投下です。
※独自設定注意です。
※連載と表示されてますが、短編形式です。
ミーンミーンミーンジジジジジジ―――…
季節は夏。
辺りは陽炎が立ち上り、
目の前に広がっているのは、太陽の光できらきらと輝く水の波。
現在このプール内には俺を含めて二人しかいない。
人気が全くいない今の時間を狙って、俺はトレーニング施設に来ているのだ。
プールが屋外にあるのは、今時珍しいと思う。
ふと、耳を澄ました。聞こえてくるのは、やかましい程のセミの大合唱。
ふと、空を見上げた。視界に入って来たのは、青い空。思わず、本日は晴天なり、とでも口走ってしまいたくなった。
しかし、俺が口走るより先に”炸裂音”が聞こえた。
―――パッシャァァアン!!
その音には聞き覚えがあった。水と何かが強く衝突すると、丁度そんな炸裂音が聞こえるのだ。
俺はその音の正体を知っている。実に奇妙なことだが、そんな音を俺は毎日といっても過言ではない程の頻度で聞いていた。
「うわ…あいつ、また飛んだのか」
漏れた呻きの声は呆気に取られたものではなく、感嘆したものだ。
音の源と思われる方向に視線を向け続けながら、俺はその方向に移動を開始する。すると…
「…ぷはぁ~」
しばらくしてから、茶髪に灰色がかったような髪の女の子が水面から出てきた。
髪から滴り落ちる水滴はそのまま水面に溶け込んでいき、その姿はとても美しく見えた。
「お~い、”曜”!」
いつまでも見惚れているわけにもいかないので、俺はその女の子の名前を呼ぶ。
すると彼女はすぐに気が付いて、にへらっと笑いながらすぐさま手を頭の近くに添えて敬礼のポーズをとる。
初めて見る人からすると何が何だか分からないポーズだが、俺にとってはそんな彼女の仕草は見慣れたものだったのでこちらも敬礼で返す。
このポーズにも慣れたもんだ。
「”ゆーくん”どうどう!?見てくれてた?さっきの」
「悪い、見逃した」
「え~!?ちゃんと見ててねって言ったよ私~」
「あぁ悪い悪い。でも昨日も一昨日もその前も見せてもらったんだからさ、別に俺は気にしないぞ?」
「んまぁ、そうかもしれないけどさ?私からするとやっぱりほら、自信のある技っていうのは何度でも人に見てもらいたいんだよ」
ぶぅと不満そうにそう漏らしながら、彼女『
彼女、渡辺曜とは小さい時からの付き合いがあり、同じ幼稚園、同じ小学校、そして同じ中学校を共にして、いつも一緒に過ごしていたというなんともまぁ切っても切れない縁のようなものがあり、所謂幼馴染という関係と言える。
なんでも、俺の親父と曜のお父さんは古くからの親友らしく仕事が休みの日はどちらかが必ず会いに行く程に仲が良い。そんな関係もあってか、俺と曜も引き付けられるかのようにして出会い、意気投合し、自然に今のような関係になったのだ。
そういえば、曜と遊ぶときはいつも曜がお父さんに頼んで一緒に船に乗せてもらってたっけな………。
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太陽が空を支配して、ザザーンザザーンと静かにさざ波が聞こえる中、まだ小さかった俺達は船長をやっている曜のお父さんから許しをもらい、都合がいい時は毎回船に乗せてもらって遊んでいた。
『ふわぁーっ!みてみてゆーくん!うみ、すっごいきれいだよ!』
『分かった!分かったからちょっと落ちつけって!おっこちるぞ?』
そこには、甲板から見渡す海に興奮して船から身を乗り出してはしゃぐ曜とそれを宥める俺の姿があった。
それからまたしばらくして、再び曜が口を開く。
『ねぇねぇゆーくん、ちょっととんでみようよ』
『は?なに言ってんだよ。そんなの危ないに』
『それーーーーーーーーっ!』
『…え?う、うわあああああああああああぁぁぁ…』
時すでに遅し。
言い終わる前に、俺の体は曜に手を引かれた状態でそのまま空中に投げ出されていた。
上を見ても、下を見ても、視界に入ってくるのは青い光景のみ。
俺達二人はそのまま吸い込まれるようにして、空しく落ちていったのだった…。
ドボン… … … ‥ ‥
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…あぁ、よりにもよって一番最悪な思い出を掘り返してしまったようだ。
あの時の俺、よく生きてたな。
当然この事は曜のお父さんの耳に入り、俺達は二人揃ってこってりと叱られた。
「ん~?ゆーくん何考えてるの?」
「ん…っあ、あぁ昔のことをちょいとな。っていうか近い」
いつの間にか曜は俺の近くまで迫って、正面から顔を覗き込んできていた。
視線を下に向けてしまうと、思春期男子を魅惑する二つのアレが目に入ってきてしまうので俺は必死に目を逸らしながら一歩後ろに下がって口を開く。
すると今度は顎に手を当ててしばし考え込む曜。
「昔?……あぁ!初めて海に飛び込んだ時のこと、かな?」
「なんだ、覚えてたのか」
「当たり前だよ!あぁ~懐かしいなぁ、確かあの時は私達二人共お父さんに怒られちゃったんだっけ。えへへへ」
「お前な、今だからこうやって笑えるけど、あの時は本当に死ぬかと思ったんだぞ」
「あはははっ!あの時のゆーくんの声凄かったよね。こう、うひゃあああって感じで」
