けんぷファー With ~AGITΩ~   作:navaho

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第六話

 

 

「これが、オレにあったことなんだ……」

 

「…………………」

 

ナツルは顔を伏せながら、今までにあったことを話し終えた。ナツルの話に紅音は押し黙るしかなかった。

 

(どういう人生、歩んでんだよ。こいつ……けんぷファーも非常識だけど、それよりも常識のないことだらけなのかよ…)

 

紅音の知らなかった世界が存在した。それは、人という枠から外れてしまった”人々”の苦悩……

 

アギト、新たな人類の存在。その存在を”利用”しようとする”モデレーター”。

 

(一体…あたしにどうしろってんだよ。そもそも、なんで、あたしがけんぷファーになって、戦わなけりゃいけないんだ?アギトを、ナツルを利用するほど、大事なことなのか?)

 

紅音は今までにない事態に対して、頭の整理がつかなくなっていた。けんぷファーになって半年ほど経つのだが、その間に戦闘を行ったことは、幾度かあった。

 

けんぷファーの状態になった時は、好戦的で粗暴になるのだが、変身前の臆病な部分は変わらないのだ。ただ勢いに任せれば、戦えると踏んではいたのだが、実際に戦い、その後に必ず後悔をしてしまう。

 

そもそもなぜ、戦わなければならない?モデレーターは、”何者”なのか?

 

紅音の顔色をうかがうようにナツルが彼女に声をかけた。

 

「あの…紅音ちゃん?大丈夫…ごめんね。こんなことに巻き込んじゃって…だから、オレなんかのために…悩まなくていいから……」

 

「……何、言ってんだ…巻き込まれたのは、お前だろうが!!!!」

 

ナツルは、何を言っていいかわからない紅音に対して、自分なりのフォローを入れたつもりだが、いや、この場合、ナツルが自身の気を和らげようとしたにすぎないかもしれない。

 

そんなナツルの気など歯牙に掛けずに、紅音は

 

「そもそも、モデレーターが悪いんだろ!!!!!!!あいつら、訳の分からねえ”アンノウン”まで、呼び寄せた!!!!!!!それに……」

 

感情の赴くままに紅音は声を上げた。癇癪を起しているといった表現があっている。また、ナツルの胸倉をつかむように無理やり引き寄せた。

 

「お前もお前だ!!!!!!!なんだよ!!!!自分が世界で一番、不幸ですみたいに、いじけやがって!!!!お前だけが、そんな顔してれば、万事解決かよって、いいたいのか!!!!!」

 

ナツルの過去が重く悲しいものであることは、紅音も理解していた。だが、その不幸に甘えて、自分を卑下し続けているナツルにも苛立ちが募っていた。

 

「いいかっ!!!!もう一度言う!!!!!その何もない頭に刻みやがれ!!!!!!!!」

 

今までにないほどの、怒気をはらんだ瞳を潤ませて紅音は、

 

「あたしは、お前を一度殺そうとした!!!!襲ったんだ!!!!!だけど、お前は、あの怪人からあたしを助けた!!!!!なんでだ!!!!!!」

 

紅音の言葉にナツルは、あの時の行動を振り返るように震える口元から言葉を紡ぐ。

 

「そ、それは……紅音ちゃんが、オレに笑いかけてくれたから……普通の人がアギトをあんな風に笑いかけるなんて……そんなになかったから……」

 

その言葉と共にナツルは、思わず目を閉じ身体を震わせてしまった。

 

(何て言うか……すごく最低だよな…オレって……ただ、自分にとって都合がよかったからって、助けたなんて…そんなのって………)

 

ナツル自身が恐れていたことが……せっかく自分に笑いかけてくれた紅音が離れていくこと……

 

「……………そうかよ。でも、それでじゅうぶんだろ?」

 

拒絶の言葉が来ると身構えていたのだが、帰ってきたのは穏やかな口調と離れていく胸元の手だった。恐る恐る目を開けてみると、そこには笑みを浮かべる紅音の姿があった。

 

「普通、見ず知らずの他人なんて絶対に助けないだろ?それに、そんな理由で、通り魔まがいのことをしたあたしを助けたなんて……だけど、さっきの赤の”けんぷファー”は、何でだ?」

