ガールズ&パンツァー 独眼車長の奮進   作:綾春

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間隔が空いてしまいましたが、VSバラトン水産の練習試合、開幕です!


デルタ攻略戦です!

萩市街地。風情ある白壁の城下町は、最近になって世界遺産に登録された。そんな萩市街地の中心にある中央公園で、私たちは練習試合の相手を待っていた。

 

「相手はどんな戦車を持ってると思う?」

 

「トゥラーン、トルディ、ズリーニィは確定ですかね」

 

「でもその3両もバージョンによって戦闘力が全然違うからね...トゥラーンⅢ、トルディⅢ、ズリーニィⅠが脅威かな」

 

相手は今まで一度も公式戦に出たことがない新興校だ。それ故に編成が全く分からず対策に苦労している。幹葉さんが例に挙げた3両はそれぞれのバリエーション車両の中で最も高い対戦車攻撃能力を持ち、油断ならない戦闘力を秘めている。装甲こそ薄めであるが、それでもあの足回りと火力は十分に脅威だ。

 

「...あ、来ましたよ」

 

中央公園に乗り入れてきたのは、水色の乗用車、スズキ・ビターラだ。日本ではエスクードの名で販売されるこのSUVはスズキのハンガリー現地法人、マジャールスズキが生産し、スズキが輸入したものである。

 

そんな水色のビターラから降りたのは、健康的に日焼けしたボーイッシュな少女と、対照的に雪のように白い少女だ。水産学校であるためか、パンツァージャケットはセーラーを模したもののようだ。

 

「今日は練習試合を受けていただいてありがとうございます。バラトン水産隊長の北島千尋です」

 

「三城です。今日はよろしくお願いします」

 

その小麦色の手を取って握手する。手のひらに感じるザラっとした感触は、彼女の手のひらにできているマメだろう。そこから彼女が真っ直ぐで、努力家なのだと判断した。

 

「今日の練習試合で、三城さんの技術を少しでも吸収出来るよう頑張ります!」

 

「そうですね。お互いのいいところを盗み、悪いところを正していきましょう」

 

そう返すと、彼女はぱぁっと明るい笑顔を見せて、「はい!」と返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは一度、ブリ校との練習試合で使ったことがありましたよね」

 

華蘭さんの一言。私が隊長になって初めての試合、私立ブリテン高校との練習試合で萩市街地を使用したことがあった。あの時は街の真ん中に位置する中央公園を挟んでの交戦から、敵隊長車のブラックプリンスとの一騎打ちで決着がついた。

 

「だけど、今回は敵の数も多いし、編成も分からない。偵察から始めないと」

 

敵の情報がほぼ無い今回の試合。下手に序盤から攻めに回ると痛い目を見る。幸いこちらは高速車両が多数いる。戦力を均等にバラけさせて、ステージをくまなく偵察しておきたいところだ。

 

 

空に赤い花が咲く。信号弾の炸裂をもって試合がスタートとなる。

 

 

戦車前進(パンツァー・フォー)!」

 

戦車前進の号令を合図に、7両の戦車が砂を踏みしめスタートする。そのうちレオパルト、クロムウェル、クルセイダー、そしてケヌ車が隊列を飛び出して各々に散っていく。

 

 

「おぉ、練習の成果出てるじゃん」

 

日本戦車に共通する操縦の難しさから最初は車両が壊れんばかりの異音を上げていた美術部チームのケヌ車だが、今はスムーズに速度を上げていっている。これも彼女たちの猛練習の賜物だ。

 

「偵察車両各車は、各持ち場に到着次第偵察を開始してください。安全を最優先に」

 

『了解!』

 

指月山を背にする菊ヶ浜を飛び出した瞬足の戦車たちは様々な方面へと別れて偵察を開始する。

 

 

 

そのうちの1両、深緑、緑、黄土色の3色で構成される迷彩を纏った小さな戦車。美術部チームの乗り込むケヌ車だ。

 

「私たちの任務は偵察、そして最前衛車両の援護です。あまり無理はせずにいきましょう」

 

