ローリング☆ガールズ~問答無用~   作:ぽんぴん

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最近見始めたローリングガールズが面白かったので、書いてみました。
オリジナル設定が混じっていますのでご了承ください。
作品をもう一つ書いていますので、更新は遅めになると思います。

※2016年06月12日:加筆修正しました。


第一話「猛者無用」前編

 あたり一面に茶畑が拡がる中に作られた田舎道。遠くで風力発電の風車が緩やかに回っている。

 空には眩しい太陽。初夏らしい雲一つない快晴の下、一人の少年が歩いていた。

 年齢は十五、六歳くらいであろうか。しばらく散髪をしていないらしく、ボサボサの黒髪がうなじの辺りまで伸びている。服装はTシャツにジーンズ、スニーカーとラフな格好だが、どれも洗濯を繰り返したらしく、年季が入っていた。

 

「ふぅ……」

 

 少年は肩に背負ったずだ袋を下ろすと、道の傍らに座り込んだ。ずだ袋からは布に包まれた棒状のものが顔を出している。

 

 ここは所沢国。かつての埼玉県所沢市である。

 

 東京大決戦と呼ばれる戦いから十年。

 道州制が強制施行されたことに反発した自警団が全国から集合し、時の政府と繰り広げた大規模な抗争。

 この戦い以降、道州制により規定されていた十余りの州は再び旧都道府県へと分割され、やがて国家として独立した。

 それぞれが独自の発展を遂げるなか、埼玉国では内部の複数の市が分離独立を宣言した。

 所沢国もその中の一つである。

 

 少年はずだ袋から水が入ったペットボトルを取り出し、封を開けて中身を一口飲んだ。

 すると、不意に声をかけられた。

 

「あのー、大丈夫ですか?」

 

 声の主は少女であった。

 年齢は少年と同じか、少し上くらいに見える。自転車に跨ったまま、少年を心配そうに見つめていた。背中まで伸びた茶色い髪が風にユラユラとなびいている。

 制服と思しきシャツとスカートを着ているところから察するに、下校中の高校生なのだろう。

 

「あぁ、大丈夫だ。少し休んでいただけだ」

 

 腰を下ろしたまま、ペットボトルを袋に戻しながら少年は答えた。

 

「だったら良かったです。もしかして熱中症なんじゃないかーって、思っちゃいました」

 

 あはは、と少女は片手で後頭部を掻いた。

 

「それはすまなかった。何せ東京から歩きっぱなしだったのでな」

 

「えぇっ!? 乗り物とか使わなかったんですか」

 

「途中でヒッチハイクとやらに挑戦したが、誰も乗せてくれなんだ」

 

「そ、それは大変でしたね……所沢へは観光に来たんですか?」

 

「そんなところだ」

 

 そう言ったとき、涼しい風が少年の頬を擦った。ひんやりとした感触に少年が目を細める。

 辺り一面に広がる茶畑の葉が風にそよいだ。手入れをしているのだろうか。茶畑の奥で作業をしている人達の姿が少年の瞳に映った。

 

「ここは平和だな。俺が今まで行ったところはいつも厄介ごとが起きていた」

 

「色んなところを旅してるんですか?」

 

 少女の問いかけに、少年は頷いた。

 

「へえ、羨ましいです。私なんて、生まれてから一度も所沢を出たことがありませんから」

 

「このご時世だ。故郷が平和なら外になど出ない方が良い」

 

「そんなあ~……」

 

 少女はガックリと頭を垂れた。

 

 各都道府県が独立してからしばらくのあいだ、日本列島は平和であった。

 独立した国々が生活インフラの構築や独自文化の発展に励んでいたためである。

 しかしそれもつかの間。人々の生活が安定してきた頃になると、あちこちで揉め事が起きはじめた。それは国内の問題だったり、はたまた国同士での争いであった。

 今や何も問題を抱えていない国の方が珍しい。そんな状態だから治安も当然悪くなってくる。かつての旧都道府県時代ならいざ知らず、今は少女が一人で気軽に旅が出来るような世の中ではなくなっていたのである。

 