 

まだ、身体が震えているのかナツルは、これもまた自信の無い口調でぼつぼつと答え始めた。

 

「……う、うん。た、ただ、あのときは、見捨てたら、お、オレ自身、またオレ自身を嫌いになりそうだったんだ…これ以上、自分を嫌いたくはなかったし……」

 

これも最低だとナツルは思った。そんな、ナツルの様子に紅音は

 

「おい…自分のことを最低だって、思ったろ?最低じゃねえよ…それが一番だよ」

 

笑みを浮かべて、強張ったナツルの細い肩に手をやり、その緊張をほぐすように軽く肩をたたく。ナツルよりも頭二つ分、身長の低い紅音であるが、それでもナツルの緊張をほぐすことはできる。

 

「………まあ、なんだ…お前をあんな風に言う奴は、確かにいる。だけど、あたしは絶対に、言わねえ。もし、あんな風に言う奴がいたら、あたしがそいつに風穴開けてやるから…」

 

「そ、それは、それで…問題あるんじゃ?」

 

紅音の言葉は、ナツルにとって頼もしいものであるが、それ以上に物騒なことをさり気に言っている。

 

「ごちゃごちゃ、うるせえッ!!!」

 

また、胸倉をつかみ、ナツルを引き寄せる紅音。

 

「ええっ!!?!」

 

驚く声を上げたナツルの耳元で紅音はドスを利かせた声で

 

「いいか、あたしがあんたを護ってやるって言ってんだ。だから、あたしの近くにいるときは、そんな風に人の顔色をうかがったり、自分を卑下したりなんかしたら、承知しねえ、わかったか!!!?!」

 

「は、はい……」

 

そう言って、突き放すようにナツルから手を放した。その言葉にナツルは、思わず返事を返してしまった。だが、それ以上にナツルの心に温かいものがよぎっていた。

 

「……………ありがとう………」

 

感極まったのか、目には涙さえ浮かべていた。

 

「お、おい…何、泣いてんだよ!?!あたしの言い方がきつかったのか?」

 

突然、涙を浮かべ始めたナツルと言った言葉のギャップに困惑したのか紅音は、少しだけ狼狽した。

 

「違うんだ…何て言うか…そんな風に言ってもらえたの、オレ…翔一さん達しか知らなくて…ふぇ…ふぇぇん…ご、ごめん」

 

指で涙をぬぐいながら、ナツルは笑みを浮かべて紅音に応えた。その笑みがすごくきれいだったので、紅音は思わず頬を赤く染めて…

 

「べ、別に…大したことじゃねえだろ……」

 

恥ずかしいのかそっぽを向くが、ナツルは依然として”ふぇ…ふぇぇん”と泣いている。

 

「おいおい、泣くなよ。めちゃくちゃ強いアギトが、そんな泣き虫だとしまりがねえだろ……だから、泣くな」

 

紅音は、とりあえずハンカチを差し出し、ナツルに手渡す。

 

「ふぇ…ふぇぇ……ありがとう…」

 

紅音のハンカチで涙をぬぐった後に派手な音を立てて鼻をかんでしまうのは、お約束であった…

 

「げっ!?!」

 

と、紅音が唸ってしまったのもお約束……

 

「後で洗って返せよ…お前………」

 

怒るに怒れない紅音だった…

 

「ったく、これじゃ、昨日から温めていた話が言えねえな…」

 

紅音は、腕輪に力を込めてけんぷファーから元の三嶋紅音へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな二人の様子を屋上の扉の物陰から監視するように見ていた影があった。手元には、鎖で繋がれた二本の短剣が握られている。

 

先ほど、図書室でナツルと紅音を襲撃した”赤のけんぷファー”三郷 雫である。右腕の赤の誓約の腕輪に僅かだが力が込められるが………

 

(……途中から聞いていたけど、”モデレーター”や”ケンプファー”以外にも、非常識な存在が少なからずいるようね…)

 

ナツルの話は興味深く、もっと聞きたいと思うが、ナツルはけんぷファーの戦いに巻き込まれただけの”被害者”であろう。

 

(…………”モデレーター”が何かを怒らせたようね…あの怪物……アンノウンね)

 

