「次の路地左折!振り切るよ!」
山猫さんチームは、パンターをBT-7の猛攻を蛇行運転でなんとか躱していた。しかしそれも時間の問題。いずれは敵の弾道も収束し、捉えられてしまう。それより早く敵を振り切らなければ撃破は免れないだろう。
履帯のグリップ能力が遠心力に負けスライドする。ドリフトしつつもしっかりとレオパルトは進んでいく。BT-7はそのまま通過したが、パンターは追ってくる。
「...なにかおかしい」
甲高いエンジン音。まるで耳鳴りのようなそれはどう聞いてもアウトバーンのパンターのそれとは違う。形式だとかチューニングの違いはあれど、ここまで極端に変わることがあるのだろうか。ドライビングもそうだ。その重量級なボディを振り回してまで、露骨にエンジン回転数を維持しようとしている。それには何か理由がある。おそらくは...
「...エンジンが怪しいな。こちら山猫、敵パンターのエンジン音や挙動が怪しいです。甲高い音がするんですが、何か理由は考えられますか」
「...甲高いエンジン音ですか。幹葉さん、何か分かりますか?」
重厚かつ官能的なV12ガソリンエンジンの音が響く車内。砲手の幹葉さんに質問する。彼女の知識なら何かわかるかも知れない。
「パンター...エンジン...もしかして」
国道から一本北に入った路地。一応2車線あるが戦車には幾分狭く、非常に走りにくい。そんな中、一旦突き放した後方のパンターは猛然と速度を上げてくる。
「は、速っ!?どうする...えーっと...停止!停止!!」
それはもう時速100km/hに迫ろうかという速度だった。このまま最高速合戦をしても勝ち目はない。それなら後方に回り込んで、一発お見舞いして撤退しようと考えた。重量が軽いレオパルトに比較して、パンターは重たい。故に制動距離が伸びてしまい、遥か前方へ。しかしその体勢から360°ターンして素早くこちらに砲を向けてくる。7.5cm砲の餌食になる前に撤退する。左折、路地から国道へ。
「やはりパンターは凄い速度です!読みが当たってるかと」
左折直後、そのままスピンするようにレオパルトを滑らせて、後方から路地へ進入しすぐに停車。直後、パンターは交差点を曲がってこちらへ。目の前を通り過ぎた直後に路地を飛び出して後ろを取った。
「所詮は中戦車!抜けるはず!行けっ殺人スマッシュ!!」
5cm砲が火と煙を吹く。貫徹力の高い砲だが、当たり所が悪く貫通とはいかなかった。パンターはその場で減速し転回、こちらを追おうと動くが、その動きは緩慢で、先ほどまでの俊敏さを感じない。山猫さんチームは、それをしっかりと目に焼き付けて路地へと戻っていく。
「おそらく予想は正しいですね。回転数が落ち込んだ時のパワーダウンが激しいです」
その直後、無線を通して乾いた音。
『アウトバーン女子学院、レオパルト軽戦車、走行不能!』
BT-7からの狙撃のようだ。やはりBT-7が残っているのは怖い。あちらを先に倒すべきだったかもしれない。
しかし現段階、フラッグ車は敵フラッグであるセンチュリオンとのにらみ合いが続いていた。迂闊に動くことはできない。相手は上手く弱点を壁に隠しているが、それはこちらも同じ。陸橋を撃って崩壊させ、即席の遮蔽物を作ったのだ。
「ここでにらみ合いを続けているうちはクジラさんはフリー...どう動かすか」
将棋をしているような気分だ。敵の王将はすぐ近く。しかし、詰ませるにはどうも手が足りず、まだまだ時間がかかりそうだ。
「クジラさんは回り込んで右方に展開、おそらく合流を狙うであろう敵増援を阻止してください!」
Ⅳ突を、建造物を大きく回り込むように動かして、敵の合流直前を狙う。上手くいけば美味しく1両撃破、悪くすれば残存はフラッグ1両になってしまう。博打のようなものだ。
しばらくの静寂。それを撃ち破ったのは、パンターの砲撃。それはセンチュリオンが潜む立体駐車場の上部を狙ったもので、2階を倒壊させてセンチュリオンからの射線を塞ぐ狙いがあった。即座に装填。装填完了とほぼ同時にパンターは飛び出す。
「敵来たよ!2両かたまってる!」
Ⅳ突の火砲が火を噴き、BT-7の正面装甲を捉える。大きく弾き飛ばされたBT-7は壁に激突して白旗を上げた。こちらもパンターを追撃しようとしたが、敵パンターはパチンコ店跡に突入してこちらの射線から逃げた。そのため急遽目標を閉じ込めたセンチュリオンに変える。懐に飛び込んでの近接戦闘なら装甲厚は関係ないし、立体駐車場のような挟所では戦車の取り回しに慣れている方が有利になる。攻め込むなら今だろう。
「壁を踏み破って突入してください!敵の伏撃に注意して!クジラさんは安全を確かめつつ敵パンターの位置を掴んでください!」
コンクリート壁を踏み破って突入すると、センチュリオンはこちらに砲塔を向けた。戦う覚悟を決めたようだ。
「いざ尋常に、勝負!」
「シナリオとは違うが...やってやるさ!」
センチュリオンとパンターが、17ポンド砲と7.5cm砲の鋒を向けて一度停止。お互いの動きを読んでいるのだ。