「まあ、辛抱しろ。あと十年もすれば落ち着いた世の中になるだろう」

 

「そんなに待てません……あ、そうだ」

 

 少女は自転車を降りると、座っていた少年の元へ駆け寄った。

 

「あの、宜しければあなたの旅のお話を聞かせてくれませんか?」

 

 少女は腰を屈めると、少年に向かって顔をズズッと近づけた。

 期待に胸を弾ませたのか、彼女の頬はうっすらと赤くなり、瞳はキラキラと輝いていた。

 あと少しで顔同士がくっついてしまいそうな距離だ。少女の大胆な行動に、少年はたじろいだ。

 

「ちょ、ちょっと待て!」

 

「聞かせてくれるんですね! ありがとうございます!」

 

「話を聞け! 顔が近いのだっ、顔が!!」

 

 今まで落ち着いていた少年だが、少女の行動にすっかり冷静さを失ってしまっていた。彼の顔は耳たぶの先まで真っ赤になっている。

 

「あ、あぁっ、ごめんなさい!」

 

 少年の指摘に我に返った少女が赤面しながら後ずさる。

 

「まったく。年頃の娘がはしたないぞ」

 

 ボヤキながら少年は息を整える。

 そんな少年の様子に、少女は思わず吹き出してしまう。

 

「はしたないって……まるでお爺ちゃんみたい」

 

「んなっ!?」

 

 それは少年にとって心外な一言であった。

 男は強く逞しく。女は優しく淑やかであるべきと少年は思っている。

 同年代の者達からすれば、いささか時代遅れな考えなのかもしれない。

 自分は年寄りくさいのだろうか。いや、そんなことはない。そんなことはないと思いたい。

 これ以上少女に追撃されると心に傷を負うので、少年は話題を戻すことにした。

 

「で、どうして俺の話を聞きたいのだ? まあ、外の様子が気になるというのは分からなくもないが」

 

 東京大決戦以降、人々が外の様子を知る方法はめっきりと少なくなってしまった。

 テレビ、ラジオ、雑誌、新聞……かつて人々が情報を得るために使用していたツールは消滅、もしくは各国内の範囲でしか使用できなくなってしまっていた。

 とくに携帯電話やインターネットは道州制適用の前後に規制が掛かり、個人での使用が禁止されたため現在使用している者はほとんどいない。

 国を跨って使用できる通信手段は昔ながらの郵便か、固定電話による通話くらいだ。

 そのため外の情報に飢えている好奇心旺盛な若者は多かった。目の前の少女もその一人なのだろうか。

 

「話を合わせたいんです。ま~ちゃんと!」

 

「ま~ちゃん?」

 

 聞き覚えのない名前に少年は眉をしかめる。

 

「あっ、すいません。いきなり名前を出されても分からないですよね。

 えっと、私の幼馴染がよく外へ行く人でして……いろいろと旅先の事を話してくれるんです。

 それで今度は私がそんな話をしてあげられたらなって」

 

 えへへ、と少女は頭を掻きながらはにかんだ。

 先ほども言ったように危険が大きいご時世。女性が旅をすることは考えにくい。

 少女が気恥ずかしそうにしているところを見るに、ま~ちゃんとやらはこの少女の恋人なのだろう。いや、そこまで行かずとも、二人は親しい間柄で、少女がその人物に思いを寄せているように見える。

 意中の男性のために見ず知らずの旅人から話を聞こうとはなかなか健気な少女ではないか。少年はそう思った。

 

「うむ。そのような事情があるのならば仕方がない。幸いこちらも急いではおらんしな。

 俺なんかでよければ、いくらでも話してやろう。で、あー……」

 

 少年はそこまで言って、少女の名を聞いていないことに気づいた。

 

「あっ、そういえば名乗ってませんでしたっ。すみません、私、森友望未(もりとものぞみ)って言います」

 

 森友。少年は心の中でその苗字を反芻する。どこかで聞いた覚えがあるような気がしたからだ。

 だが、いくら思い返そうとしてもその答えは出なかった。気のせいか、と少年は結論付けた。

 

「俺は銅之助。武甲銅之助(ぶこうどうのすけ)だ」

 