本来なら、ここで強引に話を聞き出すことは、ナツルのアギトの力を見る限り、力づくで話を聞き出すことは困難だろう。

 

(もっと、聞きたいことはあるのだけれど……あの女を無理強いさせるのは、もう少しだけ準備が必要ね…)

 

三郷雫は、ナツルと紅音に近づくために変身を解除し、何事もないように物陰から足を進めた。

 

「そこの二人。さっき、警察から学校の生徒は校庭に集まるように指示が出ているのよ…こんなところで何をしているの?」

 

「か、会長ッ!!?!こんなところで、どうしたんですかっ!!?!」

 

驚いた表情の紅音に対して、ナツルは

 

「誰?」

 

と疑問符を頭上に掲げて、紅音に視線を向けた。

 

「はい。このセイテツ学園の生徒会長の三郷雫さんです」

 

紅音は、少しだけ視線を三郷雫に向けてからすぐにナツルに移した。

 

「ええ、ここは立ち入り禁止よ。それに、さっき事件があったから、皆を校庭に集めるよう警察から指示が出ているの。一緒に来てもらえるかしら?」

 

三郷雫がナツルに視線を向ける。

 

(……この女が、何かを握っているみたいね)

 

思えば、図書館で戦いを仕掛けたのは軽率だった。ナツルことを”青側のけんぷファー”ではないかと考えたが、実際は違っていた。

 

けんぷファーすら知る由もない”アギト”なる未知の存在。この”アギト”がけんぷファーに対して、どのように関わるのか、興味は尽きない。

 

ナツルを見る目は、興味深い何かを観察するモノに似ている。そのどことなく値踏みをするような視線にナツルは、僅かに表情をこわばらせた。

 

(……こ、この人……もしかして、オレが”アギト”だって、こと…)

 

別にやましいことではないのだが、ナツルにとっては一大事なのか、少しだけだが動揺の色が表情に見え始めた。

 

ナツルの様子を察したのか、紅音は、ナツルを落ち着けるためにその手を握った。

 

「!?!紅音ちゃん……」

 

「大丈夫ですから……ナツルさんは、私が必ず守りますから……」

 

小声で、ナツルを安心させるように紅音は言った。彼女の手の感触に安心したのか、ナツルの表情の緊張がほぐれていた。

 

”行きましょう”の紅音の声に頷き、ナツルは紅音と共に校庭へと足を進めたのだった。

 

二人を見送るような形で三郷雫も続いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナツルさんッ!!!!!!!」

 

校庭に来たナツルと紅音を迎えたのは、氷川刑事の言葉だった。

 

「氷川さん…」

 

ナツルも知り合いが現場に来ていたのを見て、思わず名前を口にしていた。

 

「ナツルさん!!!あなた、ここでまさか……」

 

逞しい手がナツルの細い肩に当てられ、真剣なまなざしで見る。その視線からそらすように

 

「……うん。ちょっと………」

 

ナツルがアギトに変身して戦ったことを察した氷川は、沈痛な面持ちでナツルを見る。

 

「氷川さん……オレは大丈夫だから、気にしなくていいから………」

 

ナツルの傍には、見慣れない少女が一緒に居り、ナツルを落ち着けるように手を取っている。この様子に氷川は

 

「あなたは……」

 

「はい。三嶋紅音です。ナツルさんの…友達です」

 

紅音の言葉にナツルは、初耳と言わんばかりに紅音の方を見た。

 

「そうですか…ナツルさんの………」

 

氷川自身も驚いたように紅音を見た。今まで、ナツルが同年代の人間と親しくしていたことなど無かったからだ。

 

理由は言うまでもなく、アギトのこと、自身の体の事といったコンプレックスが自分を必要以上に過小評価していたことがあげられる。

 

そんなナツルにできた”友達”。これを喜ばないでいられるであろうか。

 

「そうですか。あなたがナツルさんのお友達ですか」

 

何故かうんうんと頷きながら、腕を組みだした刑事に対して周りにいた一同は、首をかしげ始めた。

 

事情を知っているのは、ナツル唯一人。

 

(…………氷川さん。なんで、そんなに嬉しそうなの?オレって、めちゃくちゃ悲惨な奴だったの?)

