聖杯の英雄譚   作:伊佐那岐

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プロローグ02 ここにいる理由

僕は・・・暗く、深い海のそこに沈んでいく中、それを見た。

 

 

 

意識が遠のく最後の瞬間、僕は手を伸ばしたそれ(・・)

 

 

 

黄金に輝く金の杯。

 

 

聖杯・・・その杯は僕にそう語りかけてきた。男とも女とも言えない声で、僕の心に、脳裏に深く語りかけてきた。

 

 

 

聖杯、令呪、サーヴァント、英霊、僕の心に流れ込んでくる世界の知識が

 

 

 

 

そして最後に僕は知ったのだ。大人たちが最後に僕の体に何を溶け込ませたのかを

 

 

 

押して長い眠りを経て聖杯は最後に僕に語りかけてきた。

 

 

 

”お前の望みは何だ?”

 

 

 

 

僕の・・・・僕の望み

 

 

 

それは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは・・・・何処だろう。

 

 

 

柔らかい・・・なんだろう、先程まで体にまとわりついていたドロドロした粘液や機械の感触ではない。

 

 

人の・・・・・それこそ既に記憶の欠片でしか思い返せない

 

 

人の温もり

 

 

 

 

「お・・・・・かあ・・・・・さん?」

 

 

 

重い瞼を恐る恐る開くとそこは施設の真っ白い天井では無かった。

 

 

暗く誇りっぽい。それこそ廃墟になった山小屋のような場所だった。鼻を通して緑深い木々の香りが体を駆け巡る。

 

 

だけどそれ以上に僕を覗き込む人の視線

 

 

 

・・・・・・誰?

 

 

 

見たことも無い人だった。だけど不思議だ・・・見たことも無い、知り合いでもないのに

 

 

 

「マスターっ!?目を覚ましたのですね。あぁ!良かった」

 

 

 

「っ!?あう・・・あう」

 

 

 

僕の顔を心配そうに覗き込んでいた鎧姿の女性が目に涙を浮かべ、僕の体を強く抱きしめてくる。

 

 

突然の抱擁にどうしてよいか体が動けずたじろいでしまった。だけど

 

 

 

「・・・・・・・・お・・かあ・・・・・・・・・・さん」

 

 

 

 

思わず、小さく口ずさんでしまったその言葉に抱きしめてきた女性は

 

 

 

コツンッ!

 

 

 

「ちょっと落ち着きなジャンヌ。」

 

 

 

「あうっ、プーディカさん・・・だって、マスターの目が」

 

 

 

「わかっているよ。英雄王の秘薬で落ち着いてはいると言ってもまだ危うい状況だ・・・あんたは英雄王を呼んできな」

 

 

 

「・・・解りました。ではみなさん・・・マスターをお願いしますではマスター・・・また」

 

 

 

あっ・・・僕を包んでくれたぬくもりが離れていく・・・

 

 

 

「ん?どうしたのマスター?」

 

 

 

気落ちしている僕にプーディカと呼ばれていた女性が顔を覗き込むようにしてこちらにその綺麗な顔を近づける。

 

 

 

「うん・・熱は無いみたい。」

 

 

おでことおでこをくっ付け、こちらを慈しむ様な・・・そんな笑みを向けてくるプーディカさん

 

 

 

何故だろう・・・彼女からも、ジャンヌさんと同様・・・何か懐かしくて・・・暖かくて

 

 

 

 

「プーディカさん・・・ちょっと失礼します。マスターこちらお水を魔術で冷やしておきました・・お飲みになってください」

 

 

 

プーディカさんの隣、誰だろうか。一瞬もう少し小さければ要請富み間違えてしまうほどの綺麗なおねえちゃんがその手に水が入ったガラス製のコップをこちらに差し出している。

 

 

 

飲んでください・・・これは飲んでよいのだろうか

 

 

 

「い・・・頂き・・・ます。」

 

 

 

