けんぷファー With ~AGITΩ~   作:navaho

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第四話

 

 

セイテツ学園に近づくたびにナツルの脳裏に”過去の嫌な思い出たち”が叫びだしていた。

 

”おい、あの女男がきたぞ!!!”

 

”男女だろ?で、どっちなんだ?”

 

”なんていうか、男のくせに、胸があるの?”

 

”女のくせに、あれがあるの間違いじゃないの?”

 

”親にも捨てられたらしいぜ”

 

”うわ~~、だから、気持ち悪いのかな?”

 

”男でも女でもないって…キモいかもね”

 

中心にいるのは、顔をうつむかせ、自分の最近になって膨らみかけた胸を抑えた少年とも少女ともつかない容姿をした自分。

 

それが嫌で、あの”学校”から逃げ出した。

 

男、女、どちらにも居場所のない自分は、そこが耐えられなかった。ただ、怖かった。そこに居る同じ年代の少年、少女たちが……

 

”男女!!!”

 

”キモい!!!”

 

”死ねよ”

 

”ブス!!!”

 

ありとあらゆる罵言が落書きされた机、散乱した教科書と持ちモノ。そして、薄汚い床のタイルに無様に転がる自分。

 

”おい!!こいつ、胸があるぞ!!!女か?”

 

”いや、男みたいだ。こっちには、俺らと同じのが…”

 

自分よりも大柄な少年たちが自分の衣服に手を掛け、脱がしていく。

 

”やめてくれよ!!!!!!!!!!!”

 

声のあらん限り、叫んだ。

 

ナツルの記憶の中に居る”過去の自分”がそこへ行くのを拒絶する。

 

「………嫌なこと、思い出しちゃったな…」

 

バイクを止め、ナツルはセイテツ学園の前に立った。自分があの場所に居たのはたったの一年と半ほど……それから、家を一人だけで飛び出した。

 

そして、自分は翔一さん達と出会い、この先に居るであろう三嶋紅音にも出会ったのだ。

 

「ここは、頑張って行ってみよう。真魚ねえがいうみたいに、初めから怖がってちゃいけないんだから…」

 

学園へ踏み出す一歩が、僅かに震える。やはり自分は、潜在的に怯えている。”学校”という場所に……どこにも居場所がなかったあの場所が怖い。

 

すぐ傍まで近づいているのに、いやに遠くに感じる。だけど、一歩を踏み出さなければならない。

 

あの娘と会うためには……

 

「忘れ物を届けなくちゃ、いけない。紅音ちゃんにとって、これは必要なものだから…」

 

ナツルは、さらに一歩を踏み出して、セイテツ学園へ近づいて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セイテツ学園の前にたどり着いたナツルは、バイクを来客用の駐車場まで押していき、校舎へと向かう。

 

(……この学校って、どうしてこうもガードマンが多いんだろうか?あ、あの壁、鉄条網があるっ!?)

 

よくわからないが、色々と変わった学校だなと思うナツルだった。部外者なのであまりうろうろするわけにもいかないため、道を尋ねるべく近くに居た三人の女子高生に話を伺うことにする。

 

「ねえ、ちょっと道を教えてほしいんだけど」

 

聞きなれない声に対して三人の女子高生が振り返った。一人は、いかにも真面目そうな雰囲気の眼鏡をかけている娘。

 

「あら、見かけない顔。もしかして、私たちと同じ年齢の方ですか?」

 

眼鏡を上げながらナツルを見る。この反応に対して、ナツルは

 

「うん。今年で17だよ」

 

正直に肯定する。横から、片方の目を髪で隠したどことなくのんびりとした雰囲気を持った女子高生が興味津津といった雰囲気でナツルに顔を近づけてきた

 

「うわぁ~~~~。お姉さん、良いにおい~~~」

 

くんくん鼻を鳴らしながら、すり寄ってくる女子高生に対して、ナツルは

 

(なんだろう。この娘?オレ、そんなににおうかな?)

 

朝夕とシャワーは浴びているから、汗臭くはないのだがと思いつつも三人目の女子高生が

 

「あなたは、神を信じますか?でしたら、このつぼをお売りしましょう。いまなら…」

 

いかにも数字ができますと言った感じの顔立ちの子で、片手には電卓が握られており”パチパチ”と打ちながら、数字をナツルに見せる。

 

(いかにも、お金が好きって子だな……はっ、いかんいかん、流されては)

 

三人の雰囲気に流されそうになった自分を戒めつつ、ナツルは自身の目的を果たすことにした。

 

「あの、ちょっと人を探しているんだけど、三嶋紅音ちゃんって子は、どこに居るのかな?」

 

「三嶋さんですか?私たちのクラスに三嶋紅音という生徒はいますが……」

 

「うん。眼鏡をかけたシャイな子で図書委員をしているんだけど、今、大丈夫かな?」

 

ナツルは眼鏡をかけているいかにも真面目そうな女子高生に対して、そう応えた。探している人の特徴で確認しているようだ。

 

