十五
あの後、どうしたかいまいち記憶に自信がない。風呂上りの爽やかな気分の中で、一合にも満たないぐらいの酒を啜っただけで直ぐに寝てしまったのだろうとは憶えている。そこからの記憶が無いから。それで、目覚めたら、きちんと蒲団の上に寝ている。でも、床暖房式の中敷を引いたこの蒲団の敷き方は私のものではないし、シャツではなく、
熊谷はもぞっと動いたかと思うと、直ぐに目を醒ました。
「おはよう。大丈夫だったかい」
「ああ。それはそうと、蒲団敷いたのはお前か」
「うん、まあね。あんな寒い台所の卓に突っ伏していたもんだから、死なないようには」
「ありがとうな」
やれやれ、という溜息を吐かれた。
「下戸なのか」
「いや、疲れたんじゃないか。
「まあ、その
「あんまり言うとその口にこの拳を突っ込むぞ」
「熊にでも化けて、その拳もぎ取るぞ」
私が
「本当に化けるかもしれないな」
音波に換えず、体内の
昨日の態度もそうだが、彼にはあまり精神の余裕が感じられない。空気にぴったりとはまった
そのように朝から一茶番をやらかして、今日という日を思い遣られながら向かった。
「己は何でこんなに疲れているんだ。未だ電車に乗ったばかりでしかないだろう」
言わないだけで判っている。諸氏らも存ずる所であるとは思う。我儘だの、無遠慮だのと理屈を付けるのもできなくはないが、仕事を手伝ってくれたり、私のぶっきら棒になってしまう振舞いを堪えながら頑張っている当事者を責める権限が私には無い。
だから面倒というか、世知辛いというか、零すわけにもいかない愚痴を延々と続けているのだろう。
また眼前の車輌扉は開かれた。私は自分の意思で歩くのではなく、この大いなる流れに身を任すだけの存在に過ぎない事を思った。自分の能力を発揮しよう、そう
店長はまた家に戻ったらしい。目を瞑れと云われたが、それは果たして
今日言及すべきことは、纐纈がコーチジャケット姿で私の前にいる事だ。一応、業務の都合では汚れても構わない私服が許されているが。
「おはようございます、初雁先輩」
「ああ、おはよう。ところで、それはどうした」
「これですか。今日明日の盛岡
此処でいう文士とは文化人全体を指す。つまり、地元の作家や報道関係が大いに
「出るのか」
「いや、宣伝です。盛岡劇場周辺を廻ってお知らせするんですよ」
「何の関係が」
「私の父が
私が依然としてコーチジャケットに目を留めると、釈明された。
「ああ、これは
そう言って、あの後輩の桂男の方を向いた。其奴は苦笑いを浮かべていた。
親戚の誼みとは言うものの、
纐纈が行ってしまうと、ただでさえ何もない職場が酷く閑散とした。何故大崎がこの店を潰さないのだろう、という程。
店の裏に少し出て長椅子に座り、路地裏の景色を眺める。私はその景色が好きだった。日に背く薄暗さ、二階建に揃った屋根瓦、錆びかかった
少し言いかけたが、
十六
「おじちゃん」
ふと視線が下に戻ると、其処に小さな男児がいた。先刻の野良餓鬼ではなく、普段あまり外を駆け回っていないようなむっちりとした子だ。
「どうした」
「おじちゃんのお茶温かそうだね」
「君も飲むか」
彼はこくりと頷いた。
「んだら、隣
私は
「温かい」
「そうか、ならよかった」
私と彼はここから少し語り合った。
「おじちゃん」
「何だ」
「おじちゃんは、優しいね」
「大したことないよ」
「僕は見知らぬ人なのに、こんな風にしてくれるなんて」
私は少し明るく笑った。
「困っている時は、お互い様だ」
「でも、僕はおじちゃんに何もしてないよ」
大人同士なら言葉の綾とでも言って済ませるものを、確かに突いてしまっても可愛がられるのは子供の特権である。
「してくれたさ。おじちゃんの疲れが少し取れたよ」
私がこう言うと、彼は少し俯いた。だから、少し訊ねた。
「どうしたんだい」
「僕ね、一人仲の良い友達がいるんだ」
「いいじゃないか」
「んでね、その子は頭が良い、運動もそれなり、みんなに優しい。悪いところなんてないんだ」
