ガールズ&パンツァー 独眼車長の奮進   作:綾春

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ブリティッシュ・スナイパーです!

激しい金属音と火花。鉄粉が風に舞い、灰色の空に消えてゆく。深い黒、長身の戦車。ブラックプリンス歩兵戦車は、激しい砲撃を浴びながらもゆっくりと前進していた。

 

「...また待伏せか...足が遅いのも考えものだな」

 

歩兵戦車はその鈍足故に戦況の変化に置いていかれがちだが、冬季杯ではそれが顕著に出ている。1回戦はイタリア豆戦車を主力とするカレン商業だったが、敵の機動力についていけず決め手に欠けていた。やはり抜本的な改革が必要なのだろう。

 

「路地左折。逃げるぞ」

 

ブラックプリンスは射撃の間隙を縫い、速度を上げて路地を左折。追撃しようとするヘルキャットに後続のチャーチルが牽制を入れてブラックプリンスに続いた。

 

 

言うなれば、ブリテン高校は劣勢だった。お互いの火力はほぼ同等。モニュメントバレーは機動力に優れ、ブリテンは装甲に優れる。逆に言えばモニュメントバレーは装甲が薄く、ブリテンは足が遅い。

市街地戦である冬季杯では、機動力が重要視される。陣地転換のしやすさや射線の通しやすさ、逆に射線の通されにくさや遮蔽の取りやすさなど、様々な利点があるからだ。

 

「となると、敵の先の先...いや、もっと先を取らないといけないか。バーバリー」

「なんですか?」

「...ちょっと、難しいことを頼んでもいいか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...次はここを通るはず。少なくとも、私ならそうする」

立体駐車場の2階。遮蔽を取って少し遠くの路地を狙っている。敵が逃げた方向、目的地にするであろう場所などから推測するに、ここが一番狙いやすいポジションのはずだ。

「火力はどっこいなんだけど、速度差があるからね。こうやって陣地転換しながら砲撃し続ければ安全...ってことだよね?」

「...はい。こちらは比較的軽装甲ですから、狙われない立ち回りが前提になってきます」

別働隊として斥候に出ているチャーフィーが敵を視認したら、その情報を元に未来位置を押さえる。そしてやってきた敵を攻撃して移動。それが今取っているスタイルだ。

「でもやっぱり、そろそろ見破られちゃうんじゃない?」

キャセロールの心配ももっともだ。こちらが未来位置を予測して陣地転換している以上、相手はこちらの思考を読んで更に一手先を取ることもできる。

 

「敵、見えました。チャーチル2両だね。フラッグは別行動みたい」

「...フラッグを別行動にする意味が分からない...でもまぁ、出てきた得物は食って損しないだろうし。目標、先頭チャーチル。射線が通り次第発砲自由」

 

チャーチルが見えた。同時に発砲煙が二つ。砲弾は貫通し、撃破判定が出る。

 

「移動しよう。次の場所はE-22地点...」

 

その時、爆ぜる音と共に後続のヘルキャットがエンジンから火を吹いて行動不能となる。

 

「...な...っ!?射線は通らないはずじゃ...!」

 

ヘルキャットに砲撃を当てるためには、少なくともビルを貫通させる必要がある。もちろんそんな貫通力は砲弾にはないし、仮に貫通できたとしても立体駐車場に受け止められてしまうだろう。

「...もしかして」

ハッチから大きく身を乗り出して、砲弾の飛来した方向に注視する。すると、ビルの窓のうちの一つが割れていることが確認出来た。

 

「...まさか、向かいの駐車場から窓を抜いて...!?」

 

そんな技、全国大会でも見たことはない。サンダースのナオミ、プラウダのノンナ、大洗の華の全国大会3強でさえも、そんな芸当は成し得なかったのだ。

 

「...どんな技術なの...」

驚愕していると、いつもは寡黙なジャンバラヤが口を開いた。

 

「...クルマ、停めてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「動くぞ。そこ降りて」

チャーチルの長大な履帯はそもそも塹壕やクレーターを乗り越えるためのものだ。それ故に走破性能は高く、チューニングにより向上したエンジンパワーも相まって段差に対する耐性は非常に強い。それを活かして段差を降りようとした時に、砲塔正面で砲弾が爆ぜる。

 

「...同じことをやり返してきたのか...向こうもバケモノだな」

 

しかし防盾は頑丈だ。本体はビクともしていない。予定通り段差を降りて、別の射撃地点へ移動する。

 

 

 

『機動力』とは、それすなわち最高速度ではない。旋回性能や走破性能を含めての機動力だ。その点ブラックプリンスは非常に優れた機動性を持っていると言えた。チューンナップによりギヤ比が変更され、低速域でのトルクが増している。これにより優れた加速力を持ち、登坂性能も高い。幅広の履帯は旋回性能にも寄与しており、下手な高速戦車よりも『速い』のだ。

ブラックプリンスは段差を上り、立体駐車場の2階へ。同じことを別の場所でしようとしているのだ。

 

「2号車、どうだ」

「...見えました。敵チャーフィー、E-28地点」

「了解。下がっていいぞ」

 

射線は通っていない。しかしながら、たった一本だけ、射撃が通せる場所がある。

そう、窓だ。窓を貫くことで貫通力の減衰を最小限に抑えて狙撃ができる。その他にもシャッターなども貫通させやすく減衰しにくい。

 

