマとマインであった。気配は消していた筈なのに何故かマインは気付くんだよな。
目を擦りながらマインはこちらを見つめてくる。
やらないからな?これはコキュートスのだからな?
『だめ!これはお母さんのだから』
ん?王女様の時以来じゃないか幻聴…しかし久しぶりに聞こえたと思えばトウモロコシを持った幼女か…何回見たっけなあの映画…
「・・・コキュートスに差し入れ」
そう告げると再び作業を続ける。が二人の視線が気になりため息を付く。出しの中に具材を入れて蓋をすると再び食材用アイテムボックスに近づく。
茶碗にご飯をよそいで鮭の身を解した物に四葉を載せる。そこに暖めた液体をかける。この液体は魚の粗を煮て出汁を取った物だ。それを二杯作り二人の前に差し出した。
「よ、よろしいんでしょうか!?」
「・・・しー・・・」
大声を上げて喜ぶエントマに人差し指を口に当て静かにするように伝える。これで皆が来たら大変な目に合うし。俺が!
いつもは表情が読めないエントマが顔を赤らめてこちらを見つめてくる。そう言えば先ほどから指をエントマの唇に当てたままだった。ヤバイってかなにしてんだろう。ニヤニヤするなマイン!恥かしいんだから!!
これ以上何かをやらかす前に移動しよう。
「二人はこれで済まないが食べてくれ・・・」
「//////はい」
「いただきます♪」
嬉しそうなマインに心此処に在らずのエントマはそれぞれお茶碗に手をつけた。
鍋を持ち上げコキュートスが居るであろう天幕へ向かう。
中に入ると案の定、本を読みふけっていたコキュートスが視界に入った。俺に気付き急に立ち上がる。
「ボッチ様ドウカナサレマシタカ?」
「・・・差し入れ」
「私ニ…デスカ?アリガタキ幸セ」
ありがたき幸せって何の効果もない料理だよ?そこまで喜ぶのか。
コキュートスが机の上を片付けてそこに鍋を置く。
「・・・夜も遅いから鍋焼きうどんにしてみた」
夜食と言えばこれでしょやっぱり。聖司君のおじいさんが作ってたのおいしそうだったからなぁ…
箸を上手く使い口元へと持って行き息を吹きかける。
そこでふと思った。それって冷気?冷気だよね。あれ?俺温かい物をチョイスした意味なくね。
「…美味シュウゴザイマス。体ノ中カラ温マリマスネ」
…ん?てことはさっきのは湯気?索敵スキル発動!冷気や暑さ対策の解除を確認。……すみませんでした!!あ、そういえば謝りにきていたの忘れかけてた。
「・・・すまなかった」
「?ドウサレタノデスカ?」
「・・・この前は言い過ぎた」
「何ヲ仰イマスカ。アレハ私ガ悪カッタノデス。ボッチ様ニ非ハアリマセン」
「・・・・・・そうか」
そこまで強く言われたらそうかぐらいしか俺言えないんだけど…意志弱いな俺。
ふふ、とコキュートスは笑い箸を置く。
「トハ言ッテモ言ワレタ時ハ落チ込ンデシマイマシタガマイン殿ニ教エテモライマシタ」
「なにをだ・・・」
「『自分で考えろ。立って歩け。前へ進め。あんたには立派な足がついてるじゃないか』。ボッチ様ニ昔教エラレタト言ッテマシタガ私モボッチ様ノ言葉ノヨウニシテミヨウト思イマス」
「・・・・・・・・・」
ファ!?その台詞は前にマインに言った台詞だよな。覚えてるよ。あの時もスラスラ出ちゃったんだよ!俺の言葉ではなくてエドワード・エルリックの言葉だからね!!てか黒歴史を掘り起こさないで~!
恥かしいのが前面に出るのを抑えつつ天幕を後にする。
「私やアインズさんがどうとかでなく・・・・・・自分の全力を出して後悔せぬように」
「ハッ!!」
後ろで頭を下げているであろうコキュートスへと振り返る事無く自分の天幕へ戻ると同時にベットに飛び込む。
今日の事を思い出す。さっきの黒歴史を掘り起こされた事もだがいろいろありすぎた。
昼ぐらいにモミからメッセージが届いたのだ。内容は外で友達が出来たらしいのだがちょっとした問題が起きたからちょっと助言してくれないかと言う物だった。
問題と言うのは何でもモンスターを使った戦略シミュレーションゲームの事だった。いつもだったら五人の知り合いとやっていたらしいが今回はどっかの余所者が3.5倍もの駒を持って挑んできたらしい。
別に断っても良かったんだけど燃えるじゃないか。敵対していたはずの知り合いたちが手を取り合い巨大な相手に挑む。ゲームとは言え燃える展開ではないか!!
その為いろいろと協力させられた。外れガチャで出した通信用水晶を6つ渡したり、奇策やらどんな戦法を執ったほうがいいかの指南をしたりした。あと声色を変えてって言われたり偽名を使ってなど…いきなり偽名を使ってって急に言われても知っている指揮官の名前しか出てこなかったよ。で、ヒューリックになった訳だが…
兎に角、疲れた。あとは明日で言いよね?
ぼっちは深い眠りの中へと落ちていった。
カルネ村
以前アインズとぼっちが助けたこの村にはナザリックより一名が常駐している。
プレアデスが一人、ルプスレギナ・ベータは夜空の元で一人暇そうにしていた。
「暇っす。何か面白いことでもないすかね~」
策に腰掛けて村を眺めるが彼女が求めるような面白いことなど起きる事などなく平穏そのものだった。
ポケットの中で何かが反応した。
首を傾げつつ光った何かを取り出すとそれは通信用に配られた巻物であった。第11階層が起動したおかげで物資には困っておらず、個人的な連絡を取る為にも持たせているのだ。
巻物を開き内容を確認する。
「誰からっすかね…っとエンちゃんすか。えーと…なっ!?」
連絡用の巻物から送られてきた物は3つの画像とそれらの説明文であった。
一枚目『凄く気持ちいいです~♪』ぼっちに膝枕されご満悦なエントマ。
二枚目『ぼっち様の手作り。心から温まるよ』マインと共にぼっちが作った魚のあら出汁をかけたご飯を食べるエントマ。
三枚目『お仕事がんばってね。じゃあお休み~♪』寝ているぼっちをマインと挟んで寝ようとするエントマ。
送られてきた三枚を見たルプスレギナは肩をわなわなと揺らして口を開いた。
「なんなんすかこれはー!!」
静寂で覆われていたカルネ村に叫び声が響き渡った。
その後、送られてきた画像をナザリックに居るプレアデス達と階層守護者達に送った事は言うまででもないだろう。
次回ナザリックVSリザードマン連合の戦い!!
……の前に特別編を入れようと思います。