「へえ」
「僕も忘れ物したらその子に貸してもらったり、泳ぎ方を教えてもらったりしているんだ」
ここまでは口調も明るかった。ここからは、一転して寂しそうに言った。
「あの子は賢いから何でもできるんだ。僕もさ、そうなりたいんだよ。でも、できない」
「賢くないから?」
彼ははじめと同じようにこくりと頷いた。
「おじちゃんは、何でもないように僕に優しくしたでしょう。僕もそんな風になって、その子にお返しがしたいんだ。でも」
「でも?」
「頭が足りない。どうしたらいいかな」
そういうのは私ではなく、もっと苦労していそうな人間に訊ねるべきだ、というのは無粋だろうか。純粋な問いには熱誠を以て応えるべきだとは思うが、返答として駆け巡るは平凡な定型文、余りにも御粗末な気がした。
「
彼は興味有り気に此方を見つめた。私は劇場に建つより緊張しながら説明をした。
「その子がみんなに優しくすることで、誰かから確かに
目の前の彼は咀嚼を試みた。そうして、それを冷め切ったお茶で流し込んだ。
「でも、おじちゃんみたいな事は」
「それは、君が沢山勉強してからでもいいんだよ。そうすると、
「わかった。でも、どうしてあの子は早くからできるの」
「それは、あの子は早くから頑張らないといけなかったからじゃあないかな。例えば、家族に身体が弱い人がいるから家事を手伝わないといけなかったり、家によくお客さんが来たりしていたりして、自然と上手くならざるを得なかったんだろう」
「おじちゃんはどうだったの」
「…聞きたいかい」
うん、とはっきり頷く。
「おじちゃんは
「
「それじゃあ、僕は
「そうじゃないさ。君は幸せな家に生まれたから、気にしなくてもよかったってだけ」
「でも、みんなが
私は否定しきれなかった。確かに、怠惰なだけなら一喝する事もある。然し、木を見て森を見ずに、
「そうだ。でもね、これをしているから此奴は努力家だ、なんて一概に云えるものは無いのさ。だって、習い事をして褒められる家と褒められない家がある。それと、本は勉強の役にも立つけれど、本が好きな人はそれを
彼はしばらく黙って俯いた。私は野暮に訊ねたりせずに同じだけそっとしておいた。
雲の流れも急ぎ足、風は静かに頬を撫ぜる。彼は途切れ途切れにそう言って時たま沈黙を
「そういえば、家は近いんだよな」
「うん、其処の小さな公園の隣だよ」
「そうか」
彼はもう半杯お茶を飲んだかと思うと、帰ると言いだした。
「そろそろ帰るね」
「おう、気い付けてな」
十七
彼は後ろを向いて行きかけたが、すぐに戻ってきた。子供の澄んだ眼を空色で輝かして、哀願した。
「おじちゃん、最後にぎゅっとして」
抵抗も無かったので、言われるが儘に私は彼を抱擁した。身体はいみじく冷たい。それに、音も無く肩に雫の滴る感触がした。
「どうした」
「いや、僕の家族はみんな好い人なんだけど、誰もこんな風にはしてくれなかったんだ。僕が素直じゃないから、みんな遠慮して」
天邪鬼でも愛されたい、ってところか。近付かれると嫌悪するが、遠ざかると孤独を感じるという山嵐の
「でも、何で己に」
「おじちゃんなら話だけでも聴いてくれるんじゃないかな、と思って。だって、おじちゃんって云うよりはお兄さん、みたいに視えるのを解っていて言っているのに
この子に実年齢を見抜かれるのは、十七歳に観られるよりも慄然とした。
「僕はこうやって抱きしめてくれる人が欲しかったんだ」
さらに、これは異常だった。未だ小学生低学年でしかなさそうな彼は、既に思春期の初期のような事を言っている。それに、縋る相手が家族ではないのも。どれ程深刻なのだろうか。
「おじちゃん、此処に来れば
私には大いに予定を変える用事がやって来ない気がするのだ。大崎が計らってくれる限りは。
「年末と金曜日じゃなきゃ会えるよ」
「じゃあ、来週また来るよ」
「おお、そうか。じゃあな」
そう言っても彼は離れなかった。
「駄目。またねって言って」
言動相応の繊細さが
「すまんな。じゃあ、またな」
