骸骨と共にぼっちが行く   作:チェリオ

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 さてと前回より続いたアインズ様とアルベドのデートも終盤!!
 さぁ、本編へどうぞ!!


第086話 「アインズとアルベドのデート:後編」

 リ・エスティーゼ王国の王都。

 王都の主要な大通りより離れた仄暗い路地裏に多少の武装した集団が居た。

 

 「くそ!くそ!くそおお!!」

 

 血が出るほど歯軋りをしている金髪の男が忌々しげに壁を殴りつける。

 男は王国の貴族であったゾルザルと言う者だ。家は伯爵家まで上り詰めたほどの貴族だったが六大貴族との派閥争いで敗北して、いまや男爵の地位まで落とされ領地をほとんど奪われてしまっている。

 そんな家を見限り、仕えていた家来の次男・三男と共に王都まで出てきたのだ。

 ゾルザルは自分に絶対なる自信を何の意味も無く持っている。そんな男が己のプライドを傷つけられればどうなるか理解に容易いだろう。

 

 「ゾルザルさん、連れて来ましたよ」

 

 ぞろぞろとナイフや棍棒を持った男達が現れた。彼らが先程書いた次男・三男の者達である。家族の中で邪険にされていた為にかなり荒れた者が多いがそこを理解出来ているゾルザルが尊重して優しく飴を提供した為に忠誠を誓っている者がほとんどである。

 

 「よし、行くぞ」

 「行くって何処にっすか?」

 「あいつのところに決まっているだろうが!!」

 

 先程の事を思い出す。もちろんあの東洋人風の男と一緒に居た美女の事だ。あれほどの女があんな男と一緒に居るなど…あれは俺の物になるべきだ。手に入れるためならどんな手も使ってやる。その為の駒たちだ。簡単に騙され、使い捨てれる駒共。

 あの女を自分の好きにする事を想像して下卑た笑みを浮かべる。

 

 「ヤッホ~、お兄さんがた」

 

 不意に声をかけられ警戒しつつ振り向くとフード付きのマントを纏った女が立っていた。

 

 「なんだ貴様?」

 「こわ~い。そんなに目くじら立てずにお姉さんと良い事しましょう」

 

 マントが掻き分けられビキニアーマーによって露出の高い女の肉体が披露された。豊満な胸部に引き締まったくびれなど自然と視線が舐める様に動く。20代である女の肉体に見せ付けられた者の一人の喉がゴクリと鳴る。

 

 「どうするの?」

 「い、良いだろう。まずは貴様で楽しむとしよう」

 「んふ♪わたしも久しぶりに楽しめそうよ」

 

 ゾルザル達は気付かない。女がマント内に隠したスティレットに手をかけている事にもそのビキニアーマーは彼女が殺してきた冒険者のプレートである事も。何よりそこらの物陰に隠れている彼女と同じくフード付きのマントを纏った者達に囲まれている事に…

 女は嗤う。楽しそうに。嬉しそうに。笑みに狂喜を乗せて嗤う。久しぶりの獲物と戯れる事を歓喜して…

 

 

 

 「ギャアアアアア!!」

 「ん?」

 「どうなさいましたアインズ様?」

 

 軽い昼食…取る必要も無かったが…を取った後アルベドと話しながら街を歩いていると何か叫び声が聞こえた気がしたが別に気にする事もないのでさっさとアルベドに向き直る。

 

 「何でもない。それよりア…マリエール。今の私はサイトだ」

 「はっ!申し訳ありませんサイト様」

 

 なんだろうな…このデジャブは。様付けは止せとか深々と頭を下げるなとか前にも誰かに言ったような…

 考えをとりあえず放置して再び歩き出す。もちろん手を繋いでだ。繋いでみてこんなに恥かしい物だったんだと理解して、いつも平然とやってのけるぼっちさんは慣れてるんだなぁと感心する。

 撫でるのは慣れたというのが正しいが他の知識などは二次元で得た物であるのだが…

 さもあれ現在二人はぼっちが『モミから』と言ったチケットを片手にその会場に向かっているのだ。チケットはパーティーの招待状である。パーティーと言っても貴族だけが参加するものではなく、一般市民から貴族まで自由に参加できるようなものらしいのだ。

 会場はそこそこ大きな洋館で綺麗に花で飾られていた。

 入り口に立っていた男に招待状を見せると中へと案内された。所々に薔薇が飾られているのはこのパーティーで何かしら関係しているのだろうか?

