骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 今更ながらこの作品のタグを増やそうかなと思っています。が、どんなタグを付ければ良いかが分かりません。
 良ければどんなタグを付けたら良いか教えてもらえたらなぁ…と思っております。
 活動報告の方で募集しておりますのでもし良ければお願いいたします。


外伝08話 裏切りの代償…

 『ヴァイス城』を手に入れた一件よりvは大きく変わった。

 高難易度と言われた『ヴァイス城』を陥落させた事はその日にあらゆる所に拡散した。それだけではなく二つ名持ちが四人も在籍していることまでもだ。ギルドに入れて欲しいと言い出してくる連中は多かった。が、中には『這い寄る混沌』の連中も居るだろう。

 『這い寄る混沌』

 ユグドラシルに存在する中規模ギルドのひとつで主な活動は主な活動は情報収集。ユグドラシルは情報量が多い上に情報を各々プレイヤーが秘匿する場合がほとんどで掲示板に行ってもそれほど有益な物が手に入るわけではない。vが手に入れた『ヴァイス城』の情報はたまたま上がっていたに過ぎない。なので各ギルドが秘匿している情報を入手する為にメンバーを紛れ込ませてせっかく集めた情報を盗むのだ。盗まれたギルドからは堪ったものではなく、その内何かしら行動を起こす者も出てくるだろう。

 バルコニーで整備された緑豊かな中庭を見渡すと最近よく見る光景が広がっていた。

 

 「そこだ!!」

 「・・・遅い」

 「なんと!?」

 

 大剣を振るう速度に変化を付けて斬りかかるスサノオだがあっさりと村正で弾かれて、菊一文字を首元に突きつけられる。

 ギルド内は基本フレンドリーファイヤーを禁止にしているが初めて目にした時は誰もがヒヤッとしたものだ。

 何度目かの負けを認めて膝をつくスサノオを踏み台にしてエスデスがレイピアの連続突きを繰り出す。奇襲を狙って順番でもないのに襲い掛かったのだろうが慌てる様子も無く、ただ左右に揺れるように突きを回避しつつ懐まで入って刀を軽く振るった。ダメージは無いが腹部に斬撃のエフェクトが発生する。

 同時に付近に居るプレイヤー達より歓声が沸き起こる。

 そう言えば一番変わったことはvの名前が変わった事と俺達に通常時から役職が付いたことだ。集団からギルドになったことでギルド名を付ける際にぼっちさんがソルブレイブスと呟いたことでギルド名が『ソルブレイブス』になった。

 役職は全部で八つ。俺が班長を務める前衛班、ビオの遊撃班、ミイの索敵班。クロノは『ソルブレイブス』参謀兼攻撃魔法班班長と兼任である。兼任と言えばプロフェッサーもである。生産班長でありつつゴーレムと言う攻撃手段を持っていることから生産班警備の役職を持っている。ちなみに中庭でぼっち相手に戦闘指導を受けているスサノオとエスデスも班長なのである。『ソルブレイブス』に入った新人プレイヤー達を集めた班で女性はエスデスの新人班『織姫』に、男性ならスサノオの新人班『彦星』に配属されているのである。

 

 「こんな所で何しているの?」

 「んあ?皐月か…どうした?」

 「どうしたじゃないでしょ。そろそろ新人達のレベリングに連れて行く時間よ」

 「ああ…今日は俺だったか」

 「しっかりしてよね。そうでなくても襲撃があって大変なんだから」

 

 皐月の言う通りであった。最近よく待ち伏せや襲撃にあう事がある。ちょっとしたダンジョンを攻めていたら横取り狙いで襲って来た連中も居た。そいつらはぼっちさんとみのりこで撃退したのだがどうも情報が漏れているような気がする。気のせいならば良いが…

 

 「じゃあ行って来るよ。回復魔法班長殿」

 「その呼び方やめてよぉ。耳がこそばゆいから」

 

 手をひらひら振りながら中庭へと向かって行く。

 今回のレベリング地点は深い森の中。新人達と面倒を見る前衛班とプロフェッサーが同行する事になっている。同時にクロノが警戒して索敵班と遊撃班が今日行なう狩り地点を近場にしたのだ。何かあってもすぐに駆けつけられるように。

 その駆けつけられる為に近場で狩りを行なっているビオは弄っていた。

 