「うん、またね」
私は遠くへ離れる彼に呼び掛けた。
「今度は温かい
十字路を曲がって視界から消えるまでずっと見送った。その後に室内へ戻ろうとすると、あの桂男が裏口を塞いでいた。
「先輩が
「失礼だなあ、みんなに優しくしているつもりなんだけれど」
そう私は冗談に受け取ってもらえるように、笑い、
「だったら、纐纈さんの事が苦手だからって押し付けるのは止めてください」
「ええっ、
私は自分でも可笑しいと自覚しながら振りっ子の平均的な口調で言った。
「見た目だけは同じっすよ」
「うるさい」
「ああ、そうか。寒さで頭やられちゃいますよね」
私は其れでやっと中に戻る事ができた。本当に寒い。勿論、地元民ならば
「そういえば、幾ら人柄が良いとはいえ、懐かれるの早過ぎやしませんか。本当に親戚かと思うところでしたよ」
「己もそれは変だって思ってさ。あの子は他人の己を家族以上に信頼しようとしているんだ」
「相当病んでますね」
「ああ。それにませようとして、上手くいってない。何か問題でも抱えてんのかもしれないな」
其れを上辺と
「えっと、そうだ。先輩、もう上がっていい時間ですよ」
「でも、午後番がいないじゃないか」
実は、先刻から今はこの二人が立てる足音の他に何も聞こえないのだ。他の職員は餘りの閑散振りにこっそり脱け出してしまっていたらしい。
「私ですよ。日直ですから」
そんな制度の存在が無かったら今頃誰も居なくなっている。というのも、それは怠職される前提で一人は残しておこう、という目的で大崎が設けておいた経緯を始終観ていたのだ。それを顧みても、全くといって大崎の思考は訳が解らぬ。
「一人で大丈夫かい」
「ええ、もうこれから人が来ることがなさそうなので。通販側中心に頑張ります」
「流石は桂男だな。きちんとしてやがるぜ」
私は
「まあ、五年も居れば若造でもなんとかなりますよ」
「そうか。じゃあ、またな」
「お疲れ様でした」
彼の側を
「何だかんだ言いながら色気付きやがって」
言わずもがな、音声にはしていない。拳は飛ばないにしても、面倒は不可避であるからだ。
十八
例の枕木数えて歩き、ジーンズのように色褪せた外壁の喫茶店に行った。
予想は付くだろうが、また居た。以前より確信犯的に口角を上げている。
「お疲れさん。お仕事はどうだった」
「
私は露骨に不満を出していた。
「幾ら酷かったからって、それじゃ大崎に失礼よ」
「身も蓋も取ったっていいんだぞ。こっちは年々意義を見失う仕事を二十年程やってんだ。遊び人とは訳が違うのさ」
木谷は如何にも自身を蔑ろに扱われたと言わんばかりに反駁した。
「私だって半年前迄あんた以上に仕事で忙しかったわ。だからその言い分は自己中心的ね」
「くっ…」
私は舌打を寸での所で
前座をこの程度で済ませて、私は前回の小説の続きを話さないといけなかった。
推敲も無く続く話は、諫早から小さな男児に至るまでの一日半。勿論、文才が発揮される事は
「話題に助けられているようなものね」
「言うは勝手気儘だなあ」
「だって、弁護する余地も進展も無いじゃない」
「
「努力の無い人に忠告するなんて、そんな資本主義に反したこと誰がするの」
矢張り同じように酷評される。彼女は予てから言いたがっていたように次の言葉を
「そういえば、少しはあの子に自由を与えたら良いんじゃない。幾ら居候とはいえ、娯楽の無い家に
「ああ、そうか。それは失念していたなあ」
「もう、しっかりしなさいよ。それだから貫禄の無いじゅ…」
「止めておけ。もうその
「はいはい」
「ところで、連絡手段はどうしたらいいんだろう」
木谷は、そんなの簡単じゃない、という言葉を前置く。
「小遣いでも与えたら。それで公衆電話からって」
「現役学生時代ならそれで良かったけれど、今じゃ
「それはそうだけど、特定が簡単でしょう」
「それに、昔は手紙に和歌を記した訳だし」
「千年紀単位かよ」
ここまで来ると、此奴が己を八方からおちょくることだけは呆けても止めてもらえない気がしてきた。
