試錐学園編、第2話は戦闘描写なしです。
薄汚れた校舎の中で授業を受ける。工業で生計を立てる学園艦であるためにどこにいても油と鉄の臭いがする。オイルが校舎の白い壁を茶色く汚し、工業排水が用水路の水を濁らせる。
私が来た時から、この船はこの状態であった。治安は悪く、痴漢やひったくりが横行している。戦車道チームのメンバーは顔が知れているし、わざわざ気が強いと言われる戦車乗りにちょっかいをかける阿呆もいないから私たちは安全だけれど...それでも、あまり安心できる場所ではなかった。
...こんなところにやって来たのも、全てはこの時のためだった。
3年前の屈辱を晴らすため、私はもう一度、戦うのだ。
「...追撃をかけるわよ!全車両、全速前進!」
戦術的有利を作り上げた、私たち出雲付属戦車隊は、中学校全国戦車道大会、その決勝戦の部隊で、因縁の相手である維新中学をじわじわと追い詰めることが出来ていた。
しとしとと降り続いていた雨は止み、川はごうごうと唸りを上げて激しく流れている。そんな川を眼下に望む崖を、維新中学の戦車隊を追って突き進んでいた。
私、越前カンナの乗り込むT-34は、敵のM4シャーマン、そしてM3リーに対して機動力的に大きく有利。追撃戦になれば不利ということもないだろう。
その時、崖の途中にある離合用の待避所で、敵副隊長車であるM3リーがスピンターンでこちらに向き直る。相手は機動戦を得意とする源流。その後継者である三城姉妹の妹の方。あまり相手したくない。
75mm戦車砲から徹甲弾が吐き出される。こちらの戦車はそれに翻弄され、2両を失った。進路上に障害物として残ったT-34の残骸を押しのけるのに手間取った私たちは、敵と少し距離を離されてしまった。
「逃がさないで!榴弾を使って敵の進路を塞ぎなさい!」
私はなりふり構わなくなっていたのだろう。榴弾を用いて地盤の弱った壁面を崩し、障害物として利用しようとした。...結果、それは取り返しのつかない事故を招いた。
私の乗るT-34から放たれた榴弾はM3の左方に着弾。崖を抉りとり、副隊長車を崖へと放り出してしまった。
「あっ...!」
まるで時間がスローモーションのようだった。M3は土砂と共に宙に踊り、車長はハッチから投げ出されてしまっている。これでは、助かりようがない...
...しかし私は止まらなかった。ここまでやってしまったのだ。もはや後戻りはできないと自分に言い聞かせ、ここで止まって救援をしたいという欲求を抑え込んだ。それが正しかったのかは、結局今でも分からない。
そして1両を残す維新中学を、私は副隊長車と連携して挟み撃ちにした。これなら逃げ場はない。ここで仕留められると。
しかし彼女は、源流に伝わる『緊急被弾経始術』を用いてこちらの砲弾を弾いてみせた。そして副隊長車を仕留めると、旋回してこちらへと突っ込んでこようとしている。
私は徹甲弾を装填し、照準も半ばに放った。その砲弾はM4シャーマンの砲塔を寸分違わず射抜いた。しかし貫通とはならず、迫り来るM4に為す術もなく、撃破されてしまったのだった。
衝撃が収まり、煙の中私はT-34を降りた。すると目の前のM4にはぐったりと項垂れる車長の姿があった。その頭部からは、大凡人間から出るとは思えない量の、血。
「...あ」
やってしまった。私は、取り返しのつかないことを。
「...あ、あぁ...」
言葉にならない悲鳴が、嗚咽に代わり喉から吐き出される。
「あぁ...ああああああぁぁ」
私は、尊きものを二つも奪ってしまったのか。
「あああああああああああああああああああああッ!!!!!」
ただ、慟哭することしか出来なかった。声にならぬ声が、私の喉を枯らした。
それからというもの、私を取り巻く環境は一変した。進学が決まっていた戦車道の名門校からは合格を取り消され、戦車道チームの皆からは干されてしまった。行き場を無くした私は、自らの殻に閉じこもり、前に進むでもなく、下がるでもなく。ただ時が経つのを待ち続けていた。
そんな私に入学の話を持ちかけたのが、この試錐学園であった。私に『戦車道をする「権利」』を与え、入学を許してくれたのだ。私にとっては光明であった。殻にひびが入る音。私の心に光が差し込む。
しかし、ただひとつ。私の心には大きなしこりが残ったままだった...