 「てか、何故俺があんな餓鬼共の面倒を見なければならないのだ!!」

 「まぁ~落ち着いてくださいよぉ~」

 「落ち着けるか!?」

 

 新人達が狩場の近くで狩りを行なっていたビオは誰に言うまでもなく叫んでいた言葉に反応したのは何となくで付いて来たみのりこであった。ちなみにだがみのりこは魔法攻撃班副班長と言う肩書きを持っている。

 

 「でも~なんだかんだ言ってビオさん面倒見てあげるんですよねぇ~」

 「だれが!!俺は仕方なくだな…」

 「はいはい♪」

 「貴様ぁ…」

 

 ニコニコしているみのりこに殴りかかろうとするが周りの皆に押さえ込まれて何事も無く終わるがそこでビオはミイが静かなことに気付いた。振り向くとなにやらメッセージを使っているらしいかった。

 違和感を覚えたビオの勘はこの後、悪い形で当たってしまった。

 

 

 

 ~ぼっちSIDE~

 

 深い森の中を一人で散策している男が居た。

 新ギルド『ソルブレイブス』のギルマスになったぼっちであった。

 大勢に囲まれリアルでオートリバースをいつものようにしながら訓練に付き合っていたのだがレベリングに行くと言う事で分かれた。やる事も無くなりログアウトしようと思ったのだが少し気になることがあって先にそちらを終わらそうと思ったのだ。どうも最近ミイに避けられている気がする。それだけなら別に良いのだが元気がないようにも見える事が気になっておりミイを探して森の中まで来たのだが…

 右を見ても木々、左を見ても木々、前も後ろも木々で囲まれたフィールドで地図を忘れてきた為に迷子中である。

 …誰か助けて欲しい。かれこれ30分も遭難中だよ。こんな所でログアウトしたくないし、こんな事ならテレポート用アイテムでも持って入れば…あ!この前、売ったんだっけか?

 大きなため息を漏らしながら顔を上げると木々の向こうから光が見えた。

 もしかして皆か!?助かったぁ…そういえば行く前にクロノ君がみのりこも一緒に居るって言ってたっけな。あの子は派手な魔法ばかり使うから目立ってこちらに視線が集まらないから助かるんだよな。さて、希望の光に向かって突き進みますか!!

 希望の光と称したエフェクトが発生しているらしき場所へ駆けていく。

 

 「・・・!?」

 「うわっと!?」

 

 木々を抜けて開けている場所へと抜けると誰かと思いっきりぶつかってしまいこかしてしまう。謝ろうとしたぼっちだったが声は出なかった。

 …誰ですか貴方?

 

 ~ぼっちSIDE OUT~

 

 

 

 「嘘でしょこんな!?」

 「なんで!?」

 「泣き言を口にするな!!」

 

 スレインは弱々しく泣きそうな新人達に声を上げる。スレインを合わせた19人が25人を超えるプレイヤーに囲まれているのだ。表情は変わらないが下卑た笑い声から友好的な連中ではないだろう。すでに攻撃は仕掛けられ、エスデスがバットステータスを受けている。前衛班の六人とプロフェッサーのゴーレム5体が新人を囲むように陣形をとっていた。

 

 「これは不味いですよね。スレイン氏」

 「半分任せれますか?」

 「逆に問いますが半分相手に出来ますか?」

 「…無理ですね。前衛班ではどう見積もっても8人です」

 「こちらもそれぐらいでしょうかね。もう二体持って来れば良かった」

 

 声は笑っているが現状把握はプロフェッサーの方が上だ。彼は出来ない事は出来ないし、出来る事は出来ると判断できる指揮官向けのプレイヤーだ。こういう時は彼の言い分を聞いた方がいいだろう。

 

 「意見具申しても?」

 「どうぞ」

 「一時離脱を進言しますよ」

 「それには賛成ですがどうしますか?」

 「ビオ氏との合流を目的とすれば短距離を行きたい所ですが彼らはそこを重点的に守っている。我々はここで粘れる戦力も無い。ゆえに反対側から突破してビオ氏と連絡して挟撃するのがいいでしょう。その為の離脱します」

 

 数だけ見れば同数に近いのだがこちらは半分が戦闘経験の浅い初心者。一気に襲われればひとたまりも無い。かと言って突破するにも前衛班が突撃しなければ突破は難しいが、守りが緩くなればそこから新人が狩られていくだろう。

 何か一手。奴らが意表を付くような一手があれば…

 

 「うわっと!?」

 

