骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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外伝09話 「終焉のはずだった」

 白銀の西洋甲冑を純白のマントで覆っているスレインは本棚で囲まれた書斎のような自室で日記に目を通していた。

 『這い寄る混沌』との戦いから何年経っただろうか。

 ワールド級モンスターを連合軍を組んでの討伐戦。

 ギルド対ギルドの総力を挙げてのPVP戦。

 希少金属入手の為に鉱山を入手するなどいろんな事があった。

 中でも一番大きな出来事と言えばぼっちさんが抜けたことだろう。その話が出た時は一悶着あったがそれでも止める事は出来なかった。どんなに聞いたところで理由は答えてくれなかったがあの大会で理解した。

 ワールドチャンピオンを決める大会でぼっちさんは順調に決勝まで残った。見に行った皆は優勝はぼっちさんと信じきっていたが結果は違い、決勝戦でたっち・みーというプレイヤーに敗北した。初めての敗北に沈んでいると思われたぼっちさんにどんな声をかけて良いのか解らずに悩んでいたがその声は嬉しそうに弾んでいた。

 今まで自分より強者を知らない為に競う事も出来ずに日々を過ごすだけの戦士はさぞつまらなかったのだろう。それが自分よりも強者を知って競える事を喜んで水を得た魚のようになっていた。

 ユグドラシル自体を辞めずに一からやり直すことにした彼を見送ってからが大変だった。いきなりギルドマスターを任命されて慣れない仕事を必死にこなしてギルドを支えようと頑張った。だけれど『無口の英雄』が居なくなった事実は大きく次々と団員は去って行った。ただぼっちさんの影響もあったが月日を経てユグドラシル離れしたプレイヤーと言う事もあったのかも知れない。

 昔の思い出を思い返しながら息を付く。するとドアがノックされたので「どうぞ」と言って入室許可を出す。

 

 「もう、探したわよスレイン」

 

 ドアを開けて入ってきたのは外は黄緑色で内側は金色のローブを羽織り、純白の神官服に身を包む皐月だった。彼女はギルドマスターである俺の補佐を行なってもらっている。少し頬を膨らました彼女はフッっと笑顔に戻り微笑みかけてくる。

 

 「どうした?何かあったか?」

 「どうもこうも皆集まっているわ。ギルマスなんだからしっかりしてよ」

 「あー…もうそんな時間か。今行くよ」

 

 棚に日記を戻してから装備を見直し円卓会議場へ向かう。

 今日この日はユグドラシルのサービス終了日なのである。なので現在ソルブレイブスに席を置くもの集めてお別れ会を開催しているのだ。ギルド名はソルブレイブスとなっているが実際は円卓の連合部隊だ。『ウルブス』に『サバト』に『長門武士団』、『エルドラド』、『デスサイズス』などのギルドも過疎化してきて合流して現在48名が残っている。

 

 「黄金時代が懐かしいな」

 「あの頃はギルド連合合わせて150名以上だったっけ?私は今ぐらいの人数の方が動きやすくて良かったけどね」

 「たしかに動きやすくなったな。さてと、何人来たかな?」

 

 円卓会議場のユニコーンなど聖獣の装飾の施された大扉に手をかざすと自動的に開閉する。この『ヴァイス城』の仕掛けはすべてプロフェッサーとぼっちさんが組んでくれた物だ。あの二人は自分の趣味になるとおかしくなる。途中システムに休憩の為にログアウト勧告が来て最低限出て行くが半日以上インしていた時期があった。二人に「ちゃんと寝てますか」って聞いてみると「・・・五日前に」「私は六日…いえ、一週間前にでしたかねぇ」と。

 大扉が開くと中には45名ものプレイヤーが各々話していた。『長門武士団』獅子丸。『エルドラド』ガルド。『デスサイズス』アイオンなど元ギルマス達も揃っており仲の良いメンバーと喋っていた。

 

 「こっちにゃ~よ」

 

 言葉の節々に「にゃ」と入れるミイの声に導かれるように中央から離れた壁際の大型のソファ周りに集まっている集団に歩んでいく。

 神主が着ている白い祭祀服装に赤の篭手や臑当を合わせた衣装に草鞋に大剣を装備した長身の男性プレイヤーのスサノオ。

 白をベースにして所々に黒を使用したドイツ軍服に似せて作られた軍服にミニスカート、足のほとんどを覆うブーツに軍帽を装備した怪しげな笑みを浮かべた女性プレイヤーのエスデス。

 両手に地底龍で作ったごつごつとしたガントレットを装備して白衣を着こなすプロフェッサー。

 白龍の刺々しいガントレットにグリーブ、高レベルの短パンにカッターシャツを着て変色獣の毛皮で出来た桃色のフード付きロングコートを来たケットシーのミイ。

 獄炎龍の魔術師用の足先まで覆う黒と赤のフード付きのローブに赤黒い獄炎龍の宝玉を金色の杖の先に取り付けたスタッフを持つみのりこ。

 漆黒のロングコートに中央一列にボタンをつけた黒い服と黒尽くしにロード・フロスト・ドラゴン討伐報酬の氷で出来た龍の杖を持つクロノ。

 ソルブレイス中核メンバーが揃っていた。ただ突貫吸血鬼が居ないだけで。

 

 「さぁ、さぁギルマスも~飲みましょうよ~」

 「飲みましょうってこれ雰囲気を出すためのドリンクアイテムですよ?」

 「うふふふ~」

 「ねぇ、スレイン」

 「何だ…」

 「みのりこさん少しおかしくない?」

 