「まあ、監禁したいっていうとかなら私の知った事じゃないわ」
「おい、いつから己がそんな変態だったんだ」
「万年思春期やってればそうなるんじゃないかなと」
「
彼女はそんな事に耳も貸さず、直ぐに話題を切り替えた。
「そういえば、大崎から連絡を受けて来たんだけど」
「おっ、やっと来た意味が出て来たぞ」
今日初めて胸が高鳴ったかもしれない。
「
「何で」
「地元で事件が起きたからに決まっているじゃない。あの爆破予告とかなんとか」
態々召喚するぐらいだから相当の進展があったに違いない。とは思いたい。
「日時は其方で決めていいそうよ。そういう時程早く来てもらいたいんだろうけど」
だろうなぁ、と溜息を吐く。私は少し期待していた。熊谷に関する手掛かりが少しでもあればいいかな、ぐらいには。
爆破事件など正直どうでもいいのだ。面倒な居候を除けないなら、せめてどういう人間かを一からきちんと知りたいと思う方が遙かに重要なのだ。
什九
初雁が出て行った後、些細な家事を片付けていると、近くの押入れから物が落ちたような鈍い音がした。
厳密に言えば、物置に転用された小部屋であるそれに入ると、歪な瓢簞型の黒い箱のような物があった。樹脂製のそれについた
ギターだった。共鳴胴とピックアップが付くエレクトリックアコースティックギターという物だろう。手入れが行き届いているし、損傷もない。
備え付けの山吹の紐を取り付けて
楽器を弾けるかと云われたら自信は持てないが、自分で弾いて愉しむ分には
居候の身で文句は言えないが、病弱な子供みたいにずっと家の中に篭って読書しているのには内心には倦んざりしていた。其処で、まるで新しい玩具を与えられた幼児のように僕はギターに夢中になっていた。つまり、ドラマかアニメかのように周囲の景色も音楽という盤と一体となった僕を中心に溶けていく心地がした。
──学校の隅には放課後空になる教室が多々ある。例えば、一階なんかは一年生という何処かの野良の寄せ集めを詰める箱であるからか、早目に空けられる。
其処を文化部の部長らを中心に群雄割拠して、毎日そのお零れに与って活動していた。僕は一番隅の教室でギターを弾いていた。廊下を挟んだ隣の教室で大会へ向けて
いつもと同じように弾き語ると、正面から男声が聞こえた。
「それ、君の歌かい」
手許を視ていた目を上げると、聴衆がいた。
「えっ、まあ、そうですが」
「いやあ、よく出来ているね」
「それほどでもないですよ」
僕は聴かせる為に歌っていた訳ではなかったから、
「君はいつも独りで弾いているのかい」
「はい。みんな真面目だから」
「何も、真面目なのは君も変わらんだろう」
「そういう真面目じゃあなくて」
「ああ、つまりはこういうことかい。君は彼らのように大会などに興味はなく、趣味の範疇を出る事はないんだと」
「まあ、そんな所でしょう」
ふうん、と腹話術のように口を開けずに云って晴れ渡る校窓を眺める。それが体格、髭と繋がった揉み上げと相俟って梟のように見えた。
「ところで、それは本当に愉しんでいるのかい。殆ど表に出さないけれど、正直なところ、自分の為にだけ弾いていると意義を疑って袋小路に陥らないか」
僕は言葉の表面を
「実は、部活の枠を越えて時間に余裕がありそうな人を何人か誘って何処かで息抜きでもしたいなあとか考えているんだ。勿論学校でやる事じゃないから、勝手だけれど」
「如何にも楽しそうですね」
「だろう。机の落書きを消し続ける毎日よりずっと楽しいはずさ」
僕は鳩尾を小突かれた。尤も手は出ていなかったが。
「…知ってたんですか」
「そりゃあ、君が除光液を隠し持っている事ぐらい御見通しさ。今は何もしてあげられないが」
確かに、落書きは毎日の事だった。油性ペンが大半で、除光液や消毒用アルコールを雑布の角に含ませてはそれとなく消していた。すると、描いた張本人らがその匂いを嗅ぎつけ、また聞えよがしに言う揶揄いの種にした。
「──
「相変わらずだなあ。喰べるわけじゃないだろうに」