轟音と共にぱらぱらとコンクリート片が落ちてくる。17ポンド砲の砲撃による衝撃が老朽化した駐車場をゆっくり崩壊させているのだ。
その17ポンド砲の砲撃はパンターの側面装甲を撫でるように通過。源流戦闘術の一部である『緊急被弾経始』。装甲の柔らかい部位でも、浅く角度をつければ弾くことができる。砲弾重量故に装填に時間のかかる17ポンド砲。機動力を活かし、回り込んで後方を狙う。7.5cm砲が火を噴くが、センチュリオンはこちらの動きを真似たのか、超信地旋回で緊急被弾経始を行ってこれを防いだ。
「...やるね...!」
「厳しいが...行けそうな...ッ!」
ぐるぐると旋回しながら交互に砲撃を行う。全力旋回中にまともな照準ができるはずもなく、お互いの射撃は見当違いの場所に飛んでは駐車場の壁や柱を削っていく。
「次っ!敵のドテッ腹に一発!」
「思いっきり助走つけて、行くよ!!」
2両の距離が離れる。センチュリオンは大きく膨らむように距離を取り、パンターは一度離れてUターンをするように離れた。
再び2両の距離が近づく。正面衝突しそうなほどに近くまで。
センチュリオンは左に舵を切り、砲塔を旋回させた。
「...貰った!!」
その進行方向に合わせてパンターが思い切り舵を切る。車体後部に、50トンの車重を思い切り乗せた、
「全速後退!突き破って脱出して!」
パンターは全速力で脱出。倒壊に巻き込まれることはなかった。
「とにかく動け!潰されるぞ!」
「右動力系が...!動けません!」
センチュリオンは既に行動不能になっていた。倒壊する駐車場に巻き込まれて押しつぶされ、戦闘不能となる。
『吉森工業高等学校、センチュリオン巡航戦車、走行不能!』
脱出した虎さんチームはその足でパンターの捜索に当たる。クジラさんチームが探してはいたが、やはり簡単には見つけられない。
パンターを探して走り回っていると、どこからともなく甲高い音。
「これが、寿璃さんの言ってたパンターのエンジン音じゃ...?」
華蘭さんの指摘に、私は耳をすませた。バリバリと何かを踏みしめて走る音、甲高いエンジン音、履帯音。目の不自由な私は、変わりに他の感覚が研ぎ澄まされているようで、耳は結構いいほうだ。パンターの場所の、おおよその見当をつけて進む。予想地点は、先ほど突っ込んでいたパチンコ店だ。
パチンコ店前に到着。敵はやはりパチンコ店から姿を現した。確かにそのエンジン音はこちらのパンターとは似ても似つかぬものであり、加速感も、最高速も全く違った。
「やっぱり幹葉さんの読み通り、ガスタービン試験車なのかな?」
「ですね。旧型ガスタービンを手に入れるだけでも大変だと思いますけど...よくぞここまで手入れしたものですね」
敵は速度を上げて逃走を開始した。追いきれる速度ではないが、様々な武装や連携を駆使して追い詰めていく。機銃で誘導したり、Ⅳ突で道を塞いでみたり...すると敵は諦めたようで、こちらに向き直ってきた。おそらくタイマンがしたいのだろう。
「...受けて立つよ。機動戦なら、負けないからね」
「とにかく車両の優位を活かして、確実に決めていく。それしかない」
ガスタービン試験車のキューポラから顔を出すケータハムは、ひどく疲れていた。というのも、元々ガスタービンエンジンを搭載する設計になっていないパンターは、これを搭載するに当たって様々な問題をねじ伏せてきている。その一つがこの熱害。車内も車外も非常に熱く、それは戦いを続ければ続けるほど顕著なものになっていった。
「前進!懐に飛び込んで!」
「脇を通って大通りへ!」
虎さんチームが道を塞ぐが、それを躱してガスタービン試験車は大通りへ。こういう高速セクションでは虎さんチームのパンターA型改はガスタービン試験車には遠く及ばない。まず格闘戦に持ち込む必要があった。
「クジラさん!応援お願いします!」
「了解。任せて!」
その声とほぼ同時に、ガスタービン試験車の直前にⅣ突が躍り出る。パンターはそれをどうにか躱すが、回転数の落ち込みで著しく速度が低下したところで虎さんチームが追いつく。そして後部をプッシュすることでスピンさせ、強制的にインファイトに持ち込むことができた。
低回転領域ではガスタービン車の良さは半減...いや、10パーセントと活かすことはできない。何とか7.5cm砲の直撃こそ避けているが、ボディの至るところに擦り傷ができていく。もう撃破は時間の問題だった。
その時、ガスタービン試験車の後部から炎。そして白旗。私たちも車両を止めて消火作業に入る。
原因は、エンジンの加熱によるオイルへの着火。戦闘終了直前のパンターのエンジン温度はかなりのもので、陽炎が揺らめいていた。
『吉森工業高等学校、パンター中戦車・ガスタービン試験車、走行不能!よって...』
『アウトバーン女子学院の勝利!』
展開が駆け足になっていることをお許しください。戦闘シーンは元々長く書くのが苦手ですのでこんなものですが...
冬季杯一回戦は以上です。何か説明不足な点等ありましたら、補足しますので気軽に指摘をお願いします。