 一番人数が居るところの一人がこけた。皆の視線が集まる中、先程まで居なかった金髪の神父が立っていた。付近に居た奴らが驚いて飛び退く。

 

 「何で!?何で無口の英雄が居るんだよ!!」

 「話が違うじゃねえか!?」

 

 飛び退く中、一人の男が斬りかかったが身を捻るだけで避け、抜かれた刀で斬撃を浴びせられる。

 表情はまったく変わらないプレイヤーキャラの顔なのだが目が合った瞬間、何かを言いたげな感じがした。そう感じた瞬間、位置を示すように首が振られた。その方向に居た奴らは急に現れたぼっちさんに驚いて陣形が崩れきっていた。

 

 「皆、続け!!」

 

 ぼっちが村正と菊一文字で斬りかかったのを合図に全員で突破を計った。不意を打った為に簡単に突破する事が出来た。新人達にはそのままビオの元まで行かせて前衛班とプロフェッサーはぼっちと合流して戦闘を開始。ビオ達が合流した事で戦局が一気に傾き、殲滅することが出来た。

 この時、ぼっちは位置を示した訳でなくどういう状況なのか意味が分からず辺りを見ただけだった…

 

 

 

 新人達の先頭をぼっちとみのりこに任せてビオとミイ、スレインは最後尾を歩いていた。プロフェッサーはミイを除く索敵班と共に周囲の警戒に当たっている。 

 

 「スレイン」

 「ん?どうした」

 「ミイのことで話がある」

 

 何時になく真面目な雰囲気を出すビオに驚きつつも耳を傾ける。視界の隅でミイが縮こまっているのが見える。

 

 「あいつ…『這い寄る混沌』のスパイだ」

 「はぁ!?」

 「最後まで聞け。最近の襲撃でおかしな点が三つあった。ひとつは俺らが使っていた秘密の狩場などの情報が漏れていた事。二つ目は相手は直前で変更したルートでも待ち伏せや襲撃を仕掛けてきた事」

 「それでなんでミイがスパイだなんて…」

 「あいつがこそこそとメッセージをしていたのを見たこと無いか?」

 

 思い当たる節はあった。『ヴァイス城』を手に入れた際に誰かとメッセージしていたのを思い出す。

 

 「…ある」

 「俺もだ。ゆえに合流する前に問いただしたら認めたぞ」

 「そんな!?」

 「どうやら『這い寄る混沌』にミイの過去を知る奴が居るらしく脅されたそうだ」

 「なら被害者なんだな」

 「そんなの関係ないだろう」

 「無理やりやらされてたなら…」

 「無理やりであろうが無かろうがスパイ行為を行なっていたことは変わりない。周りが許さないだろう。特に金や情報に五月蝿いガルドなんかは」

 「この話は俺達の間で留めておかないか?」

 「二人で何とかすると言うのか?」

 「皆に言ったって揉め事になるだけだ。だったら俺達だけで」

 「却下だ。俺はぼっちに仕えている気でここにいる。黙っていることなど出来ん」

 「そんな!?」

 「すでにクロノに会議を要請した」

 

 歯軋りが聞こえた。それはスレインではなくビオから聞こえた気がした。本当は奴も何とかしたいのだろう。しかし…

 

 「どうにも出来ない…か」

 「ああ…ぼっちさんに委ねる事しかな」

 

 ため息を付きながら重くなった足を無理にでも前に進めてヴァイス城へと向かう。

 『ヴァイス城』の中央部には大きな会議場がある。大理石の壁で覆われた空間に豪華な丸型の机に装飾が施された椅子が並ぶ。ビオが言った会議が行なわれる会議場である。ここには各班長と同盟ギルド長の12個の椅子とソルブレイブスギルマスで皆の代表であるぼっちが座る一番豪華な椅子があり、12人の騎士と騎士を束ねる王になぞらえて新人達は円卓会議上と呼ぶ。

 円卓会議上にはぼっちをはじめ、各班長にグリード、エイワン、獅子丸、ガルドと全員が集まっていた。議題の中心となるミイはぼっちの向かいに立たされ俯いていた。

 まず経緯をビオが話す。その後にどうするか話し合うのだが情報を漏らされた事に怒り狂ったガルドはミイにありったけの罵声を浴びせる。エイワンとグリードは罵声を浴びせることは無かったとは言え、責めた発言を何度か繰り返す。ミイと一緒に居たソルブレイブスの面々はただ聴くことしか出来なかった。

