下関の地理が分かると一層楽しんでいただけると思います。グーグルマップでも良いので是非見比べながら読んで頂けるといいと思います。
下関の中心市街地のすぐそばにある小さな漁港。そこが私たちのスタート地点だった。到着次第戦車の整備、搭載物資の最終チェックなどを行う。重量増は出来るだけ控えたい。それはたった1kgでも見過ごすことはできない。重量物を車内に置くと重心が上がり、機動性が悪くなるからだ。まぁ、パンターにそれが関係あるかと言えばそうでもないが。
ぎらぎらと陽光を弾いて輝く海を背に停車している3両の戦車。依然と殆ど変わっていないが、一部変わっている場所があった。それはボディ側部。まるで大洗女子学園の戦車隊のように、動物のパーソナルマークが描かれているのだ。
パンターの砲塔側部にはデフォルメされつつも勇ましさの残る『虎』の絵が、レオパルトの砲塔側部には虎にも猫にも見える可愛らしい『山猫』、Ⅳ突のボディサイドには誰が見てもそうと分かる、潮を吹く『クジラ』が描かれている。これらは全てアウトバーン戦車隊がそれぞれを呼称する際『一班』『二班』などでは寂しいからという理由でつけたもので、戦術的意味は殆どない。むしろ迷彩による隠蔽という面で言えば、戦力の低下を招いているだろう。
「山猫さん、各種物資搭載完了、全兵装準備OKです!」
「クジラさんも弾薬類積んだよ!機関も砲も、各種装備は問題なし!」
「虎さんも大丈夫です。いつでも行けますよ」
それぞれ寿璃さん、葎花さん、華蘭さんの報告。これでいつでも戦える。
「では、戦術の最終確認をします。今回の相手は高機動戦車ですが、まずは斥候として前進してくるであろうBT戦車から潰します。相手の『目』を潰して、それからフラッグの護衛を潰し『腕』をもぎ取ります。後は丸裸のフラッグを一方的に叩き潰せる。以上が今回の作戦『ダルマ作戦』です。何か質問はありますか?」
ハイ!と元気の良い返事とともに手を挙げたのは山猫さんチームの寿璃さん。
「偵察中に敵本隊と出くわした時にはどうすれば?」
「出来れば一撃離脱を。危険だと思えば撤退してください。とにかくやられないように気をつけて」
「分かりました!」
他に手は上がらない。やはりアウトバーンの隊員は物分りがよくて助かる。
「では、みなさん戦車へ!」
海の光を反射して銀色に輝く三両の戦車は、暖気の終わったエンジンを唸らせスタート地点についた。
開会式の行われた水族館前の広場。そこには吉森工業の戦車が並んでいた。
「隊長、少しいいですか?」
「何だよこんな時に...トラブったか?」
その中でも背の高いパンターの後部ブロックを開いて、車長のケータハムが悩んだような顔をしている。
「いえ...この車両の運用についてです。敵にも同様の車両がいると思うのですが...」
「アレとコイツは別物だと思え。何せ馬力が違うからな。ちょこまかと旋回する
パンターのV型12気筒ガソリンエンジンとは違い、特徴的な細長いエンジン形状をしていた。気難しく、ちょっとでもゾーンから外すと機嫌が悪くなる。そんなエンジンだが、機嫌さえ損ねなければ確実にV12に勝るスペックを持っている。
「さぁ、Start Your Engines!!」
レースでお決まりのセリフと共に、戦うクルマたちの心臓に火が灯る。勝負はもうすぐ始まる。
「
掛け声と同時に3両の戦車はコンクリートの地面を蹴りつけて前進する。まず先行したのは山猫さんチームのレオパルト。先んじて市街地に突入して、敵編成を確認し、戦術の解析に役立てる。それが少数戦闘における基本で、情報を制する者が戦を制する、と言っても過言ではないのだ。
冬季杯では、諜報行為の全てが禁止されている。というのも、3両という少数故に編成がバレてしまうと戦闘が一瞬で終わる可能性だってある。『強行偵察』という戦闘の第一歩から始めるのがこの冬季杯のやり方だ。
レオパルトは、線路の高架をくぐって中心市街地へ突入した。田舎の割にはビルや店舗が多く、見通しは思ったより効かない。市街地西側は入り組んだ路地と、蜘蛛の巣のように張り巡らされた陸橋が特徴で、店舗などの大きな建造物が多い。道路は高規格で非常に走りやすく、速度の乗る高速戦車が有利になる傾向がありそうだ。
国道を外れて、駅前のバスターミナルを通過する。一本逸れた裏道に入って全速で走りながら敵を探す。60km/hの速度で走る戦車のキューポラから体を乗り出すのは思いのほか怖いが、相手前衛のスマッシュをボレーで返す時に比べればこんなものは朝飯前だ。150km/hに迫るボールを眼前に構えたラケットで返すのは恐怖以外の何物でもない。