 

友達ができただけでこんな風に感激される自分は、どれだけ哀れで寂しい奴だったんだと、ナツルは自虐的な思考に囚われかけた。だが、ここでめげてはいけない。

 

「ナツルさん……このまま、自宅に帰られますか?」

 

ここで氷川が、助け船を出すように問いかけた。事件に関わっているのなら、事情を聴くべきだが、ナツルの事を察すればそれは、あまり良くない。

 

「………今、帰ると氷川さんみたいに皆を心配させそうだから……」

 

何かを思うようにナツルは氷川に応えた。ナツルの思うところは、アギト関係で迷惑をかけている美杉家の皆、翔一達にいらぬ心配を掛けさせたくはなかったからだ。

 

「そうですか……でも、津上さん達に黙っている方がもっと、心配をかけさせますよ?」

 

氷川は少しだけナツルに厳しく返した。こうやって、問題を自分の中に抱えてばかりのナツルの現状をよく思ってないからだ。

 

ナツルの場合、幼いころから染みついた人間不信と固くなに閉ざされた心の扉が一般のそれよりも深い。例え心を許したものでも容易に踏み込ませない。

 

「………うん。分かっているんだけど……今は、翔一さんと真魚ねえには、話したくはないんだ」

 

「…………わかりました。でも、絶対に向き合って話し合うんですよ。迷惑をかけないということは、手のかからないということとは違うんですから」

 

すこしだけ肩をすくめる氷川であった。

 

「……ごめんなさい。氷川さん」

 

申し訳なさそうに応えるナツルだった。

 

「謝ることではないですよ。ただ、ナツルさんはもう少しだけ、余裕を持ってもいいんじゃないかと…津上さんみたいに……いや、あの人はただのお調子者か…いい加減な……芦原さん…いや、こっちはこっちで、問題が、何回か彼には殴られたし…」

 

”あの人みたいに”とさりげなくフォローを入れようとした氷川であったが、周りに参考になりそうな人物がいないために、彼は……

 

「…………氷川さん。不器用なりにオレを気遣ってくれて、嬉しいけど、無理しなくていいから…」

 

どことなくナツルの目が生温かいのは気のせいではない。

 

「な、ナツルさん。津上さんみたいな事言わないでくださいよ。僕だって、気のきいた台詞の一つや二つ……」

 

言えないのである。この男 氷川誠は、あまりにも不器用であった。二人のやり取りを見ていた紅音は、

 

(……ナツルさんの周りって、変わった人が多いんですね)

 

今朝、レストランアギトで見た美杉教授、あのオーナー、この刑事といい、かなり個性の強い面子が多いようである。

 

「わかってるから、氷川さん。オレ、氷川さんが何をいいたいのかわかってるから」

 

「か、勝手に納得しないでくださいよ。僕にそれを言わせてくださいよ!!!!」

 

あまりに格好がつかないのか、少し感情的になる氷川誠であった。先ほどまでは、いかにも頼りになる年長者だったが、今の氷川誠はお母さんに宥められる”中学生”だった。

 

「……何でしょうか?このコントは……」

 

紅音は、この二人の繰り広げられるやりとりにこう漏らしていた。

 

「いやだなー、氷川さん。付き合いが長いんですから~」

 

ここでナツルが場を明るくしようとある人物の口調をまねた。

 

「ナツルさん、津上さんの真似はやめてください!!!!!調子が狂いますから!!!!!!」

 

氷川誠のある意味、天敵ともいえる人物 津上翔一。ナツルがお世話になっているレストラン アギトのオーナーシェフである。

 

「えぇ~~、翔一さんと居る時が一番、場がなごむのに…」

 

残念そうな表情をするナツルに氷川は、少しあわてて

 

「ま、まあ、それは認めますが、今は僕に気のきいた台詞をあなたに言わせてください」

 

”こほん”と咳払いをして、

 

「ナツルさん。あなたは、色々なことを抱え込みすぎています。もっと余裕を持って、周りを頼って見てもいいですよ、真魚さんや、津上さん……あ、津上さんは、どうだろう?」

 

ナツルの周りには、たくさんの頼りになる人がいると言いたいのだろう。だが、津上翔一の名前を口にするたびに、全てが台無しになるのだった。

 

