決勝戦、二話目です。今回は機動戦、車両をぶつけ合い、火花が飛び散るような戦闘を多く描いています。
コンクリート片が飛び散り、埃が舞う。視界は灰色に染まり、敵戦車は辛うじて視界に捉えられる程度にしか見えない。
そんな危険な状況においても、戦況を見極めるべくⅣ号J型のキューポラから顔を出す葎花は、顔を塵に汚しながらもしっかりとチャーフィーを見据えていた。
「敵、3階に上がったよ!奇襲に注意して!」
チャーフィーがどこから降りてくるかは分からない。軽量で高速、それでいて砲火力に優れるのはアメリカ車の特権。こういう視界が効かず、更に起伏の激しい戦場での戦闘は余りにも不利だ。
「...上!」
塀を壊して身を乗り出し、3階から2階を狙撃しようとしているチャーフィーを発見した。車両を傾けて、砲塔側面のシュルツェンを晒す。するとチャーフィーは射撃を止め、下がっていった。
「無駄弾は撃ちたくないってことか...じゃあ、こっちから行こうか」
Ⅳ号は移動を開始する。受身の戦いをやめ、攻めに移ろうというのだ。じゃりじゃりとコンクリートの破片を踏みしめて、後期生産型の太い履帯が回転を始める。
「Ⅳ号は短期決戦がしたいみたいね。じゃあ...乗ってあげようか」
キャセロールの指揮で、チャーフィーはⅣ号が来るであろう方向に旋回し、移動を開始。すれ違いざまの一撃に勝負をかける。
塵をかき分けて二両の戦車が疾駆する。音だけ。音だけが霞む視界の向こうから聞こえてくる。コンクリートを踏みしめる音。履帯がパワーを伝えきれず空転する音。エンジンが最大出力で唸る音。
さほどの速度は出ていない。しかしながら視覚的閉塞感で体感速度は3倍にも4倍にも膨れ上がる。
灰色の膜を突き破って、Ⅳ号が正面に現れた。
「回り込んで!」
「撃てッ!」
二人の車長の号令は、正反対のものだった。Ⅳ号の砲撃はチャーフィーの僅かに横を通り過ぎた。チャーフィーはⅣ号の後ろに回り込み、確実に仕留めるつもりだ。
火花と煙。チャーフィーの履帯がコンクリートと擦れ合い、激しい光を放つ。
「...もらった!」
その時。チャーフィーは履帯を停止させたが、減速する気配がない。履帯がスリップしているのだ。
「な...何!?」
慌てて地面を見ると、そこには2枚の金網。それが履帯の下に入り込んで摩擦係数を減らしているのだ。
予定より多く滑ったチャーフィーは射撃をⅣ号に命中させることに失敗した。ここに留まることは危険だと判断したキャセロールがチャーフィーを走らせ、立体駐車場を脱出する。
「...私たちも追おう。逃がしたらいけない。そんな気がする」
「停止!」
火花を散らしながら減速をかけるレオパルト。その直前を90mmの砲弾が掠めていく。レオパルトは軽戦車の中では良好な装甲性能を持つが、そうは言っても軽戦車。90mm砲などどこに当たっても貫通だ。
「やっぱりすごい...駆逐戦車だけあって、命中精度が段違いだね」
M18はオープントップの回転砲塔を持つアメリカの駆逐戦車だ。それに大型の蓋付き砲塔90mm砲を搭載したものがこのスーパーヘルキャット。70km/hを超える速度を発揮でき、搭載砲は90mm砲。装甲は紙ほどもないものの、総じて優秀な性能を持つ。
「でも...攻略法はある。あの俊足の猫を捉えてみせる」
「...すばしっこいねえ」
人のことを言えたものではないが、レオパルトの機動力は流石だ。パンターの足回りを周到した大型の脚と大出力のエンジンは、その25トンほどの車体を軽々と動かす。
しかし、その機動力はこちらの方が上だ。レオパルトを中心に半円を描くように不規則に動き、遮蔽を取りながら射撃。先ほどからこれを繰り返している。相手もこちらの動きを読み始めており、反撃をもらう回数が増えてきた。遮蔽が取れているため直撃はしていないが、そろそろパターンを変える必要がある。
