Pixivの方で活動していましたが、ハーメルンに興味を持ち、投稿に至りました。
まだ戦車の事はよく分かりません。なので、用語の誤用や言葉足らずなところがあると思います。是非ご感想をお願いします。
過去の話です!
チャイムの音が鳴り響く。憂鬱な授業は終わり、学生たちはその苦悩から開放される。もちろん私もそうだ。4限目が終わったたった今から、私たちのつかの間の休息、昼休みだ。
「夏紀さん、今日は食堂ですか?」
そうおしとやかに聞いてくるのは、私の親友、四条 華蘭さん。優しそうな笑顔はどことなく育ちの良さを予感させる。金髪のボブカットは生まれつきで、外国人とのクォーターなんだとか。
「いや、今日はお弁当持ってきてるよ。華蘭さんは?」
「私もです。母が珍しくお弁当を作ってくれたので」
「そっか。じゃあお弁当食べよっか。どこで食べる?」
私の通うこの学校...『アウトバーン女子学院』は非常に規模の大きい高校で、広い敷地には様々なエリアがある。この学園棟エリア、少し歩けば花壇や池、噴水などのある庭園エリア、逆に歩けば飛行甲板から海を一望する展望デッキもある。
「そうですねぇ...今日は、ここで」
「ん、じゃあ机くっつけよっか」
彼女は私の前の席に座り、机を前後反対に向けて私の席にくっつけた。そして向かいの席に座り、弁当を広げる。彼女のお弁当はいつもに増して豪華。今日はサンドイッチをメインにした洋風の弁当らしく、色とりどりの野菜や肉、卵などが目に鮮やかだ。私の弁当はいたって普通のもの。この学園艦の名産品である『しそわかめふりかけ』をふりかけたご飯、それに焼き魚やサラダなど、和のテイストを含んだ弁当だった。
「「いただきます」」
二人でそう言い、弁当に手を付ける。いつ食べてもこのふりかけは美味しい。そんなことを考えていると。
「あ、そういえば...気になる記事を見つけたんです。読みます?」
「へー、なになに?見せてー」
そう言って彼女がカバンから取り出したのは、雑誌。戦車道の専門誌、それも学生をメインとする『月刊 タンクガールズ』だ。いろいろな高校の活動実績や戦績などを月替わりでインタビューして回る「突撃!隣の戦車道!」が人気を博しており、その他戦車道を題材とした漫画や、関係用品の販促などがある。
...そんな人気の雑誌だが、私はその表紙を見た瞬間、手から力が抜け、箸を落としてしまった。
「ご、ごめん...やっぱりいいや」
「...そうですか。ごめんなさい、嫌なことを思い出させてしまって...」
「い、いいのいいの。気にしないで?」
私は、戦車道にトラウマがある。戦車を見るだけで気分が悪くなるほど、とびきりキツいトラウマが。
「とにかく食べようよ。時間が無くなって食べれなかった!とかじゃもったいないし」
「そうですね。もったいないですよね」
そう言って彼女もサンドイッチに手をつけた。
それは一年半ほど前のこと。中学三年生の夏の出来事だった。
私は地元の中学校『維新中学校』の戦車道部、その隊長として、公式戦の決勝戦で戦っていた。相手はソ連戦車を中心とした部隊を組むライバル校だった。戦闘開始直後、私のミスで敵に包囲されてしまう。そして数を10両から4両まで減らした私たちは、何とか敵の戦車...T-34を10両から6両まで減らし、撤退に入っていた。
多少のリスクは覚悟でガケを行く道を選択、出来るだけ早く市街地へとたどり着こうとした。しかし、その戦略はまたも命取りとなり、後続の2両が次々と撃破され、私の乗るフラッグ車「M4中戦車」と、妹...夏摘の乗る副隊長車「M3中戦車リー」のみになってしまう。
副隊長車は山道の途中にある、若干道幅の広くなっている離合場所で機動戦を展開、敵二両を撃破して私に続いた。そのとき、敵車両の榴弾が副隊長車の至近に着弾。ガケを抉りとり、M3中戦車は宙へと投げ出された。
「夏摘っ!」
その叫びは轟音にかき消されたが、妹の口が『諦めないで』と動いたのがはっきりと見えた。私は諦めてはいけない。そう思い、ガケに吸い込まれるM3中戦車を背に退却を急いだ。