『...おい、越前』
「おい、越前!起きろ!」
「へ?あ、はいっ!」
間抜けな声が出た。正確には寝ていたわけではないのだが、そう見えて致し方ないだろう。
「全く...集中しないと単位落とすぞ、お前そんなに頭良くないんだから」
「はい、すみません...」
この学校、こんな治安だが偏差値は異様に高い。授業スピードは早いし、勉強難しいし...3年間付いてこれた事が不思議なくらいだ。
...ここのところ、ずっとこんな感じだ。
集中できない。早く戦車に乗りたい。撃ちたい、走りたい。
「...あと少しだ」
私が高校戦車道を続ける意味。それがようやく現実のものとなろうとしていた。
練習試合の一週間前。アウトバーン女子学院のガレージには、いつもとは違う戦車が8両、露天で駐車されていた。
先日の練習試合でも見た、トゥラーンⅢやティーガーⅠ、トルディⅢにズリーニィⅠなどの、バラトン水産の戦車隊のものだ。
「いいんですか?1週間もこっちにいて。授業の方は...」
「大丈夫ですよ。私は遠洋漁業の授業を取ってるので。今は近海での漁業実習なんです」
「海洋技術科は、そもそも単位ってものも殆ど無いですからね。テストで点取れて、実習も真面目にやってれば単位が足りないなんてことはないですよ」
千尋さんと優奈さんが言う。そんなものなのか、と感心しながらも、話を続ける。
「では、これから一週間よろしくお願いしますね」
試合までは一週間。その間、親睦を深めることでチームワークを磨き、共に練習することでお互いの癖や特徴をつかむ。試合で勝つためには重要な事である。
「はい!」
陽が沈み、すっかり暗くなったグラウンド。そこを走り回っているのはトルディⅢとトルディⅡa、それを率いるレオパルトだ。偵察部隊として活躍してもらう予定のこの3両には、より綿密なチームワークを要求することとなるだろう。だからこそ、こうして長い時間戦車に乗ってもらい、互いの癖を掴んで欲しかった。
そんな中、私たちはガレージの中で作戦について話し合っていた。
「相手と真っ向から戦うのはまず不可能と考えていいですかね」
「そうじゃないですかね?T29はともかく、こっちはタイガーでもきついかと」
T29の装甲なら、ヤークトティーガーと真っ向から殴り合うことも不可能ではないだろう。しかしながら、それ以外の車両は装甲厚が圧倒的に不足しており、殴り合い、というわけにもいかない。
「だったら分断ですかね?相手の戦力が分散すればこちらもやりやすいのでは」
茜ちゃんの発案。しかし私は、その案には賛成しかねた。
「高火力戦車は極力集中運用したいですね。分散してしまうと、敵を撃破できるチャンスが減ります」
ヤークトティーガーやエレファントと真っ向から対峙できるのは、T29ただ1両のみ。となると、こちらは高火力戦車を集中運用することで、撃破されきる前に撃破する事が大前提になるのだろう。
「「うーん...」」
首をかしげて悩む隊長二人のもとに、優奈さんがクーラーボックスとお皿を片手に歩み寄ってきた。
「ここいらでリフレッシュは、如何ですか?」
クーラーボックスからグラスを取り出して、チリン、と鳴らしてみせる。
「うーん...じゃあ、お願いしようかな。夏紀さんはどうです?」
「えーと、じゃあ、お言葉に甘えて」
グラスを受け取ると、そこに注がれたのは華やかな香りの漂うシャンパンゴールドの液体。しかし気泡はなく、シャンパンの類ではない。
「...これは?」
「ワイ...ンンッ、もとい、『大人の白ぶどうジュース』ですね」
苦笑いしながら言う千尋さんは、テイスティングするようにワイ...もとい、大人の白ぶどうジュースを口の中で転がした。
「...ん、今日のも美味しい!」
「良かった。このぶどうジュースは、バラトン水産のファクトリーで室内栽培されたブドウを使ってるんです。お魚にはやっぱり、白でしょ?」
そう言われて、私も少し口に含んでみる。華やぐブドウの香りと、心地よい苦味。鼻を抜けるアルコールの香りと共に、私の口腔内は果実の深みで満たされる。
「...ホントだ、美味しい」
「で、こっちが肴のアクアパッツァです」
白身魚をオリーブオイルや白ワイン等で煮込んだイタリアンな料理。...こう見ると、本当にハンガリーらしさ皆無である。まぁ、内陸国のハンガリーだ。郷土料理に魚というのもおかしな話だから、仕方ないのだろうが...