 目の前の少女、望未に銅之助は名乗り返す。

 すると銅之助の名を聞いた望未が先ほどのように吹き出してしまった。何事かと尋ねてみると、望未は申し訳なさそうに謝った。

 

「あっ、ごめんなさい! 名前までお爺ちゃんみたいだなって……本当にすみませんっ!」

 

「いや、いいのだ。別にいいのだ……」

 

 今は亡き父よ、母よ。答えてくれ。なぜこのような名前を付けたのか。

 心に傷を負った銅之助は空を仰いだ。

 

「さっ、さささぁ! こんなところでは何ですから!

 私、美味しいお団子のあるお店を知ってるんです。そこで話を聞かせてさい!

 さぁ、行きましょう参りましょう!」

 

 空を見つめて放心し始めた銅之助を見て、焦った望未が捲し立てる。

 だが銅之助の耳には届いてないようだ。

 こうなったら実力行使で立ち上がらせるしかない。望未は座り込んでいる銅之助の右腕を強く掴んだ。

 その刹那であった。

 銅之助は自分に伸ばされた望未の腕を左手でひねり上げ、そのまま望未をうつ伏せに押し倒す。この間に望未の手は銅之助の右腕から離れた。

 そして左手で望未を捕えたまま、銅之助は自由になった右腕を足元の袋へ素早く伸ばした。袋から顔を覗かせている棒状の物体の先っぽを強く握りしめる。

 この間、わずか一秒の出来事であった。

 

「ふぇ? え、なにこれ? って、い、痛い! 痛いよ、武甲くん!」

 

 一瞬何が起きたのか理解できなかった望未だが、万力のように押さえつけられている痛みに悲痛な声を挙げた。

 

「……はっ! すまん、またやってしまった!」

 

 望未の悲鳴に我を取り戻した銅之助は、謝りながら拘束を解いた。

 

「すまない! この通りだ!」

 

 銅之助は地面に両手を突き、頭を下げた。

 この国に古来より伝わる最高の謝罪方法、土下座(どげざ)である。

 アスファルトの地面に直に接触した額と両手から、火傷しそうなくらいの熱を感じる。

 真夏の直射日光を十分に吸い込んだアスファルトの熱量は凄まじい。だが、相手が許すまでこの姿勢を崩すことは出来ぬ。

 それが土下座を開始した者の掟であると、銅之助は心に誓っていた。

 

「あっ、頭を上げて! 急に腕を掴んだ私も悪かったし! ね? お願いだから頭を上げてください!」

 

 望未の許しを得て、ようやく頭と手を戻す銅之助。

 その額はやや赤くなっていた。ステーキの焼き方で言えばレアーの状態であった。

 

「本当にすまないことをした。あれはいわゆる職業病なのだ」

 

「えっと、あんなことしちゃう武甲くんの職業って……なに?」

 

 それは当然出てくる疑問であった。

 少し間を置いてから銅之助は答える。

 

「……住所不定無職。または旅人。風来坊ともいう」

 

「それ、職業なのかなぁ……?」

 

「とにかく許してくれて助かった。もし土下座で済まなければ切腹するところであった」

 

「そんな大事に!? っていうか、お爺ちゃん通り越して武士になっちゃってるよ! 武甲くん!」

 

 まさか自分が目の前の少年の命を左右していたとは知らず、望未は驚愕の表情を浮かべた。

 

「ふむ。武士か。それも悪くない」

 

「いや、あの、武士ってもう無いから……」

 

 望未はゲンナリと肩を落とした。

 どうしよう。もしかすると面倒くさい人と関わってしまったのかもしれない。

 最初に声を掛けたことをちょっぴり後悔する望未であった。

 

◇◆◇◆◇

 

 武甲銅之助が九死に一生を得ていた頃。

 所沢国の南の地域では事件が発生していた。

 隣国である練馬国との国境に面する一帯に、突如として大量の侵入者が現れ、襲撃を行ったのだ。

 茶畑で農作業をしていた所沢国民達は逃げ惑うしかなかった。

 

「うわぁぁぁ!」

 