その時、二号車から無線が飛び込む。
『こちら二号車!Ⅳ号に追われてまーす!』
「...救援に行くべきか?いや、難しいか...」
Ⅳ号は車体機銃を持っている。たった1.2cmの装甲では、当たり所によっては貫通しかねない。遠距離からの支援射撃に限ってなら可能だろう。
「こちら三号車。E-20地点におびき出してくれれば援護が可能だよ」
『了解ー!やってみまーす!』
「...それまでどうやって時間を潰そうか」
次の展開を考えようと思っていると、レオパルトがこちらに突っ込んできた。既に反撃出来る距離にはないため、回避行動に移る。エンジンを吹かすと、履帯が地面を蹴って急発進。レオパルトの側面に展開し、時計回りに旋回。相手の旋回が間に合っていないうちに離脱を図る。
しかしレオパルトは予想外にも軽い体当たりでこちらの姿勢を崩しに来た。ドッグファイトに持ち込むつもりだろう。トルティーヤは心の昂ぶりに任せ、戦略を変更する。
「...相手にノってやろう。装填と操縦、気合入れていくよ!」
「はい!」
ぐるぐると回りながら、砲撃を交わしていく。どちらの砲撃も加減速で回避され、決定打はなかなか出ない。
「...撃て!」
レオパルトの砲撃は背後の建造物を崩した。ヘルキャットの行く先を塞ぐ狙いだ。しかしヘルキャットはその瓦礫の山を登って見せる。
「...なんて登坂力...すごい」
ヘルキャットとレオパルトの履帯が擦れ合い、火花を散らす。それほどまでに近く、それほどまでに激しい戦いが繰り広げられている。
星型エンジンが不協和音にも似た音を奏でて出力を上げる。ドリフトしながら砲をこちらに向けるヘルキャットに対し、斜めの角度を取って着弾に備える。
発砲。激しい衝撃と炎に身をすくめたが、レオパルトのボディを衝撃が襲うことはなかった。寿璃は安堵したが、すぐにその安堵が間違いだったことに気がついた。
『クジラさんチーム、走行不能です!』
その報告にハッとなって振り返ると、ヘルキャットの90mm砲は通りすがるⅣ号の側面―――それもトーマ・シールドを吹き飛ばされた一部分をピンポイントに貫いていた。今のは外したのではなく、狙ったのだ。
しかし、ヘルキャットはその間スキだらけだ。一度下がり、距離を取って発砲すると、容易に撃破することができた。
『モニュメントバレー田園高校、スーパーヘルキャット、走行不能!』
「どう見ます?この勝負」
「そうだね...お互いにM4が1両と随伴の偵察戦車が1両...どれだけ偵察を上手く扱えるかで勝敗は簡単に動くよ」
あずき色のⅣ号戦車のキューポラから顔を出す少女、西住みほは戦況をそう分析していた。チャーフィーもレオパルトも非常に優秀な偵察戦車であり、その偵察をどう動かすか、三城姉妹の隊長としての手腕が試される戦局であり、敵の数が少ないがゆえに慎重な駆け引きが求められるだろう。
「...それにしても、二人共面白い戦い方をするね。ぶつけたり、傾斜させて砲撃を弾いたり」
「源流っていうのはそういう流派らしいですよ。なんでも機動戦に特化した高速戦闘専門の流派なんだとか」
くるくると毛先の遊んだ少女、秋山優花里は調べた情報をみほに伝える。するとみほはまるで戦闘狂のような、狩りをする肉食獣のような、好奇心をむき出しにした顔を見せた。
「...一度戦ってみたいな」
「機会はいくらでもありますよ、きっと」
決勝戦は折り返し地点を迎えていた。残存は互いに2両だ。
決勝戦は中盤戦です。次回かその次くらいで決着がつくかもしれませんね。
今回は少し内容が薄かったかもしれません。次頑張ります。