「これ、優奈さんが?」
「はい。料理、好きなので」
白く長い手は腰の位置で重ねられている。彼女のその淑やかそうな印象そのままの、家庭的な女性のようだ。
対する千尋さんは、上品ながらもかなりのスピードでグラスを開けている。
「じゃあ、頂きます」
ナイフとフォークを手に、魚を切り分ける。口に運ぶと、オリーブオイルと白ワインの香りに続いて、しっかりと身の詰まった白身魚の甘味が広がる。
魚と貝から出た出汁とトマトの酸味が交じり合うソースも爽やかながら濃厚な味わいを演出し、2口、3口と食べても飽きが来ない。
「ヒラメを使ってるんですよ。たんぱくで、シンプルな料理にいいんです」
夏のヒラメは身が締まっておらずあまり美味しくないと聞いたことがあるが、そんなことは無さそうだ。甘味も噛みごたえもしっかり感じる。これで美味しくないなら、この世に美味しい魚など殆どいないのではないだろうか。
「ホント...白ワイ」
「大人の白ぶどうジュースですよ」
「...大人の白ぶどうジュースと、よく合いますね」
こう、大人の事情的な意味で千尋さんに突っ込まれる。これ言ったら多分ダメなやつ。
「...もう1杯もらえます?」
「ええ、喜んで。ツマミも必要なら作りますから」
優奈さんが笑顔で白ぶどうジュースを注ぐ。あぁ、これは...
それから少しして。私が記憶を失っていたのは言うまでもないだろう。
「ううう、頭がガンガンする...」
よろよろしながらアパートの階段を降りる。降りた先には、いつものように虎さんチームの面々がいた。
「おはよう...って、どうしたんですか?」
「顔色悪いよ?風邪ひいた?」
華蘭さんと琴音さんが心配してくれる。すごく申し訳なくなる。
「昨日調子に乗った結果だよ。すぐ良くなると思うから...」
「あー...めちゃくちゃ飲まされてたねえ」
「いや、むしろあれは自ら飲んでたんじゃ」
「うっ...その話はやめて...」
あの臭いを思い出しただけでこみ上げるものがある。もちろん食道を通って。
「...とりあえず、栄養ドリンクくらいは飲んでおかないと。早く治してくれないと困りますから」
「...私、買ってくる」
幹葉さんがとてとてとコンビニへ走っていく。私は縁石に座り込んで彼女の帰りを待った。
彼女がコンビニから帰ってくると、その手には栄養ドリンクとスポーツドリンク。
「ありがと...」
私は栄養ドリンクを一気に飲み干し、スポーツドリンクで流し込む。
「...ぷはっ」
さすがにすぐに生き返る、とはいかないが、少しは楽になったかも知れない。
「全く、飲みなれてもないのに無茶するから...」
完全に呆れられている。仕方ないじゃん、美味しかったんだもん。
...と言うのも恥ずかしく、私は飲み干した二つの容器をゴミ箱に捨てて、足早に学校への道を急いだ。
「...久しぶり。ってほど久しぶりでもないね」
ガレージに入ると、そこには銀髪を揺らす美穂子さんの姿があった。
「どうしたんですか?何か問題でも...」
「いや。ただ、T-34-57が入ったって聞いたから来ただけ。ついでにエンジンと足回りの点検整備しようかなって」
彼女自身、技師としての技術を持っている。仕事なのだから当然とも思えるが、実は経営者とエンジニアというのは、同じ会社の中でも結構縁遠いものだったりする。
例えば自動車などの販売店では、営業と整備士は基本的に別だ。営業マンも多少の知識は持ち合わせているものの、整備士のように自ら工具を握れる者は少ない。
しかし彼女は、どちらを専門に学んでいたわけでもないというのにこの凄腕っぷり。
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」
ソ連車両、とりわけT-34は『ハズレ個体』が多い。元々技術力の低い国で大量生産したものであるし、構造もそこまで簡単という訳ではない。例えば精度のトチ狂った照準器だとか、規定馬力に遠く及ばないエンジンだとか。
