骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 最近10巻が5月30日に出るって噂か何かを聞いたんだけど本当なのだろうか?本当ならすぐにでも予約に行きたい。


第059話 「最悪の事態」

 突如、異世界へ渡ってしまったナザリック地下大墳墓。

 しかし良い意味で予想外だったのがナザリックの者達を越える強者が居ない世界であった事だ。主が命ずれば命ずるままに何でも行なえる世界。

 だがそんなナザリックで大事件が発生していた。

 

 『緊急事態発生。緊急事態発生。ナザリック内で問題発生。範囲内のメイド達は速やかに避難してください。これよりこの階層は閉鎖いたします。繰り返します。緊急事態発生。これは演習ではない。これは演習ではない』

 

 アナウンスが流れて数人のメイド達が慌てて移動を開始する。

 その中をヴァンパイア・ブライド達を中心にシャルティア・ブラッドフォールンが行進を指示する。この緊急事態に対して彼女が指揮を執る事となっている。

 現在、至高の御方であるアインズはモモンとしてナーベを連れてエ・ランテルに、ぼっちはセバスとソリュシャンが居る王都にて仕事をこなしている。他に階層守護者ではコキュートスがリザードマンの集落へ出立したし、モミに至っては行方不明である。

 

 「全員戦闘態勢!!配置につくでありんす!!」

 

 バッと追従していた配下のアンデット達が動き出す。大きな盾を持ったヴァンパイア・ブライドがシャルティアを守るように展開される。他にはエルダーリッチ、骸骨弓兵、骸骨魔法師が周囲の警戒を強める。

 この事件が発覚した報告を思い出す。

 『逃げ出しました』

 まさかこの一言でナザリック全域がパニックになるとは思いもよらなかったが納得はする。

 発信源は第2階層の一区画『黒棺』。エントマ曰く『おやつの間』。発信者は恐怖公であった。

 

 恐怖公

 ナザリック地下大墳墓第二階層『黒棺』に住まう領域守護者。ナザリック内でも眷属の召喚に長けており物量と容姿で相手に二重の意味で攻撃する。本人は礼儀正しく、ダンスや礼儀作法にも詳しい逸材である。

 しかしその容姿により皆に好かれていない。虫仲間のコキュートスと捕食者のエントマは除く。二つ名を付けるとすれば『台所の黒い悪魔』、『黒光りするG』であろうか。

 『逃げ出しました』

 この言葉が意味するのは眷属達の脱走。最初は皆がそう思った。ある意味正解だが外れでもあった。

 大量の眷属召喚により部屋が溢れる事はしなかったが多すぎる眷属が問題だった。子を生したのだ。眷属と言えども召喚してしまえば生物である。子を生すのも当然と言えば当然なのだが数がおかしすぎる。一般家庭に住まうとされる数を軽く超えてる。それらは召喚された眷属とは違って自由意志があった。それがおやつを求めて来たエントマが扉を開けた隙に逃げ出したのだ。

 第二階層出入り口には現在火を灯し続けている。これにより他階層に行かせない為である。本来ならデミウルゴスに頼みたかったのだが本人はある重要な案件を詰めているとの事で断られた。アルベドには…

 

 「じ、自分の守護する階層なのですから貴方が何とかするのが筋じゃない」

 

 と言って助けすらなかった。援軍を頼むと数人が駆けつけてくれた。

 一人はシズである。予想ではエントマが来ると思っていたのだが現在もユリの説教を受けている。

 二人目は第十一階層からボルックス・トレミー。とりあえずで声をかけたら「ん」とだけ答えてついて来てくれたのだ。だが、自動人形1lv、ガンナー1lv、薬師10lv、クラフトマン10lv、錬金術師10lv、ポイズンメーカー5lvのレベル37をどうしろと?

