sonic.exe ~the unknown story~ 作:トラちゃん
ソニックが目を覚ますと、周りは また別の所に変わっていた。
そこも、彼がかなり昔に目にしたような所だった。
そこは、まるで古城のようなレンガの壁____火が灯ってその火は揺れている____と、深い階段が連なっている場所だった。
行動するより先に、彼はまた、あの惨劇を思い出した。
…ついに、彼は一人になってしまった。
「一人…だけになっちまったな」
彼の言葉に返ってくるのは、微かな反響音だけだった。
いつもならしゃあしゃあとしている彼も、さすがに気が滅入ってしまったようだった。
思考に更ける前に、彼は先に進んだ。
…その階段の先には何があるのかも、予想しないままで。
しばらく進むと、見慣れたシルエットが見えてきた。
エミーだった。
彼はつい声をかけたくなったが、思い留まった。
…ここにいるのは、オレのコピーだけじゃない…。
…エミーのコピーだって、いても変じゃないはずだ……
「言わなくても、全部分かってるわよ」
急に彼女の声がしたので、ソニックはぎょっとした。
「…な、何なんだよ…… それより、オマエはエミー…でいいんだな。 ここにいるって事は、オレの仲間をどこへやったかぐらい知ってるはずだ。 …答えろ!」
「さあ、どこかしらね。 …アタシは知らないわよ」
「嘘だ! なんで知らないんだ!?」
「だって、それはアタシの仕事じゃないから」
「は…?」
それまで後ろを向いていたエミーは、ゆっくりと彼の方へ向いた。
彼女は全身血にまみれていて、目はまるでその奥に何もないかのように、暗く光っていた。
「…うわっ……!!」
ソニックは思わず後ずさりしようとしたが、体が動かなかった。
まるで、見えない何かに、体を固定されているようだった。
「この世界がどうしてこうなっちゃったのか、聞きたい?」
「ぐ…… 聞かないよりはマシみたいだな。 話してみろ」
生気のカケラも無くなってしまったエミーは、静かに語り始めた。
「この世界にいたアンタが、死んじゃったのよ」
「…え…?」
「それで、…皆悲しんでた。 勿論、アタシもね。 だから、アタシは皆と……そしてあの人のために、あの人を生き返らせる魔術を施したのよ」
「ま、ま……魔術……?」
それから、彼女は悲しげにこう語った。
「でも、失敗したのよ。 所詮は黒魔術だったわ…彼は生きては返らなかったの」
「それじゃあ、何で……」
エミーがソニックに近づいてきた。
血に染まった彼女の手を見て、ソニックは恐怖を感じた。
「彼は……生きては帰らなかったけど、ちゃんとアタシ達のところへ戻って来てくれたわ」
「…だから、どうやって……って、おい! 何するんだ!? 止めろ!」
ソニックが叫んだのと同時に、彼女は彼を確実に狙って攻撃してきた。
攻撃が放たれる寸前で、彼は呪縛から解き放たれ、間一髪のところで助かった。
「すぐに分かるわよ、そんなに考えなくても。 …でも、アンタには先に『彼』の所へ行ってもらわなくちゃ」
無茶苦茶に放たれる攻撃を、彼は必死にかわし続けた。
「止めろ! オレには助けないといけないヤツが何人もいるんだ!」
叫んだ事で隙が出来てしまったのか、彼は攻撃の一つをまともに喰らってしまった。
「い、痛っ……」
彼の世界では、こんなに強く攻撃する者は、誰一人としていなかった。
傷口から、静かに血が流れてきた。
その痛みはすぐに彼の中じゅうに広がっていった。
痛みの中で、彼の意識は朦朧とし始めた。
どこからか聞こえてくる声が、彼を惑わした。
【 今、ここで諦めるのか 】
【 それとも、少し遊んでから諦めるのか 】
【 好きにしたらいいさ 】
彼は、襲ってくる痛みに、何もかもを預けてしまいそうになった。
今までの『勇気』や、
今までの『力』や、
今までの『思い』や、
今までの『感情』や、
今までの『仲間』を。
…そして、彼の今の『全て』を。
視界が、霞や砂嵐のせいでもないのに、霞んでぼやけてきた。
まるで、彼が見るもの全てに、フィルターでも掛けてしまったかのように。
物事を考えるのが億劫になってくる。
発しようとする言葉も、力を失って別のものに変わってしまう。
彼は、自分の中の光が、どんどん失われていくような気がした。
こんなに光が尽きてしまうと、自分が今までにいた世界の者が、どうやって光を失わずに生きていけるかが、不思議になってくる。
…自分と同じ立場に立ってもらうには、どうしたら良いのだろう。
…奪えばいいのだ。
…光も、魂も、何もかもを。
彼は、急に自分の運命が変わってしまったように感じた。
「…全て……か………」
『何言ってるの!?』
不意に、弾けるような声が、彼の中でこだました。
「…?」
『な、何…じゃないでしょ! 何でここに来たのか、もう一度考えてみてよ! 光を…奪ってしまうためじゃないはずだよ! ほら、思い出せ!!』
その声は、彼の中に光の渦を巻き起こした。
楽しかった思い出が、急に甦ってきた。
今の彼にとって、その光を受け入れるのは、とても辛かった。
それはまるで、深い海の底から引き揚げられるようだった。
「オレは……何て大事な事を、忘れようとしてたんだ……」
『気づいたなら上等だよ。 さ、立って立って! 早くしないと、待ってる皆が不安になっちゃうよ!』
彼はよろよろと立ち上がった。
「…ありがとな。 ところで、オマエは……」
『名前なんか、後でいいさ。 じゃあ、助けるのはこれくらいにしないと、ルール違反になっちゃうからね』
それっきり、その声は聞こえなくなった。
再び立ち上がったソニックに、エミーは驚いていた。
「…まさか…、また起き上がるなんて……!」
驚いているエミーに対して、自慢げな表情で、ソニックはこう言い放った。
「待ってろよ。 …オレにしか出来ない事を、たっぷり教えてやるからな。 もう一人の『オレ』にな」