sonic.exe ~the unknown story~ 作:トラちゃん
ソニックが、アリスの部屋からは かなり距離があると思っていた牢獄や集中治療室は、彼がアリスの部屋へ戻るときには、さほど遠くは感じられなかった。
彼が緊張していたか、アリスが心配で帰路が短く感じていたかのどちらかだったが、今の彼にそんな思考を巡らせる時間は無かった。
アリスの部屋の前まで辿り着いた時、彼は安堵から思わず床に座り込みそうになった。
彼女は無事だった。部屋の周りを見る限り、荒らされた跡はどこにも見当たらない。
シャドウやジェロームがいた所は、どこも周りの器具や備え付けの物が壊れかけていたが、そんな様子は無かった。
「…あ、アリス! 戻ったぞ…って、どうしたんだよ、オマエ!?」
彼が驚くのも、無理は無かった。
彼女は身体こそ無事だったが、ぬいぐるみの一つを抱き締めて泣いていた。
そのぬいぐるみは、少し前にソニックが気になったものだった。
「…アリス? 大丈夫か?」
アリスは少し涙を拭い、ソニックを見た。
「お、お帰りになりましたのね…… し、失礼、私としたことが………」
彼女は、言葉も ろくに継げなかった。
「なあ、どうしたんだ? 何かあったのか? …それとも、思い出し泣きか?」
アリスは、なぜお分かりになったんですの、と言わんばかりに、少しだけ目を丸くした。
「…そうですわ、過去の事ですのよ…。 よろしければ、聴いてくださる? …唐突で申し訳ないのだけれど」
ソニックに、彼女の発言を否定する考えなど、全く浮かばなかった。
「…勿論さ。 話してくれ」
◇◇◇
「…つまんないなぁ」
誰もいない、そもそも誰がいるのかも分からない空間で、彼はひとりごちた。
「…元は僕のせいだと言えばそうになるんだけど、でもなぁ…」
彼は、そこから何を言えばよいのか分からなくなり、黙り込んでしまった。
「…でも、飽きないことはないなぁ。 毎日同じ面々じゃないから、新鮮なんだよね」
同じ面々、と呟いてから、彼は今までに見てきた者の数々を思い出した。
彼らの殆どは、かなり幼かった。
彼らは皆、状況が飲めないような顔をしていた。
…あの悲鳴を、いくら聞いたことだろうか。
一人の悲鳴がどんどん増幅していって、周囲を悲鳴で固められるような思いがした。
悲鳴が途切れた瞬間にどこかで感じる微かな痛みもまた、増幅されていく。
…やめて…、僕を陥れないで…!
【 どうしたの 】
急に呼ばれて、彼は我に還った。
「え、あ、いや、その……」
『彼』の態度はまるで、全部お見通しだよ、と言わんばかりだった。
【 思い出したしたんだね、また 】
『彼』に嘲笑されるような気がして、彼は恥ずかしくなった。
「分かったかあ。 相変わらずの勘の鋭さだね…… その通りだよ」
【 やっぱり、そうなんだね 】
「え? 何が?」
いくら自分の方が力が強いとはいえ、やはり『彼』には抗えない、何かがあった。
【 どこかに残ってるんでしょ、あの頃のことが 】
「…。 そりゃ残るさ。 僕は君と違って、生い立ちがいたって複雑なんだよ」
【 そのことをずっと覚えていて、何になるの? 】
彼は深いところを突かれたような、何とも言えない心地になった。
「…覚えていて、何になるかって? 何にもならないさ。」
最後に彼は、君には分からないよ、という、彼の中のありったけの態度を『彼』に示した。
「少なくとも、僕らにはね」