 

 「失礼。肩に糸くずが」

 「あ…すまな…ここでなにをしている」

 

 声と同時に肩に付いていたであろう糸くずを取られたので反射的にお礼を言おうと振り返るとそこにはザーバ・クンスラァが立っていた。キョトンとした表情をしたがいつもの笑みに戻る。

 

 「私は今日のパーティーの主催者ですので」

 「主催者?」

 「ええ、このパーティーで得たお金を経費を除いて教会の資金にする為に定期的に開催しているのですよ」

 

 そんな事をしているとは知らなかったアインズは普通に感心する。指示を仰がず自分で行動しているのは新鮮味がある。

 軽く頭を下げ「では、後ほど」と告げたザーバはそのばを去って行った。ふと視線を戻すとそこには頬を膨らましたアルベドの姿が。視線に気付いたのかすぐにいつもの表情に戻ったが先の表情が頭に強く残っている。

 

 「デート中なのにすまないなマリエール」

 「い、いえ!お気になさらずに」

 「今はお前とデート中なのだ。少しは我侭言っても良いのだぞ」

 

 笑い掛けるとアルベドと共に進み始める。通路の先には大きな部屋があり、100を超えるテーブルとそれらの椅子が配置されていた。招待状に書かれていた番号を見て同じテーブルへと向かう。

 少し時間が早かったのでアルベドとお喋りしていると徐々に人がテーブルに着き始めほとんどの席が埋まった。アインズとアルベドが座っているテーブルはペア席で二人だけとなっている。

 ワインとフルコースの始めであるオードブルがテーブルへと運ばれてくると会場正面のステージに神父姿ではなくタキシードにマントを羽織ったザーバが突然現れた。

 

 「ここにお集まりの紳士・淑女の皆々様。今回はわたくしスカーレット・ベルローズの奇術パーティーにようこそいらっしゃいました。

 これよりお見せする奇術は誰も目にしたことのない一品ばかりです。どうぞお楽しみください」

 

 拍手の中、深々と頭を下げるザーバ。アインズは手品などと一瞬笑った。

 モモンガの肉体になって肉体能力は元の世界の何倍にも上がっている。動体視力から反射神経まで。現状見抜けないはずがない。もし魔法を使用しようとするのなら気付かないはずがない。

 そんな思いを抱いたままアルベドと共にザーバの手品を見つめた。

 

 

 

 どういうことだ?

 アインズは目の前で行なわれた手品を見て正直にそう思った。

 最初の辺りに行なわれたポケットの中から鳩を出したり、何もないところに被せた帽子よりコインが出てきた際には無限の背負い袋のようなアイテムより出現させたのだと判断した。やはり仕掛けが分かってしまうとつまらないものだなと勝手に結論付けもした。

 しかしその後のナイフを手に刺した手品ではどうやって手は無傷で手袋だけ貫通させたのか解らなかった。ナイフはちゃんと貫通していたと言うのに。

 人を浮遊させたり、瞬間移動などどうやったのだ?魔法なんて感知しなかったぞ!!それになんだその等身大の人形は!自転車から縄跳びまでどうやって動かしているのだ!?

 むむむと仕掛けを見つけてやろうアインズとは別にアルベドは普通に楽しんでした。それは手品『を』ではなくアインズと一緒に見ているからであった。

 

 「次で最後です。そうですね…13番テーブルのご夫婦様。お手伝いをお願いしても宜しいでしょうか」

 

 ん?13番と言葉を繰り返しながら招待状の番号を確認すると『13』と書かれていた。見間違いではないかともう一度確認したが数字は変わらなかった。

 観客の視線が集まり気まずくなった。覚悟を決めて立ち上がると「ステージへどうぞ」と促されるままステージへと向かう。アルベドは斜め後ろを付いてくる。

 ステージでは人が入れる長方形の箱が三つ用意される。それぞれ5メートルほど距離を開けて置かれている。それを見つめながらステージに着くと魔法の光がザーバからアインズ・アルベドへと向けられる。

 

 「お名前を窺っても?」

 「ああ、私はサイトと言う。こちらはマリエールだ」

 

 自分の偽名を名乗ると次にアルベドの偽名を告げる。満足気に頷いたザーバは二人の横に立つ。

 

 「ではこれよりサイト様とマリエール様にはこれより左右の箱の中に入っていただきます。お二人が入ったのを確認後にこの剣を突き刺します。しかしそこにはお二人は居らず、真ん中の箱に移っていると言うものです」

 

 説明するザーバの後ろで助手らしき女性二人が箱の中を開き何もないのを観客に見せ付ける。アインズ自身も何もない事を確認する。

 「お二人とも箱の中へどうぞ」と声をかけられ、助手に誘導されるがまま箱に入り閉められる。

 中は結構狭いが詰めれば人二人ぐらい入れるだけのスペースがあった。

 

 「サイト様。空いている穴より手を出して振っていただけますか?」

 