「違う、うひゃあああなんて言ってない。うわあああ、だ」
「どっちも変わらないじゃん…」
苦笑いをしつつ、俺の訂正にコメントする曜。
「ところでこの後どうするんだ?まだ、飛ぶのか?」
「う~んどうしよっかなぁ…ねぇゆーくん、飛ぶって言ったら今度はちゃんと見ていてくれる?」
「あぁ。もし飛ぶんなら、今度はちゃんと見といてやるよ」
この辺りで、俺達が交わしている会話の意味を説明しておこう。
曜は水泳競技の高飛び込みを特技の一つとしている。
その高飛び込みの中で、曜にとって最も自信のある技があるのだ。そしてそれを俺に見て欲しいということで、曜はしつこく願うようにして言ってくるというわけだ。
「ホント!?じゃあ絶対だよ、絶対!」
「分かった分かった、分かったから早く行ってこい。でも足がつらないようにちゃんとストレッチしてからにしろよ」
「分かってるってばー…」
軽く注意を呼びかけてから、一言で答えてタタタっと飛び込み台の所まで小走りで向かっていく曜を見送る。
まぁあいつは運動に対しては誠実なやつだから、特に心配するほどのことでもないだろう。
曜の姿が見えなくなると、俺はプール端の段になっている所に腰かけて、ちゃぽんと水面に足をつけながら飛び込み台の方へと視線を向ける。
しばらくしてから、遥か約10mの高さの所に曜の姿が見えた。
ストレッチを終えて、いよいよ技をお披露目してくれる様子だ。
「ゆーくーん!それじゃあいくねー!!ちゃんと見てるー?」
「あぁ!ちゃんと見てるぞー!!しっかりなー!」
「えへへ~……よし!」
笑顔でぶんぶんと手を振ってくる曜に対し、俺も手を振り返してもう一方の手でメガホンを作り軽めの檄を飛ばす。
それからまたしばらくしてから、二人の間に交わされる言葉はなくなり、その空間に残ったのは相も変わらずの蝉の鳴き声とちゃぷちゃぷとした水の音だけとなった。
「…………………」
「…………………」
お互いの間に流れる無言の時。
まだ2,3分くらいしか経っていないはずなのに、もう何十分もこうしているかのように思えた。
額に浮かぶ汗を拭いながら、俺は曜を見守るようにして視線を向け続ける。
そして…
「……………………………………………よ~し…っ!」
「!」
長いようで短い沈黙を打ち破るかのようにしてタンと音をさせた直後に、彼女はゆらゆらと揺れ動く青い世界へと飛び込んでいった…。
―――――――パッシャァァアン!!!
…………………………………
……………………
…………
‥‥
.
☀
「いやぁ~、今日も気持ちのいい水だったよー」
「ははっ今日も暑かったからな。余計にそう感じたろ」
「うん!」
あの後、何事もなく無事に技を見せてくれた曜が今日はもうこれくらいでいいと言いだしたので、俺達はプールを出てトレーニング施設を後にした。
今はお互い運動後のスポーツドリンクを片手に、楽しく談笑しながら帰路に就いている。
「しっかし、やっぱりすごいよな…」
ぽつりと、俺は呟く。すると曜はその呟きを拾って聞いてくる。
「へ?何が?」
「お前のあの技だよ。前逆宙返り3回半抱え型」
「おぉゆーくん、よく覚えてたねー」
「そりゃあんだけ説明してもらえりゃな」
わざわざペットボトルを鞄にしまって、ぱちぱちと拍手する曜。
そんな曜に対して、俺は苦笑を浮かべつつ返す。
『前
高飛び込みの一種であるそれは、高飛び込みの種目の中でも最高難易度の大技とされており、出来る人が世界に指で数える程度の数しかいないそうだ。
曜が初めて俺にこの技を見せてくれた時はつい感動してしまい、それ以降もしばらくは見る度見る度に感嘆の息を漏らして見入っていたりしたが、毎日のように見せられたら流石に見流すことが多くなり、感嘆の息だけは出るものの最初の頃に比べると感動は薄れていったのだった。
まぁどれだけ凄いものでも、同じものを何度も見たらありがたみのようなものが無くなるっていうのはよくあることだよな。
でもこれは別に飽きたと言ってるわけじゃない。今日改めて見て思ったことだが、俺は曜が技を見せてくれるあの瞬間がたまらなく好きになってしまっているのだ。
そういうわけで、見流すことが多くなったとしても別に見たくないと思うことはないのだと思う。
ちなみにこの技の大まかなやり方を簡単に説明すると、飛び込み台から前に向いて後方に回転。ひざを抱え込んだ状態で3回転半、というものだが正直聞くだけで身震いしそうな種目だと思う。
「…………」
「ん?どうしたんだ曜」
ふと曜の方へ視線を向けてみると、曜は頬をほんのりと赤くして無言で俯いていた。
俺の視線に気がついたのか、曜はほんのりと赤くなったまま苦笑しつつ口を開く。
「あ、あはは…いやぁその~、出てたよ?」
「は?何がだよ」
「だからその…心の声?的なやつ」
「…マジ?」
「マジ」
たははと照れくさそうに笑う曜だったが、俺にとっては恥ずかしいことこの上なかった。
「ち、ちなみにどの辺りが漏れてた…?」
「え、えぇっと~”俺は曜が”っていう所から”好きになってしまって”…っていう所かな。えへへ…」
「なっ…!?」
よりにもよって一番恥ずかしい所聞かれてたあああああああああああああああああああ!!!