「ええ、今は少し長めの休み時間ですから、大丈夫ですよ。図書館の方で委員の当番をしていると思いますから、この女子校舎と向こうの男子校舎を隔てる壁の真ん中にありますのでそこを当たってみるといいですよ」

 

指をさして図書館の位置をナツルに伝える。

 

「そう。ありがとう」

 

笑顔で三人に頭を下げた後、言われた通り、ナツルは女子校舎と男子校舎を隔てる壁の真ん中にある図書館にむかって足を進めた。

 

ナツルの後ろ姿を三人は

 

「あの人、三嶋紅音さんの知り合い?すごい美人ですね」

 

「そうみたいですね。いいお金になりそうです……」

 

「う~~ん。三嶋さんも隅に置けないのだ~~~」

 

後であの女の人との関係を問い詰めてやろうと思う三人娘であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校舎を歩くナツルは、あちこちからくる視線に対して若干、居心地の悪さを覚えていた。

 

(なんでかな……妙に視線を感じるんだけど……そんなに部外者が珍しいかな?)

 

校舎の廊下の隅の方を歩いて、なるだけ目立たないように歩いているナツルであったが、行く先々にいる生徒たちに注目されていることに居心地の悪さを覚えていた。

 

みない顔が学校に紛れ込んでいるのがそんなに珍しいのだろうか?やっぱり、自分のような気持ちの悪い人間は、ここに来るべきではなかったのだろうか?

 

ナツル自身は、わからないが、ナツル自身の容姿が大きな原因である。なぜなら、ナツルは両性具有ではあるが、その容姿はトップモデルを思わせるほどの美貌を誇っており、見た目十人中十人が振り返る美女であるからだ。

 

ひそひそと話しているのも気になって仕方ない。ナツル自身かなりネガティブな人間なので、自分のことを悪く言っているのではと思っていた。実際は、その逆なのだが……

 

(早く、紅音ちゃんにこれを渡して早く、家の方に戻ろう)

 

なるだけ、周りを気にしないように足早で図書館に足を進めていく。足早に移動するナツルとすれ違うように一人の女生徒がすれ違った。

 

”キィィィィン”

 

「っ?」

 

「?」

 

二人の脳裏に奇妙な感覚が走った。ナツルは、周りの視線が気になっていたためにその感覚に気が付くことなく歩いて行くが、感覚に気が付いた女生徒は図書館へ向かうナツルの方へと振り返る。

 

「………何かあるわね」

 

女生徒 三郷雫は右の袖に隠していた赤い腕輪が僅かに光るのを確認して、少し遅れるようにしてナツルの後に続いた。まるで、ナツル自身を観察するように………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ナツルさん!!!!」

 

ドアを開けて出てきた意外な人物に対して、三嶋紅音は思わず声をあげていた。

 

図書館へやってきたナツルは、すぐに目的の人物を見つけ出すこと事が出来た。図書館は、かなり広く大学のそれと同じぐらいの規模を誇っている。

 

最初、探すのに骨が折れそうと思っていたのだが、紅音は受付のところに腰を駆けていたのですぐに発見できたのだ。

 

「紅音ちゃん。忘れものだよ」

 

そう言って手に持っていたバックを紅音に見せた。

 

「えっ!!?態態届けてくれたんですか!!?!」

 

学校に着いてから忘れたことに気が付いたスポーツバックが何とナツルの手にあったのだ。これに対して、紅音は嬉しそうに顔をほころばせる。

 

「うん。今日持ってたから、必要だったんでしょ。だから、持ってきた方がいいかなって」

 

ナツルの言葉に紅音は嬉しそうにスポーツバックを受け取り、頭を下げた。

 

「いいよ、別にそんなことをしなくても……」

 

お礼を言われるようなことはしてないから…と言いたそうなナツルだった。

 

「ったくよ~~。こういうときはもっと胸を張ればいいんだぜ。このくそやろー」

 

頭を上げたと同時に紅音は、けんぷファーの状態に変わっていた。口調は悪いが、元の紅音を思わせる穏やかな笑みを浮かべていたが、すぐに表情を引き締めた。

 

「紅音ちゃん。どうして、変身を?」

 

「ったく、言ったなかったか。あたしらが変身するのは、近くに”敵”がいる時ってよ…」

 

「近くに”敵”?」

 

紅音の言葉にナツルは、アンノウンの姿を脳裏に浮かべた。

 

「おい、ナツル。まさかと思うが、あの虎みたいな怪人じゃねえぞ。あたしが戦うのは、”赤のけんぷファー”だ」

 

”第一、あんなのとまともに戦えるか”という苦々しい表情でナツルが思っていたことを当てた。

 

「紅音ちゃんって、もしかして、エスパー?」

 

「お前、今、あたしが変身した状況がわかってんのか?頭の中、ベビースターが大量に詰まっているだけだったら、これで吹っ飛ばすぞ」

 

初めてであった時のように拳銃をナツルに苛立ちながら、紅音は付きたてた。

 