恐る恐る綺麗なおねえちゃんから水の入ったコップを貰い少しずつ口にする。

 

 

渇ききった喉を氷のように冷たい水が喉を潤していく・・・気づいたらコップを両手でつかみ飲み干してしまっていた。

 

 

 

「あっ・・・・・」

 

 

 

もっと飲みたい。もっとほしい。僕は一瞬口元まで出たその言葉を咄嗟に飲み込んでしまう。

 

 

 

「・・・?どうしたの。もしかして・・・・もっと飲みたい?」

 

 

 

「(ビクッ!)・・・ご・・・ごめんなさい」

 

 

 

反射的に謝ってしまった。謝らなければ打たれてしまう。殴られけられてしまう。お腹を空かせ、満足に水さえ飲ませてもらえなかった子供を見てきた。故の咄嗟の反射行動だった。

 

 

 

頭を抱え、小刻みに震える僕だったが次の瞬間、僕の頭を柔らかいものが包む

 

 

プーディカさんだ。彼女は自身に僕を抱き寄せて、優しく抱きしめてくれている。

 

 

それは先程ジャンヌさんが僕を優しく抱きしめたときと同じだ。人の温かみを直接肌で感じ取れる。僕の体を支配していた恐怖心が徐々に和らいでいく。

 

 

 

「良いんだよ・・・何があったかは解らないけど、私達に遠慮なんかしなくても。何も怖いことなんて無いんだから。・・・メディア」

 

 

 

「はい!・・・マスターどうぞ」

 

 

 

メディアの手には先程飲み干した冷水が元々あった量に注がれていた。僕は再び恐る恐る手に取り一気にそれを口に運ぶ。

 

 

冷たい水分が乾ききった体を、その命を活気付ける。

 

 

体中を優しさと言う熱が包み、渇き切った喉を潤す。

 

 

 

「相当辛い目に遭ったんだね・・・水一杯でこんなに喜ぶなんて」

 

 

 

「えぇ・・・・でももう大丈夫ですよ・・・マスター。貴方には」

 

 

 

 

「「私達がついているから」」

 

 

 

 

・・・・・うっうわぁあああああぁぁぁぁ!!!

 

 

 

 

 

 

彼女達の温かい言葉に終に奥底に塞き止めていた感情と言う氷が溶け出し、涙となって溢れかえる。

 

 

 

プーディカの胸に顔を押し付け溢れんばかりに涙を流し続ける。

 

 

 

 

「よしよし・・・・大丈夫だ。私もメディアも何処にも行かないからな・・・何も遠慮しなくていいからな」

 

 

 

 

 

よしよしと頭を優しく撫でる2人のそれはまさに母親そのものだった。抱きしめ、優しくする。たったそれだけでも今自分達のマスターにとっては千の財宝よりも価値のある行いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが泣き止んだ後も、プーディカやメディアに母親の愛では無いが思い切り甘えていた所までは良かったのだが、その後、ギルガメッシュが小屋に入ってくるなり全てを台無しにしたことは言わずもかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして狂戦士(バーサーカー)を覗いた、この周辺で現界した全てのサーヴァントが揃った。そして現状を纏める為にジャンヌ・ダルクの元、情報交換が行われようとしていた。

 

 

 

 

「では皆さん、今このばでわかりきった情報を纏えましょう。現状、聖杯戦争で召還されたことが確認できるサーヴァントは全てマスターである・・・えっと」

 

 

 

「むっ・・・どうしたジャンヌ殿。何故そこで口を閉ざす?」

 

 

 

ジャンヌは重要なことに気がついた・・・そう、この場全てのサーヴァントはマスターの名前を知らないのだ。

 

 

昏睡いていたマスターが目覚めたは良いが、その後、色々ごたごたが続いたため聞き出すのを忘れていたのだ。

 

 

 

と言うよりきちんとした自己紹介をしても居ないではないか

 

 

 

