学戦都市アスタリスク-Call your name-   作:フォールティア

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すいません、熱中症でダウンしてしまい、投稿が遅れましたm(__)m

皆様もどうかお気をつけて今夏をお過ごし下さい


*06 奪還 2

「ええぃ、全く数が減らないじゃないか!」

 

「一網打尽にしようが即座に補充されるのではな……」

 

苛立たしげに叫ぶユリスに、晶もまた辟易とした様子で答える。

あれから並み居る人影達を斬り捨て、撃ち抜き、焼き払っていたものの、一向にその数が減ることは無かった。

どうやら機能を最低限に絞ることで、展開できる最大数を延々と補充するように出来ているようだ。

 

「キリがないとはこの事か」

 

「あまり星辰力は使いたくないんだがな」

 

雑に近寄ってくる人影を斬り捨てて、背中合わせに会話する。

どちらも数時間後に試合を控えている身である以上、ここで多く星辰力を使うのは避けたい。

そうである以上、雑多に増える人影はこの上ない嫌がらせにもなる。

 

「綾斗たちは大丈夫だろうか……」

 

ユリスが技でもない適当な大きさの火球を放ち、その隙を縫うように晶が銃形態に変形した〔ブラオレット〕の銃爪を引いて余波で動きが止まった人影を撃ち抜く。

 

「ははっ、これは面白い事を聞いた」

 

「何が可笑しい?」

 

「いやはや、綾斗が心配に成る程気に掛けているのだな、とな」

 

「んなっ!?」

 

人影の群れにぽっかりと穴が空いた所で、晶の指摘にユリスが動揺を見せた。

 

「《華焔の魔女》も随分と丸くなったものだな?」

 

「な、いや、べ、別に心配などしていない!!」

 

「その態度がもはや答えになっているぞ、リースフェルト」

 

「~~~っ!」

 

からからと笑ってユリスをからかいながらも、人影を消す手は止めない。

ユリスもユリスで動揺しながらきっちり人影を焼き払っている。

 

「だ、大体、私が心配するほど綾斗は弱くはない!最近だって能力を解放せずとも戦えるように一人で訓練しているからな!」

 

「初耳だな……何故それを知っている?」

 

「……」

 

しまった、とばかりに沈黙してしまったユリスに晶は分かりやすい反応だと思いながら人影を斬り捨てる。

 

「さてはリースフェルト、影ながら綾斗を追っていたな?」

 

「…………い、いや?そんなことは無いぞ?」

 

晶の追求に顔をひくつかせながらユリスは火を横薙ぎに撒いて人影を焼失させる。

墓穴を掘るとはまさにこの事かとユリスの態度に晶は苦笑いを浮かべてしまう。

 

「いやまぁ、パートナーだものな。気にはなるものだよな」

 

「別に綾斗のことなんて気にしてない!」

 

もはやテンプレ通りのセリフを自棄っぱち気味に言い放つユリスに、晶は思わず口を滑らせた。

 

「……ツンデレの申し子か」

 

「よしそこに直れ八十崎。この影と一緒に砂状になるまで焼いてやる」

 

「すまない、つい本音が……」

 

「絶対に燃やす……!」

 

綾斗には見せられないような形相になったユリスに、『あ、これ地雷踏んだな』と確信した晶は全力で逃げ回る。当然、人影を攻撃する手は弛めないが。

 

「待たんか八十崎!」

 

「だが断る。こんがり肉にされたくないからな!」

 

「…………何やってんだ、アイツら?」

 

完全に巻き込む形で吹き飛ばされていく人影と当事者たる二人を眺めて、応援に来たレスターは呆れたように脱力したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、地下ホールは煙に包まれていた。

舞い上がった星辰力の残滓と埃がさらに視界も嗅覚をも遮る。

その中で綾斗は毅然と構え、綺凛に呼び掛ける。

 

「刀藤さん」

 

「はいっ!」

 

呼び掛けるよりも早く、綺凛が真っ直ぐに駆け出す。

狙いは一点、フローラのみ。

対し綾斗は無手で『もう一方』へと狙いを定め、出しうる全力で駆ける。

 

(煌式武装をオーバーフローさせたのか……!)

