sonic.exe ~the unknown story~ 作:トラちゃん
しばらくしてから、霞と砂嵐が消えた。
視界が開けると、周りは、先程まで彼らがいた所とは別の場所に変わっていた。
そこは、これまたソニックが昔に見たことがあったような、金属質の道路が延々と続いている場所だった。
空は不気味に曇り、重たい空気が漂っていた。
動揺を隠しきれず、ソニックはうろたえていた。
「…テイルスが……テイルスが……!」
「落ち着け。 …今、君が落ち着けるとは思えないがな」
突然起こった出来事に、その場にいた彼らはどう対処したらよいかが全く分からなかった。
「テイルス…… オレは、助けてやれなかった……!!」
「待て。 …今、君がここで希望を失ってどうするんだ? 助けにいくべき者がいるんだろう?」
「…でも、テイルスがあんな事になったんだったら… アリスは、アリスは……無事なのか………?」
いつもらしくない彼に、シャドウは厳しく言った。
「ここに来てから、君は随分と消極的になってしまったな。 …それで世界を救った英雄と言えるのか?」
「…でも……」
「ふざけるな! 今、この世界を救えるのは、君しかいないんだ! 極端な話だが、この世界には君にしか出来ない事が溢れているように、僕は感じるんだ」
「オレにしか……出来ない事……?」
「そうだ。 ここには、もう一人の君がいるんだ…… 奴と対等に渡り合えるのは、君しかいないだろう。 基礎は君と全く同じなんだ。 きっと、君にしか分からない事の方が多い」
自分がもう一人いる、というのは、考えてもまだ気味が悪かった。
しかし…『彼』に対して何か出来るのは、やはり彼しかいない。
彼は、ようやくシャドウと同じ考えに至った。
彼はいつのまにか流れていた涙を拭い、また空を仰いだ。
「そうだな。 …こんな所でモタついてる暇なんか、無いな」
いつもの彼に戻った事を感じたシャドウは、安心したのか、薄い笑みを浮かべてみせた。
「やっと気づいたか。 …やはり、僕は君と似通ってしまっているようだな」
「似ていても、オマエはオマエで、オレは勿論オレだ。 …良かったな、シャドウ。 自分はたった一人の存在だって、気づけるようになって」
「…か、過去の事を蒸し返さないでくれ…… それより、急いだ方がいいんじゃないか? 君の得手だろう」
いつもにも増して、優しかったシャドウに、ソニックは、少しだけだが勇気をもらったような気がした。
「そうだな。…悩むヒマがあったら……走るんだ!!」
空があんなに重たいのにも関わらず、二つの矢は軽々と地を駆けていった。
【 遅すぎたね 】
「…? 今、何か聞こえなかったか、シャドウ?」
走っているさ中、ソニックは幻聴とも本当ともつかない、不思議な声を聞いた。
シャドウも、同じ声を聞いたようだった。
「確かに……今、誰かの声……が………」
彼の声が途中で途切れた。
ソニックは、まさか、と思ってシャドウの方を振り返った。
シャドウは、地面に倒れていた。
彼の周りには、まるで何かを祝うかのように、赤色の華が散らばっていた。
その華が何かを、ソニックはすぐに感づいた。
それは、血だった。
「…シャドウ!! シャドウ!? おい、オマエがいなくなったら……オレ一人になるじゃないか! シャドウ!!」
少し前に起こった、同じような惨劇が彼の中に甦ってきて、彼は目が眩みそうだった。
「…君がここで希望を失って、どうするんだ……」
また、霞と砂嵐が巻き起こり始めた時に、ソニックはシャドウの微かな声を聞いたような気がした。
ソニックは、霞と砂嵐から抜け出そうと必死に抵抗したが、もはや彼が何をしても無駄だった。
何のせいかは分からなかったが、彼の視界が滲んだ。
濃くなっていく霞と砂嵐の中で、彼は虚しく呟いた。
「オレは……一人になるのか? いや、最後には……誰もいなくなるんじゃないのか………?」
彼は、もう駄目か、と思った。
…それなら、せめて……
…力尽きるまで、やってみようじゃないか……!
彼が顔を上げたとき、彼の目に何かが映った。
それは、紛れもなく、『彼』だった。
『彼』がどんな表情をしているのか、判別もつかない内に、彼は舞い上がる霞と砂嵐の中で意識を失った。
彼は、まるで子供のように無邪気に、『彼』が笑ったような気がした。