操縦手にそう伝えて、自身はハッチを開いて身を乗り出す。新鮮な空気をうんと吸い込んで、その柔和な印象を与えるタレ目で前を見つめた。

 

萩市街地は、日本海に面する三角州を中心に成り立つ街だ。ざっくりと構造を説明するなら、北は海。三角州は古い町並みの残る城下町、その東は比較的平坦で新たに開発された場所が多く、西は比較的開発が進んでおらず田畑などの開けた場所が多い。

 

ケヌ車はそのうち西側の最も北を走行中であった。敵から最も遠いこの位置は隊長からの指定であり、恐らく経験の浅い私たちをじっくりと戦闘に慣れさせるための配置だろうと思えた。

 

「先行の松岡さん。状況はどうなってらっしゃいますか?」

 

『まだ敵は見えな...敵発見!2両!』

 

どうやら接敵したようだ。

 

『編成を教えてください!』

 

隊長の声。敵の偵察部隊の車種を知っておきたい。まぁ当然のことだ。

 

『トルディⅢと、アンサルドです!』

 

ハンガリーの主力軽戦車トルディの最終系、トルディⅢと、イタリアのCV35を輸入し改良を加えた豆戦車、35Mアンサルド。どちらも高速だが火力には難のある戦車であった。

 

『...了解しました。出来ればそこで仕留めてください。深追いはしないように』

 

『了解!』

 

私たちが走ってきた山陰本線沿線の県道64号と、国道262号が交差する地点で、レオパルトは敵と交戦を開始していた。

 

「止めて。停止射撃で確実にいきましょう」

 

262を萩市街地に向かって走る2両の前に、レオパルトが飛び出して交戦が開始する。

 

流石は機動戦を得意とする源流直伝の高速戦闘術である。2両を相手取りながらもそれを圧倒する立ち回り。操縦手もそうであるが車長の判断力は凄まじいものがあるだろう。

 

しかし、そうは言っても2対1では分が悪い。相手の攻撃は当たっていないが攻撃のチャンスもない。こちらからの援護が必要だろう。

 

「援護するわ。どちらから狙えばいいかしら」

 

『あ、ありがとう。じゃあトルディを狙ってくれるかな』

 

「わかった。あまり期待はしないでいてね...温存しても仕方ないし、初っ端から使っちゃおうか」

 

手に取ったのは成形炸薬弾『タ弾』。正確には『タ弾のスペックを忠実に再現した連盟指定の実弾』であるが、まぁそんな細かい事はどうでもいい。この近からず遠からずの距離なら、タ弾の効果が弱まる高速で着弾することもあるまい。

 

絵しか描いてこなかった手にはずっしりと重い弾を砲に込める。閉鎖機の閉まる音が、発射可能の合図になる。

 

照準器に額を押し当て、敵をしっかりと照準する。狙うはどことなくチェコの香り漂う軽戦車だ。

 

 

拳銃のような乾いた音とともにタ弾が発射される。我ながら良い狙いだ...と思ったのだが。

 

レオパルトとの衝突を回避しようとしたトルディは、予想外に急制動と急旋回を行った。虚空を打ち抜いたタ弾は、そのまま向かいの店舗の看板に突き刺さった。

 

「あ、あわわ...こ、後退!」

 

ケヌ車は装甲が薄い。存在を知られたからにはここに居続けるのは危険。そう判断したが。

 

『敵が撤退を始めました!どうやら262を使っての侵入は諦めたかと』

 

「...ほっ。助かりました」

 

悲劇の初被撃破を免れ、ひとまず胸をなでおろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー...大丈夫なのかなぁ」

 

『大丈夫なんじゃないかな?それより早く行かないと。陽動部隊が目を引いてくれてるとはいえ、もう撤退しちゃったからすぐに来るよ』

 

「分かってる。じゃあ行こう。ゆーちゃん、先頭お願い」

 

『分かってるよ』

 

三角州を成す二つの川のうち西側の川、橋本川。阿武川から分岐した直後にある固定堰のすぐ下流側...すなわち水の少ないコンクリート舗装の部分を、バラトン水産の主力部隊は進んでいた。今発見されたら大惨事に成りかねないが、そもそも橋を渡っても結果は同じだ。