「ちょっとまって、ということは…今」

 

突き付けられた銃に対して、若干引きながらナツルは背後の図書館の扉を突き破って、何かが一直線に向かってくるのを感じた。

 

「紅音ちゃん!!!!!!」

 

一直線に向かってきたのは鎖が付いた短剣であった。それから紅音を護るようにナツルは彼女を押し倒すように床に伏せた。

 

押し倒された紅音の視界は、まっすぐに伸びる鎖が写り込んでいた。

 

「おいっ!!!いつまで、乗っかってんだ!!!!!行くぞ!!!!!!!」

 

「あ、ごめん」

 

紅音の体の上に乗ってしまったナツルを押し戻すように、立ち上がり鎖が飛んできた方向に銃を向けるものの

 

「ちっ!?!!どこ行きやがった!!!!」

 

すでに襲撃者の姿はなかった。すぐに探すものの、ナツルは僅かながら空気を裂くような音を聞いた。

 

「紅音ちゃん!!!!!上から何か来る!!!!!」

 

ハッと視線を真上に向けるとそこには、先ほどのものと同じ鎖で繋がれた剣が向かってきている。

 

「なんだってっ!!?!」

 

ナツルの声に応えるように真上に視線を向けると、剣が切っ先を光らせて向かってきている。

 

向かってくる剣を避け、紅音とナツルは近くの本棚に身を隠すように駆けこんだ。

 

「もしかして、紅音ちゃん。狙われてるの?」

 

「馬鹿か!!!けんぷファーは、けんぷファー同士で戦うんだよ!!!!!ナツルみたいなアギトや、この間の怪人は例外だ!!!!」

 

すっとボケたナツルの言葉に紅音は、怒声を浴びせた。

 

「だから、わかんねえんだよ。なんで、アギトやあの訳のわからない怪人がでてきたのか?」

 

かつて、メッセンジャーから聞かされた話とは大きく違ってきた事態に対して紅音は考え込むようにつぶやいた。紅音の言葉にナツルは

 

「多分、アンノウンは、けんぷファーそのものを”消す”ためじゃないかな?」

 

「はぁっ?どういうことだ、アンノウンって、あの怪人のことか?」

 

「うん。あいつらは、よくわからないけど、オレらよりもずっと昔からいた”神様”に使える”天使”達で、人間を護っていたんだって」

 

これは、昨晩、津上翔一から聞いた話だ。あのアンノウンについて聞いたところ、今もって、よくわからないところがあるらしい。ただわかっているのは、自分達の想像をはるかに超える存在であるということ。

 

「神様?天使?じゃあ”エバラカルビオン”に出てくる”使徒”と同じか?」

 

「エバは、見たことないから知らないけど、そっちのイメージで良いと思う」

 

「ますますわけがわからねえ。じゃあ、人間を護っているってどういうことだ?」

 

「あいつらは、昔、アギトになる人間を襲っていた。人間を護るために……」

 

ナツルは一呼吸入れて

 

「アギトが人間にとって大きな脅威になって、争いが起こるのを防ぐためにだって」

 

「人間を護るためって?じゃあ、けんぷファーが人間にとって、悪い存在だっていうのかよ!!!?!!」

 

「わからない。ただ、あいつらは単純な存在じゃないことだけは、確かなんだ……」

 

敵の襲撃の最中にナツルからの言葉に対し、今まで、何も分からずにけんぷファーとなっていた自分自身が揺らぐものを紅音は感じていた。

 

「面白い話ね…もっと、聞かせてもらえないかしら?」

 

頭上の声とともに、再び鎖付きの剣が襲ってきた。今度は、ナツルと紅音の間に割って入るように近くのスチール製の本棚に傷を付け、衝撃が走る。

 

「このくそ野郎っ!!!!!!」

 

紅音は頭上に銃を発砲する。だが、相手の姿は見えずに鎖だけが再び手繰り寄せられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

鎖を手繰り寄せた襲撃者”赤のけんぷファー”は、視線をナツルに向ける。長い袖口に隠れた赤い腕輪を僅かに見せながら……

 

「”誓約の腕輪”は、ないから。けんぷファーじゃない。だけど、モデレーターには、何らかの関わりを持っている」

 

艶のある形のよい唇をゆがませて、手元にある剣に力を込め、

 

「あの女。何か知っているわ…あの”青のお犬さん”は邪魔だから…」

 

ナツルから紅音に視線を変えて、彼女に向かって剣を放つ。放たれた剣は、紅音の胸元に向けられる。銃で落とそうと発砲するモノの相手の勢いが強すぎるために弾かれ、一直線に向かっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ない!!!!!!!」

 

ナツルは、押し倒すように紅音をかばう。

 

「おいっ!!何度も押し倒すな!!!くそ、赤の野郎!!!!!隠れてないで、出て来いよ!!!!!!」

 

ナツルを再び押しのけ、立ち上がる紅音。先ほど居た場所にある本棚は大きく崩れ、大量の書籍が音を立てて散乱していく。

 