市街戦に持ち込み、敵2両をなんとか撃破。しかし、敵2両がM4の前後を取った。その時点で車内に隠れなければならないのだが、私は妹の一言を胸に、最後の賭けに出た。
砲塔を回転させ前方のT-34に指向しつつ、車両を斜めにして『昼食の角度』を取り、T-34の高火力主砲をなんとか凌いだ。そして前方のT-34の砲塔の境界部に徹甲弾を打ち込んで撃破。後方のT-34を狙おうと車両を旋回させた。その瞬間、砲塔前部に徹甲弾を被弾。装甲こそ貫通しなかったが、私は顔面に鉄片の直撃を貰った。顔面から血をだらだらと流しながら、T-34に突撃を敢行―――敵戦車の状況が見えないため、確実に撃破できる接射を指示した―――し、撃破した。
私たちの勝利で戦闘が終わると、私は救急車ですぐに病院へと運ばれたらしい。そこからは記憶がなく、目が覚めた時には試合から3日後の病院のベッドだった。そこで母親から『妹が行方不明だ』という一言を聞いたのだった。その日は一日中泣いたのを覚えている。翌朝起きてようやく気がついたのだった。――――――右側の視界が真っ暗な事に。
そして私は『戦車恐怖症』になった。妹の行方は今でも分かっておらず、戦車道協会からの慰謝料は貰ったが、金で解決することではない。妹の命はもう...
そんなことを考えていると、5限も6限もまともに授業を受けられなかった。震えだす体をなんとか押さえ込み、溢れようとする涙を必死に堪えた。苦痛の午後を終え、私は家へと急いだ。いつもは華蘭さんと寄り道をすることが多いが、今日はそんな気分にはなれなかった。
家に帰ると、まるで死んでいるかのように机に突っ伏せていた。あらゆる感情のネットワークを遮断して、何も考えず、ぼーっと...
午後7時過ぎ。すっかり暗くなった時間に、携帯が震え、メールの着信音が鳴る。そのメールの差出人は、中学時代、同じ戦車の砲手をしていた、山野さんだった。
『こんばんは!いきなりメールしてごめんね。早速本題なんだけど、今月のタンクガールズ読んだ?気になる記事があってね。もしかしたら三城さんの妹さんじゃないかって...間違いだったらごめんね。また今度遊ぼうね!』
私は椅子を鳴らして立ち上がった。昼休み華蘭さんが見せようとしていたのはその記事だったのだろうか?
いてもたってもいられず、家を飛び出した。向かった先は街の本屋。そこには絶対にタンクガールズを置いている。そう思ったからだった。しかし、私の予想に反して、タンクガールズは売り切れていた。こういう時に限って何故売り切れなのだろうか。街に書店はここだけだ。ここに置いていない本は取り寄せてもらうか、通販で買うか、接岸した時に丘に買いに行くしかない。
「...そうだ、華蘭さんの家に行けば」
私は本屋を飛び出して、走った。華蘭さんの家はそんなに遠くない。全力疾走で5分くらいの場所だ。
たどり着いたそこは、大きな和風の家。門の奥には彼女の母親が乗っていたという『八九式中戦車』が置いてある。インターホンを鳴らすと、彼女の母親が応答した。
「はい、四条ですが」
「華蘭さんの...クラスメイトの...はぁっ...三城です...っ。あのっ...華蘭さんは」
「...少々お待ちくださいね」
それから30秒ほど経った。ほんの30秒だが、今の私にはとてつもなく長く感じられた。
「...どうしました?こんな時間に...」
「華蘭さん...っタンクガールズ、見せて!」
「...いいですよ。どうぞ、上がってください」
彼女について家にお邪魔する。木の匂いのする廊下を進むと、突き当たりの障子の向こうに彼女の部屋はあった。かなり広い。
「はい、今月のタンクガールズです」
今週号の表紙は、聖グロリアーナの車両たちだった。そこからパラパラと流すように読んでいく。すると...あった。中程のページ、『突撃!隣の戦車道』のページだ。そこで『シャーマン ファイアフライ』のキューポラから顔を出している少女。私によく似た顔立ちの少女は、寸分の違いもなく。
「...夏摘...?」
私の、妹そのものだったのだ。