ガールズ&パンツァー 独眼車長の奮進   作:綾春

34 / 42
今回は、バラトン水産戦直後から少し話を進め、次章に突入します!

『激闘!試錐学園』編、開幕です!


激闘!試錐学園!
試合の余韻です!/ 始動!試錐戦車隊です!


「いやぁ...負けちゃいましたか...」

 

照れるように頭をかく北島さんに、私はついつい笑いがこぼれた。

 

「もう少しで負けちゃうところでした。途中まではされるがままな感じで」

 

実際、後手後手に回った私たちは綺麗に分断され、合流も多数の犠牲のもとになんとかしたのであって、とても成功と言える結果ではなかった。

 

相手の作戦はほぼ完璧に決まっていた。最後の直接対決は、きっと本人がやりたかっただけだろう。あのまま大部隊で押しつぶされていたらこちらに勝ち目はほぼ無かった。

 

「ところで、最初の展開の時...どうやって三角州まで入ってきたんですか?橋はだいたい抑えてたはずなんですけど」

 

「あぁ、アレは川の浅い部分を通ったんですよ。堰の直後のところですね」

 

「あー...成る程。ちょっと考えが及んでなかったですね」

 

市街地は確認すべきところがいくつもある。今回の序盤の失敗は、私の事前偵察が不足していたためだ。

 

「でもまぁ、概ねいい感じでしたよ。私が言うことは特にないです」

 

アドバイスを、と言われていたので、上から目線ながらキチンと伝えておく。そこらへんのチームの隊長よりはしっかりした作戦が展開出来ているようだ。

 

「...そうですか!ありがとうございます!」

 

満足げな表情。ともかく、彼女は今後の経験で優秀な隊長になることは間違いなかった。

 

 

「また、練習試合よろしくお願いします!」

 

 

深々と頭を下げる北島さん。そしてビターラに乗り込んで、自らの学園艦へと帰っていった。

 

「...私も、帰って反省会だなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1週間の時が経った。

 

「...えっ?」

 

図書室で、私は驚きの声を上げていた。読んでいるのは、戦車道を専門に扱う新聞『パンツァーウィークリー』、その地方紙であった。

 

「どうしました?」

 

後ろからひょこっと顔を出して覗く華蘭さん。そして彼女も驚いたような表情をした。

 

「...戦練専が、負けた...?」

 

大幅な戦力増強を図り、全国大会への出場を目論んでいた戦練専が、中国地方予選でまさかの敗退。社会人チームとも真っ向から戦えるような戦力の彼女たちを破ったチームは...

 

 

「...試錐学園...!」

 

地方大会優勝校は、私立試錐学園。私のライバルである越前カンナ...もといパイルが隊長を務めるチームだ。

 

 

「なになに...試錐学園は、重駆逐戦車を中心とした主力部隊で敵重戦車部隊を突破、中戦車を中心とした遊撃部隊で敵陣をかき回し、一方的な勝利を挙げた...!」

 

ドイツ軍の浸透戦術にも似た戦法だ。重駆逐戦車部隊で敵主力を正面から突き崩し突入、砲塔を持たない重駆逐戦車に代わり高機動の中戦車が背面をとって蹂躙していくということだろう。

 

「えげつないですねぇ...お金と整備力あってこその戦術というか」

 

「重駆逐戦車っていうとヤークトティーガーとかだよね。すごい予算なんだろうなぁ...」

 

驚くのはそこか、といった感じだが、実際ヤークトティーガーとなると車体価格だけでなく、整備費用、弾薬費、燃料費などもバカにならない。それを運用しているのは全国でも限られた高校だけだ。

 

「それも『部隊』ですから...一杯いるんですかね」

 

「...だよね。今年の戦練専って確か、IS-3が2両とIS-2が2両いたよね」

 

確か編成は、IS-3×2、IS-2×2、T-44-100×2、BT-7×3、ISU-152×1、SU-152×1、SU-100×2、T-34-85×2だったはずだ。プラウダよりも強力であろうこの布陣。たとえ主力を突破しても、残存もかなりの戦力だ。