「ふむ・・・ならば主らと私、そして幼子の自己紹介という奴から始めようとするか」

 

 

 

ならば・・・と壁に寄せていた自身の身を自分達を背後からプーディカに抱きかかえられている、幼きマスターの元へと歩み寄る。

 

 

 

「始めまして・・・・だな。影の国からまかり越した。スカサハだ。今宵はランサーのクラスで現界した。・・・・と言っても、まだ良くわからんだろう。」

 

 

 

「私はプーディカ。目の前のお姐さんと一緒でライダーのクラスで君の元にやってきたよ。かわいいおちびさん」

 

 

 

「キャスターのクラスで現界しました。メディアです。よろしくね。マスター」

 

 

 

 

「サーヴァント、セイバー御身の元にはせ参じました。ガウェインと申します。どうかこの剣、貴方が通りし不浄を払わんことを願います。」

 

 

 

 

「アサシンのサーヴァント李書文。呵々!主のような童に呼び出されるとは思わなんだ。わしの拳は壊すことしか叶わんが・・・まぁいずれ振るわれることがあると期待しよう」

 

 

 

 

「サーヴァント、ルーラー。ジャンヌダルク。貴方のようなかわいいマスターに会えて本当に良かった。」

 

 

 

 

 

スカサハ・・プーディカ・・・メディア・・・・・ガウェイン・・・李・・・ジャンヌ

 

 

 

聞いたことは無い・・・・けど何故だろう・・・僕は・・・彼らを知っている?

 

 

 

 

 

 

「ほら・・・・後は貴方だけですよ英雄王。まだ先程泣かれたことを気にしているのですか?」

 

 

 

 

「戯け!!雑種ごときが!!(オレ)が子供に泣かれたぐらいで気にするか・・・」

 

 

ジャンヌの含み笑いを鼻で返す紅い目をした男。

 

 

そうだ・・・・僕、この人が入って来た時びっくりしちゃって

 

 

 

「あっ!マスター・・・」

 

 

 

僕は小さな足で危なげなくガウェインの横に立っていたギルガメッシュの前に立つ

 

 

 

そして小さい顔を見上げるような形でギルガメッシュを見つめ、

 

 

 

「あの・・・・さっきは驚ろかしてごめんなさい」

 

 

 

小さい頭をぺこりと下げた。

 

 

 

「・・・・何故頭を下げる・・・・」

 

 

 

 

 

「解らない・・・けど、小さい頃・・・お父さん・・・だった人に、悪いことをしたらキチンとごめんなさいと言いなさい・・・って言われていたからだと・・・思う」

 

 

 

「思う?・・・・随分と曖昧な・・・・・っ!」

 

 

 

まさか・・・一瞬、英雄王ギルガメッシュの脳裏にある予測が生まれる。だがこの予想が正しければこの小僧は

 

 

 

「小僧・・・自分の名を今この場、この(オレ)の目の前で告げてみろ。英雄王が許す。」

 

 

 

何を言っているんだ?この場に揃う英雄でもこの英雄王の問いかけには疑問しか浮かばなかった。

 

 

一体彼が何に思い当たり。何故このときマスターの名前を問いかけるのか。

 

 

 

「っ!?まさか・・・・」

 

 

ただ唯一、スカサハだけは英雄王の問いかけの真の意味を察した。だがそれ故に、苦虫をつぶしたような表情を浮かべ目の前のマスターの答えを待った。

 

 

だが・・・・・・答えは返ってこなかった。

 

 

マスターと称されたこの少年は地面の下を向き、自身の名を口にすることは無かった。

 

 

 

そして何時までも自身の名を語ることの無いマスターを見て、他のサーヴァント達も気づき始める。

 

 

 

「そう・・・・小僧、お前は覚ええていないのだろう。自身の親を家族を、そして・・・・・自身の名前すら」

 

 

 

「・・・・・・(こくり)」

 

 

 