「氷川さんの言いたいことは、分かります。だけど、オレ自身、まだ色々と整理が付いてないんです。だから、整理が付いたら絶対に話しますから、あと、ありがとう」

 

氷川の不器用な気遣いがうれしかったのか、ナツルは笑みを浮かべて礼を言うのだった。氷川誠 哀れ、型なしである。

 

格好が付かなかったのか、氷川誠、ナツルを茫然とした表情で向き合うはめになるのだった。

 

「ま、まあ、僕の言いたいことが伝わってくれたのは良かったと思います。ナツルさん、これから、どうしますか?」

 

とりあえず格好のつかなくなった氷川であったが、ナツルが笑うようになったのをみて安心したのかこれからの予定を尋ねてみた。

 

「うん。どうしようかな……」

 

ナツルは、これから先の予定がないのか、考えをあぐねていた。

 

「あの……よろしければ、私の家なんてどうですか?ナツルさん」

 

ここで紅音が提案をする。

 

「えっ?紅音ちゃん。まだ、学校があるんじゃ…」

 

「いいんですよ。こんな騒ぎがあったら、まともな授業は期待できそうにありませんから」

 

二人は、氷川誠の運転の元、紅音の自宅に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氷川とは途中で別れ、ナツルは紅音の自宅マンションの前に彼女と共に立っていた。

 

「ここが、私の家です。ナツルさん」

 

そう言いながら、ドアノブに手を掛けながら中へと案内された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瀬能ナツル

 

「ここが私の家です。ナツルさん」

 

「おじゃまします」

 

少し恐縮しているのは自分でもよくわかる。いつもながら、誰かの家にお邪魔するのは緊張するよ。特に女の子の家は…

 

あ、オレも女だった、いや、男でもあるか……、なんだろうな、この気持ち。あの子の家に上がり込んでしまったときもこんな感じだったかな?

 

確かあの子のお姉さんは家を空けがちだったっけ?

 

自分でもよくわからない気持ちを抱きながら、オレは紅音ちゃんの家に足を踏み入れた。心なしか、人の気配がないような、

 

そうだ、大抵友達の家に来たら、家族の人がいるんだ。

 

「あれ?紅音ちゃん、もしかして一人暮らし?」

 

「はい。こっちでは、一人暮らしです」

 

「えっ?そうなの?」

 

少し驚いたナツルに対して、

 

「はい。こっちの高校に受かったので、お父さんが知り合いに頼んでこのマンションを用意してもらったんです」

 

「紅音ちゃん、家族と一緒じゃないのに、寂しくないの?」

 

少しだけ、ナツルは戸惑うように言った。

 

「そうですね。まあ、いつでも会えますから、あまり寂しくはないですね」

 

「……いつでも会えるか」

 

ナツルの脳裏に自分を拒絶した顔すら分からない両親の姿が浮かんだが、すぐに自分を助けてくれた津上翔一の姿が浮かぶ。そして、自分と同じ境遇である”友達”

 

そう思うと自然に笑みが浮かんだ。

 

「あれ?ナツルさん。どうしました?」

 

「ううん、何でもない。久々に翔一さんと皆に会いたくなった」

 

 

 

 

 

 

ぶらばん!に嵌っている紅音。その影響でギターを買ったモノのあまり引けない。

 

「へぇ~~、そんなアニメがあるんだ」

 

ナツルは感心したようにギターを手に取ってみる。ここで、ギターを弾いてみる。

 

「ナツルさん。ギターを弾けるんですか」

 

「うん、少しだけなら引けるよ」

 

そう言って、教えてもらった曲を弾く。引いた後に、何故かアニメ観賞会に。

 

「なんだか、この平井ユイって、なんだか唯に似てる。ギター弾いてるところも」

 

「ナツルさんのお友達ですか?唯って人」

 

「うん、オレにギターを教えてくれたんだ。あと、名字は平沢って言うんだ」

 

「平沢唯ですか?なんだか、平沢進みたいで、すごい名前ですね」

 

「このユイって子よりも、背は俺よりも少し高くて、髪止めもしてないな、口調は男の子みたいに"僕"って言ってる」

 

携帯電話で写真を見せるナツル。

 

