「おいしいですねアルカード様」
「そうだね」
「お口にあって何よりです」
今俺とマインは王女に誘われて午後のひと時を楽しんでいた。
この一室には王女のラナーにクライム、あとは『蒼の薔薇』リーダーのラキュース・アルベイン・デイル・アインドラと同じく『蒼の薔薇』の忍者のティナが同じく席について紅茶を味わっていた。
正直シャルティアの淹れてくれた物の方が美味しいのだがそんな事は口が裂けたって言わない。
ここで一言……頼む帰らせてくれ。ぼっちの願いはその一つだった。
緊張しっぱなしの舞踏会から早朝からの試合見物。朝食から昼食までの間に数十を超える貴族達との会話…やっと帰れると思った矢先に王女に捕まり連行…どうなってんのこれ?しかもだよ…周りが美人で囲まれてんの。視線よりそっちの方がキツイ。
ブロンズの髪にエメラルドのような緑の瞳のラキュースは淡い桃色のドレスを身に纏い王女と俺の間に居るし、向かいのティナは忍者なのだから動きやすい服装にしているのは分かるが脇、へそ、太ももとピンポイントで晒しているのってどうなのよ?
何かこのお茶会はある事を決める場であり、クライム君に推薦されたらしく要るわけなのだが中々その話が始まらない。今話しているのは朝の試合の話だ。どうやら観客の中に紛れていたらしい。こんな美人よく騒がれなかったな…
「試合の時のあの技は伯爵から?」
「はい。と言っても伯爵から教わったロートル先生からなんですが…」
……おい、今なんてった?頼むよマイン。ロートルから先を喋るなよ!ふりじゃないからな!頼むよ…
ぼっちの思いは余所にマインとラキュースの話は続く。
「中々良い試合だったわよ」
「お褒めのお言葉いた、痛み入ります」
「クライムも真剣に見ていたものね?」
「ええ。本当にすばらしい物でした」
「でも技名叫ぶ必要ある?」
痛い所をついて来るなこの忍び少女。技名叫ぶ意味なんて本人のノリだけでデメリットしかないよ。叫ぶ時の間に隙が出来たり、知ってたら技の対処を行なわれたりする。さすがはアダマンタイト級冒険者グループ分かってらっしゃる。
話は変わるけどティナって子が部屋に入ったマインを見て『まだいける』って呟いたのどういう意味なんだろうか?
「私はいいと思うけど?」
…聞き間違いか?アダマンタイト級の冒険者グループのリーダーが肯定したように聞こえたが。
「クライムはどう思う?」
「えっと…なんと言えば良いのか…」
「ラナーは…」
「叫ぶ事でデメリットがある事は分かるけどメリットがね…」
ラナーの発言にティナにクライムが頷く、それに対してマインとラキュースが驚いた顔をしている。
あの二人は気付いてなかったんだと思いつつ紅茶を飲もうと手を伸ばした時、皆の視線が集まっていたことに気付いた。
「何か?」
「アルカード様はどう思われます?叫ばないほうが良いでしょうか」
「それとも何か意味があるのでしょうか?」
「・・・気持ちの問題」
「気持ちですか?」
「技名を叫ぶと言うのは弱点を晒す。確かにデメリットだ。されど叫ぶ事で気合を入れる。自分自身で行なう技を認識するなど戦う者としては重要だと思う」
皆が納得してくれたのか何度か頷いてくれた。よくこんな思い付きを信じてくれたな。俺は叫ばないけどな!!恥ずかしいし注目されるしね。
「アルカード様も叫ばれてましたね。『牙突』って」
ああ~。練習中に叫んで使ったっけ。あの後マインの片腕がミンチになって治すの大変だったな。あの時は回復アイテムを無駄に持ってて良かった。本当に…
「それで鬼リーダーも『超技! 暗黒刃超弩級衝撃波』ってあの時叫んだのか」
「!!ええ、そうよ///」
ちょっと待て!それ絶対あれだろ!?中二病患者決定してるだろ!!この世界にも居たんだな。
照れたラキュースは咳払いをしてマインに向き直る。
「マイン君。私達の仲間になる気はない?」
「え?」