(視界が悪すぎる。こういう場合って…)

 

ナツルも巻き添えを食わないように紅音と同じように行動していた。相手は、紅音だけを執拗に狙うようにしている。

 

ナツルは何とかして対抗しなければと思うのだが、方法としては、”アギト”への変身しかないだろう。

 

だが、”アギト”への変身をナツルはためらっていた。あの時は、自分の身の安全と紅音を助けるためにどうしても仕方がなかった。

 

しかも場所が場所だけに、変身すれば、騒ぎが起きてしまう。学校でアギトが現れ、人に見られたら……それだけでもナツルは恐ろしく思っていた。

 

再び攻撃により、本棚が切り裂かれる。大きく音を立てて崩れ落ちる本棚の向こう側に人影が見えた。

 

そこには、茶色い髪を腰まで伸ばした少女が怯え、困惑した表情で佇んでいた。

 

「あ……あの…これは…どういう……」

 

(あの娘は?確か……)

 

ナツルは、昨日紅音と初めて会った通りで声をかけられた少女だったことを思い出した。

 

「てめぇの仕業かっ!!!!!!」

 

すぐそばに居た紅音は、少女に銃を向けていた。

 

「紅音ちゃん!!!!!!違う!!!!!!その子じゃない!!!!!!!!!!」

 

ナツルが急いで、紅音の発砲を止めようと走る。だが、それよりも早く、鎖の付いた剣が追い越し、紅音の持っている銃の銃身を切り裂いたのだった。

 

まるで、少女を護るかのように……

 

(護った?だったら、どうして………)

 

「あ………」

 

状況についていけないのか、少女こと 佐倉楓はそのまま目を回して気絶してしまった。

 

「くそっ!!!!これじゃ、使い物にならねえ!!!!」

 

紅音は悪態をついて、銃を床に叩きつけた。だが、無防備となった紅音を見逃すほど敵は甘くはなかった。

 

勢いよく放たれた剣の追撃に対し、ナツルが紅音の正面に立ち、鎖に手を伸ばす。

 

摩擦熱により、腕に激痛と裂傷が走る。何とかして、それを素手でつかみ鎖の向こうに居る相手に対して強い姿勢を向けた

 

「どうしてだよっ!!!!アンタ、その子の友達なんだろっ!!!!!だったら、どうして、こんな戦いをしているんだよっ!!!!」

 

声をあげて、ナツルは敵のけんぷファーに叫ぶ。その叫びに同調するように、腹部にアギトの力の象徴”龍の目”を抱いたベルト オルタリングが出現する。

 

「変身ッ!!!!!!」

 

掛け声とともに”龍の目”から光が広がり、ナツルの姿をアギトへと変える。

 

(何あれっ!!!?!!!)

 

赤のけんぷファーは、今までにみたことのないアギトの存在に驚愕していた。動揺が大きく現れたのか、放たれた剣に込められた力が緩んでいた。

 

「フンッ!!!!!」

 

アギトは、鎖の先に居るけんぷファーを引きずり出そうと鎖に掛けた手に力を込め、思いっきり引く。

 

「!!!?!!!!」

 

すさまじい力に対して、赤のけんぷファーは足もとがよろめくのを感じた。単純な力比べでは、あの存在には勝てない。

 

「………悔しいけど、ここは引くしかないのかしら?」

 

赤のけんぷファーは、悔しそうに口元を歪め、鎖から手を放した。それと同時に武器である剣が消滅する。

 

引き際は肝心。それを心得ているのか、すぐに背後を振り返ろうとした時、それは突然現れた。

 

「KEMPFER」

 

赤のけんぷファーの目に映ったのは、まるで壁の中から抜け出すように光の中から凶暴な獣の眼光を光らせた半神半獣の異形であった。

 

ジャガーロード……

 

青いマフラーを靡かせ、ゆっくりと赤のけんぷファーの前に降り立つ。

 

「KEMPFER」

 

続いて、白いマフラーをなびかせたジャガーロードが並び立つ。古代の神話に登場する半神半獣の使徒達に対して、赤のけんぷファーは…

 

「これは、一体?どういうこと……」

 

感情を落ち着かせて、目の前に存在する異形に対して、今朝 自分のメッセンジャーが言っていたことを思い出した。

 

”そういえば、雫様。最近、けんぷファーに因縁をつける物騒な存在が現れたそうです。まあ、雫様の敵ではないので、心配はないですね。おーほほほほほほほほほほほほ”

 

「・・・・・・・・・これが、そうなのかしら?」

 

目の前に立つ半神半獣の異形に対して、赤のけんぷファー 三郷雫は鎖の付いた二本の剣を出現させ、それらを構えた。

 

それに呼応するように二体のジャガーロードは、頭上より光の輪を出現させ、両刃の一振りの剣を出現させ、その切っ先を三郷雫に向けた。

 

「……只の獣じゃないみたいね…」

 