おいマジかよ、いやマジだって言われたなさっき…。
くぁ~…どうしよう、曜の顔がまともに見れない…っ。
……はぁ、仕方ない謝ろう。曜は優しいから笑って誤魔化してくれているけど、もし本気で嫌がってて明日から話しかけてこないでとか言われたら俺は相当へこむ。
「あ~曜…その、だな」
「うん…なに?」
「その……ごめんな?」
「…へ?」
「いや、俺変な事を口走っただろ?もしそれで嫌な思いさせてしまったんなら…悪い。本当にゴメンっ」
その言葉に精一杯の気持ちを込めて、俺は頭を下げて謝る。
「………………」
「………………」
曜からの返事は返ってこない。
もしや本当に、嫌われてしまったのだろうか…。
俺は不安な気持ちに苛まれながら、おそるおそると頭を上げて曜の表情を窺う。
「…もう〜仕方ないなーゆーくんは。うん、いいよ。聞かなかったことにして、許してあげる」
「ほ、本当か!?」
よっしゃ!滅茶苦茶怒ってたらどうしようかと思ってたぜ。さ~て、んじゃあ一件落着だ。さっさと帰ろ帰「ただーし!」
「な、なんだよ…」
ほっと一息をつけたのも束の間。
曜は満面の笑みでニコニコした表情で俺を見つめてくる。
さっきまでとはまた違ったベクトルの嫌な予感が、俺の身体中を駆け巡っているのを感じる。
「ハンバーガー」
「…は?」
「ハンバーガー奢ってくれたら、それで許してあげるっ」
にっこりとした笑顔を見せながら、彼女はそんな条件を出してくる。
まぁそれくらいならお安い御用だ。
「あぁ、いいぞ。今から行くのか?」
「やった!うん、駅前に美味しいお店があるんだ」
「そうか、んじゃあ行こうぜ」
俺が了解すると、その場で小さくガッツポーズして喜ぶ曜。
腹減ってたのかな?そんなにハンバーガー食いたかったんだな、曜のやつ。
そんなわけで、駅前のハンバーガーショップへと足を向ける俺達二人。
もう夕飯前だし、そんなに食う訳にはいかないな…。
「あ、ゆーくん。ちなみに私5個ね」
「はぁっ!?」
「む、なにさ。もしかしてダメなの?」
「いや、別にダメってわけじゃないが…」
思わず「太るぞ」なんて言葉が喉の奥まで出かけていたが、そんなことを言ってしまったら最後、今度こそ収拾がつかない事態になりかねないのでなんとか飲み込ませることに努めた。
「お前ってそもそもパサパサしたやつ苦手じゃなかったか?ほら、昔のお前ってバームクーヘン全く食えなかったし」
「バームクーヘンとハンバーガーを一緒にしないでよ…。それにハンバーガーは時間が経ったやつだと流石に食べられないけど、出来立てのやつとかだったらむしろ私大好きだよ」
なるへそ、それは言えるな。確かに時間が経ったハンバーガー程マズいものはない。炭酸が抜けたコーラみたいなものだな。
「ねぇそんなことより早くいこっ、ハンバーガーが私達を待ってるよ」
「別に待ってねぇよ…うおっ!?ちょっおい曜!分かったから引っ張るなって!」
「全速前進だよ!ゆーくん!!」
なにやら奇妙な事を言う曜に呆れていると、そのままグイッと俺の手は勢いよく引っぱられていく。
思い返してみると俺の幼馴染は昔からこうだった。
碌に人の制止の声も聞かずに、毎日毎日俺を振り回して見せた。
ちょっと待ってほしいと口に出して願っても、返って来たのはヨーソローとかいう訳の分からない言葉だけ。
ほら、今も――――
「えへへ…駅前に向かって~ヨーソロー!」
読了ありがとうございました。
前書きでも書きましたが、この作品はとりあえず二話完結の短編を予定してます。
ある程度需要があるかなと思ったら連載として続けていきたいかなと考えています。
次のお話ですが、曜ちゃんメインではなく、
国木田花丸ちゃんと黒澤ルビィちゃんがメインのお話となっております。
なお、既に次のお話は執筆中で今回より2倍程文字数が多いです(笑)
では…。