尚、この作品は設定の特徴上、装甲は硬めに書いています。『いや、その距離じゃ流石に貫通するだろww』とか思ってもまぁ大目に見てください。
「皆さん整備は完了しましたか」
水族館の前に並ぶ3両の戦車。ジャーマングレーに塗られていたその車両たちは純白の雪原迷彩に塗られていた。
「山猫さんチーム、オッケーです!」
軽戦車としては大柄な部類に入るレオパルトは、白色に塗られた事により今まで以上に大きく見える。勇ましく伸びる5cm砲には頼りがいを感じる。
「クジラさん、準備終わったよ」
Ⅳ突には大きな改良が加えられていた。目に付くのは大型のシュルツェン。それに正面装甲の一部に追加されたコンクリート製の装甲、400mmに拡張された履帯幅も相まってより平べったく見える。最後期型のⅣ号突撃砲を模した『Ⅳ号突撃砲 後期仕様』へと改装されたのだ。
「虎さん、砲弾の積み込み完了」
パンターにもアップデートが施されている。問題を抱えていた変速機を改良型とし、顎付きの防盾、車体側面のスカートなどを装備した『パンター中戦車 D型改G型仕様』だ。ハッチや覗き窓はD型のままだが、単純な戦闘能力という点では大きな進化を遂げている。
「...今回は正直、かなり厳しい戦いになると思います。ですが、皆さんの協力があれば勝つことは可能です」
圧倒的戦力差。練度でもあまり差はないし、地の利は向こうにある。おまけに潤沢な資金から整備も行き届いていると考えられるし、厳しくなることは目に見えている。それでもここを勝利しないと次なんてない。私の目的も達成出来なくなってしまう。
「今回は偵察力が私たちの唯一のアドバンテージです。そこを活かして常に敵の先手を取っていきましょう」
「...私たちがカギになるってことですね」
琴音さんが言う。その言葉には責任や不安といった様々な感情が見えた。
「はい。連絡を密にお願いします」
「分かりました。...皆、気合入れて行くよ」
「「はい!!」」
「クジラさんは基本的に後方からの待伏せや援護射撃をしてもらいます。孤立しないよう、すぐに援護を受けられる位置にいるように心がけてください」
「了解。前衛は任せたからね」
会長はポニーテールを揺らして自信有りげに応えた。Ⅳ突は今のところ地味な役回りしかないが、今回はかなり働いてもらうことになるはずだ。
「虎さんはとにかく敵の注意を引きます。こちらに3両のターゲットが絞られた時が私たちの最大のチャンスです。クジラさん、山猫さんは私たちが作ったスキを利用して、まずはIS-3かT-44のいずれかを倒します」
これが私の考えうる最も成功率の高い作戦だ。もちろん隊長車を犠牲にするという点からかなりリスキーであることは言うまでもない。指揮系統の混乱は勿論のこと...自分で言うのもなんだが、作戦立案力の大幅な低下もあるだろう。
「虎さんは十中八九生きては帰れない作戦です。我々が撃破された後の作戦指揮は...会長、お願いできますか」
「...葎花じゃなくていいの?私砲手なんだけど...」
「突撃砲はそんなに連射する車両でも無いですし、普段から指揮に慣れている会長の方が適役かと思いまして...不満でしたら変えますよ」
会長は葎花さんに視線を向けた。葎花さんは何も言わず左手で「どうぞ」とジェスチャー。
「...わかった。出来る限りのことは、させてもらうわ」
「お願いします」
「...その他作戦はその場その場で連絡します。皆さん柔軟に対応をお願いします」
「「はい!!」」
皆の勇ましい瞳。闘士のみなぎった顔つきに、私は少し安心した。敵の脅威に気が滅入っていないだろうかと心配していたのだが、杞憂だったようだ。
「Panzer Vor!」
力のこもった声で、号令するのだった。
「...霧が、出てきたわね」