「蒼の薔薇は女性のみのチームだけど貴方なら…ねぇティナ?」
「問題ない。実力ともに足を引っ張ることも無いだろうし」
「…ありがたいお話だと思いますがお断りさせていただきます。ボクはアルカード様の弟子ですから
「そう。残念ね」
「そろそろ本題に入ってもいいかしら」
ラナーがそう言うと部屋の空気ががらりと変わった。これからが真剣な話なのだろう。
「伯爵はこの国に巣くっている『八本指』をご存知でしょうか?」
「『八本指』…いえ知りませんが」
「『八本指』と言うのは王国を影から操っている連中の事です」
「私達『蒼の薔薇』はラナーの依頼でそいつ等の資金源となっている麻薬栽培を行なっている村を潰そうと思っている」
「それで私に何をさせたいのですか?」
「この作戦には伯爵にも参加して頂きたいのです。クライムが貴方なら絶対手を貸していただけると言って聞かないもので」
麻薬か…この世界でもあるんだ。確かに大問題だ。人間は苦しみに耐えれなかったり。ちょっとした事で新たな刺激を求めたりする。その結果麻薬に手を出した者も居るだろう。
理解して微笑みながら彼女の、ラナー姫殿下のお言葉を待つ。
「協力して頂ければ六大貴族。もしくは国王派閥好きな方のパイプを約束します」
「それは結構。この件に関して私は報酬を求めません。我がヘルシングのお力をお貸しいたします」
「…そうですか。伯爵、感謝致します」
「と言ってもここ王都にはヘルシングの店は現在鍛冶屋しかないので手持ちには身の回りをする者が20名と戦力としてはマインを含め3人…いえ、私を含めれば4人と言ったところですかね」
「伯爵自ら!?」
「ええ。作戦は何時ごろ?」
「今日の深夜にでも」
「今日ですか?それは困った。夜にはガゼフ戦士長と約束があったのですが…」
「ボク達にお任せくださいアルカード様!見事任務を完遂してご覧に入れます!!」
話が決まった所でやっと屋敷に帰れると思ったぼっちにティナが『ラキュースの事で頼みたい事がある。ガガーランと言う私の仲間に詳しく聞いてくれ』と頼まれたのでここには居ない『蒼の薔薇』に事情を説明すべく向かうクライムと共に向かう。
その姿を部屋の窓から眺めるラナーはラキュースやティナに見えないように表情を歪めた。
アルカード・ブラウニー伯爵。前会った時は寡黙な殿方ぐらいの印象しかなかったが今は違う。私が王女と分かっていてあの五宝物に匹敵する品を渡してきた事が分かった時から警戒している。それに道の話をした際に少し聞いただけでアレだけの資金提供してきた。理解力が凄いのか己の財力を周りに示したのか…もしくはその両方。
今回の話は確かにクライムの推薦を受けたが伯爵を試すいい機会だと思った。これまでの情報を整理して伯爵は王国で力をつけようとしている事は明らかである。でなければ王女だからと言ってあの刀を渡す事と貴族に自分の財力を見せ付ける理由がない。だから私は六大貴族か王国派閥のパイプを約束したのだ。もし断られても何かしらの報酬を言ってくる。これで何を狙っているのか分かる。筈だった。
『それは結構。この件に関して私は報酬を求めません。我がヘルシングのお力をお貸しいたします』
にこやかに微笑みながらそう答えたのだ。まるで本当に野心も無いように…商人である以上利益に敏感な筈なのだ。
分からない。いったい何を考えているのか分からない。
ラキュースに呼ばれるまでラナーは見続けた。
「・・・」
白い面を被ったぼっちは胃が痛むのを必死に堪えていた。
え?ぼっち何かした?ラナーちゃんまだ窓から見つめてきてるんだけど…
『八本指』との戦いにぼっち&ヘルシング組参戦決定
ちなみに前回のでザーバも確定?
今思ったけどセバスが拾った彼女が生かされた理由って亡くなったニニャの日記を見て情報を得たからって理由でしたよね。ニニャ生存&日記見てない=彼女の命やばくない?