少年は黙って頷くしかなかった。頷くことしか・・・・・できなかった。

 

 

 

「小僧・・・・・・もう1つ問いかける。(オレ)と其処の道化たちがお前を見つけたとき、貴様は瓦礫の下で蹲っていた。貴様に何があった?何故この様な破壊尽くされた残骸の下敷きになっていた。」

 

 

 

 

何が・・・・あった。

 

 

 

僕は・・・・僕は

 

 

 

 

「其処までだ英雄王。我が主にこれ以上の重責を」

 

 

 

背負わすつもりか!と主の余りの辛そうな姿勢に我慢できなくなったガウェインが少年とギルガメッシュの間に入りやめさせようとする・・・

 

 

 

だが英雄王ギルガメッシュはその程度では止まらない。

 

 

 

「黙っていろ雑種!!貴様に問うてはいない!!(オレ)はこの小僧に問うているのだ!!」

 

 

 

ギルガメッシュの怒号と共にガウェインの右横から剣が射出され、その剣を防ごうとするも勢いに耐え切れず吹き飛ばされる。

 

 

 

周囲ではジャンヌをスカサハが、プーディカを李書文がそれぞれの得物でマスターへ駆け寄るのを遮られ、唯一動けるメディアもマスターである少年を自身の小さい体で支えギルガメシュを恐れつつも睨みつけることしか出来ない。

 

 

 

 

 

 

「小僧・・・この(オレ)を・・・英雄王ギルガメッシュを従わせようものならば!!その身に抱えたものを己の口で発してみせろ!!」

 

 

 

 

「うっ・・・!」

 

 

 

思わず口を押さえてしまう。思い出すだけでも吐き気がする。考えるだけでも

 

 

 

膝が震える。もう一度倒れてしまいそうだ。

 

 

 

 

このまままた意識を手放せば確かに楽になれると思う。目の前の英雄王は認めてくれないけど・・・だけど

 

 

 

 

 

「貴様の毒を!貴様の言葉で!貴様の口で!発して見せよ!!そのような覚悟も無い者がこの英雄王ギルガメッシュを従わせるものと・・・?思い上がるなよ・・・さぁ!どうする」

 

 

 

僕は・・・僕は・・・

 

 

 

 

「やめてください英雄王!まだこんな小さい子供に「待ってください」マスター!?」

 

 

 

 

胃から逆流してくる吐き気を我慢しつつ、僕を必死に庇ってくれるメディアさんを押しのけ、自分の頭上、僕を見下ろすその紅眼の眼光を真正面から受け止め

 

 

 

 

「お話します。・・・・おぼろげで断片的ですが・・・皆には知っていて欲しいから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は語りだす。名も知らぬ僕だった者の過去を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はごく普通の父、母、そして妹の4人家族で暮らしていたんだと思う。

 

 

 

その殆どの記憶は無いけれど、きっと幸せだったんだと思う。

 

 

 

だけどある日、家族団らん、何時もと同じ日常を送っていたある日それは起こった。

 

 

 

僕が住んでいた地域が黒い異色の兵隊の襲撃を受けたのは

 

 

 

大人たちは殺された。勿論僕の両親も例外なく殺された。

 

 

 

そして、幼かった僕と妹は兵隊に連れ去られ、そしてあの地獄に放り込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

最初、其処には同じように連れて来られた子供たちで溢れ返っていた。

 

 

僕達はそこで白衣の服を着た大人たちにNoを付けられ数字で呼ばれていた。

 

 

No.999、それがあの場で僕に与えられた名前だった。

 

 

 

 

「っ!もう・・・「耐えよ!」でも」

 

 

 

「お主もサーヴァントならば、聖女と呼ばれた英雄ならば黙ってマスターの話を聞け。」

 

 

 

その目に涙を浮かべて、マスターの過去の語りを、辛い過去を語るのを止めようとするジャンヌをスカサハが嗜める。

 

 