「逃げろ! 自警団を呼ぶんだ!」

 

 茶畑を襲っていたのはタンクトップに腹巻、ステテコを履いた集団であった。

 全員麦わら帽子まで被っており、首からタオルを掛けている。襲撃者達も農作業者にしか見えない。彼らは次々とクワを振り下ろし、きれいに整えられた茶畑を荒らしていった。

 

「ちくしょう! お前ら何もんだ! 俺たちの畑を滅茶苦茶にしやがって!」

 

 所沢国の若者の一人が農作業用の鉈を片手に立ち向かっていく。

 

「お頭ー! お願いしやす!」

 

 若者の反抗に気付いた襲撃者の一人が叫んだ。

 すると空から轟音と共に、巨大な何かが若者の前方に激しい勢いで落下した。

 地面を走る衝撃と巻き起こる土煙に遮られ、若者は足を止める。

 

「な、なんだ……?」

 

 若者は手にした鉈をギュッと握りしめる。

 やがて晴れていく土煙の中から、一人の男の姿が浮かび上がった。と言っても、ただの男ではない。身長が二メートルはあろうかという大男だった。

 それも普通の大男ではない。全身が屈強な筋肉で溢れていた。

 それはもう、大男が筋肉なのか、筋肉が大男なのかよく分からないくらいだ。

 服装は他の襲撃者と同じく農作業者のものであり、麦わら帽子も忘れていない。

 なぜかハート形のキラキラ輝くピンク色の小さな石を首から紐で下げており、それだけが大男の格好から唯一浮いていた。

 

「おいおい、なんだぁ? 残ったのはお前だけかよ。所沢の奴らぁ、肝っ玉がねぇなぁ」

 

 口の端をニッと吊り上げ、大男が不敵な笑みを浮かべた。

 その表情には余裕と自信が満ち溢れている。

 大男の力強い姿に若者は立ちつくしてしまっていた。

 

「まぁ、よかろう。おいそこのちいせぇの! 今からここは俺たち練馬国の国家自警団『練馬ダイコンズ』が頂く!」

 

 練馬ダイコンズ。

 それは旧東京都の練馬区一帯が独立を果たして誕生した練馬国の国家自警団の正式名称である。

 では、国家自警団とは何か。

 東京大決戦の以後、ほとんどの独立国はそれぞれの国内で結成された自警団により統治されている。

 中には自警団とは別に政府を置き、自警団は治安維持に尽力するケースも存在している。

 余談だが練馬国は前者の、所沢国は後者のケースであった。

 

「練馬の……自警団、だと……おまえ、ツインタワー宣言を知らないのか!」

 

 所沢の若者が振り絞るような声で叫んだ。

 両足が恐怖で震えている。相手は国家自警団。そして目の前にはその団長と思しき大男。若者はこれらのことから大男の正体を察知したのだ。

 若者の言うツインタワー宣言とは、自警団同士の大規模な抗争を防ぐために全ての独立国の間で定められた決まり事である。

 それには外交処理できない争いは全て、国家自警団の代表者同士で解決せよと定められている。

 国家自警団を名乗る以上、ツインタワー宣言を知らないと言い張ることは出来ない。

 

「そんなカビの生えた古臭いもん、真面目に守っている奴らがどれだけいるってんだ?」

 

 大男はニヤニヤしながら言った。

 

「ちくしょう、なんてこった……」

 

 若者は苦虫を噛み潰したような顔をした。話の通じる相手ではないことが分かったからだ。

 ツインタワー宣言では代表者同士による解決が定められているが、その方法については明記されていない。

 解決方法はその場その場で様々だが、団長同士の決闘となることが多い。

 そのため自警団の長には「モサ」と呼ばれる能力者が就くのが定石となっている。

 モサの持つ能力は戦闘だけに限らず、様々な一芸に秀でた者も多く存在する。目の前の大男もモサに間違いないだろう。しかも戦闘に特化したタイプに違いない。

 それに対して若者は只の一般人――「モブ」と呼ばれる者であった。

 モサの力は圧倒的で、戦闘力においてはモブに勝ち目はない。

 かつての東京大決戦でも全国から終結したモサ達が政府と激しい戦闘を繰り広げ、東京に大きな被害をもたらした。

 若者の足が震えているのは大男がモサであると感じ取ったためであった。

 