「んで、偶にはアルコール消毒ってやつだろ。もうその話は飽きたよ──」
腐った林檎とは液の成分であるアセトンの芳香の事だ。窓側の最後列は北風が入ってくるからよく部屋に拡散されてしまうが、濃度が低いから消えるのも早い。生徒らには認知されても、教師が来る時間には綺麗に消えてしまう。
そうした事もあって戦慄した。幾ら化学教科の担当とはいえ、彼の前では余計な部分まで見透かされそうで、態度がどれだけ優しくとも不安になる。
「あの、大丈夫かい」
「ああ、すいません」
「いや、いいんだ。ええっと、君も行くつもりで検討していいのかな」
「はい」
僕は好奇心に抗えなかった。──
廿
そういえば、昔はどうだったろう。良い奴だったのか、糞餓鬼だったのかは憶えていない。木谷に言わせれば、其処はいさ知らざる。唯だ、文句の付けようがない馬鹿だ、という事は確かだったようだ。ところで、幾ら私の頭が呆けていたとして、馬と鹿の区別も付かない訳じゃないだろう。せめて
取り敢えず焼菓子を頬張って紅茶を飲み下す。その味が甘いかどうかだけが判断基準に係るなんて、随分鈍感になった味覚であることよ。矢張り、喫茶というのは貴族でなければ楽しめない道楽的趣味なのだろう。
空になった
ああ、駅に着くというのは、また真面な結論に至る事も無く寸断されてしまう事なのだなあ。正面から相談に付き合ってくれる物好きが居てくれればいいのかもしれないが、心当たりが丸切り
改札を通り抜け、日課となった通路を往き、階段を昇降して立ち台に出ると、地球温暖化は嘘だという心地がする。先頭車両に乗れるように陣取ると、また直ぐに携帯を弄る若者、革の書皮で装った稚拙な文章を読む中年、
職場で幼子が寄って来たのは今日一番の不可解だった。あの子が家だって言った方角は、これから開墾するべき場所なのだ。もしかして、遙か遠くを指しての話なのかもしれないが、今時の親ならば、
もしかして、幽霊だろうか。いや、それは異なる。人間としての熱は感じられた。ならば未来人か、時空間移動装置ぐらい造っていそうだし。ああ、これでは漫画の読み過ぎと云われるのかな。
線路の継ぎ目をゆっくりと鉄の箱が滑り、がたんごとんの鳴りが私を内側に誘う。箱を閉じて滑り出されると、土曜故に心
私は私自身が嫌いになる時がある。そういう時は自分の分身のような亡霊が現れる。
お前はどうして骨髄まで脳筋になれなかったんだい、どうせその過程すらも思い出せやしないのだろうがと問われた。
私だって昔のような莫迦馬鹿しい人間に戻りたいと思うが、もう世間に反抗する気力が莫いくらいには打ちのめされてきたし、それに巻き込む人を生みたくないと返す。
そんなことを考えるようになるなんてお前も末だな、何時だって逆流を掻き分けながら泥臭くやってくれる奴だと期待していたのになどと云われる。止めてくれと思ったから、幾ら自分とは云え、
そうかと思ったらもう終盤で、二駅前だった。そんな落胆も仕方無く、一人運転の悠長さを味わって代理とした。
家に帰ると、明かりが無かった。そりゃ、暮れてはいないが、暗いと思って相応には斜陽していた。内に入ると、その理由が全て膝にしがみついてくるかのように感じられた。
茶の間に仰向け大の字で寝そべる熊谷の上、アコースティックギターが横たわり、寝息と伴に上下している。台所が冷え切っている。全く、子供みたいだと思わずにいられようか。私は紐を丁寧にギターから外して、代わりにタヲル地の布団を掛ける。
ギターを持っていた頃を憶えてはいない。ただ、此れは貰い物であったことは確かだ。あれは諫早が提供したものだから。
──はじめは何故かは判らなかった。問い
おいおい、
突然だが、教師が数人の生徒らを引き連れて旅行しようと言ったら君は行くかい、と言われた。それは私の耳を傾けさせるには充分だ。
私は元々優等生という存在に相当
是非行こう、そう言った。梟みたいな先生はそう言うと、にこっと微笑んだかと思うと、私を返した。──