「なんだか、ギャルげーの主人公みたいに前髪が長いですね」

 

そこには、アニメに出てくる平井ユイとは真逆の背の高い如何にもクールな女子高生の姿があった。この世界での”平沢唯”との出会いは……色々と突っ込みどころが多いので、後々語ることとなろう・・・・・・多分

 

 

 

楽しい時間は過ぎ、ナツルがマンションを後にするために紅音と一緒にマンションの入り口まで来たときだった………

 

マンションの前に翔一を中心とした美杉家のメンバーが居た。

 

「迎えにきたぞ!!!!ナツル!!!」

 

「たまには、うちに帰ってきてもいいんじゃないか?」

 

「そうだよ。今日ぐらい家に帰ってきてもいいんだよ」

 

「お前の家は、ちゃんとあるんだぞ」

 

翔一、美杉教授、真魚、太一といったメンバーが迎えに来ていた。

 

「あれっ?みんな、どうして……」

 

「氷川さんから聞いたんだ。ナツルが遊びに行っているから……だから迎えに来たんだ」

 

翔一が天真爛漫な笑顔でナツルに前に歩み寄る。その笑みにナツルも釣られるように笑い

 

「はい。でもオレ、迎えが必要なほど子供じゃないですよ」

 

何処となく拗ねた様に言うナツルだったが、表情と台詞があっていなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家族と一緒に帰るナツルの後ろ姿を見て、紅音は何故かけんぷファー化して見送っていた。

 

「あいつは、なんだかんだ言って、あいつの居場所ってのがあるんだな」

 

ナツルはけんぷファー同士の戦いに関わるべきではない。紅音はそう思った。あまりに辛い思いをしてきたナツルをこれ以上巻きこむわけにはいかない。

 

「あんな奴を、巻き込んだ”モデレーター”ってのは、どんな奴なんだ?訳わかんねえ”アンノウン”を呼び寄せた奴の顔ってのは!!!」

 

ナツルは自分から交流を求めるのを極端に恐れているのだろう。あのような体験をすれば、誰でも人間不信になる。

 

自分の事情を理解してくれる人と共にあること、これ以上の幸せというものはない。

 

「あたしのやるべきことは、あいつを巻き込んだ…いや、あたしをけんぷファーにした奴の正体を突き止めることだな」

 

居てもたってもいられないのか紅音はすぐに自室へ引き返して、あの口の悪いぬいぐるみと向かい合ったのだ。

 

「わかんねえよ。それ以上のことは、知らされてねえし」

 

セップククロウサギは、紅音に対してめんどくさそうに応えた。

 

「ったく、この田村ゆかり声!!!!!!たまには役に立てよ!!!!!」

 

何の役にも立たないぬいぐるみに対して紅音は、いらだった声で怒鳴った。

 

「うるせええ!!!!この堀江結衣声が!!!!!おまえこそ、アンノウンに一杯一杯のくせに!!!!!!」

 

紅音に対して、セップククロウサギもまた声を荒げた。

 

「戦えねえお前が言うなッ!!!!!どこで、そんなこと知った、てめぇッ!!!!!!ああっ!!!!」

 

アンノウンに対して、満足に戦えないことを指されて紅音が怒る。

 

「かませ犬!!!」

 

「アンデッドもどき!!!!!!!」

 

ここから数分にわたって罵言の応酬が繰り広げられることになる、しまいには逆切れした紅音により、哀れセップククロウサギは派手にスイングされてゴミ箱にダンクシュートされてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことがあったんですか?物騒な世の中になりましたね」

 

「……世間話はいいわ。あのジャガーの怪人とあの女はなんなの?…アギトとは一体、何?」

 

「けんぷファーに関わる脅威が現れたので、モデレーターが急きょ選んだ、”盾”だそうです」

 

「”アギト”…あの怪人が脅威であの女がその”盾”だというのね……どういうことかしら?」

 

「けんぷファーは人間にとって、どういう存在なの?」

 

「それは、敵を倒すために存在する戦士です。それ以上の何をいうのですか?」

 

「……そう」

 

相も変わらないやり取り。最初に、このメッセンジャーはけんぷファー同士の戦いに勝利すれば莫大な権力が得られると言っていた。具体的にはどういうものなのかまでは、応えてくれない。

