もう連休は二日のみですね~…早い。過ぎるのが早いです。
ニニャ達は必死に悪魔を食い止めようとしていた。時には格下の悪魔もいるが格上の悪魔が来ることもある。ニニャの班はニニャ以外が兵士で指示を出して魔法で援護するというものだった。
仲間のペテルもルクルットもダインも情報不足の兵士に指示を出しながら別の所で戦っている。
不安な状況の中でも全員で5人のニニャの班は中々善戦していた。
「この調子なら何とかなりそうですね」
この状況に安心したのか心に余裕が戻る。がすぐにそれは掻き消される事となった。
「大変です班長!」
「どうしました?」
「隣接する二つの班が負傷者多数で勝手に撤退を!そこに居た悪魔共がこちらに!!」
「っ!!」
最悪だ。善戦しているといっても圧倒的な勝利ではなく何とか善戦しているレベルなのだ。それが一気に三倍になるのだ。守りきれる訳がない。兵士たちも『逃げましょう』と撤退を意見する者もいれば『敵前逃亡は重罪だぞ』と何とか持ち場を守ろうとしている者で意見が対立する。
そこにグレーター・ヘル・ハウンドが三匹ほど突っ込んできた。撤退を進言してきた兵士は逃げ出し、戦う事を進言してきた兵士達が一匹をなんとか食い止める。残りの二匹はニニャに向かって…
「そこぉ!!」
掛け声と一緒に何かが横を突っ切っていった。そのままグレーター・ヘル・ハウンドに跳びかかり脳天に二本のスティレットを突き刺した。突如仲間が刺された事でターゲットを変えて襲い掛かろうとしたもう一匹は跳びかかった。
「《不落要塞》」
発動された武技により弾かれるとスティレットで腹部を何度も刺された。虫の息で地に伏せるグレーター・ヘル・ハウンドの傷口をグリグリと踏みつける。その狂喜に満ちた笑みには見覚えがあった。
「貴方はあの時の…」
悪魔と対峙するよりも足が震えた。杖を構えて敵対の意思を示すが無意味だと理解する。
「お久しぶり~」
ニンマリと笑みを浮かべるクレマンティーヌはニニャに向き直った。
「何故貴方が…」
「んー…今さぁ、ある人に仕えててね。最前線で好きな様に暴れて良いって言われてるんだ」
「味方と言う訳ですか!?あんな事をしておいて!!」
「それはお互い様だと思うんだけどね~。あん時の恨みを晴らしても良いんだけど…さすがに私でもこの数はきつくってね。協力しない?」
「協力ですか…」
「そうそう。別に貴方達と戦おうってんじゃないんだから」
「もし断ったら?」
「そうだね~。この犬っころと同じになるだけだよ」
「《マジック・アロー》!!」
ニニャから放たれた二つの光弾がクレマンティーヌの後ろから跳びかかろうとしていた別のグレーター・ヘル・ハウンドに直撃する。体勢を崩した事を見逃さずすかさず首を切り刻む。
「二度と私達に手を出さないって言うんなら良いですよ!」
「ふふーふ…オッケー♪」
「では、前衛は任せます」
「しっかり後衛勤めてね」
ヘルシングの兵士が空いた所に導入され何とか戦線は維持できた。その頃、救出部隊はと言えば…
「くそ!!きりがねえ」
「これで三匹目!!」
人質が捕まっている倉庫に辿り着いたのは良かったのだが数が多すぎる。捜索がメインだとしてもここに居る人々を見逃せなかったクライムはばれない様に連れて行こうと進言した。しかし大人数の移動を見逃すほど悪魔は優しくなかった。
ブレインは悪態を付きつつクライムに視線を向ける。狼に似た悪魔を切り伏せているところだった。
「クライム!このままじゃ後ろにも被害が出るぞ!!」
「でも…」
「このままだったらボク達もやられますね」
すでに30匹は片付けたマインが肩で息をしながら背中を預けるようにして立っている。三人合わせて50匹以上は倒しているがいっこうにきりがない。辺りにはまだ60ほどの悪魔が対峙していた。
「やっぱりあいつをやるしかないか…」
ブレインが言ったあいつとは60匹の後ろに居るアンデットだった。
《コール・オブ・ゾンビ》
ただ泣き叫んで近くに居るモンスターに人間が居る事を知らせるアンデット。皮膚は腐り、動きも遅い。けれど目の前の悪魔の群れが邪魔だ。
「三人だけだったら突破できるが駄目なんだろう?」
「駄目です。皆さんを助けるんです」
「…」
困っている人が居るから助ける。
姫様の騎士としては正しい行動の一つだろう。だが現実的には難しいのだ。ここに居る大人数で突破するなど…
『現実的には難しいのだ』…普通なら不可能と書く所なのだがここに居る三人中一人は全員を突破させれる自信がある。しかし…悩む…
「クライムさん…質問があります」
「なんでしょうか?」
「皆を助けると言うのは貴方だけの意思でしょうか?それともラナー王女の意思と思って良いんでしょうか?」
マインの問いに少し悩んで口を開いた。
「優しいラナー様なら助けると思います」
その言葉にマインは安心した。主の命は『ラナー王女に指示を仰いで最善の行動』。彼女の騎士である彼がそう言うのだ。ならばと隊列から二歩、三歩と前に出る。
「ブレインさん。あの奥の奴を10秒で片付けれますか?」
「分からんが辿り着ければ何とか出来るかも知れないが…」
「分かりました。ボクが道を切り開きます。その隙に…」
「マイン殿!?何をするつもりですか?」
マインは右手の甲を群れに突き出し唱える。
