sonic.exe ~the unknown story~ 作:トラちゃん
"Did you realize?"
世界が、壊れていく。
作られた物は潰えて、自力で芽生えたものも崩れていく。
残るのは、荒野だけだった。
破壊の渦に巻き込まれそうになりながらも、テイルスドールとアリスは辛うじて自我を保てていた。
…もっとも、ちゃんと残ったのは、彼らしかいなかったのだが。
「あんな一瞬で……。 …もう訳が分からないよ。 これが…本当に、君たちの望んだ事なの?」
太陽は炎に、地は無機質な板に変わった。
『こんなに荒れて、何もかも無くなった世界なんて… 誰が望むんですの?』
日は、もはや差さない。
昼も、もう訪れないだろう。
「 本当に…って…… だって、こうしたら…みんな、楽になるんじゃないの? 」
哀しそうな、それでいて…無垢な『彼』は、荒野に目を向けたまま、呟いた。
「 ぼく、ずっと見てきたよ お互いに傷つけあって、さいごには何もなくなるところを 」
「…! 違う、だとしても…… それは、彼らには…決して、『苦しみ』なんかじゃないんだ!」
テイルスドールに言われて、『彼』は不思議そうな顔をした。
「 そんなはずはないよ みんな、苦しそうだった なのに誰も助けてくれないんだ じゃあ、どうしたらいいの? 」
『彼』は、彼らに背を向けて、荒野を見つめた。
「 ずっと考えたよ、それを でも何もわからない…なんで、みんながあんなに苦しそうなのに、うれしそうなのかが 」
「君は…、誰の為に、この世界に生まれてきたのかな… ねえ、アリス?」
急に話を振られて、アリスは纏っている光を僅かに揺らめかせた。
『そうですわね… 私には、分かりませんこと…… でも、もう少しで分かりそうな気がしますわ』
『彼』は、驚いてアリスを見た。
「 なんで? 」
『恥ずかしいようですけれど… 私、あなたを悪人だとは思っていませんわよ。 …だって、私を送りかえしてくださったんですもの。 悪人なら、絶対にやらない事ですわ。 …あなたは、きっと悪人ではない。 純粋な心をお持ちなんでしょうね』
それから、アリスは『彼』の手をそっと持って、こう言った。
『そんなに純粋なら、きっとお分かりになりますわ。 なんというか…あなたには、天命みたいなものが、あるような気がしてならないんですの』
「 アリス… 」
置き去りになっていたテイルスドールも、慌てて『彼』の側へ寄った。
「そうだよ。 アリスの言うとおりだ…… 君は、そこんじょそこらの霊なんかじゃないって」
「 そう…かな… 」
不意に、『彼』が地面にくずおれた。
「 戻ってきた… やっぱりね 」
「へ? 何が? …って、まさか…!」
閃光が光り、収まった時には、見慣れた者が傍らに立っていた。
『ソニックさん……!!』
彼は、いつもの飄々とした様子で、軽く挨拶をした。
「よう! …戻ってきたぜ。 元気に……してたみたいだけどな、オマエ」
【 元気だったよ、もちろん 】
彼はぴしゃりと言った。
「世界を滅ぼそうが何だろうが好きにしていいけどな、他人の身体を使うのだけは…やめてくれよ」
『彼』は、彼の言葉を無視して言った。
【 ねえ、きみは… 誰のために生まれてきたの? 】
「は? …何言ってんだよ、オマエ」
『彼』は、ぽつぽつと言葉を漏らした。
まるで…空に溜め込まれていた雨が、抑えられなくなって、静かに降りてくるように。
【 わからないんだ きみは、多分だけど、この世界のために生まれてきた ぼくにはそう思えるな 】
「オマエ…」
【 アリスも、テイルスドールも、きっと、誰か大事なひとのために、ここにいるんだよ 】
空が、少しだけだが、曇り始めた。
【 でも、ぼくは…誰のために、ここにいるんだろう? もし、誰のためかわかったとしても、そのひとがどこにいるのかは、絶対にわからない 】
「…みんな、そんな感じじゃないのか?」
【 え? 】
彼は、『彼』の手を、アリスと共にそっと握った。
「オレに分かると思ったのか? んな訳ないだろ…… 皆、分かっちゃいないんだからな」
【 どうして? みんな、それをしってるから、あんなに嬉しそうなんじゃないの? 】
『違いますわよ。 皆、それを探す旅の途中にいるんですの。 …時にはその事を忘れたり、そんな事を思うより、楽しい事があったりして、我を忘れてはしゃいだり、落ち込んだりするんですのよ』
【 ぼくがわからないのは、普通だったの? 】
「当たり前だって! それが分かっちゃったら、生きてる楽しみが無くなるじゃないか! 二人とも、そうでしょ?」
二人は、同じように頷いた。
「そう。 じゃなきゃ、オレは何のために走り続けてるんだ? なあ、アリス」
『そうですわね。 …生きる事なくして楽しみなし、ですものね』
【 …! 】
空が、いきなり晴れた。
命あるものが、長い眠りから覚めたように、勢いよく伸びてくる。
暖かな日射しも、戻ってきた。
…歌が、どこかから聴こえる。
命あるものが奏でる、素晴らしい歌が……
【 そうだったんだね 何を勘違いしてたのかな、ぼくは… 】
『彼』は、今までに見せたことのない顔で、少し照れくさそうにした。
「…よかったな、分かって。 ほら、みんな喜んでるぜ、オマエが分かってくれたのをな」
小鳥はさえずりながら空を舞い、草花は大空に向かって凛と咲いている。
…不思議なことに、彼らは皆、以前よりも活気が増しているようだった。
【 みんな… 】
「うんうん、いやいや、ここ十数年生きてきて、こんなに良いシーンは見たことなかったなぁ。 気持ちいいな~! …あくびが出そうだぁ」
『何をおっしゃいますの!? あなたはぬいぐるみでしょ!? 全くもう!』
「あはは、分かって言ったんだけどな……。 はぁ…」
ソニックは、『彼』の手をもう一度握った。
…すると、『彼』が、軽くだが握り返してくれた。
「さてと、とりあえず…戻ろうぜ、オマエの世界にな。 …やることがまだあるんだろ? ついて行くぜ」
【 うん 一緒に来てくれるよね 】