 言われたまま穴より手を振って箱の中に居る事を知らせる。するとゆっくりと箱が回される。手を引っ込めると後ろより声をかけられた。

 

 「お楽しみあれ」

 

 小声で呟いたあとに魔法詠唱が耳に届いた。反探知魔法を使用しているがアインズの探知魔法には引っ掛かってしまう。この世界では十分としているのだろう。もしかしたら他の思惑があるのかも知れないが…

 兎も角、魔法を始めて感知した後、アインズは転移させられた。場所は真ん中の箱の中だと思うのだが…

 アインズに声をかけた時のようにアルベドにも声をかけたのが聞こえる。同じく手を振りゆっくりと回されているのだろう。そこで予想できたのにしなかった事態が起こった。

 外では悲鳴のような叫び声が起こった。たぶんアインズが入っていたであろう箱に剣が突き立てられたのだろう。それも一本や二本ではない。

 そんなことはどうでも良い。今、問題なのは…

 

 「ア、アインズ様///」

 「なっ?あぁ///」

 

 突如目の前にアルベドが転移させられたのだ。元々真ん中の箱に移らせる手品と言っていたからそうなるのだがここは二人が詰めれば入れる箱の中。嫌でも抱き合うような体勢を取らなければならず、顔は触れそうな程急接近していた。二人とも声が漏れないように小声で呟く。顔は真っ赤に染まりきっていた。

 『お楽しみあれ』

 さっきのザーバの言った意味を理解した。

 

 「狭くありませんか///」

 「だ、大丈夫だ。アルベドこそ辛くないか///」

 「そんな事はありません///」

 

 吐息がかかるのを感じながらこの気まずい時間が過ぎるのをじっと待つ。しかしながらアルベドより発せられる匂いが鼻腔をくすぐり余計に意識してしまう。それはアルベドも同じなのだろう。目が合ったアルベドは一瞬俯き、次に顔を上げた時には目をそっと瞑って唇をきゅっと締めていた。

 ゴクリとならない筈の喉がなったような気がした。思考は周りの情報を遮断して視界はアルベドで覆い尽くされた。

 ゆっくりと顔を近づけ唇と唇が…

 

 ガチャ

 

 意識がお互いに向き合っていた二人は扉が開かれる音で急いで距離を取る。

 外を出てみると拍手喝采が巻き起こっていた。ザーバはお二人に更なる拍手を観客に求め、観客達は惜しみなく送る。これで奇術はお仕舞いを宣言したザーバがパチンと指を鳴らすと各テーブルに置かれた薔薇が一斉に茎より落ちた。もうアインズはそれがどういう仕掛けなのか詮索する余裕はなくなっていた。

 ナザリックと比べて低レベルなフルコースを食した二人は少し風に当たる為に二階のバルコニーに出た。外はすっかり日は落ちて闇夜が支配していた。リアルの街なら科学的な光が街を包んでいただろうがこの世界では光を発するアイテム一つ一つが高価なため灯りは少ない。

 手すりに持たれかかりつつ空を見上げる。前には宝石箱みたいだと称した星空も今はどうでも良かった。

 

 「アルベドよ。今日は楽しかったか?」

 「ええ、とても。夢でも見ているかのような時間でしたわ」

 「それは良かった」

 「アインズ様は楽しかったのですか?」

 「楽しかったさ。今までにないってぐらいな」

 

 その答えに嬉しそうに微笑むアルベドだったが何か寂しげな表情をする。首を傾げて「どうした?」と問いかけようとしたが先にアルベドの口が開かれた。

 

 「ア、アインズ様!!」

 「ど、どうした?」

 「デートはまだ終わってないんですよね」

 「ああ、勿論だ」

 「では我侭言っても良いでしょうか?」

 「そういえば言ったな。良いだろう。聞こうかお前の我侭を」

 「先程の続きをして欲しいのです///」

 「はぁ!?」

 

 驚くアインズを余所にアルベドは肩を震わしながら目を閉じた。どうすれば良いのかとしどろもどろしたが『女性に恥をかかせてはいけない』とあのメモを思い出し覚悟を決めて優しくアルベドを抱きしめる。自分とアルベドに対して幻術魔法をかけて姿を消す。ぼっちに創ってもらった顔を外し、アインズの顔へと戻してゆっくりとアルベドの唇へ近付けていく。

 月明かりの元、消し忘れたアインズとアルベドの影の一部が重なったのをザーバは微笑みながら見守っていた。




 如何でしたでしょうか?
 チェリオ的には満足、満足。
 次回はこんな面白…コホン。アインズ様とアルベドがデートをしていた頃ナザリック勢が何をしていたか書く予定です。
 
 そろそろ外伝や特別編を書こうかなと悩み中…

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