sonic.exe ~the unknown story~ 作:トラちゃん
その白い光は、『光』など長い間差さなかったこの世界を、まるで蘇生させるかのように、少しだけだが優しく広がった。
「…アリス、オマエ…… やっぱり、来てたんだな。 …会えてよかったぜ」
『私も、ちょうどあなたに会いたがっていたんですのよ。 でも、まさか……あなたから来てもらえるなんて』
ソニックは、ずっと探していた、脆くも儚い存在を見つけることができて、思わず涙してしまった。
彼女にまた会えたことによって、彼の中に また『光』が戻ってきたようだった。
一方、『彼』は不思議そうな顔をしていた。
【 アリス、きみはなんでここに来れるの? 】
『…お分かりにならなかったようですわね、まったく……』
ちょうどその時、テイルスドールが起き上がった。
「いてててて……って、あぁっ!? アリス!? あ、そうか、だからか……」
彼はすぐに何かに納得したようだった。
二人が何の事を言っているのか分からず、二人の『ソニック』は殆ど同じ顔で固まってしまった。
「な…何の話だ……?」
「あはは、ごめんごめん…… いやぁ、ちょっとした事情があってね。 アリスに説明してもらうのが一番かな」
そこで彼は、真っ直ぐに『彼』を見て強い口調で言った。
「特に君。 ちゃんと聞いてあげて。 …これは、君とのあの約束のことだから」
【 約束… 】
アリスは、依然として光に包まれたままで、ほんの少しだけ、哀しそうに語りだした。
◆◆◆
アリスは、少し前に、医者から『もう危ないから外に出るのは止めなさい』と言われたばかりだったが、いつもこっそり部屋を抜け出して施設を歩き回っていた。
今日も、研究者たちが皆去ってから、部屋を抜け出してきた。
「もう危ない、ですって? 私はこんなに元気なのに…… 酷い医者ですこと」
まだ身体は元気だったが、彼女は心のどこかで恐怖を感じていた。
…もうすぐ自分はこの世を去ることになるかもしれないという、恐怖を。
「いくら何でも早すぎますことよ! 埒があきませんわ、私はまだ二十年も生きていないっていうのに……」
あてもなくさ迷っていた彼女は、ふとマザーコンピュータ室に入った。
今は職員たちの休憩時間だし、プライバシーが漏れてはいけないから監視カメラも付けられていない。
誰もいない場所は、彼女にとってはまさに天国だった。
「これが、噂のマザーコンピュータですわよね。 いたって普通ですこと。 何がイカれてるんですの?」
しばらくマザーコンピュータの表面を観察していた彼女は、小さなディスプレイを見つけた。
そのディスプレイは、一面砂嵐になったり、真っ暗になったり、違う色一色になったりしていた。
「何ですの、これ?」
彼女はディスプレイを触った。
すると、どこからか声が聞こえてきた。
『アリス…… 来たんだね…… でも、君にはまだ早いよ…… まだ来てほしくなかった……』
「な、何? 何ですの!?」
『仕方がないのかな…… これも、君の運命だったんだね…… でも…… まだ………』
気味が悪く、彼女はディスプレイから離れた。
すると、途端に息が苦しくなってきた。
続いてまともに立てなくなり、彼女は床に倒れこんでしまった。
「…こ、これは…… 発作ですわ……! だからあの医者、『もう出歩くな』と……」
視界が霞んできた。
それは発作のせいなのか、それとも彼女の涙なのかは、分からなかった。
ただ……苦しかった。
「嫌ですわ…… まだ、まだ……… 伝えられなかったことが…………」
彼女の意識は、ついに途切れてしまった。
◇◇◇
気がつくと、彼女は見知らぬ世界にいた。
やけに身が軽かったので、彼女が自分の服装を確かめると、服のリボンも靴も靴下もなく、おまけに髪につけていたリボンまで無くなっていた。
あまりの苦しさに、知らぬ間にのたうち回ってしまったからだと、彼女は考えた。
「…ここは、何処ですの……?」
【 気がついたんだね 】
「!?」
彼女が振り向くと、そこにはソニックと全く同じ外見の、『誰か』が立っていた。
『彼』が全身血に染まっているのを見て、彼女は思わず叫びそうになった。
「あ、あなたは……?」
【 ぼく? 何でもいいけど、この世界の統治者、ってところかな 】
「な… 酷い世界ですわね、色々と」
【 きみ、面白いね やっぱりここに来て正解だったみたい 】
「え…?」
それまで少し離れた場所に立っていた『彼』は、ゆっくりと彼女に近づいてきた。
「な、何ですの? 私、まだあちらでやり残したことが一杯あるんですのよ! 何をなさるんですか!」
『彼』は動きを止めた。
【 やり残した? 何を? 】
「大切な人に、感謝を伝えること。 …それと、私の世界にきちんと挨拶をしてくること、ですわ」
【 そんなこと… 】
関係無い、と『彼』は言おうとしたつもりらしいが、『彼』は少しうつむいてしまった。
【 わかった 今から少し時間をあげよう 時間になる前に、帰っておいで 】
彼女の顔に笑みが広がった。
「い、いいんですの? ありがとうございますわ! …じゃあ、お言葉に甘えさせていただきますわ」
【 うん 行っておいで 】
彼女が去ったあと、『彼』は不思議に思った。
【 いつもなら、すぐに遊んであげるのに 】
この世界の統治者である『彼』にも、分からないことはまだ沢山あった。
…いや、むしろ、分からないことの方が多かった。
【 邪魔されたんだ、何かに 】