ジャガーロードの背には、一対の翼があった。それは、太古から人々が夢見た神々の使いの証………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンノウン ジャガーロードの出現をアギトは察知していた。

 

「この感覚は……アンノウン」

 

昨夜感じた慣れない感覚が再び身体に走った。すぐ近くに現れたのを…

 

「紅音ちゃん。すぐにここから離れて」

 

「なんだ?一体、どうしたって……まさかっ!!?!」

 

アギトの言葉に対し、紅音は疑問の声を第一声に上げたが、すぐに脳裏に浮かんだある存在のイメージを口走った。

 

「うん……アンノウンが、あいつらが現れたんだ」

 

「おいっ!!?!またか!!!!」

 

あのとんでもない奴らが現れたことに対して、紅音は声を上げた。けんぷファーの力がまるで通じない相手だ。声を上げない方がどうかしている。

 

「でも、どこに居るんだ?」

 

紅音は、身構えてあたりを伺うが、どこにもそれらしい怪しいものはいない。だが、すぐにその疑問は吹き飛んだ。

 

ドガッ!!!!!!!!!

 

二階の奥の本棚の付近で大きな音がこだました。目を凝らして見ると先ほど、自分たちを襲っていた鎖のついた剣が見える。

 

「あそこかよ!!!って、襲われているのは……」

 

襲撃を受けているのは、自分とナツルを襲ってきた赤のけんぷファーに間違いないだろう。

 

「襲われているのは、あのクソ野郎かよ。いい気味だ…さっさと行くぜ…」

 

敵が倒されるのなら、それはそれで手間が省けていいと思ったのか、紅音はアギトに笑いながら声をかける。だが、アギトは何も応えない。

 

「おい、聞こえてねえのか?早く、ここからつらかるぞ」

 

アギトの手を取るがすぐに解けてしまった、振り払うようにアギトは紅音を背にして駈け出し、驚異的な脚力で二階まで上がっていた。

 

「おいっ!!!!そいつは、あたし達を襲った奴だぞ!!!!」

 

背後で聞こえてくる紅音の声を耳にしながら、アギトは出現したアンノウンのところへ向かって行く。

 

(……ごめん、紅音ちゃん。紅音ちゃんは、けんぷファー。互いに戦わなくちゃいけないのは、よくわかる。だけど、オレは、襲ってきた奴が”悪い奴”には、思えない)

 

ナツルの脳裏に、茶髪の少女に銃を向けた紅音を護るように剣を放った光景が浮かんだ。あれは敵を倒すよりも”友達”を助けたように思えたのだ。

 

自分の勝手な思い込みかもしれないが、紅音を倒すよりも助けるのを優先したと思う。だからこそ、放ってはおけなかった。

 

見捨てたら、自分は”本当の意味で自分自身を拒絶する”

 

(もしかしたら、オレ……調子に乗っているかな?誰かを助けたいなんて、オレらしくないのに……)

 

自分が嫌いで他人に怯えて生きている自分が、大嫌いなアギトの力を誰かのために使うなんて…自分らしくない………

 

だけど、今は、それでイイ。そうでないとオレは、今、襲われているあの子を見捨ててしまうから…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつ……なんで、敵を助けに行くんだよ!!!!!」

 

紅音は、自分たちを襲ってきた相手に情けをかけるような行動を取るアギトに対して苛立った声を上げた。

 

「あたしは、行かないからな!!!!敵を助けるなんて…まっぴらごめんだ」

 

そう言いながら、アギトが行った方向に背を向けようとしたのだが、自分の手に視線を向けると、べったりとした血が付いていた。

 

「そういえば……ナツルの奴。あれを生身でつかんだんだっけ……」

 

勢いよく放たれた剣の鎖に割り込むように素手でつかんだ光景が紅音の脳裏に浮かぶ。そうだ、自分を助けるためにナツルは、アギトに変身せずに生身の体でつかんだのだ。

 

「ったく、しょうがねえな!!!!これっきりにしてくれよ!!!!!!」

 

紅音は手元に拳銃を出現させて、アギトの後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅音の背後で倒れていた佐倉楓に僅かながら変化が起きる。頬が歪む。

 

「……それでいいんですけど、もう少し距離を置いてくれないと予定が狂っちゃうわ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

三郷雫は、突如現れたアンノウン ジャガーロードに対して攻撃を開始していた。近づいてきたジャガーロードの斬撃をいなしながらも切りつけるが、相手の反応の速さはすさまじく、隙を全く与えない。

 

二本の剣を駆使しながら、距離を置くべく一旦、後方へと下がり剣を持つ右手を大きく振りかぶって、勢いを付けて放つ。

 

放たれた剣に対して、ジャガーロードは特に行動を起こすこともなく、二体の内の青いマフラーを靡かせた個体が手を正面にかざした。

 

「MUUUUN」

 

勢いよく放たれた剣は、ジャガーロードの正面でぴったりと止まった。まるで時間が静止したように……

 

「っ!?!何、あの力は!!!」

 