僕はそんな彼女に今向けられる必死の笑みを向ける。

 

 

 

さぁ続きを話そう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

集められた子供は1000人、赤ん坊から小学校に通えるくらいの子供が集められ、日々研究と称された拷問が続いた。

 

 

 

食料や水は必要最低限の物を与えられ、催促すれば殴られ、蹴られ、終いは冷たい氷のような寒さの牢屋に押し込められる。

 

 

そして常に白衣を纏った大人の実験台にされた。

 

 

おかしな薬を投与され、徐々に体が腐っていく者、精神が狂い生きながらにも死んでいる者、体が破裂する者。そんな者は日常茶飯事だった。

 

 

 

僕も自分の体が自分の者とは思えなくなっていった。

 

 

指先の感覚は無くなり、体は常に炎を当てられ手いるかのように熱い・・・だけどそれでも耐えた。

 

 

日に日に減っていく子供の数、それに伴って投与される薬の量も増えた。

 

 

寒いけど熱い、手足は歩けど感覚は無い・・・・・僕の体は終に1人では動けなくなり

 

 

 

終に1000人いた子供の数も1/100にまで減ってしまった。

 

 

 

それでも僕は耐え続けた。きっと僕のようにこの施設の何処かで生きている妹と共に日常生活を送れる日々が来ると

 

 

 

何故ならここの白衣の男、その一番偉い人が言ったのだ。

 

 

 

『我々の実験に全て耐え切ったものにはここから出してあげよう・・・序に子供らしく何か叶えて欲しい事があれば叶えてあげよう』

 

 

 

僕はその言葉を信じて・・・必死に耐えた。体が自分の物で無くなろうとも

 

 

 

 

そして最後の実験、僕はあるものを体の中に入れられたんだと思う。

 

 

 

 

「ある物?主はそれが何かわかるか?」

 

 

 

僕は李書文の問いに首を振った。僕はその時、視界を機械で封じられていて何を入れられたのか解らなかった。

 

 

 

ただ・・・もしかしたら僕の中に入れられたあれは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話を進めましょう。僕はその後自身の中に広がるように溶け込んできたそれ(・・)の熱に焼かれそうになった。その熱は今まで味わったことも無い、まるで灼熱のマグマのような・・・全てを溶かそうとする熱が僕の意識をも溶かそうとしてきました。

 

 

 

でも僕は耐えた・・・この実験に耐えれば僕は妹と共にここから解放されると

 

 

 

そう信じていた。・・・・・・・・・そんな時だ、僕の耳に聞こえてきたある男の声で僕の意識は絶望に叩き込まれた。

 

 

 

 

 

『しっかし大丈夫かよ・・・No999で失敗したら、もうストック(・・・・)は無いんだろ。』

 

 

 

 

 

ストックは・・・・無い

 

 

 

僕はその意味を知ったとき、全ての希望が失われた。妹は・・・自分が必死に救おうとしていた妹は・・・・・ッ既に

 

 

 

 

 

僕はこの時、生きる希望を全て失った。そして体を駆け巡る熱に身をゆだねた。

 

 

 

熱はこの身を焼くだけでは飽き足らず、僕の記憶を・・・殺された家族の記憶から施設の子供、そして・・・・最後の希望であった妹の記憶、終には地震の記憶までを奪おうとした。

 

 

 

意思が熱に持っていかれる。深き闇の暗き海の底に意識が沈んでいこうとする・・・その時だった。

 

 

 

目の魔に光り輝く黄金の杯が現れ僕に語りかけ知識を与えた。

 

 

 

そして最後に問いかけたのだ。

 

 

 

”お前の願いは何だ”と

 

 

 

 

僕は消え行く意識の中、こう答えました。

 

 

 

「家族を・・・平和な日常をください。そしてこの様な、僕の様な不幸な子供を生まない。助けられる力をください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが・・・僕の・・・・全て・・・です。」

 

 

 