 

 「貴様が情報を漏らしたおかげでどれだけの不利益が発生したことか!?」

 「…すみません」

 「謝ったところでもう戻るものか!!我らとしては失った情報の代金をソルブレイブスに払っていただければ気が治まらん!!」

 「俺はそこまで言う気はねえが、とりあえずこの裏切り者どうするんだ」

 「…確かにそこが重要だあね」

 

 皆の視線がぼっちに集まる。ミイは俯くだけで顔を上げることも出来なかった。少しの間が空いてようやく口を開いた。

 

 「・・・許す」

 「はぁ!?何を言っているのだ貴様は!!」

 

 ぼっちの一言に勢い良く食い掛かったのはガルドだった。

 

 「どれだけの損害を受けたと…」

 「・・・私が・・・払う」

 「…情報代を払うってのか?」

 「・・・問題は?」

 「払ってくれんなら俺らは問題ねえ」

 

 驚いたミイは正面からぼっちを見つめる。口調も声色も普段どおりだった。本当に怒ってないのだろう。

 

 「本当に良いの…」

 「・・・?」

 「私は裏切ったんだよ?騙したんだよ?」

 「私は・・・許す」

 

 ミイの表情は変わらないがマイクより泣き声のような者が聞こえてくる。

 

 「他のギルマスの方々は何かありますか?」

 「おで達は問題なし」

 「そちらがいいなら良いのではないか。それなりの罰は与えるのだろう?」

 「その前に対策だろう。またあったらたまったもんじゃない」

 

 他のギルマスはぼっちのギルドの問題だからそれは良いと思っているんだろう。それよりこれからのことを重視している。

 

 「ただ・・・許セナイナ」

 

 急に場の空気が下がったような気がする。いつもと違う怒気と言うより殺意を込められた一言に皆の背筋が凍った。

 

 「クロノ君。確カ『這い寄る混沌』ダッタヨネ」

 「え、ええ。そういう名のギルドですが…」

 「潰ソウカ」

 「はい?ぼっちさん今なんて言いました?」

 「潰ソウッテ言ッタ。根コソギニ!容赦ナク!断固トシテ!」

 

 はっきりと分かった。キレている。温厚なぼっちさんがマジで怒り狂っている。

 

 「クロノ君。采配ハ任セル。後ハミイヲ脅シタ愚カ者ヲリアルデ潰シテクダサイ」

 「少し言い方に問題を感じますが了解しました。ミイさん。その相手との会話ログか何か残ってますか?」

 「は、はい…残ってますけど」

 「後で提出してもらえますか?そこからは本職の僕の出番ですから」

 「本職って…」

 「一応、警察官なのでね」

 

 この時にぼっちさんがチートや違法ツールを使っているなどの噂が出た時に「その疑惑は解消されたよ」と言ったクロノの言葉の意味を理解した。

 クロノ君の発言に頷くとぼっちが立ち上がり皆を見渡す。

 

 「コノ提案ニ反対スル者ハ?」

 

 ぼっちの殺気に気圧されれ誰一人として首を横に振る者は居なかった。その様子を大きく頷くと席を立ち、出入り口へと向かって歩き出す。通り様にミイの頭をひと撫でして立ち止まる。

 

 「最後ニヒト言ダケ。相手ハ身内ヲ傷ツケタ輩ダ。斬リ捨テロ…」

 

 殺気を込められた言葉を残してぼっちは退室して行った。

 その数日後に同じく被害に合っていた中小ギルドと共に『這い寄る混沌』を攻めるソルブレイブスと同盟ギルドの姿があった。その中には『無口の英雄』『負け知らずの神父』の二つ名で知られるぼっちの姿もあった。ただ誰もその二つ名で呼ぶ事は無かった。自分を顧みない戦い方に慈悲の無いほどに徹底した殺戮に対して『殺戮の使徒』と呼ばれた…

『這い寄る混沌』のメンバーはリスポーンしてもその度に襲われる事でほとんどの者がユグドラシルを引退。アカウントを変えてまでプレイしたごく一部はのちの『燃え上がる三眼』のメンバーになったと言う。




 代償を払ったのは金銭的にぼっちさんとスパイ行為をさせていた『這い寄る混沌』でしたとさ。
 次回から本編に戻りますよ~♪まぁ数話したら特別編連続になるのですが…

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