 三人目はボルックスについて来たカストル・トレミー。モンクであり剣士でもある彼は戦力になるがついて来ただけという態度をとっている。

 

 「では皆始めるでありんす!!」

 

 号令と共に散っていく者達を見送りつつ重たい足を何とか動かしていく。

 

 

 

 「うー↑わー↓」

 

 感情が読み辛いはずのオートマトンが表情と声でどれだけ嫌なのかを表した。横に居る盾持ちのブライド達は自分達の身を盾で隠して後退を始めた。

 ナザリック内は基本的清潔そのものだ。24時間勤務希望のメイド達が床であろうと舐めれるぐらい掃除しつくしているのだ。ゆえに食べ物など落ちていること事態がありえないのだ。しかしその通路の一角には落ちていたのだ。多分だが避難する際にメイドが落としたのだろう。メイドはいつでも摂取できるお菓子を持ち歩いている。

 

 蠢いている。

 カサ、カサ、カサ、カサ………

 お菓子の上に黒い虫、黒い虫の上に黒い虫…

 お菓子を隠すように高さ20センチほどのわさわさと蠢く黒い山が形成されている…

 ピタ

 動きが止まり一斉にこちらを向いた。今になってシズ達を認識したのだろう。ぱた、ぱたと羽根を広げる奴も居る。

 

 「!!焼き尽くす…」

 

 何の躊躇いも無い火炎が黒い虫たちに放たれる。圧倒的火力の前に飛び逃げる間もなく次々と炭にされていく。現在シズの装備は背中に燃料タンクを背負わなければならない火炎放射器である。

 

 「お、お見事です!」

 「次!次が来ます!!」

 

 一体のブライドが褒めるその一方で仲間を殺されてこちらに向かってくる黒い集団を倒すように指示される。表情を変える事無くトリガーを引いていく。

 

 

 

 ボルックスとカストルは無言で歩いて行く。

 所々でしゃがみ込んだボルックスが何かを置いていく。

 肌色の小さな団子。ホウ酸団子を無言で置いて行っている。

 カストルが振り返ると離れた瞬間に集まったG達がぐったりしている。

 

 「行くぞ」

 「ん」

 

 ただ作業のような動作を続けながら無口の兄妹は進んでいく。

 正直迷惑な話である。適当に配置して来る所は良いとして来ない所も多々あるのだ。そして来た所はそのまま放置。この片付けは誰がするのか…

 

 

 

 シャルティアは青ざめそうな顔色を必死に奮い立たせて歩みを続けていた。

 

 「次はそこでありんすね」

 

 指差す先では設置した食べ物に黒い虫が集まっていた。シャルティアに同行しているブライド達はシズと同行している者達と同じように後退したかった。

 パチン

 軽く指が鳴らされると素早くシャルティアを隠すように盾を持って前に立たされる。そんなブライド達の前にエルダーリッチが杖を構えて陣形を整える。ファイヤーボールの一斉射にて灰にする。

 焼き払った事を確認すると再び指を鳴らし陣形を解除させて待機させる。焦げ臭さや灰を無視して前に出る。

 大きなため息をつく。

  

 「こんな時にモミが居たら良かったでありんすが…」

 

 モミの使える魔法には骸骨達の壁や炎系モンスターの召喚などが行なえるのだ。彼女さえ居ればこの状況はもっと楽になったはずなのだ。と、無い者ねだりしても始まらない。この短期間で結構な戦果を挙げていると自分で思うぐらい順調である。

 

 「上手くいったら褒めて頂けるでありんしょうかえ?いやいや!これは私の階層で起こった問題であってあの方に御礼を求めるのは筋違いでありんす。ならば少しでも出来るところをご覧いただ…」

 『シャルティア様…』

 

 一人ぶつぶつと呟いていたシャルティアにシズよりメッセージが届く。

 

 「なんでありんすか?」

 『大変…』

 「すでに大変な事態で…」

 『集結し始めた』

 「……ハイ?」

 

 自分の耳を疑う言葉が聞こえた気がする。

 

 

 

 気のせいであって欲しかった。

 シズの報告を受けて来てみると確かに居るのだ。この通路の先の部屋に蠢く気配を感じる。

 300メートル離れた所で陣形を整えている。最前線にエルダーリッチ、次に骸骨魔法師、三番目に骸骨弓兵を真ん中をあけて配置して盾を持ったブライド達の前にシズが待機している。最後尾はシャルティアではなく飽きてしまったのか読書を開始しているボルックスである。

 どうやらあのGたちは眷属から産まれただけあって知能は高いようだ。部屋に集まり戦力を集めたと言う所か…

 開けたくない。でも開けないとこの仕事は終わらない…

 逃げ出したいのを我慢して清浄投擲槍を扉に向かって投げつけた。扉が開いて集結していたGが勢い良く飛び出して来た。

 