戦車道用に販売されている中古戦車は基本的に戦後生産の新型装備に換装されているのだが、このT-34-57に関しては長年学園艦の奥で眠っていたものだと聞いた。もしかしたら旧式のままかも知れない。
「観測系は全入れ替えしました。あとサスペンションから先も全部。それ以外は部品清掃してそのまま組んでるので、ちょっとは問題があるかも。でも、全然実用域ですよ」
千尋さんが言う。彼女も整備に携わったのだろうか。
「...ちーちゃん何もしてないよね?」
答えは否のようだ。
「...あ、そういえばさ」
美穂子さんが話を切り出す。
「試錐学園と練習試合するんだってね?あそこは凄いよ。正直真っ向からやっちゃ勝ち目ない」
「...そうですね。重駆逐戦車も中戦車も、冗談抜きにぶっ飛んだ性能ばっかりです」
すると美穂子さんは少し天を仰いで考え込むと、少し渋い表情で話し出す。
「...実はね、『ある車両』を試錐学園に納入したの。公正を期す必要のある立場上、どんな車両かは言えないけど...」
彼女がこう言うほどの車両だ。重駆逐戦車たちより、ヤバイ車両が入ったということだろうか?
「...一度、見ておくことをオススメするわ」
「...来ちゃいましたね」
「来ちゃったね」
学園艦の艦内にあるトイレの個室内で着替える二人の女子。
山猫さんチーム車長の松岡寿璃、そしてクジラさんチーム車長の各務原茜。寿璃はいつもの流星を象ったヘアピンを、三日月を象ったものにしている。茜はグラスコード付きのメガネではなく、ただの黒縁をセレクトしている。
事前に用意し、それっぽくシワと汚れをつけた制服に着替える。ベージュと茶色をメインに、少々ダークな配色のこの制服は、試錐学園の制服であった。
「用意できた?」
「出来ましたよ」
隣同士の個室に入る二人は、タイミングを合わせて個室を出た。
試錐学園。広島県は呉を母港とする大型の学園艦である。工作艦明石を象ったそれは、中小企業を多く載せた工業艦で、様々な港に寄港しては貿易を繰り返す。
二人はそんな油と鉄の臭いの充満する学園艦に潜入してきていた。
「すごい...本当に治安悪いんですね。所詮噂だと思ってました...」
「ホントだね。ひったくりとか多いってのも分かるよ」
犯罪が多い場所というのはそれ相応の雰囲気がある。薄暗い、汚い、臭いとか色々あるけど、この学園艦はそれの殆どを兼ね備えているのではないだろうか。
「さっさと偵察済ませて、帰ろう」
「ハイ、そうですねぇ」
じゃりじゃりと土がむき出しの地面を踏みしめて、見知らぬ土地を歩く。
後ろからエンジン音がして振り向いた。そこにはハッチを開いて走るT-34/76。
「ミッ○ーですね」
「うん危ないからやめとこう」
T-34/76は左右のハッチを開いた状態が夢の国のネズミに見えることからそう言われることがある。そんなハッチから顔を出す少女は、パンツァージャケットを纏っていた。
「...戦車道受講者ですかね?」
「ちょっと、ついていってみる?」
のろのろと進むT-34の後ろに続いて、違和感のでないように歩く。
「...なんだか、ドキドキしますね」
「スリリングでいいねぇ。嫌いじゃないな」
二人共、こんな危険な行動にもノリ気であった。...最も、そんな二人だから抜擢されたのだが。
「...お、学校に入っていくね」
「流石にこれ以上追いかけるのはよくないですね。どこか見やすい位置は...」
T-34はグラウンドの入口から学校敷地内へと入っていく。私たちは一旦学校を離れてグラウンドが見やすい位置を探した。
「...あそこの木の上にしよっか」
グラウンドのすぐそばにある大樹である。引っ掛かりが多くて登りやすそうだ。寿璃さんはスイスイと登っていく。私もそれに続いてゆっくりと登る。
「...ほら、よく見えるよ」
先ほどの角度からでは見えなかった、学校の奥にあるガレージが見える。非常に大きい。
「情報通りの戦車がいっぱいだよ。ヤークトティーガーに、エレファント...T-44-100もいる」
「情報にない戦車も多々いますね。パンターと...あれは、クロムウェルですか?」