17ポンド砲が吠える。チャーフィーの側面に直撃し、吹き飛んで壁に叩きつけられた。

しかしながら、それと同時にこちらのチャーチルの側面にも17ポンド砲が撃ち込まれ、撃破判定が出てしまう。

 

「...もう私たちだけになったな」

「ええ」

静寂。ベドフォード製の二機のV6エンジンが調和して唸るだけの空間に、冷たい風が吹いた。

 

「...降りようか」

 

ブラックプリンスはエンジンを唸らせて路上へ降り立った。敵の残存、ファイアフライを仕留めるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

「相手はきっと路上を進軍してくる。だから私たちは上から攻めよう」

根拠はある。ブラックプリンスは車体が大きく隠しにくいことや、装甲という利点を活かすため、または機動力に勝るこちらを牽制するためにスペースの広い路上に居たいであろうと踏んでのことだ。

 

最終射撃地点を離れて、ゆめタワーの下、陣地の中にファイアフライを停車した。ここは目の前が広場で射線を通しやすく、高台のため見渡しやすい。左右がビルで遮蔽になっているのも利点だ。

 

 

静かな空間に空っ風が吹く。曇天の空は灰色から白に色を変え始めていた。

 

 

ブラックプリンスがやってきた。遥か遠く、正面を晒してこちらを睨んでいる。

 

双方の砲が吠える。ブラックプリンスの砲はファイアフライの少し前、斜面に。ファイアフライの砲はブラックプリンスが車体を傾けたために弾かれた。

 

「...突っ込んでくる...!?」

 

撃てども撃てども、側面で、砲塔で、正面で弾かれる。これが歩兵戦車の装甲。大戦末期まで最前線で戦った重戦車だけはある。

 

 

 

「行くぞ、夏紀の妹!お前の腕を見せてみろッ!」

 

「...負けるもんか、いや勝つ!!」

 

 

ファイアフライは前進をかけた。ブラックプリンスの17ポンド砲は緊急被弾経始で弾かれる。

 

距離が縮む。ほぼ同時に放たれた砲弾は、お互いの頬を掠めた。

 

 

ファイアフライがドリフトで懐に飛び込む。ブラックプリンスもそれに追従して旋回する。

 

煙と火花。激しく躍る二両は、爆音と共に黒煙に包まれた。

 

 

 

 

 

 

乾いた音と共に、撃破判定が出る。

 

「ブラックプリンス歩兵戦車、走行不能。よって、モニュメントバレー田園高校の勝利」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

公用車のマウルティアに一人乗り込み、夏紀が向かった先はブリテン高校の学園艦。先ほどヴィヴィアンさんから届いたメールに従いやってきたのだ。

ぱたぱたと音を立てて走る。洋風な町並みだが所々に日本らしさの混じる、異端的な雰囲気だ。そんなことを考えていると、アスファルト舗装の道路がレンガ造りに変わる。艦橋に近づいてきたからだろうか。

 

マウルティアを停めて艦橋に足を踏み込む。ミルクのような香りの漂う空間に少しくらっとしながらも、エレベーターに乗り込み、上層階へ。

 

扉が開くと、そこは赤と白、そして金で彩られた豪華絢爛な部屋。マンガの中でしか見たことがないような、玉座や天蓋付きのベッドが鎮座している。

「いらっしゃい。待ってたよ」

どうぞ、とジェスチャーするヴィヴィアンさんに促されて椅子に座ると、彼女は私に紅茶を一杯注いだ。

「いきなり呼び出してすまない...私自身、なんで呼び出したのかイマイチ理解していないんだけどな」

礼儀正しい彼女は珍しく、肘を立てて紅茶をすすっている。

「...すまない、困らせてしまうような事を言ったな。きっと、ただ話したかっただけなんだ」

彼女はカップを片手に椅子から立つと、窓枠に腰掛けて足を組んだ。彼女の後ろに広がる満天の星空は、きっと彼女の心とは正反対の情景なのだろう。

 

「...私はずっと、夏紀と戦うのを楽しみに冬季杯を戦っていた。でももう、叶わなくなってしまったな」

横顔しか見えないが、その顔は少し哀愁を帯びていて、なんだか私も悲しくなった。勝者の裏には敗者がいる。自分もそれには紙一重なのだと、今まさに実感した。

「また、戦いましょうよ。まだ引退には早いですよ」

そう言って紅茶を啜る。香り高く、フルーティーな味だ。

 

「...私はもう戦車には乗らないよ」

 

「...えっ?」

 

彼女の言葉に耳を疑った。まだ引退までは少しある。その間に練習試合でも組めればと思ったのだが...

 

「決めていた事だ。決勝まで登れなかったら、私は今日引退しようと」

 

彼女の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。未練はある。でも、決めたことだから。そんな葛藤が、彼女を苦しめているのだろう。

 

「...握手、しましょう」

 

振り向いた彼女の瞳から、ひとしずくの涙。月の明かりに照らされ、輝いて落ちた。

 

手と手が触れる。彼女の冷たい手が、じんわりと暖かくなってゆく。

 

 

「...ありがとう」

 

彼女は、私を強く抱きしめた。




今回はモニュメントバレーVsブリテンの戦闘をメインに、ヴィヴィアンを主役に据えて書いてみました。

そろそろ冬季杯編も終わりが近づいてきました。盛り上げれるよう頑張りますので、よろしくお願いします。
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