またまた同日2話投稿です。前話を読まれていないからはそちらを読んでから読まれることをおすすめします。
山口駅。恐らく県庁最寄駅の中で最も小さいであろうこの駅は、鉄道ファンならきっと堪らないであろう光景があった。
K2型蒸気機関車とC57 1蒸気機関車が2番・3番ホームに並んでいる。K2型蒸気機関車は知波単学園のもので、C57 1蒸気機関車は『SLやまぐち号』として運行されているものである。
「山口へようこそおいでませ。アウトバーン女子学院隊長の三城と申します」
「手厚いご歓迎ありがとうございます。知波単学園の西と申します」
互いに固く握手を交わす。礼儀正しい人だとは聞いていたが、確かにその通りのようだ。彼女が深々と頭を下げるから、私もしっかりと頭を下げておく。
「今回の戦闘区域はこのあたり一帯です。今日は下見をされては如何でしょうか」
「良いのですか?ありがとうございます、でしたらお言葉に甘えて」
西さんは近くにいた隊員...玉田さんを呼び止めると、その旨を隊員に通達するよう指示した。流石この辺は出来る女性である。
「私、恥ずかしながら突撃ばかりでまともな戦術を考えたことがございませんでした。まだ不器用な戦術ですが、ご期待に添える戦いが出来るよう努力させて頂きます」
「いえ、私こそ。正々堂々、よろしくお願いしますね」
再び固く握手をすると、西さんは駅前ロータリーに隊員が回したトヨタAA型乗用車に乗り込むと、小さく会釈をして走り去っていった。
アウトバーン戦車隊のうち、今回の練習試合に参加するメンバーは、ファミレスに集まっていた。
「さて、今回の作戦は皆の案が聞きたいんだけど...どうだと思う?」
知波単の戦いは未知数。練習試合では『強い』という印象しかなく、映像を見返しても神出鬼没で何が何だか。
「兎に角敵を先に補足して、先回りして...じゃないかな」
舞花が手を挙げてそう言う。確かに一理ある。市街地で追撃戦は、相手に挟まれる危険がある。受身の姿勢で戦うほうがやりやすいだろう。
「市街地戦は待ち伏せがやりやすいですからね。逆に言えば知波単の得意分野でもあるかと」
対大学選抜戦では大洗の八九式との共闘で待ち伏せと接射を繰り返してパーシングを翻弄した。あれをされると辛いものがある。
「でしたら、2両以上でまとまって行動するべきでは?お互いをカバーし合えば接射も防ぐことができます」
華蘭さんのその意見も最もだ。2両を同時に仕留めるのは至難の業。2両でまとまっているだけで、相手の大立ち回りを防ぐ効果があるだろう。その点大学選抜は連携が足りていなかった。
「じゃあ、偵察隊と本隊に分けて戦うべきかと!」
寿璃さんが言う。彼女たち山猫さんはどっちみち偵察に出してチームの目として使うつもりであったから、彼女が乗り気なのはいい事だ。
「...では、こうしましょう。パンターとクロムウェル、レオパルトとクルセイダーの2両小隊を編成、Ⅳ突は後方支援をしてもらいます」
「成る程。主力・偵察・支援の3つに分けるんですね。でも、戦力の分散はあまり良くないのでは?」
「だから、連携力が必要になるんです。小隊として個々に動きつつ、一つの部隊として連携する。離れすぎず、カバーしあえる範囲で行動する。これが必要になります」
難しい話だ。更に言えば結成して間もない私たちでは不可能に近いかも知れない。しかし、個々の能力は確かにある。何とかなるのではないかと考えた。
「では、それぞれの小隊を、『カニさん』『ヒツジさん』『サソリさん』と呼称することにします。...難しい作戦ですが、何とか纏めるので頑張って付いてきてください」
「「はい!!」
皆の笑顔。やる気と自信に満ちていた。不安な顔などどこにもない。ただ信じ、ただ戦ってくれる。...つくづく、私はチームメイトに恵まれている。幸せな隊長だ。
「...頑張ろうね」
砂煙の舞う広場。ここは山口市街地の奥にある採石場だ。練習試合のスタート地点になっている。近くにはダム湖と峠道がある。...が、まぁこの周辺で戦うことはないだろう。相手の戦法から考えても、交戦は主に住宅街などの市街地になる。
「兎に角連絡を密に。お互いの位置を把握出来なくなったら勝ち目はなくなります」
空に赤い花が咲く。信号弾、開戦の合図だ。
「...行きましょう。パンツァー・フォー!」
5両の戦車が、砂利を蹴って進み始める。部隊から飛び出して先行したのはヒツジさんチームの2両、クロムウェルとレオパルトだ。
「ヒツジさん小隊は先行してSG地点付近まで偵察をお願いします。接敵した場合はすぐに退避を」
『ヒツジ、了解!行くよ、海荷ちゃん』
『分かってます。頑張りましょう』
ヒツジさん小隊は椹野川の川沿いを全速で下っていく。どちらも速く、巡航65km/hほどだ。
「どの辺りで接敵しますかね?」
海荷の問いに、寿璃は少し首をひねってから
「そうだね...SG地点までは行けないと思う。行けて精々SG-82地点くらいじゃないかな」
川沿いから離れて旧国道へ。大学前を通過して国道との立体交差周辺にたどり着いたとき。
「...居た!敵発見、九五式軽戦車!多分斥候だと思う!」
『了解。他に敵影は見えませんか?』
寿璃と海荷は体を大きく乗り出して周囲を見回すが、敵戦車の存在は確認できず。