角ばった車体。形状的には確かにクロムウェルに近いが、この車両はクロムウェルではない。
「...コメットだね。コメット巡航戦車」
端的に言うなら、約60km/hで移動する17ポンド砲だ。驚異でない訳が無い。
今から練習の時間なのだろうか、ガレージからは車両が何両も出てくる。
「...お、ティーガーⅡがいるよ」
「ポルシェ砲塔ですね。ヘンシェルの方が全然強いのに、何でですかね」
若干投影面積が少ないだろうか?それでもあまり変わりはない。装甲厚は減るし、ショットトラップは生むし...あまりいい事はない。
だいたい車両は出揃ったようだ。ヤークトティーガーは3両、エレファントが2両。ティーガーⅡは1両、それにヤークトパンターが3両いるようだ。
「うーん...これは何ていうか...」
遊撃部隊と思しき中戦車たちもツワモノぞろいだ。T-44-100が1両。T-34-85が4両。先ほどのコメットは2両で、パンターも2両。そして偵察戦車と思しきM5軽戦車も発見した。
「こう見ると、だいぶ多国籍ですね」
「試錐学園はいろんな国の港に停泊するからかな?」
ドイツ戦車で構成された主力は、恐らくドイツの重戦車至上主義が試錐学園のスタイルにピッタリハマるからだ。対する遊撃部隊は、足と火力のソ連、速さのイギリス、装甲のドイツといった感じだろうか。様々な敵に対応する遊撃部隊としては理想的な布陣とも言えよう。
「でも...20両には1両足りませんよ?」
「そうだね...そろそろ時間だけど、もうちょっと探してみる?」
「はい」
そう言って木を降りようとしたときだった。
「あっ」
降りる最中に足を滑らせた私は、ドサっと地面に落ちてしまった。
「...あ」
...言葉が出ない。グラウンドの戦車乗りたちが、私を凝視していたのだ。
『...侵入者だ!』
サイレンが鳴り響く。見つかってしまった...!
「逃げるよ、早く!」
「は、はい!」
手を引かれて走りだす。
「ごめんなさあああああああい!!!!」
自然と、そう叫んでいた。
「...偵察の二人、見つかったって!」
「まずいですね...ここまでちゃんと来れますかね」
バラトンとアウトバーンの隊長・副隊長たちも、皆試錐学園の甲板上にいた。バラトン水産の保有する飛行艇「US-2」に乗り込み、二人の合流を待っている。
電話が鳴る。相手は寿璃さんだった。
「もしもし?」
『もしもし...今、何とか隠れたところです。すぐにそっちには着けます』
「...よかった。気をつけてね」
見つかっては元も子もない。言葉も少なめに電話を切った。
彼女たちは、宣言通り早く戻ってきた。きっと格納庫の裏とかに潜んでいたのだろう。
「ごめん、騒ぎになっちゃって!」
「大丈夫ですよ。じゃあ、さっさと離陸しちゃいます」
操縦を任されている優奈さんがUS-2をゆっくりと加速させていく。
「...本当はもう一両探したかったんですけどね」
「うぅ...申し訳ないです」
その口ぶりからして、きっと茜ちゃんが見つかったのだろう。
「...でも編成は殆ど判明しましたから。帰ってまとめましょう」
「うん。ありがとう、二人共」
浮遊感。US-2が大地...いや、船を離れる。目指すは無論、アウトバーン女子学院である。
「へぇ...アウトバーンのメンバーがねぇ」
正直意外だった。というか、練習試合程度で事前偵察までするとは。
「...まぁ、どうしても負けたくないのは私も同じだけど。...『例のアレ』は見られてないのよね?」
「はい、なんとか...」
例のアレ。アレは万が一を考えて戦車隊とは別の場所で試運転を繰り返している。
「...ならいいのよ。別に見られても」
くるりと踵を返して、T-44に歩み寄っていく。
「試錐の戦は『分かっていても防げない』。最強の矛なんだから」
見たところで、何も変わらないのだ。
「...必ず勝つわ、三城夏紀...!」
ぎゅっと拳を握った。
この進み方だと、試錐学園編はちょっと短くなるかも...
まぁ、その時はその時ということで...