それなりに年齢を感じさせる顔つきとキツくウェーブのかかった茶髪のロングヘアが特徴の女性。かつて「西日本の戦神」の異名を欲しいがままにした戦車乗り。今は娘の身を案じて観戦に駆けつけた一人の母親。名を三城 葉月と言う。
「そうですね。これがどう勝負に影響するか...」
その横に座っているのはまだ若い女性。まだ20代に見える。短く切られた髪は澄み渡る黒。黒をベースに迷彩色を差したパンツァージャケットを纏う彼女は横井 麗子。指導者として維新中学校を率いている女性だ。
「今日になっていきなり雪原迷彩に変更なんて...この霧を読んでいたんですかね」
「でしょうね。霧はある程度なら予想できるもの...でも、博打だったわね。霧が出なかったら返って目立っていた」
そう言うと彼女は小さく微笑んだ。
「...我が娘ながら、博打打ちなトコロは私ソックリで笑っちゃうわ」
「ですね」
麗子は葉月と共に『源流』を学んだ。10年ほど葉月が先輩だったが、子供ながら葉月のリスキーな戦術には恐怖にも似た感情を抱いていた。そんなところを含め、彼女の魅力ではあったが。
「...そうだ。この前仰ってたアレ、学園艦に送っておきましたよ」
「そう...ありがとう。苦労をかけるわ」
幅広の履帯がアスファルト舗装を踏みしめる。低く構えた3両の戦車は、街に向かって進行中だ。
「今回も1回戦と基本的には同じように行く...まぁ、そう簡単な相手ではないが」
風にツインテールがなびく。T-44のキューポラから顔を出す紀伊は、今回の相手をそれなりに警戒していた。圧倒的性能は持っているものの状況適応力に欠ける我々の戦車は、臨機応変な敵の戦術に翻弄される可能性があるからだ。それまでに敵の隊長の指揮能力には舌を巻くものがあった。
「接敵したらパンターを最優先に狙え。指揮系統を混乱させればこちらの勝ちは揺るがない」
「そうだね。今日もウチらが前衛でしょ?」
「...そうだな。頼むよ」
そう言うと、IS-3がT-44の前に躍り出る。重装甲の戦車を先頭に立てて突っ込む。いつもどおりの開幕だ。
「霧が濃いね。これじゃなかなか前が見えないよ」
予想していたより遥かに霧が濃い。敵の発見に時間を要するかもしれないと考えていた時。
砲声。同時にIS-3の車体正面で激しい音と火花が飛び散る。
「敵発見!2時の方向!」
「フラッグ隠せ!砲撃用意!」
IS-3はT-44の2時に方向に展開。SU-152は車体の右半分をT-44からのぞかせた状態で射撃体勢を取った。
...100mほどの距離。敵が...
「見えた!撃てッ!」
射撃は敵が盾にしていた建造物に吸い込まれた。敵はもう一度射撃すると撤退を開始した。
「...いい判断ね。そのまま戦っても戦力的劣勢で一方的に殴られるだけ」
交差点を曲がり路地に入ると敵の後ろ姿が霧に消える瞬間だった。見たところ3両揃っているようだ。
「機銃掃射」
IS-3が機銃を放つと、霧の中から音が聞こえた。装甲に機銃弾が弾かれた音だ。
「...撃て!」
音と火花を頼りに撃つ。しかし直撃とはならず、その砲弾は遠くの海に着弾し水柱を立てた。
「...まぁいいか。今じゃなくても、いつだってチャンスはある」
その後もアウトバーン戦車隊はじりじりと後退を強いられていた。
「やっぱり強い...IS-3!」
「きついけど...まだやられる訳にはいかないからね」
霧が出る事を見越して現地で雪原迷彩に塗装したのには十分な意味があった。敵がオリーブ色の通常色であるため、発見出来る距離が違うのだ。こちらが一方的に見て撃つ、なんてことも出来ないことはない。
「敵来ます!2ブロック後退!」
敵砲弾は周囲の建造物に当たって爆ぜる。その狙いは少しずつ、確実に良くなってきている。
「...そろそろ仕掛けなきゃ。こっちが先にやられたら作戦が崩壊する...!」
実行しようとしている作戦は、こちらの車両が全て揃っていないとまず成功しない。そのためには兎にも角にも車両を生かしておく必要があるのだ。
