時間が取れたので二話連続投稿です。前話を読まれていない方は是非前話からどうぞ。
銀色の戦車が、とんでもない速さでダム湖の外周を回る舗装路を走っている。その速度は75km/hに迫ろうかというもので、とても大戦中の戦車とは思えない。それは単に彼女たちの思い入れが成せる技である。
「...源流、かぁ」
源流は、三城姉妹は、私の憧れだ。消滅寸前の小規模流派を、たった一年で西住流や島田流とまではいかないまでも、大流派と肩を並べる存在にしてしまったのだから。
しかしながら、見島流が源流に劣っているとも思わなかった。戦いの影にちらほらと見える、アラやミス。『私ならここはこうする』といった箇所が何箇所もあった。
「だから、勝って誇りを取り戻すんだ」
小さな流派だろうが、ネームバリューがなかろうが。『強さ』を顕示することで、再び大舞台に昇ることが出来る。
「私たちは...」
...私たちは、勝つことが使命だ。
「敵はクロムウェルのMk.Ⅴです。火力は恐らくこちらより上、機動力も、装甲も、出力重量比も厳しいですね」
「どこを突いたものか...」
正直な話、このクラスでタイマンとなると、装甲厚はあまり関係がない。結局クロスレンジでの撃ち合いになるだろうし、どちらかというと機動力が重視される。
「その点、このルールは源流にとって有利な条件ですよね」
1対1、こちらのホームステージ、機動力重視。私たちにとって不利な条件は殆どないと言っても過言ではないだろう。
「...ただ、車両性能差がキツいですね。同じ機動力をウリにする戦車で、相手が完全に上位互換となると...」
「兎に角真っ向から殴りあうのはダメだね。回り込んだり、待ち伏せたりしないと」
「...車両を隠しましょう。そこの岩陰に停めてください」
少し盛り上がった岩の陰。Ⅲ号を停車させると、砂や枝、葉を被せて偽装する。ともかく敵の動きが知りたい。こちらの動きを悟られぬように、相手の動きを大まかにでも察知できれば...
「...ヘッドライトの光かな。かなり遠い...ダム湖の方だ」
「動きますか?今のうちに有利な陣地を取ったら...」
「それも多分、相手は計算ずくだと思う。だからあえてここで待つ。一方的に撃てる状況を作ってから交戦しよう」
風に、森がざわめく。黒い陰に埋め尽くされた森の中は、如何なる光も通さない、夜の闇だった。
「これなら気づかれる事は無いだろうが...相手がどこにいるのか分かんねぇからなぁ」
クロムウェルは先ほどとは一転、ライトを切って、低速で森の中を進んでいた。ライトOFFでは木や段差が見えず、飛ばすのは危険だからだ。ライトを切っているのは、勿論発見されるのを防ぐため。
「ともかく、予定地点はそろそろだ。警戒しとけよ」
キューポラの上に立ち上がり、舞花は周囲の確認をする。ミーティアの軽快なエンジン音以外に音は聞こえない。光も見えないし、不自然に盛り上がった地面や人為的に折られた枝なども見受けられない。
「...予定地点に到着、かぁ...いないな。やっぱ見透かされてたか」
狙撃に適した地点を狙撃出来る地点。見島流がまず押さえるポイントだ。狙撃地点を押さえるよりも効果的であるからだ。しかしながら、相手も歴戦の強者。そのくらいはお見通しだということだろう。
「...ん?あれは...」
遠くに、一瞬きらりと輝いた何かが見えた。双眼鏡を覗くと、そこにはこちらを同じく双眼鏡で見る敵車長の姿。
「見つけた!砲撃用意!」
砲塔旋回。あちらも遮蔽になっている岩を盾に撃ち合いを演じるつもりだ。
こちらは稜線を使ったハルダウン、あちらは岩を使ったハルダウン。お互いに弱点を撃ち抜くことが出来ない。
「...じれってえ。突っ込むぞ!」
しびれを切らした舞花は、突撃をかける。
「こいつの機動力なら当たりゃしねえ!キッチリ蛇行しろよ!速度落とさずに!」
急斜面を蛇行しつつ下る。当たり前のように披露しているが、これも難易度の高い技術である。
「突っ込んできたよ!」
「...仕方ない。合図で飛び出して!機動戦に持ち込もう!」
今から逃げても間に合わない。背を向けるのは避けたいから、増加装甲の活かせる機動戦に持ち込むことにしたのだ。
「...今!」
Ⅲ号は急発進。枝や葉を撒き散らして、岩陰から飛び出す。
「撃て!」
5cm砲と75mm砲が同時に火を噴く。5cm砲は砲塔正面で受け止められ、75mm砲はⅢ号の正面装甲に施されている追加装甲が辛うじて受け止めていた。
2両は反転して再び組み合う。砲が火を噴き、履帯が火花を散らす。アスファルトにくっきりと履帯の跡を残しながら、2両はまるで踊るように撃ち合う。
その時、クロムウェルが見当違いの場所に砲弾を撃った。何か戦術的意味があるものだと思い、そちらを向いたスキに、Ⅲ号の後方をクロムウェルがドリフトしつつ、ベサ機関銃を掃射しながら通過、それを追従すべく砲塔と車体を旋回させるが...
「間に合わない...!」
「...いただき!」
クロムウェルの75mm砲が火を噴いたとき、Ⅲ号の砲塔からは白旗が上がっていたのだった。
敵の大将車、Ⅱ号戦車が開始地点につくまで、私はひとりで昔のことを思い出していた。いつも道場破りをする時は、待ち時間にこうして過去を振り返ることにしている。
...私がまだ、小さかった頃の話だ。とは言っても、小学生であったが。
見島流の門下生として育てられていた私は、熱心に師範である親の指導を受けて、自分で言うのも何だが実力のある車長になっていたと思う。
そんな時、『西住流の門下生』を名乗る高校生たちが、見島に乗り込んできた。そして突然試合を申し込んだのだった。しかし、こちらは私たち子供を含めて動く戦車はたった3両。相手は10両を投入してきた。
勿論勝てるワケもなく、一方的な負けで試合は終わった。そして彼女たちは見島流の看板を剥ぎ取ると、私たちの目の前で真っ二つにしてみせたのだ。
『こんな弱小流派、流派を名乗る資格もないわ』
その言葉を私は忘れない。奴らに対する復讐心が、私を駆り立てているのだ。
「...負けない。アタシは負けられない」
見島流の誇りを守るために。一度は奪われた誇りを取り戻すために。
戦うんだ。戦わなくてはいけないんだ。
アラームが鳴る。握りこぶしを解き、リラックスして。
「...行こう」
けたたましい音と共に、地面を蹴る。
『源流』と『見島流』。互いのプライドを賭けた大一番が始まろうとしていた。