「第666拘束機関開放」
唱えると同時に手の甲に黒い短剣をモチーフにした絵を中心に蜘蛛の足のような絵が浮かび上がった。
ぼっち様の言葉を思い返す。
「新しい術式ですか?」
「・・・(コクン)」
マインを前にぼっちとマーレが説明をする。
「き、決められた呪文を唱える事で魔法を発動させるんです。ぼっち様のナイフバットを応用したものです」
「ぼっち様の!?」
うっとりした顔でマインが右手の甲を見つめる。そんなマインにマーレはむっとする。
「ぼ、僕とぼっち様の共同作業で創った術式です」
「え?あ、はい」
「・・・右手・・・右肩・・・背中・・・――・・・」
「ぼ、ぼっち様が言われた様にあなたの四箇所に術式を埋め込みました」
そのまま言葉を続ける。
「次元干渉虚数方陣展開」
手の甲に浮かんだ紋章がマインを中心に展開される。何が起こっているのか理解できない悪魔達もクライム達も呆然とする。
マーレが右手を指差す。
「に、人間も大なり小なり魔力を持っています。その術式は魔力を増大させ暴走させる術式です」
「それはボクでも使えるのですか?」
「少ない魔力でも発動できると思います」
マーレの言葉が止まるとぼっちがマインの右手を両手で包み、視線を合わせる。
「・・・その術式は危険だ」
「はい」
「・・・使用すれば身体中痛みを生じる」
「増幅して無理に魔力を暴走させるわけですからね」
「・・・使うならどうしてもと言う状況でだけだ」
「はい!師匠の言に従います」
力強く頷いたマインにぼっちは微笑み頭を撫でた。
忘れていない。でも命に従うなら使うしかない。今がどうしてもと言う状況だと判断する。
「ブレイブルー起動!!」
マインの身体より禍々しい黒いオーラが表れる。と同時に身体中に痛みが走る。痛いなんてものじゃない。肉が骨が千切れそうなほどの痛みだ。悲鳴を上げるのを堪えて必死に眼前の敵を睨み付ける。
異様な魔力を纏いながら向けられた顔に悪魔達が怯えた。右目から禍々しい魔力を漏らしながら鬼のような形相をしていたのだ。
「デッドスパイク!!」
剣を下段より振り上げると禍々しい魔力が大口を開けた巨大な狼のような顔へと変貌して悪魔に突っ込んでいった。そのまま悪魔を食い散らかし、コール・オブ・ゾンビまでの道を作った。
「今ですブレインさん!!」
「分かった!!」
驚いていたブレインだったがマインに言われて迷う事無く突っ込む。まだ残った悪魔が動き出す。
「ああああ!!インフェルノディバイダー!!ガントレットハーデス!!ヘルズファング!!」
下段に構えた刀を振り上げると同時に跳び、5匹の悪魔を魔力で包まれた刃でかち上げる。上空に舞ったマインは魔力を拳に集めて敵目掛けて殴りかかる。直撃した瞬間に魔力が周りに広がって悪魔を巻き込んでいく。反対側よりブレインを襲おうとする悪魔たち目掛け手を思いっきり振るう。放たれた魔力の牙が切り刻んでいく。
ブレインは横目も振らずただ突っ込む。このチャンスを逃すまいと…
コール・オブ・ゾンビの姿が先程よりはっきりと見える。元はショートヘアの女性だったらしい面影が分かった。
「生きてた頃に会いたかったね!!」
刀を鞘より解き放ち斬り付けた。
「チィイイイイイ!!」
腐った肉体の割には硬い。良く見ると腐食している服の下に鎖帷子らしき物が見える。悪態を付きたかったがコール・オブ・ゾンビが口を開こうとしているのが分かって焦る。
次の一撃で仕留めなければ不味い。武技《領域》を発動して奴を己の領域に入れる。これで三メートル以内のことなら手に取るように分かる。
首に傷跡がある事に気付く。形状から短剣で刺されたらしい。今はそんな理由はどうでも良かった。
「見つけた。秘剣『虎落笛』!!」
首筋の傷口に向かって武技《神閃》を発動する。神速で振り抜かれた刀は首筋の傷に直撃する。その傷口を入り口に頭と胴体を無理やり分かれさせた。
頭を失った身体はそのまま地に伏せて動かなくなった。
息を整えて振り返ったブレインは周りの悪魔が消えうせている事に気付いた。
「凄かったです!!」
「俺よりマインのほうが凄かったよ。あれはどうやったんだ?…っ!?おい!大丈夫か!!」
先よりも酷く息を荒らして汗だくとなっているマインの様子が異常だと判断する。
「それは…良かったです…後の事は…任せ……ます…」
それだけ言うとマインも地面に倒れた。クライムとブレインが駆け寄り名を呼ぶが返事は無かった…
とりあえずマインをブレインがおぶって皆と一緒に避難する事に…
倉庫より逃げていく人間の集団を倉庫の上よりモミとシャルティアが見つめていた。
「本当に良いのでありんすか?」
「…何が?」
「ぼっち様の弟子をあんな目に会わした事でありんす」
「まぁ…ぼっちさ―――まの弟子なら大丈夫っしょ」
モミはいつも通り笑い続ける。
正直死んでも復活させれるだろうからどうでも良かったんだけどとは言わない。まぁ…造ったアンデットがやられた事は多少痛いけれども、ぼっちさんも覚えてないだろうから良いかなと自分の中で問題を完結させる。
「では、行きんしょうかえ」
シャルティアは面を被る事無く歩き出す。モミに言われた任務を行う為に…
マインが倒れた!そしてシャルティア動く!
指揮所に迫る危機!協力し合う強者達!
次回『鮮血の乙女』
お楽しみに…