続いて、もう一体のジャガーロードが三郷雫めがけて駈け出して行く。巨体からは想像ができない俊敏な動きで彼女に近づき、剣を振り下ろす。

 

「くっ!!?!!」

 

もう片方の剣でこれを防ぐが、単純な力では、ジャガーロードが圧倒的に勝っていた。

 

「MUN!!!」

 

もう一体のジャガーロードが三郷雫の背後に回り込み、刃を持て無防備な背中を狙って切っ先を突き立てる。

 

「っ!!?!!」

 

背後に視線をやり、正面から迫っているジャガーロードを警戒しつつ雫は、ケンプファーの持てる限りの力を使って、一か八かの戦法に出た。

 

思い切って、正面のジャガーロードに突っ込む。

 

「MUUUNNNッ!!!!!!」

 

突っ込んできた雫に対して、ジャガーロードは剣を彼女の脳天を割るかのごとく振り下ろすが、寸前のところで、雫は回避した。

 

刹那の瞬間だった。一瞬の出来事であるが、冷静沈着な思考が相手の攻撃の軌道を読み、反撃の機会をつかむ方法を編み出す。

 

床に刺さるほどの鋭い斬撃により刃が食い込む。その動作によりジャガーロードに大きな隙が生じていた。

 

雫はジャガーロードの背に回ると同時にその逞しい首に鎖を巻きつけ、勢いよく後方へ駈け出し柱に巻き付け、ジャガーロードの首を締めあげるように鎖に力を込める。

 

「GUッGUOOOッ!!!」

 

さすがのジャガーロードの急所だったのか、首を絞められ、苦しむように首元の鎖に手を伸ばした。だが、もう一体のジャガーロードが弓矢を出現させ、三郷雫の手元に向かってそれを放った。

 

一本だけではなく、連続で二本、三本、四本と、まるでマシンガンのように立て続けに放ち始めたのだ。

 

「っ!!?!!!しまった!!!!」

 

放たれた矢を回避する。だが、手元を緩めるつもりなどなく、このままジャガーロードを締め上げるまでは絶対に放すつまりなどなかったが……

 

正確無比な矢を立て続けに回避することは難しく、彼女の手元にあった鎖は放たれた矢のうちの一本により打ち破られた。

 

鎖より解放されたジャガーロードは、首元にまきついていた鎖を床に放ち、床に刺さっていた剣を引き抜き、雫に視線を向けた。

 

「KEMPFER」

 

一体だけなら、何とかなったかもしれなかったかもしれないが、さすがに数がそろうと厄介なことこの上ない。雫はそう思った。

 

覚悟を決め、二体を相手にするために刃を握る。だが、ここでジャガーロードたちは、突如、雫に背を向けた。

 

タッ!!!!!!

 

「なに?アレは!!!!!!」

 

雫は、ジャガーロードの背中越しに彼らと対峙するアギトの姿を見た。

 

「AGITΩ!!!!!」

 

「AGITΩ!!!!!」

 

二体のジャガーロードは現れたアギトに対して駈け出し、刃を一斉に振う。アギトは二体のジャガーロードの斬撃を交わし、彼らの胴、首にカウンターを当てる。

 

アギトのカウンターにより、刃を落とし肘をつくジャガーロードたちに対し、アギトは容赦なく彼らに蹴りを加える。

 

「GUOッ!?!」

 

「GUOッ!!!!」

 

二体のジャガーロードはそれぞれの本棚に叩きつけられるように吹き飛ばされた。

 

「…強い……アギトって言ったわね」

 

雫は、自分が出て行っても戦いの邪魔でしかないと判断したのか、近くの本棚の影に隠れた。自分は、あのアギトを襲った。だからこそ、姿を見せるわけにはいかないのだ。

 

「ナツルって、本当にすげえな…あのアギトって……、めちゃくちゃ強いじゃねえかよ」

 

一体だけでも手も足も出ないアンノウンを二体同時に相手にできる高い戦闘能力。紅音は、アギトによって伏せられた二体のアンノウンに対してそんな感想を抱いた。

 

「まあ。あたしもやられっぱなしは、性に合わないからな」

 

「GUUUUッ…AGITΩ!!!!!」

 

アギトに対し、青いマフラーをしたジャガーロードが剣を拾って切りかかった。剣を交わしつつアギトは、ベルトの右のボタンに手を伸ばす。

 

その瞬間、”龍の目”から刀が飛びだし、それと同時にジャガーロードの腹部に再び強烈な蹴りがカウンターとして加えられた。

 

「GUOOOOOOッ!!!!!!」

 

腹部に加えられた蹴りの威力がすさまじかったのか、ジャガーロードは本棚をなぎ倒すようにあおむけに倒れる。それと同時に飛びだした刀を受け取ったアギトの体に変化が起こる。

 

右腕に鎧のような赤い甲冑が装着され、ボディーが赤く変化した。

 

超越精神の赤 アギト フレイムフォーム

 

「………姿が変わった?」

 