 

「うーん...」

 

 

唸っていると、カバンの中でマナーモードのスマートフォンが鳴動していることに気がついた。私は図書室を出て廊下で電話を取った。

 

 

「はい、三城です」

 

『もしもし?私、パイルだけど』

 

パイル。試錐の隊長だ。彼女もパイルと名乗ることには随分慣れたようだ。

 

『結果、見てくれた?私もクチだけじゃないってこと、分かったでしょ?』

 

「うん。正直想像以上だった。でもどうしたの?まさか自慢したいだけじゃないでしょ?」

 

『当たり前よ。今日はアナタに練習試合の申し込みがしたくて電話したの』

 

練習試合...!あの戦練専を一方的に弄んだ試錐学園と...?

 

『こっちは全国大会を見据えて20両を投入するわ。そっちはそっちでなんとかしなさい』

 

「...勝負はいつがいい?」

 

『そっちに合わせるわ。全国大会より前でお願いね』

 

「わかった。また日程は追って連絡するよ」

 

そう言って電話を切った。

 

 

「...大変なことになった...!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガレージに車長だけを集めて、今後について話し合いの場を設けた。

 

「試錐と練習試合をするとなると、流石にウチの戦車だけじゃきついよね」

 

相手は20両。それも強力な車両に精鋭の部隊を乗せてくる。対するこちらは今度バラトンから受け取る1両を含めても8両だ。

 

「流石に20対8は厳しいね...大洗じゃあるまいし」

 

西住みほなら、こんな時でも勝ってしまうだろう。だけど私は部隊の指揮に慣れてないし...

 

「だったら、バラトンの人に救援してもらったらどうですか?」

 

茜ちゃんの一言。しかしそれは、非常に的を射た的確な意見だと言えた。

 

『それだ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日。アウトバーン学園艦は徳山港に入港。バラトンとの取引に臨む。

 

横並びに停泊しているバラトンの学園艦から、1両の戦車が降りてきた。それは非常に見覚えのある戦車であったが、同時に少々違和感を覚えるものだった。

 

「...あれ、T-34ですかね?」

 

「ですね。でもあれは、57mm砲搭載のT-34-57ですね」

 

長砲身の高初速砲、ZIS-4を搭載した高火力版T-34。若干装甲厚の面で後期系のT-34には劣るものの、総合性能としてはかなりのものだ。

 

「お久しぶりです、三城さん。頼まれてたモノ持ってきましたよ」

 

「久しぶりです...これはまた、いいモノを」

 

「いえいえ。確かに強いですが、上層部のポリシーにそぐわないみたいで、結局使えませんから」

 

ハンガリー所属の学園艦だから、戦車もハンガリー。まぁわからないこともない。

 

「ちょっとお話したいことがあるんですけど...立ち話も何ですし、ちょっと寄って行きませんか?」

 

「...?はい、では喜んで」

 

私の誘いに北島さんは笑顔で答えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コトン、とカップの置かれる音。漂うコーヒーの香りが、ここがカフェであることを示していた。

 

「...はぁ、試錐学園と、ですか」

 

「はい。一応妹に連絡してはみたんですけど、モニュメントバレーは今年に一回のアメリカ帰港の時らしくて」

 

モニュメントバレー学園艦は、アメリカのとある州と企業の協賛により建造された。運営もまたしかりだ。故に学校施設は福岡県に持つものの、母港そのものはアメリカ西海岸にある。

 

「...そういうことなら、我々も当分は日本近海にいるので...私たちでいいなら、お力になりますよ」

 

その瞳と声音は、以前の彼女よりも少し自信に満ちているように感じた。この前の練習試合で自信をつけたのだろうか。何にせよ、協力してくれるとのことで良かった。

 

「練習試合の日取りですか?お客様」

 

私たち隊長二人が注文していたパンケーキ2皿と一緒に、一冊のファイルを机に置いた女性。長い長い黒髪を高い位置でまとめた彼女は、私にとってかなり信頼の置ける先輩である人だ。

 

「ありがとうございます、会長...じゃないや、花夏さん」

 