 アバターの表情が変わることはないのだが雰囲気と言うか声色と言うか何かがおかしい。ワイングラスを持ってフラフラするみのりこを見ていたクロノが頭を押さえていた。

 

 「どうやら雰囲気だけで酔ったらしいのです」

 「あー…」

 「爆裂魔法いっきま~す」

 「駄目ですって!!」

 

 必死に取り押さえるクロノに任せてスレインと皐月は空いていた所に腰を降ろす。するといつも隣同士で座っているスサノオとエスデスが離れている事に気付いた。

 

 「お前ら今日は珍しいな」

 

 ちょっと気になったから聞いて見ただけだったのだが理解したエスデスから不機嫌なオーラが漂ってきた。スサノオはそんなオーラは出さなかったが不機嫌なのは変わらない。

 

 「些細な事がありまして」

 「あ、うん。あんまり喧嘩しないようにな」

 「ええ、心得て…」

 「些細な?ああ、あまり重要ではないさまと言う意味だな。確かに貴様の身長など重要ではなかったな」

 

 ピシリと空気が凍った。確実に挑発の色を乗せた言葉はスサノオの中枢まで届いた。

 

 「一センチ伸びた所で貴様の低身長は変わらないだろうに大騒ぎして滑稽だったな」

 

 何でもリアルで同じ大学に通っているらしく今日は身体測定があったのだろう。二人とも身体にコンプレックスがあるから余計に敏感なのだ。

 中間に居たミイは呆れ顔でその場を離れて、皐月は俺を盾に、クロノはそれどころではなく、プロフェッサーは配置したゴーレムの影から窺っている。って、逃げ足だけは速いなプロフェッサー!!

 離れた者ですら気付く怒気を放ったがすぐさまに掻き消えた。

 

 「確かに十桁で成長したエスデスに比べたら些細な物だったな。それにしてもまだその腹回りは成長するんだな?」

 

 今度は本当に場が凍った。

 エスデスが腰に差しているゴッズアイテムの氷属性レイピア『氷牙』が刀身を覗かせた為に冷気が発生したのだ。スサノオも負けじと大剣に手をかける。

 

 「見えなくなるまで切り刻んでやろうかこのドチビ!!」

 「贅肉だけ切り取ってやる!ありがたく思え!!」

 「止めんか馬鹿者共が!!」

 

 一触即発の事態を止めたのは筋肉質な肉体がはっきりと解るスポーツインナーの上に黄色いジャケットに長ズボンを履いた金髪のbioであった。

 

 「下らん事で喧嘩するな!単位を零にしてやってもいいんだぞ?」

 「「講師の横暴だ!!」」

 

 スサノオとエスデスが同じ大学で出会った事だけでも驚きなのにそこの講師とは…

 リアルでは黒の革ジャンにサングラス、鎖や髑髏の指輪など金属類を装備したオールバックのおじさんらしいがどうやって講師になれたんだろうか?

 

 「に~してもよく来れましたねぇ?」

 「プロフェッサーか…何故ゴーレムの後ろに居る?」

 「それは置いといて今日は残業と電話してきませんでしたかぁ」

 「ああ、新任に押し付けてきた」

 「うーわー…横暴すぎる先輩にゃ」

 

 毎度の事なんで全員さほど気にしてないがな。

 辺りを見渡すとプレイヤー以外にもNPCが居る事に気付いた。

 ソルブレイブスに個体としてのNPCは少ない。防衛用のNPCのほとんどはプロフェッサーが作った多種多様なゴーレムたちだ。プロフェッサー以外にプロギラミングが出来ない事と拠点の防衛に然程興味がない奴が多いからいつの間にかゴーレム95%の防衛システムが完成したのだ。

 その例外のひとつが円卓の上座に座っている。

 黒の鉄プレートと合わさった服の上に灰色のコートを着て、首に金色の十字架のネックレスをぶら下げている。白い手袋や丸っぽい逆光眼鏡なども装備した大柄でいかつく頬には大きな傷跡の神父。

 それはあのぼっちさんを模したNPCである。腰にはぼっちさんが残していった刀『天羽々斬』と『雷切』を下げている。

 NPCぼっちを見ているとその視線に気付いたプロフェッサーが苦笑いした。

 

 「あれは失敗でしたね」

 「ええ、まったくもって本当に」

 

 プロフェッサーが皆を驚かそうと黙って創り上げたぼっちを始めてみた時はミイが驚くほど喜んでいた。ただそれがNPCと解った時の落胆は凄かった。フレンドリーファイアが解禁されていたらプロフェッサーのレベルは0まで下げられていたと思う。

 と、思い出していたら時間が良い感じだった。

 

 「さて、もう少しでこの世界とはお別れだな」

 

 ぼそっと呟いた一言に皆が己の画面右上の時刻に目を向ける。傍から見れば一斉に何もない天井を同時に見つめると奇異な光景になってしまった。

 誰かは解らないがカウントダウンを始めた。

 本当にユグドラシルとはお別れなのだ…本当に…

 

 「10…9…8…7…」

 

 ふと、ぼっちを見つめる。俺は彼に付いて来て本当に楽しかった。もし出来ることならリアルでも会いたいものだ…

 

 「6…5…4…3…2…」

 

 ゆっくりと目を閉じて今までの想いと思いを振り返る。懐かしく愛おしい日々を。充実して冒険しまくったあの時を。

 

 「1…ゼロ!!」

 

 …

 ……

 ………あれ?

 目を開けたスレインはまだ円卓会議場に存在していた。48名のプレイヤーと共に…


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