 よく多くの生き物が移動する様子を『嵐』やら『川』など自然のものに例える事があるだろう。だから例えてみようと思う。想像して欲しい。高さ2メートルを超える黒い雪崩を…

 

 「ひぃっ!!」

 

 誰が漏らした声か分からないが思いは一緒であった。

 吸血鬼で血の気の引いた白い肌を持っているが一段と白くなった気がした。

 押し寄せてくる無数の蠢き…

 

 「―――っ!!や、焼き払いなさい!!」

 

 ハッと我に返ったシャルティアの言葉によって攻撃が開始された。ファイヤーボールと複数の矢が降り注ぐ中、シズが用意した第二の武器が開放される。

 ガトリングガン『GAU-8 アヴェンジャー』。30mm口径の弾丸を毎分3900発を発射する。

 火炎と爆発、降り注ぐ矢。そして連続で放たれる弾丸にて黒い雪崩が著しくスピードダウンした。が、止まる事はなかった。ファイヤーボールはMPを消費する事で撃てるがどう考えてもMPが足りない。矢が足りない。何より『GAU-8 アヴェンジャー』は装弾数1350発。弾は切れる。と言うか切れた。

 攻撃の一部が途切れるとスピードが少しだけ戻り迫ってくる。最前列の猛攻も虚しく飲み込まれた。

 

 「よいしょっと…」

 

 『GAU-8 アヴェンジャー』を担ぐとさっさとシズはシャルティアの脇をすり抜けて行った。

 

 「ちょ!?何処に行くでありんすか!」

 「戦術的撤退…」

 

 用は逃げ出したのだ。気持ちは分かる。が…

 エルダーの次は骸骨魔法師、さらには骸骨弓兵が黒い雪崩に飲み込まれていく。

 すでにブライド達も少しずつ後退しつつあった。

 

 「総員撤退!!」

 

 さすがにこれは無理だと撤退を指示すると同時にブライド達が駆け出した。続いて撤退を開始するが読書に夢中のボルックスは動く気配がない。

 それをただ見つめていたカストルが黒い雪崩の前に立ちはだかり、腰に提げている剣を抜いた。

 

 「我を守れ玄武」

 

 呟くと同時に亀の甲羅を模した半透明のシールドが剣より展開されて雪崩を押し止める。勢いは殺しきれず少しだけ押されていく。対してあえて左手だけで振るい、右手を使おうとはしない。

 

 「そのまま耐えるでありんす」

 

 撤退中のシャルティアがいち早くその状況に気付いて急ぎ戻ったのだ。その勢いのままシールドへと向かって行く。

 

 「《不浄衝撃盾》!!」

 

 シールドごと押し返す。勢いで勝った為、雪崩が逆に押し返されていく。動きが止まった隙にスポイトランスを取り出す。

 

 「…行くぞ」

 「行くでありんすかあれに!?まだ5千以上はいそうでありんすよ!!」

 「だから?」

 「…」

 

 本気で行く気だ。出来れば一人で突っ込んで欲しい。しかし…自分はこの階層の守護者…行かない訳にはいかない…

 

 「焼き尽くせ朱雀」

 

 今度は剣を振ると炎の鳥『朱雀』が怯んでいるG達を焼き払う。

 

 「―くっ、こうなったら自棄でありんす!!」

 「ふんっ」

 

 二人は自分の武器を振りかぶり黒い群れに突っ込んで行く。

 こうしてナザリックで起きた大事件は幕を閉じた。後でデミウルゴスに言われたのだが「生まれた者達よりレベルが高く、統制も取れる恐怖公の眷属に対処して貰えば良かったのでは?」と…

 シャルティアは真っ白に燃え尽きていた。

 

 




 最悪の事態だったでしょ?
 テレビで魚の群れを見ていたら書きたくなった。反省はしない。後悔はした。

 ツアレを助け、不安の原因であった店も潰したセバスに安息の時はなかった。ニニャ生存している現状で至高の御方のまとめ役『アインズ・ウール・ゴウン』が王都へ!そして時を同じくして王都にやって来た者…


 次回『老執事と審判』お楽しみに…フヒ

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