「くっそぉぉぉっ!!!」

 

 やけくそになった若者が、鉈を振り上げて大男に立ち向かう。

 繰り返して言うが、モサとモブが戦った場合、モブに勝ち目はない。

 だが、こうしている間にも大男の手下達によって大事な茶畑が荒らされ続けている。

 それは若者にとって、どうしても我慢ならないことであった。

 その怒りが恐怖を打ち負かし、体を動かした。

 鉈で狙うは団長と思しき大男。こいつさえ何とかできれば――

 

「うっらぁぁぁ!!!」

 

 若者は大男の手前でジャンプすると、そのまま勢いに乗って鉈を振り下ろす。鋭い切っ先が、大男の頭を狙って突き進む。

 いける。若者はそう確信する。

 そこへ巨大な丸太のような、大男の太い腕が若者の前に立ちふさがった。

 振り下ろした腕は止められない。鉈の鋭い刃が、大男の片腕を切り裂いた――若者はそう思った。

 しかしその思いは無残にも打ち砕かれた。

 鉈の刃は大男の片腕に命中した。そこまでは良かった。しかし、負けたのは刃の方であった。

 若者の一撃が大男の腕に当たった瞬間、その刃は中心から真っ二つに折れてしまったのだ。驚く間も無いうちに大男の拳骨が飛んできて、若者の身体は宙を舞った。

 

「うそ、だろ……」

 

 呆然としながら若者は地面に叩きつけられた。

 いくら鍛えたとしても人間の筋肉や皮膚が、鉄で出来た刃に敵うはずがない。

 しかし相手はモサ。それを可能にするのがモサなのだ。

 刃が当たる瞬間、大男は盾にした腕に力を入れていた。

 それにより硬くなった筋肉は刃を弾くどころか衝撃を全て跳ね返し、ついには折ってしまったのである。もはや常人の成せる技ではない。

 

「あ、あ……あぁ……」

 

 見事に折れてしまった鉈を見て、若者の顔は真っ青になった。

 若者は鉈と一緒に勇気まで折られてしまっていた。

 大男は盾にした腕をポリポリと掻きながら、若者に向かってゆっくりと歩いていく。まるで蚊に刺されたくらいにしか感じていないようだ。

 

「おぉっと、俺としたしたことが名乗り忘れちまうとはなぁ。おいそこのちいせぇの。

 俺の名は沢庵(たくあん)だ。

 よおく覚えておけ。今日から所沢を支配する男の名だ」

 

 男は若者にそう告げると、右足を振り上げて地面を大きく踏みつけた。

 

「俺のクワを持ってこい!」

 

 後ろで暴れている練馬団員達に向かって沢庵が指示を出す。

 すぐに団員達が、四~五メートルはあろうかという巨大なクワを数人がかりで運んでくる。

 沢庵はその巨大なクワを受け取ると、両手で握って大きく振りかぶった。

 

「それじゃあ、俺もいっちょ耕すか! この、所沢を!」

 

「やべぇ!」

 

「ちょっと待ってお頭ー!」

 

「巻き込まれるぞ! 全員撤収!」

 

 その様子を見ていた練馬国の団員達がクワを放り捨てて逃げ出した。

 沢庵の胸元から下げられた小さな石が妖しく光り出す。

 すると沢庵の両腕の筋肉がますます膨れ上がった。まるであの小さな石が沢庵にパワーを与えているようだ。

 その様子を、所沢の若者は倒れたまま見ているしかなかった。練馬国の団員達のように逃げ出したいのはやまやまだが、腰が完全に抜けてしまって動けなかった。

 

「や、やめ、やめろぉ……!」

 

 そう小さく叫ぶのが精いっぱいだった。

 

「うおりゃあああああああっっ!!!」

 