 

さらさらと流れる清流を、12両の鉄馬が進行する。かなり水深が浅いため流されるだとか立ち往生だとかの心配こそないが、これほど堂々と渡っているのだから発見される心配が大きい。

 

 

...心臓が弾けんばかりに緊張した川渡りだが、何とか発見されずに市街地に侵入することができた。

 

「...じゃあ、後は予定通りにいこう」

 

大まかなプランは考えていた。本当にプラン通りに行けば勝利は間近なのだ。

 

「...まぁ、そんなに甘くはないだろうけど」

 

そのくらい分かってる。たとえ後手後手に回ってくれたとしても、対等くらいまでは挽回されてしまうだろう。

 

「...と、ともかく。せっかく優勢が取れたんだ。上手く使わないとね」

 

今はともかく、敵の発見と撃破だ。青い旗のたなびくトゥラーンⅢのキューポラから身を乗り出して、索敵を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラッグ車であるパンターは、比較的後ろに陣取って偵察部隊からの情報を待っていた。

 

...しかしだ。

 

「...おかしいな」

 

連絡がない。つまりは発見していないということだ。

 

『あー、こちら山猫。偵察車は敵スタート地点にて全車合流しました』

 

「...え?」

 

『敵がいないってことは、もしかして...』

 

...まずいことに、なっている...!

 

 

「ぜ、全速で戻ってきてください!」

 

『了解!』

 

 

まずい。今三角州の中にいるのは私たち虎さんとクジラさん、そしてT29だけなのだ。

 

「ともかく移動します!もっと支援の受けやすい場所に...!」

 

今いる萩東中学校の施設内から出て、支援の受けやすい南側の川岸にたどり着きたい。

 

しかし。

 

『敵です!6両!』

 

出口付近に陣取る自動車科チームからの連絡である。

 

「車種は?」

 

『トゥラーンⅡ3両、Ⅳ号H型2両、Ⅲ号J型1両!』

 

グラウンドのネットのむこう、確かにシュルツェンを装備したトゥラーンⅡ、砲塔のみシュルツェンを巻いたⅣ号H型、そしてⅢ号がいた。

 

「とりあえずそのまま交戦を開始してください」

 

『了解。足止めでいいの?』

 

「いえ、撃破を目指してください」

 

『わかったよ』

 

しっかりとボディを隠していたT29が、重苦しいエンジン音を響かせてのそっと動く。その大きさといい音といい動きといい、圧力をかけるにはかなり適した戦車であろう。

 

それに、その性能は圧倒的。いくらハンガリー戦車が弱くはないとはいえ、ドイツの猛獣をも退けるこの重戦車を相手取れる車両など有りはしないのだ。

 

105mm砲が火を噴く。最前衛を進んでいたトゥラーンⅡが打ち抜かれ、大きく吹き飛ばされる。

 

それを見た敵は焦ってか散り散りになる。そこをⅣ突とパンターで攻撃。75mm砲の連撃は、Ⅲ号とⅣ号1両を仕留めた。

 

流石にこのままではまずいと分かったのだろう、敵部隊はそのまま撤退していった。

 

「...動きましょうか。ここじゃ危ないですし」

 

萩東中学を出て、北へ。目標地点はそう遠くない、灯台のモニュメントが目立つ飲食店だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あちゃー、やられちゃったかぁ...」

 

『当たり前だよ。相手にT29がいるって情報は掴んでたじゃない』

 

贔屓にしてもらっている港の運送業のお兄さんが言っていた。頭でっかちな戦車を運び込んでる船がいたというウワサ。

 

「...ま、これで多少警戒を促すことはできたね。まずは...」

 

我ながら、今は怖い笑顔を見せていると思う。楽しくて、楽しくて、仕方がない。

 

 

「その頭でっかちをいただいちゃおう」





バラトン水産の編成は『ハンガリー戦車+ハンガリー軍輸入戦車』です。ドイツが1/3くらいいるのはそういう都合です。
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