 

密度の濃い煙に光を遮られ、黒服の男はその原因を察して舌を打つ。

手持ちの武器を態々暴発させるなど、正気の沙汰ではない。

影が能力を行使出来ないほどに薄らぐが、ならばと懐から短刀を取り出し、現れた綺凛へと即座に振るう。

 

「っ……!」

 

(予測より速い……!)

 

不意を討ったはずの一撃はギリギリの所で反応され、鞘に受け流される。

男は急ぎ追撃をしようとしたが──。

 

「余所見はいけないよ──!」

 

煙の中を突き抜けて現れた綾斗がそれを許さない。

 

「ちッ」

 

咄嗟に短刀を振るおうとするも、腕ごと掴まれてそのままフローラから押し離される。

ギリギリと押し合いながら、男は綾斗に対する評価を変える。

得意の能力も使えず、得物すら捨て、それでもなお敵に突貫するこの男は……狂人と言う他ない。

 

「刀藤さん!!」

 

「大丈夫です!フローラさんは無事です!」

 

「了解……!」

 

綺凛の安堵が混じった声を聞いて、綾斗はふと笑った。

男の膝蹴りをかわすようにして一度距離を取ると、煙もまた薄らいでいった。

綺凛はフローラを抱えて既に入り口のドアの向こうに。

そして男とドアを遮るように綾斗が立つ形となった。

 

「さて……どうする?」

 

「知れたことを。お前達を排除し、娘を取り戻す」

 

淡々と答えて男が軽く腕を振ると、袖口から刃がスルリと現れた。

光を反射しないよう特殊な塗料の塗られた暗剣。

……そう、煌式武装では無い。完全な実体剣だ。

明確な殺意を以てそれを構える男に相対しながら、それでも綾斗は飄々とした態度を崩さない。

 

「…………」

 

ただ無言で構え、五感を研ぎ澄まし、空間の全てを感じ取る。

綾斗にとってここで拘束術式を完全に解放するのは避けたい。

さりとて、無手かつ解放無しに勝てる相手でもないだろうことは先の攻防で既に理解している。

ではどうするべきか。

 

(……一瞬の間隙に、出せる最大限の力を叩き込む)

 

為すべき事を定め、男を睨む。

その一挙手一投足を見逃さない為に。

 

「ふっ……!」

 

「!!」

 

唐突に、端から見れば何の予備動作もなく男が今まで手に持っていた短剣を綾斗に投げつける。

心臓を狙ったコース。

同時に綾斗の背後と側面から無数の影の刺が発生する。

当たるタイミングは同時の、ブラフなど存在し得ない全てが致命の、暗殺者らしい一撃。

そんな『詰み』の状況に、綾斗が出した答えは。

 

「行くよ……!」

 

全速前進だった。

そして迫る短剣を『握り止める』とそのまま『投げ返した』。

 

「ッ!?」

 

避けるとは予測していたものの、まさかあの速度を投げ返してくるとは予想だにしていなかった男はキラーパスされた短剣を弾きながら綾斗へ接近しようとする、が。

 

「何……?」

 

短剣を弾いた先に綾斗の姿は無く、かわりに自分へと向かってくる物が見えた。

それは部屋に転がっていた廃材だった。

 

「目眩ましのつもりか」

 

無感情に言い放ち影を使って廃材を砕く。

そこで今度は上から音がした。

 

「そこか」

 

そちらを見向きもせず、足元から発生させた刺で突き刺す。

 

「ぐ、ぁ……!」

 

くぐもった悲鳴が上がりぽたりと血の滴が男の足元に落ち──。

 

 

 

 

「なんてね」

 

直後、男の頭蓋に踵落としが炸裂した。

 

「がっ……!?」

 

突然の衝撃に視界がぐらつき、思考は一時的な混乱をきたす。

だが、そんな隙を綾斗がみすみす見逃すはずも無かった。

 

「シッ!」

 

掌底で顎を打ち上げ、流れるままに肘で胸を打ち、そして最後に左手で鳩尾に星辰力を最大に纏った拳を叩き込む。

これ即ち、天霧辰明流組討が一つ。

 

「壬雷(みかづち)」

 

「か、は……っ」

 

人体の急所を連続して強打され、骨の砕ける音を内から聞きながら男の意識が遠のく。

その最中、男は見た。

直前、自分が貫いた物を。

それは……廃材を纏めたブルーシートだった。

 

(…………無様)

 

最後にそう鼻で笑って、男は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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