「そろそろ見えてもいい頃なんだけどなぁ...」
BT-7快速戦車は、履帯を外した装輪走行が可能になっている。その際の最高速度は80km/h程で、いくらレオパルトといえど追随することは出来ない。その足を持っているのだから、そろそろ鉢合わせてもおかしくないのだ。
目前にゆめタワーが見える。ヤシの木とタイル張り舗装が特徴的なこのリゾート風の道路。このあたりが下関市街地のちょうど中腹あたりになる。ゆめタワーの根元に陣地が存在し、そこを中心に立体駐車場などの戦術的に利用できる建造物が点在している。ここが冬季杯における戦闘の中心になるだろう。
建物の影から飛び出した瞬間、右側の交差点に敵戦車の姿を捉えた。BT-7だ。持ち前の動体視力で確認したが、やはり履帯は外しているようだ。
「敵車両!BT-7です!Eラインを西進!」
『そのままやり過ごして敵本隊の発見に尽力してください!くれぐれも撃破はされないように!』
「了解!さらに深部に入ります。オーバー!」
レオパルトはBT-7をとりあえずスルーして、敵本隊を探す。敵のBT-7も同じ行動をするだろう。当分裏をかかれる心配はない。しかし発見されてしまった以上単純な動きでは見透かされてしまう。少しややこしく、右折と左折を繰り返しながら前進していく。さらに進み、警察署の付近で、敵本隊に出くわした。
「敵本隊と思われる車両を発見!見る限り...センチュリオンとパンターですね。どちらも立体駐車場の中で停車しています」
「センチュリオンですか...分かりました、撤収、合流しましょう。Cラインを西進してください」
「了解!」
センチュリオン重巡航戦車。初戦から強力な戦車のお出ましだ。それに随伴もパンターという強力な布陣。戦闘能力では間違いなくこちらが劣っている。だからこそ、数の優位を作り出すことが大切になる。
Cラインを西進、下関駅前で本隊と落ち合った。
「とりあえず動きます。BT-7を早い段階で仕留めたいのでともかく前進しましょう。クジラさんは控えめな行動を心がけてください」
装甲の脆いⅣ突をパンターの背後に隠して前進する。今度は敵の撃破が目的なのでゆっくりと進んでいく。BT-7はこちらをまだ発見していない。出くわさないとおかしい。
立体駐車場の影からBT-7が飛び出してきた。打ち出された45mm砲弾はパンターの正面装甲に弾かれる。
「山猫さん、追撃してください!本隊も追尾します!」
「了解!やっぱり忙しいよね!」
軽戦車は忙しい。こういう超高機動戦車に対しては軽戦車を出すしかないのだ。
レオパルトはBT-7のあとを追って国道に飛び出した。直線的ではあるがうねっており高低差もある。ドライバーの腕が試される。ふわりと浮くような挙動を見せつつも、タイヤで走るBT-7にしっかりと追従していく。それだけの走行性能が、レオパルトには備わっていた。
「でもおかしい...なんでBT-7が離れないんだ...?」
最高速度はチューニング込で85km/hだとパンターの操縦手、涼子ちゃんから聞いている。それなのに最高速度60km/hのレオパルトがついていけるのは...
「...誘い込まれてる!?」
気がついたときにはもう遅かった。後方にパンターの姿を捉えた。同時に発砲。行進間射撃故に当たりはしないが、これで見事に挟み撃ちにされたわけだ。
「こちら山猫!敵に挟まれました!」
『敵はパンターですか!?』
「そうです!」
『分かりました!そのまま引きつけてください!頑張って!!』
敵の戦力の実に70パーセント弱を私たちが引きつけているのだ。そう思うとなんだか心に火が付いた。
「皆!まだたったアドバンテージ取られただけだよ!気ィ引き締めていくよ!!」
「「はい!!」」
虎さんとクジラさんはその報告を受けて即座に動いた。敵フラッグが丸裸のうちに捉えようというのだ。報告のあった地点に全速で向かった。
その時、なにか気配のようなものを感じた。直感的に、危険を察知したのだ。
「まずい、停止!!」
パンターが急制動をかける。履帯が火花を散らしながら抵抗を生み出す。停車した瞬間、正面装甲を17ポンド砲の砲弾がかすめていく。
報告のあった立体駐車場。そこには、コンクリート壁で身を隠したセンチュリオンが、砲塔だけを突き出して待ち構えていたのだ。
「さて、最初の優勢は、こっちがもらったよ...!」
戦車の常識や戦術などはあえて全く勉強しておりません。なので無茶苦茶な戦闘が多いと思いますが、それが特徴だと思って読んでいただけると嬉しいです。
次話は出来るだけ早くお届けしたいと思っています。