「マスター!!」

 

 

 

途端に倒れこむ少年。自身の身に起きた吐き気もするような経験を、思い出したくも無い経験を自らの口で語ることを最後までやり遂げた少年は・・・ぷつりと糸が切れた人形のように倒れ崩れ落ちた。

 

 

 

ジャンヌやプーディカ、ガウェインなどがその身を地面に叩き付けまいと駆け寄るが、その前に、少年の体は何時の間にか現れた漆黒の騎士に地面に落ちる前に抱えられていた。

 

 

 

「・・・・・狂戦士(バーサーカー)!?」

 

 

 

ジャンヌが驚くのも無理が無い。目の前の漆黒の騎士は先程まで大規模な召還の余波で現れたモンスターの対処をしていたのだ。

 

 

 

かの騎士がこの場にいると言うことは外の敵は全て、粗方片付いたのだろう・・・だがジャンヌが驚いたのは其処ではない。

 

 

 

狂戦士(バーサーカー)・・・それは7騎のサーヴァントの内、理性と引き換えに基本能力を大幅に強化するクラスのはず

 

 

 

先程までの漆黒の騎士は確かに狂戦士(バーサーカー)のクラスに相応しき暴虐の限りを尽くしていた。

 

 

 

だが今目の前でマスターを優しく抱える黒騎士は本当に先程までの狂戦士(バーサーカー)なのか?

 

 

 

そう思いたくもなるほどに、洗練された気、そして狂戦士(バーサーカー)の代名詞でもある狂気が、殺意が感じられない。

 

 

 

「貴方は・・・・一体?」

 

 

 

黒騎士はジャンヌの問いに答えず、その手に抱えた幼きマスターを黙ってベッドに寝かせ。

 

 

 

「古代ウルクの王にしてバビロニアの王よ。1つ・・・・私の問いを許して欲しい」

 

 

 

 

その頬を無骨な鎧を纏ったまま触り、後ろの英雄王へと問いかける。

 

 

 

だがそれ以上にこの場にいるサーヴァントの何人かは驚きの余り声を失う。

 

 

狂戦士(バーサーカー)であるはずの黒騎士が声を発している。理性を犠牲に力を求めたはずの狂戦士(バーサーカー)が理性を取り戻すなど聞いた事が無い。

 

 

 

「ジャンヌよ・・主ならばそこのサーヴァントの真名や現在のクラスがわかるはずだろう・・・」

 

 

 

「あっ・・・そうか。」

 

 

 

スカサハに悟られるまで自身のクラスとしての能力を忘れていたジャンヌは自身の力に意識を向け、今現在の黒騎士のクラス、そして真名を看破する。

 

 

 

「っ!?そんな馬鹿な・・・クラスが・・・狂戦士(バーサーカー)から騎士(セイバー)に変わっている・・・それに、貴方は・・・」

 

 

 

 

黒騎士の手が自身の(ヘルム)に触れ同時に黒騎士の周りを覆っていた黒い煙が霧散する。そしてその全身が露になると同時に、白銀の騎士の表情に憎悪と怒りが浮かび上がる。

 

 

 

「貴様ッ!誇り高き騎士と王より認められた貴方が!!よもや狂戦士(バーサーカー)にまで身を落とすとは!!」

 

 

 

「そうだガウェイン卿・・・一度は愚かにも狂戦士(バーサーカー)に身を落とし、本能のままに暴虐の限りを尽くした愚かな騎士だ」

 

 

 

 

ガウェイン程の冷静な男がこれほどまで憎悪を向ける相手・・・そんなものは歴史を紐解いてもこの世に2人もいない

 

 

 

 

「ランスロット卿・・・まさかこの様な場所で貴殿にお会いするとは」

 

 

 

ガウェインはその腰に携えた聖剣を引き抜き、彼にとっての裏切りの騎士。ランスロットへとその切っ先を向ける。

 

 

 

 