「...居ないみたいだよ!」
『分かりました。発砲を許可します。敵本隊と合流する前に仕留めてください!ただし、何処かに誘い込もうとするような挙動には十分に注意してください。生き残ることを最優先に!』
「了解。何とかしてみるよ。...行くよ、海荷ちゃん」
九五式は速度を落とすことなくこちらに接近してきている。こちらも速度を乗せたまま近づいていく。
「「...撃て!」」
射撃。九五式は減速してそれを躱す。九五式の37mm砲も極至近で発砲されるが、相手は車体が激しく揺動していた。狙いは外れて陸橋の橋脚に当たった。九五式は引き返さず立体交差を通過。こちらも追撃のために引き返す。
「敵は東へ逃走中、こちらから本隊方向へ追い込む!」
『了解です。こちらも速度を上げて合流を目指します』
行進間射撃では当てるのは難しい。こちらの本隊と挟み込むことで撃破を目指す。
「こちらヒツジ。本隊は今何処に?」
『本隊はYC地点前です』
「だったらすぐに到着します。射撃用意を!」
...捕まえた。そう思った瞬間の事だった。
隣を走るクルセイダーの砲塔後部で砲弾が爆ぜる。ほぼ同時にクルセイダーからは白旗。
「な、何!?何処から!?」
見えない。敵などいない。どこからの射撃なのか、全くもって分からない。前方の九五式はスピンターンで方向転換し、そのまま田んぼに突っ込んで退避を始めた。こちらは位置不明の砲撃への恐怖から、九五式を追跡することが出来なかった。
「...こちらヒツジ。クルセイダーが撃破された!本隊に合流するね!」
『...いったい何処から...了解しました』
「...上手くいった」
旧国道にかかる橋の上。そこには角ばった砲塔の日本戦車。
75mmの凶弾は確実にクルセイダーの後部に直撃し、撃破した。私たちが新生知波単の初撃破だ。
『ナイス下村!引き続き狙撃を頼む!』
「了解です。誘導をお願いします」
アーチを描く橋の、敵チーム側から死角になる車線に退避する。先ほどはここで待ち、前進して狙撃した。次はどちらへ向かえばいいのだろう。
「...じゃんじゃん来てくれないと、面白くないよ」
自信に溢れる瞳が、獲物に飢えた狼のような目に変わる。
「狙撃出来るとしたらこの橋の上...ここ以外じゃ無理だと思う」
地図を見ながら緊急の作戦会議。こうしている間にも敵は陣地形成を進めているわけだ。時間はない。
「私も同意見だね。でも、そうだとしてどうするか...」
「ここを陥落させない事には勝利は無いから...せめて相手の車種が分かれば」
幹葉さんが唸る。知識のある幹葉さんでも、絞りきるのは無理らしい。
「...狙撃要員として使っているということは、恐らく軽装甲な戦車なんだと思う。そして高火力...だとすると、砲戦車とかかな」
ホニⅢ、ホイ車などだろうか。その快速具合から推測するに確実に重戦車ではない。それでこの火力であれば、恐らくそうだろう。だとすれば。
「...山猫さんは別動で橋の敵を撃破してもらいます。こちらで敵の攻撃を引き付けますから、そのうちに橋に駆け込んで撃破を狙ってください」
「了解。そうと決まれば早速動くよ」
レオパルトは住宅街へと入っていき、バイパス道路を目指す。こちらはじわじわと前進し、橋の敵の注意をこちらに引く。
敵がいると分かっている場所へ向かうのは怖いものがある。しかも相手はこちらの正面装甲を垂直に叩ける位置にいる。下手すれば一発で貫通だ。
...正面装甲の先を、角度をつけて晒すと、敵は撃ってきた。装填の間に撃ち込んでやろうと前進するが、敵は既に遮蔽をとっている。何度もそんな堂々巡りを繰り返すが、チャンスはやってこない。だがそれでいいのだ。本命はそろそろ到着する。
『こちら山猫、バイパスに到着!』
「こっちもいつまで持つか分からないから、早めに仕掛けて!」
『おっけー、行っちゃうよ!』
レオパルトはエンジンを唸らせて疾駆。最高速まで速度を載せて橋へ。
『...あれ?』
...だが、何か様子が変だ。
直後、砲弾が放たれる轟音と、地を揺らす爆音。着弾の音だ。
『うひゃー危ない!相手は回転砲塔持ちだよ!多分中戦車!』
「...回転砲塔...サイズはどのくらいですか?」
『うーん...パンターより一回り小さいくらいだね』
パンターより一回り小さく、中戦車。火力から推察するに75mm砲以上のクラスだ。となると、四式か五式。サイズがパンターより一回り小さいということは、同クラスの五式は違う...
「...チト車か!」
「ですね。敵の新型はチトだったんだ...」
四式中戦車チト。高い対戦車能力を求めた日本軍が生み出した高火力・高速の中戦車だ。装甲こそ並みであるが、その火力は日本車の中では高く、バランスよくまとまった車両だと言えるだろう。
「...作戦を立て直します。山猫さんももう一度合流を」
『了解、すぐ行くよ』
戦局はアウトバーンの不利から始まった。ここからどう戦うか。隊長の手腕が試される。
知波単の秘蔵っ子の正体はチト車...まぁわかりますよねw
本当はチリ車と迷ったんですが、チリ車は番外編『ダスト・ウォー!』(novel.syosetu.org/76439/2.html)で出したので、チト車にしました。