 猛烈な勢いでクワが地面に振り下ろされる。

 その刹那、巨大な爆発がクワを中心に発生した。閃光と爆風が辺りのものを全て巻き込んでいく。

 茶畑が、木が、土が、ありとあらゆるものが容赦なく吹き飛ばされていく。それは所沢の若者も、逃げ遅れた練馬国の団員達も例外ではなかった。

 やがて爆風と土煙が収まると、まるで爆弾が落ちた後にできるような巨大なクレーターだけが残った。

 その中心部で沢庵がクワを杖のようにして立っている。

 

「ふぅ~、いい汗掻いたぜ」

 

 沢庵は首から掛けたタオルで額の汗を拭い取った。

 そして辺りをゆっくりと見回す。

 何もかもが吹き飛ばされた辺り一面にはペンペン草一本すら残っていない。

 

「あと何発くらいで、所沢を丸ごと耕せっかなぁ」

 

 所沢を吹き飛ばし、その広大な敷地を全て大根畑に作り替える。

 それが沢庵たち練馬ダイコンズの目的だ。

 こう言うと滑稽なように聞こえるが、事態は極めて深刻であった。

 沢庵は畑に邪魔なものを全て吹き飛ばすつもりである。いま所沢の人々が住んでいる家も、子供たちが通う学校も、患者が入院している病院も、何もかもが破壊の対象だ。

 

「おまけに邪魔者はいねえときてる。やりたい放題だぜ」

 

 沢庵は己の割れた顎を撫でながら、ほくそ笑む。

 練馬国に国家自警団が存在するように、所沢にも国家自警団は存在する。

 その名は「日吉町プロペラーズ」。

 所沢駅前のプロぺ通りから名前を付けられたその自警団の団長の名は「マッチャグリーン」という。

 特撮ヒーローのような緑色の全身タイツとヘルメットに身を包み、その正体はごく一部の人間しか知らないらしいと噂される人物である。だが、マッチャグリーンはとある事情により、ここ数週間ほど所沢を留守にしている。

 日吉町プロペラーズにはマッチャグリーン以外にモサはいない。

 つまり、今の所沢は他国からの侵略に対して無防備な状態であるといっても過言ではなかった。

 これは絶対に外部に漏らしてはならない秘密だ。だが、その秘密がどこからか漏れてしまった。

 今まで強力なモサがいるために所沢へ手が出せなかった沢庵だが、マッチャグリーンの不在を知り今回の襲撃を企てたのである。

 

「くくく。帰ってきたマッチャ野郎の顔が見ものだぜ……さあて、次はどこを耕すとするかぁ」

 

 愛用している巨大クワを肩に担いで、沢庵はゆっくりと歩き出した。

 その行き先は町の中心地――多くの住宅や建物が存在する市街地の方角であった。

 沢庵がその気になれば数日中にも所沢全体が廃墟と化すだろう。もはや所沢の命運は尽きようとしているのは明らかであった。

 

 まもなく日本列島から所沢という一つの国が消えようとしている。

 そのことを、これから起こるであろう悲劇を、ほとんどの国民達はまだ知らない。

 あの東京大決戦から十年。

 かつて日本列島に自由と平和を取り戻したはずの力の一つが、戦う術を持たない人々に対して牙を剥こうとしていた――

 

◇◆◇◆◇

 

 はいどーも! 国境の関所の窓口お姉さんだ!

 練馬が所沢を狙ってるとは聞いてたけんど、まさかツインタワー宣言を無視して暴れまわる大事になってるとはなぁ。

 モサに吹っ飛ばされてたモブの人は大丈夫だべか?

 次はあの沢庵っちゅう、練馬のモサが大暴れ! てゆーか、所沢が無くなっちまったらオラも失業してまうからやめてくれねーだべか!

 あぁっ、沢庵が望未ちゃんを見て鼻息を荒くしてるでねーか!

 これは乙女のピンチだど! 望未ちゃんを助けてくれる白馬の王子様はどこかにいないんだべか!?

 

 次回「猛者無用」後編!

 んだばまず!




お読み下さり、ありがとうございました。

あと練馬の皆様、悪役として使ってしまいすみませんでした。
話の都合上、敵対する国を出したかったため、所沢に近いところから選びました。
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