「どうした・・・貴殿も早く剣を抜け」

 

 

 

 

「・・・・・・抜きませぬ、ガウェイン卿。貴方は今この場でなさることは、私に剣を向けることですか?」

 

 

 

「何を世迷言を・・・貴殿は王を、我が弟をその血塗られた手で殺した。そんな貴殿に剣を向けるは道理で」

 

 

 

「道理・・・・世迷言を言っているのは貴殿であろう。怒りに任せ剣を抜き放ち。そのような大声を上げて・・・貴殿はこの幼きマスターのことを気遣っていない・・」

 

 

 

「全く持ってその通りだ。ガウェイン殿・・・主が今忠誠を誓うは過去の騎士王か・・それとも幼くも勇気を持ってその過去を明かしたマスターか?・・・」

 

 

 

「グッ・・・私は」

 

 

 

ガウェインも解っていた。ランスロットだけでなくスカサハに言われるまでも無く。それも考えるまでも無い。

 

 

 

再び抜き放った聖剣を自身の鞘に戻す。

 

 

 

「失礼したスカサハどの・・・確かに考えるまでも無い。私念にとらわれ愚かな過ちを繰り返すところだった。貴方にも、先ほどの非礼をお詫びします。ランスロット卿」

 

 

 

 

「気にしないで欲しい。そして私に対する謝罪は受け取れん。私が嘗て愚考を行い王を苦しめたのは事実。許してッ!?」

 

 

 

 

許して欲しい・・・そう口にする前にランスロットの目の前に向かって飛来する槍を眉間ぎりぎりで受け止める。

 

 

 

その槍が飛来してきた方向には苛々を表に出した英雄王が

 

 

 

 

「これはとんだ失礼をした。では不遜な私から問いをおかけすることをお許しください」

 

 

 

「・・・(オレ)を無視した愚公は・・まあこの際良いだろう。それに貴様の外での害虫掃除の褒美もある・・・問いを許す。申せ」

 

 

 

 

「ありがとうございます。では1つ・・・・・英雄王ギルガメッシュ・・・貴殿は先のマスターの決死の告白を受けて・・・どうするおつもりですか?」

 

 

 

ランスロットの鋭い眼光がギルガメッシュを真っ直ぐ射抜く。

 

 

ランスロットだけではない、先程まで彼を私怨で切りかかろうとしていたガウェインも、その仲裁を買って出たスカサハも黙ってことの成り行きを見守っていた李書文も、木のベッドで気を失っているマスターを必死に介抱している、ジャンヌ、メディア、プーディカも、その視線の全てがギルガメッシュへと注がれる。

 

 

 

一方問いをかけられたギルガメッシュだが瞳を閉じしばらく瞑想するかのようにその口を閉ざしていた・・・・だが

 

 

 

「・・・・・・・・・ふふふふははははは!!!!良いだろう狂犬。本来ならばそこの小僧が・・・いや、マスターの耳に直接伝えるべきことなのだろうが・・まあ良いだろう。自らの惨たらしい生い立ちを、最後まで諦めぬその勇気を、王の命令に臆さずに応えた勇猛さを称えて認めてやる・・・・・・・・・貴様が・・・今宵から(オレ)のマスターだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「そのお言葉、このランスロットが確かにお聞きいたしました。その誓いを違えぬ事が無いことを願います」

 

 

 

 

 

「戯け・・英雄の中の英雄であるこのギルガメッシュが一度口にした約束を違えるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・こうしてこの場に今、全てのサーヴァントがこの幼きマスターに誓いを立てた。

 

 

 

この名も無き少年は一体この世界で何をなすのか

 

 

 

そしてこの世界では聖杯戦争は行われるのか

 

 

 

この世界では何が起こっているのか

 

 

 

 

全ては謎のまま、誰にも道はわからない。

 

 

 

願わくば・・・・この名も無き少年に・・・明るい未来が訪れることを・・・私は願おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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