赤い腕輪とフレイムフォーム 超越精神の赤にチェンジしたアギトと自身の赤い誓約の腕輪に対して、雫は交互に視線を向ける。

 

「今度は、赤に変わったっ!?!!ったく、お前はどっちの味方だ!!?!!」

 

紅音は赤に変わったアギトに対して、声を上げた。自分を助けた時は、青に変化して今度は、赤に変化したのだ。驚かない方がびっくりである。

 

あおむけになったジャガーロードは何とか、立ち上がろうとするモノのダメージが大きいのか、すぐに立ち上がれずに、また倒れ込んでしまった。

 

「しかたねえ……勝手に飛び出したあたしが文句をいってもな」

 

紅音は、あおむけになったジャガーロードを見据えるアギトに殴りかかろうとするもう一体のジャガーロードに視線を向け、発砲する。

 

「おい、お前の相手はあたしだ。無視すんな……」

 

発砲された銃弾に対し、ジャガーロードは目を妖しく輝かせて、それを寸前のところで止めた。

 

「MUNッ!!!!」

 

目に気合が込められ、銃弾が一瞬にして砂となって消えた。

 

「ああっ!?!!ハンドパワーかよッ!!?!!!」

 

昨夜の戦いでは、肉体的なタフな強さを見せつけらたが、それ以外にも驚異的な能力が備わっているらしい。

 

「このくそ天使!!!!ATFなんか、張ってみろ!!!!!著作権で訴えてやるからな!!!!!」

 

自分の武器はこれしかない。だからこそ、攻撃の手を緩めるわけにはいかない。続けて発砲を行うもののジャガーロードは白い煙を吹きながら、紅音のもとに近づいてくる。

 

ジャガーロードは紅音につかみかかるような態勢で拳を振るう。これに関しては紅音でも見切れる。

 

(あたったら、一発であの世いきだ…)

 

冷や汗をかきつつ、迫ってきたジャガーロードから距離を置くべく後方へ下がりつつ発砲する。

 

「MUUUUN……」

 

接近戦を避ける紅音に対して、ジャガーロードは頭上に光の輪を出現させてそこから弓矢を取り出し、それで紅音を攻撃する。

 

「ちぃっ!!!」

 

放たれた弓矢は、紅音の腕を掠め、制服を裂き、あらわになった細うでに一本の傷が走る。放たれた矢は、紅音の後方にある本棚に勢いよく刺さった。

 

(こいつに、でっかいのをぶつけてやる!!!!!)

 

紅音は、腕輪に力を込め自身の武器に最大の”力”を送る。これで倒せるとは思えないが、それなりの効果はあると思う。

 

「喰らえっ!!!!!くそ天使!!!!!!!!!!」

 

「MUUUN!!!!!!」

 

紅音は拳銃に込めた”最大の力”をジャガーロードめがけて放つ。ジャガーロードもまた、対抗するように矢を放った。

 

紅音が放った”力”はジャガーロードの頭部に当たり、巨大な爆発と炎を上げた。紅音の方は、力を込めたために回避行動が遅れたが、致命傷を避けるぐらいの行動を寸前で行ったのだった。

 

放たれた矢は紅音の額に向けられていたが、無理に体をひねって転ぶような形で行動を起こした故、無事だった。

 

「いって……」

 

床に受け身を取れずにぶつかったがために痛みが走る。一方、ジャガーロードの方も無傷とは言い難く、僅かに顔の左半身が大きく焼けただれているモノのすぐに回復し始めた。

 

一方、フレイムフォームにチェンジしたアギトに向かって、剣をふるうジャガーロードの姿があった。その剣を刀で振り払うように切りかえして弾く。弾いた瞬間に、アギトは拳を無防備となった胸部に当てる。

 

胸部に拳を与えられ、地に膝をくして倒れるジャガーロード。アギトは、刃に手を当て、血糊を拭くかのように刃に指を滑らせた。

 

すぐに態勢を立て直し、ジャガーロードは剣を振うが、金属音を立ててアギトの刀に弾かれ、すり抜けるようにアギトは刃をジャガーロードの体に振う。

 

胸部、腹、と急所に連続して切り込み、そのまま背後に抜けた。

 

アギトの刃によって切られたダメージが容赦なくジャガーロードの体を熱くさせ、その頭部に光の輪を出現させ、力尽きたように手から刃を落とし、

 

「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!!!!!!!!」

 

断末魔の声をあげて、ジャガーロードは爆発した。図書館の一角で爆発が起こった。

 

その爆発に、紅音と対峙していたジャガーロードが反応する。だが、その反応はあまりにも遅すぎた。なぜならアギトがすでに紅音の正面に立ち、行動を起こしていたのだから。

 

「フンッ!!!!!」

 

アギトによって頬に熱い衝撃を受けたジャガーロードはひるむもののアギトへの反撃を行う。だが、アギトによってさらに強力な拳による一撃により後方へと吹き飛ぶ。

 