 

三郷雫は、図書館にいたあの女”アギト”はこのメッセンジャーよりも遥かに事情に詳しそうだと悟った。

 

「それじゃ、あのジャガーの怪人。”アンノウン”は、どうして、けんぷファーと戦うのかしら?」

 

「そうですね~~~、確か、”モデレーター”の緊急の話だと、”ケンプファー”を目の敵にしているらしく、すごく物騒みたいですので、注意してくださいって言ってました」

 

「…………目の敵にしているのは、ケンプファーじゃなくて、”モデレーター”の方じゃないかしら?」

 

「雫様がそういうのなら、そうに違いませんね。モデレーターも何をやらかして、雫様をこんな目にあわせるのでしょうか?」

 

自分を戦いに駆り立てたのは、アンノウンではなくて、モデレーターがそもそもの原因だろうと雫は言いたかった。

 

分かったことは、モデレーターに近づく手段が八方ふさがりであることだ。となると、分かるところから手をつけていくべきだろう。

 

”アギト”

 

インターネットを使って、雫はアギトについて、少しだけ知る。

 

「ともに都市伝説の域でしかないのね。アギト…人類の光の進化」

 

存在については、不可能犯罪事件にアギトが関わっているという確証を得ないものだ。

 

「………分からない」

 

自分の知らない想像を絶する世界が存在することだけは間違いない。

 

「何とかして、話を聞けないモノかしら?あの力が青の側にあるのも……」

 

アギトの力は、けんぷファーをはるかに上回る。それを敵に回すのは、愚の骨頂だ。

 

状況に応じて、形態を変化させるらしい。あの青のけんぷファーが”今度は赤に変わった”と言っていたのだから、他にも形態を持っているだろう。

 

他に、どんな攻撃手段を持っているのだろうか?方法としては、人質を取るという手段もあるのだが、それをしてまで、敵対する理由もない。

 

けんぷファーは、青と赤に分かれて対立しなければならないという状況を覆すと何が起こるか分からない。

 

アンノウンの介入だけで、複雑になっているこの状況を余計にややこしくしてしまうとどうなるか予想が付かない。

 

敵対している勢力に現れた驚異的な”力”何とかならないだろうか?

 

雫がその優秀な頭脳を回転させるものの、一向に良い答えが浮かんでこないことに半ば苛立ちを覚えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高級住宅街

 

葛原は頬を上気させて熱っぽい視線をバスローブ姿の佐倉楓に向けていた。

 

「……自分の殻にだけこもっていれば良いのに、アレのせいで”シナリオ”が崩れすぎよ」

 

「でも、あなたなら、アレとは違ってやってくれるわよね」

 

「はい。佐倉さんの為なら、何だってできます」

 

「そう、なら、アレは早い段階で退場させた方がいいわ。だから、葛原、やっちゃって」

 

「はい。ですが、アレはともかく、扱いの難しい盾の方は、どうします?」

 

葛原は、少しばつの悪そうな表情を佐倉楓に向けた。この様子に、楓も少しだけ苦笑し、

 

「そうね。あの盾が出てきたら、あなたでもひとたまりもないわ。まあ、人を傷つけるだけの甲斐性もなさそうだし、無視してもいいわ。だけど……」

 

楓は困ったように表情を曇らせる。

 

(正直、あの”楯”を何とか手綱を握らないと、後々厄介なことになりかねないわ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、セイテツ学園より離れた場所では複数の少女達の頭上に巨大な魔法円が現れた。

 

「な、何よっ!!?!」

 

「こ、これはっ!?!!」

 

それぞれの腕には”赤”、”青”の腕輪があった。彼女達を包み込むように”魔法円”が降臨したと同時に巨大な爆発が辺りを包み込んだ。

 

その威力は凄まじく、一瞬にして少女達を”骸”に変えてしまった………

 

「まったくもって愚かしい。自分達で行うべき戦いを他の者に行わせるとは……」

 

その場に現れたのは、半獣半人の怪人であった。ナツルたちの前に現れた者たちと違い、人間の言語を喋っていた………

 

野牛を思わせる頭部を持った赤い獣人の名は”バッファロー・ロード”………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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