「別に『マスター』でもいいよ?」

 

今年の春にアウトバーン校を卒業し、この喫茶店を開いた元生徒会長、樹本 花夏さんだ。アウトバーン戦車隊を事務面で牽引し、上層部から予算を引きずり出し、試合の日程を組み、と陰の立役者として頑張ってくれていた。

 

「...ところでこのファイルは?」

 

「試錐学園と試合するって聞いてね。お客さんの入ってなかった時間を使ってまとめておいてあげたわ」

 

ぱらぱらとめくると、そこには様々な車両データや戦術データ、他にも乗員のプロフィールなどが書かれている。

 

「試錐の隊長は三城さんのライバルに当たる子なのね。となると、一段と負けられないんじゃ?」

 

「そうですね。練習試合とはいえ、負けたくない相手です」

 

「へ〜...試錐の隊長さんとはそんな関係性があったんですねぇ」

 

北島さんはナイフとフォークを上手く使い、パンケーキにバニラアイスを乗せて一口。その甘さと冷たさに頬をとろけさせている。

 

「読めばわかると思うけど...正直、戦練専よりも無茶苦茶な編成よ。まともにやってちゃ勝てない」

 

もう一度、車両編成の欄をくまなく読んでみる。そこには予想通り、ヤークトティーガーやエレファントなどの重戦車。それだけでなく、T-34-85やT-44-100など、遊撃部隊であろう中戦車も多数描かれていた。

 

「そうですね...ヤークトティーガー1両仕留めるだけで、普通なら2両くらいは割かないといけないですし」

 

頭を回すために、まずは糖分摂取だ。パンケーキを口に運ぶと、生地の甘味と、それを引き立てるメープルシロップ。そしてそれらをまとめて引き締めるバニラアイスの相性が最高で、目の前で北島さんがしているのと同じような、蕩けた顔になってしまう。

 

「...ま、そこんところは私が考えることでもないし。頑張ってね」

 

一応客である私たちにぺこりとお辞儀をして、花夏さんはカウンターへと戻っていった。

 

 

 

それから私たちは1時間半程作戦を悩みに悩み、具体的な策を見いだせないまま店を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「北島さん、今日はありがとうございました」

 

「いえ、こちらこそ。あと、私のことは是非『千尋』って呼んでください。そっちのほうが私もやりやすいです」

 

「...はい。またよろしくお願いします、千尋さん」

 

学園艦専用の超大型移動桟橋の向かいに停泊しているバラトン水産学園艦へと迎えのビターラに乗り帰ろうとする千尋さんに、私は大きく手を振った。

 

彼女はそれに答えるようにドアから体を乗り出して手を振り、最後には海軍式の敬礼をした。

 

 

...試合は2週間後の日曜日。とにかく乗員の鍛錬が最優先事項だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強い日差しが照りつけるグラウンド。そこでは新たにアウトバーン戦車隊に加わった車両がくっきりと履帯痕を刻み込んでいた。

 

「...いい感じですね、操縦も砲撃も、上手いですよ」

 

T-34-57に乗り込むのは、私たちが現に着ているパンツァージャケットのデザイン・制作も担当した被服科の学生で構成される、被服科チームだ。

 

『そうですか?でも、まだまだですよね?』

 

「はい。言ってしまえばまだまだですね。次は演習場で移動目標の偏差射撃を練習しましょうか」

 

『はい!』

 

車長を務めるのは、被服科のエース的デザイナーである羽織さんだ。おしとやかで冷静、それでいて向上心を持った非常に優れた乗員である。

 

彼女たちの練習に付き合うべく、私たち虎さんチームもパンターを発進させる。

 

「...どこまで練度を上げられるかなぁ」

 

正直不安だ。だが、やれるだけのことをやるしかない。

 

 

この戦い。利益云々ではなく、ただただ負けたくなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄と油の匂い。金属の擦れ合う音や、ハンマーで鉄を叩く音の響く工業地帯。

 

サビとオイルの茶色にまみれたこの空間こそが、試錐学園の学園艦であった。その中でも労働区画であるここ一帯は、この薄暗さから治安が非常に悪い。

 