地に足をつきながら、強力な力に下がらざる負えないジャガーロードを見据えながら、アギトはフレイムフォームを解き、通常の形態に戻り、頭部のクロスホーンを二本から六本に展開させたと同時に足もとに龍の紋章が現れる。

 

「ハアッ!!!!!!!!」

 

構えを取った後に大きく飛翔し、ジャガーロードに蹴りを繰り出す。ジャガーロードは、一矢を報いたいのか蹴りを繰り出すアギトに向かって駈け出した。

 

「GUU……GUWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

アギトに対抗しようとするモノの

 

「ハアッ!!!!!!!!!!!!」

 

一瞬にしてアギトの速度あがり、鋭い矢のような一撃がジャガーロードの胸部に繰り出された。強烈な蹴りによりジャガーロードは吹き飛び、後方の壁に叩きつけられたと同時に床にうつぶせになるように倒れた。

 

「GUU…AAAAAA!!!!AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!]

 

立ち上がろうとした時に頭の上に光の輪が現れ、もがくようにして苦しんだ後、天に手を伸ばすような形で爆発四散した。

 

紅音は、アギトのすさまじい戦いぶりに目を丸くしていた。

 

「すげえ……本当に何者なんだ?ナツル……」

 

彼女に応えるようにアギトが紅音に向かい合うように体を向ける。それは物陰で戦いを見ていた雫もまた同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの力、厄介ね。青のけんぷファー?赤のけんぷファー?いえ、違うわ。一体、どういう存在なの?アギトって……」

 

青のけんぷファーと一緒に居ることから、青の仲間の可能性もあるが、体の色を赤に変えて戦うこともできるので、赤の味方の可能性も否定できない。

 

「………話をしてみないと、わからないわね」

 

雫が一歩踏み出そうとした時、紅音の背後に佐倉楓が姿を現した。その目は、異形であるアギトに対する怯えの色を含み、

 

「キャアアアアアアアッ!!!!!!!!!か、怪物!!!!!!!!!!!だ、誰か!!!!!!!!!!!!!」

 

その声に、紅音は感情が高ぶるのを感じた。

 

「なんだと!!?くそ女!!!!!!」

 

胸倉をつかみかからんとする勢いで佐倉楓に近づく紅音だったが、図書館が騒がしくなっていくのを感じた。先ほどの騒ぎを聞き付けて、教職員、生徒たちが様子を見に集まってきてしまったのだ。

 

アギトは、それを敏感に感じていた。ここで変身を解いてしまえば、自分の正体がばれてしまい、とんでもないことになってしまう。

 

何より、佐倉楓が自身に放った”怪物”という言葉が、アギトのナツルの心に鋭く突き刺さってしまう。

 

「ち、違うっ……オレは、オレは……」

 

心が激しく乱されていくのを感じ、目の前が真っ暗になる。その間にも、佐倉楓は悲鳴を上げている。このままでは、まずい。

 

アギトは急いでこの場から逃げ出すために、あたりをうかがった。

 

「おいっ!!!!ナツル、し、しっかりしろっ!!!!」

 

紅音はアギトが酷く動揺しているのを見て、佐倉楓よりもアギトを人の目から護ることを優先させることを決めた。

 

「こっちだ!!!!!ついてこい!!!!!!!!!!」

 

紅音は、近くに備え付けてある非常口に向かって走った。それに続くようにアギトが続く。

 

二人が逃げていく様子に雫は、機会を失ったのか不機嫌に表情をゆがませた。

 

「……楓。余計なことをしてくれて……でも、これが普通の反応か」

 

騒ぎが大きくなる前に、雫もこの場から引き上げることにした。

 

「図書館の被害は甚大ね。委員には予算を弾まないと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アギト、ナツルの心にいやな言葉と思い出が声を上げる。

 

”なんなんだ!!!お前は!!!!!!”

 

”な、なんで、ナツルが!!!!!いや、こ、こないで!!!!!”

 

”私たちの生活をめちゃくちゃにするな!!!!!怪物!!!!!!”

 

”私は、知らないっ!!!!!あなたなんて、知らない!!!!!!!”

 

実の両親から投げられた拒絶の言葉が響く。

 

「ち、違うんだ。オレは、怪物なんかじゃない…誰もこの力で傷つけたくないんだ…オレは…違うんだから……傷つけたくないんだよ」

 

紅音の背を前にしながら、アギトの大きな赤い目に僅かな涙があふれ、冷たい床にこぼれ、弾けた…………

 

”やめてよ!!!オレがなにしたっていうんだよっ!!!!”

 

”父さん、母さん。オレを置いていかないでよ!!!!!!”

 

「……オレ、なんでまた、こんな風に嫌われるんだろ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

男でも女でもない半端者……アギトと言う異常な力を持つ”化け物”。

 

オレは普通じゃない。だから、皆に嫌われて、独りぼっちになって……居場所なんて、どこにもないんだろうか?

 

だから、オレは自分自身が好きになれない……居場所がつくれない自分が嫌いなんだ……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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