「山猫さん、クジラさんはポイントへ移動!」
「了解。虎さんの健闘を祈るわ」
Ⅳ突とレオパルトは建造物の陰に消えていった。
「...皆、行くよ」
無意識に呟いたそのひとこと。それに皆は答えてくれる。
「大丈夫。この霧なら相当の距離までは見られることはありませんよ」
「撃てと言われれば撃ちます。撃ったら絶対、外しません」
「緊張するねぇ...あんなバケモノ相手に大立ち回りなんて」
「兎に角撃破されないように立ち回るから...指示、よろしくね」
「...吶喊!!」
じわじわと濃くなる霧の中、戦練専は尚も進軍を続けていた。前が見えないのはお互い様であるから、建造物の中や木の陰などに十分な注意を払いつつ、ゆっくりと進む。
「...そろそろマップの中央部か。敵もこれ以上下がってはないと思うんだが...」
中央より東側は比較的直線的な道が多く、広場が増える。逆に立体駐車場などは減るため、敵にとって地の利はないからだ。私が相手の隊長ならそうする、と紀伊は考えていた。
「きっと仕掛けてくるぞ。気をつけろ。次の路地、左折...」
その時。
霧をかき分けて、巨体が姿を現した。V-12の空気を震わす鼓動が、さながら虎の唸り声のように聞こえる。
「突っ込んできた!?射撃用意!返り討ちにしてやれッ!」
しかし、その指示をした時には既に敵は懐に潜り込んでいた。鶴翼の陣形を取っていた戦練専戦車隊の中央を突破し、フラッグの後ろで急旋回。こちらの尻を取る気だ。
「まだ...まだ待って...撃てッ!」
パンターの砲が火を噴く。それはT-44の旋回より早く、側面に直撃する。シュルツェンに砲弾が当たって爆ぜる。右側面のシュルツェンがエネルギーを吸収し、弾けとんだ。
「榴弾!?まさか最初からシュルツェンの破壊を狙って...」
パンターは速度を上げ、T-44の側面を通過した。
「こちら二号車!フラッグが射線上に居て撃てない!」
「クソッ、盾にしてるのか!」
IS-3からの射撃は望めない。SU-152は固定砲塔であるため、移動目標への射撃はもとより不得意だ。撃破を望むのは無茶というものだろう。
「パンターを追え!集団から追い出したら追い回してオシマイにしてやる!」
IS-3の左側面を通過したパンターは、そのまま集団を脱出して逃走を開始した。T-44の射撃は見当違いの場所に着弾してしまう。
「チッ...これだから100mm砲のままで良かったんだ!122mmなんてコイツに積むにはデカすぎる!」
先日の改装でT-44は得物を100mm砲から122mm砲へと換装していた。100mmでも照準がブレて当てにくかったというのに、指導部からの指示で122mm砲を搭載してからは、それが更に顕著なものになっている。
パンターは路地を右折した。IS-3を先頭に立てて、戦練専もそれに続く。
ちょうどゆめタワーを直上に望む路地だ。パンターは立体駐車場に進入した。当然、我々もこれを追う。
「よし、追い詰めた!」
IS-3は入口で停止し、パンターに狙いを定めていた。
「待て!周囲を警戒して...」
その時、SU-152の正面を砲弾が叩く。この先の交差点に潜んでいたⅣ突からの砲撃だ。
「チッ...あっちは2両で叩く!二号車はパンターを食ったら追ってこい!」
「了解...撃て!!」
パンターは予定通り撃破できた。砲塔とボディの隙間を狙った完璧な砲撃だ。
...しかし、キューポラから顔を出している少女は。
「...何故、笑っている...!?」
直後、無線から声。
『上だ!』
乾いた音と共に、IS-3の上面に砲弾が叩きつけられる。
『アウトバーン女子学院、パンター中戦車。戦練高等専門学校、IS-3重戦車、走行不能!!』
今日、リボンの武者を買ってきました。タンカスロンを書くのも面白そうだなーなんて思ってます。番外編か何かで書くかも。