そこを軽快な音と共にゆっくりと走るのは、試錐学園の隊長車、同時にフラッグ車であるT-44-100中戦車。このクラスのサイズでこの足回り、そしてこの火力。T-44の車長であるパイルは、時に失敗作と言われることもあるこの戦車を気に入っていた。

 

確かにこの戦闘力はセンチュリオンでも手に入る。しかし、この手のひらに収まるかのようなフィット感。ずっと乗ってきたT-34系列の車両によく似ているからだろうか。一度センチュリオンやコメットに乗ったときには感じなかった、愛着のようなものをT-44からは感じているのだ。

 

少し進んだところで、T-44は進む足を止めた。そこは路地裏の倉庫の前だ。ここで、試錐学園が全国大会に投入する2両の戦車の組立が進んでいるところだ。

 

飛散したオイルで汚れ曇ったガラスの扉をスライドして開く。そこでは鉄を叩く音と裁断、溶接の音。あらゆる音が混在していた。

 

「...あ、隊長。お疲れ様です」

 

一人の少女の挨拶に続いて、室内の整備士たちが挨拶してくれる。私はそれに手を挙げて返す。

 

「お疲れ、ローラ。少し休みなよ」

 

汗をかいた缶コーラを差し出すと、彼女はそれを受け取った。試錐学園の副隊長にして、整備チームの一員であるローラは、色が抜けたような金髪と少し褐色の肌が特徴の少女だ。どことなく健康さと不健康さが混在するような風貌は、少し世話を焼いてやりたくなる。

 

「ありがとうございます。でも、もうちょっとなので」

 

もうちょっと。その言葉を聞いて、私は戦車に目を向ける。どちらも大型の重戦車である。かたや伝説にして悪夢。連合軍を最期まで苦しめた最強の重戦車。

かたや、幻想にして頂点。これが量産されたあかつきには、それまでの劣勢を跳ね除けるだけの力があったであろう幻の重戦車だ。

 

少し小さな方...それでも大きいが...は、砲塔が搭載されていかにも戦車らしい見た目になっていた。少し丸みを帯びた砲塔は、その角ばったボディとはアンバランスに見えて非常に調和のとれた美しいデザイン。

 

そして大きな方は、まだ砲塔は搭載されていない。丸みを帯びたボディに搭載されるであろう超大型の砲塔は、その横でクレーンに釣り上げられようとしていた。

 

「...いつごろにはできそう?」

 

「そうですね...急げば明後日には。どうかされたんですか?」

 

「...2週間後、練習試合が決まったわ。それにこの子達を投入する」

 

「いいんですか?全国大会を前に手の内をバラしたりしちゃって」

 

確かにそれも懸念材料だ。しかし、使わないことにはその実力は分からない。それにこの難しい戦車たちの運用法も確立すべきだ。そうでなければ、去年の黒森峰が超重戦車という手に余る怪物を有用に使えぬまま撃破されたように、私たちもこの必殺兵器を満足に使えぬまま敗れることになる。

 

「いいの。...で、この戦車なんだけど...ローラ、貴女が乗りなさい」

 

「わ、私ですか...?」

 

彼女には副隊長を任せてはいるものの、いつも重戦車部隊の後方で火力と装甲に任せてじわじわと押しつぶすような戦略をとっているだけだ。砲塔を搭載し、柔軟に動く事が要求される戦車は、戦車道を始めて以来始めての経験なのではないだろうか。

 

「何事も経験よ。練習試合なんだから」

 

「...分かりました。頑張ります」

 

それだけ言うと、彼女はコーラの缶を机に置いて、また作業に戻った。

 

 

「...2週間、か」

 

長いようで、短い。この車両たちを使う上での練習を含めればもうほぼ時間は無いようなものだ。

 

 




さて、『激闘!試錐学園』編第一話は、新たな車両と試錐学園の紹介です。あまり長くはないと思います。

試錐学園の強力な布陣は『ぼくのかんがえたさいきょうのせんしゃたい』なので、まぁ生温い目で見てやってください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。