ガールズ&パンツァー 独眼車長の奮進   作:綾春

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思惑です!

全国大会 中国予選の覇者であり、近年めざましい勢いで力をつけてきた、試錐学園。

 

対するは一騎打ち最強車長、三城夏紀が率いる、アウトバーン女子学院。

 

この練習試合は、名だたる有名校たちにとっても、放っておけないカードであった。

 

 

 

 

 

陽が昇って間もない海岸。シルバーのスーパーカーが、白銀に輝く陽光を弾き輝いていた。そのそばには、柔らかな印象を受けるロングスカートの女性と、オレンジの髪を後ろにまとめた背の小さな少女。

 

「綺麗なところですね。ちょっと遠いですけど、壮大さが伺えます」

 

聖グロリアーナ女学院の隊長を務める、オレンジペコだ。2年生ながら隊長を任されているのは、前任であるダージリンからの厚い信頼があってのこと。

 

「そうね。降りれるようだし、近くまで寄ってみる?」

 

「...ダージリン様、ヒールでこの遊歩道を降りるのは無理があるんじゃ...」

 

「...それもそうね」

 

オレンジペコにダージリンと呼ばれた女性。元聖グロリアーナ隊長のダージリンだ。かつて西住まほと並び最強格の隊長であると称された彼女も、このカードに興味を持ち観戦にやってきた一人である。

 

「...じゃ、次はどこに行こうかしらね」

 

「...決めてないんですか」

 

二人は銀色のスーパーカー、アストンマーティン DBSクーペに乗り込み、『千畳敷』と呼ばれる、須佐ホルンフェルスを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

須佐湾を一望する山、高山。須佐之男命が朝鮮半島へと赴く際に、この高山から海路を望んだという言い伝えから神山、それが転じて高山となったという。ホルンフェルス断層もこの高山の一部であり、そして高山そのものも協力な磁気を帯びた磁石石として、国の天然記念物に指定されている。

 

そんな高山の頂上、展望台には、まだ幼さの残る顔立ちにどこか歴戦の兵士にも似た貫禄を感じる少女、そして幼いというよりはあどけない、茶髪の少女がいた。

 

国際強化選手にして大学選抜チームのエース、西住まほと、その妹であり軍神の名を欲しいままにしている西住みほだ。

 

「確かみほは...アウトバーンの隊長とは知り合いなんだったか?」

 

「あはは、知り合いって程じゃないよ。ちょっと話したことがあるだけ」

 

三城夏紀。みほと同じで人物的特徴はあまり濃くなかった。界隈では『独眼』などという異名がついているが、その実はただ片目を失った少女であった。

 

「すごいな、あの子は。ハンディを背負ってもこの強さ」

 

片目が見えない。盲目でないだけマシとはいえ、距離感だとか視野は必然的に健常者に劣る。右側の視野が大幅に欠けているということは、右側からの敵の接近に気づきにくいということでもある。

 

「何処かで聞いたことあるんだけど、盲目の人って音とか振動で周りの状況がある程度分かるんだって。三城さんもそうなんじゃないかな?」

 

五感のうちの何かを失うと、他の感覚が研ぎ澄まされるという。戦車道においてそれは、恐らく『直感』に変換されて役に立つはずだ。

 

「...私たちには、理解できない世界だな」

 

「...そうだね」

 

いくら頭で理解しても、その人の気持ちにはなれない。健常者である私たちは、ただ理解することしか出来ない。

 

 

 

風が吹いて、草木が揺れる。揺られた木のむこうに、はるか向こうまで広がる水平線が見える。

 

「...じゃ、行くか」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近は気にしていなかったのに、ここ数日はずっと右目が痛む。

 

試合前日ということで休養に当てることになっているが、私は防波堤の先で腰を下ろして、緩やかな波をぼんやりと見ていた。

 

須佐湾の穏やかに流れる時間。やっぱり田舎は良い。

 

漁船が港を発つ。大きく手を振ってみると、漁師のおじさんたちが振り返してくれた。

 

 

...きっとこの右目の痛みは、ずっとくすぶっていた感情が再び燃え上がり始めたことを示しているのだろう。

 

それは、怒りでも復讐心でもない。ライバル意識である。

 

ブリテンのヴィヴィアンさんも、戦練専の越前さんも、バラトンの千尋さんも、そして、モニュメントバレーの夏摘も。皆ライバルと呼んでいい実力の持ち主だった。

 

しかし、本当の本当にライバルと呼べるのは、パイル...いや、越前カンナただ一人だろう。

 

 

小学校からずっと、私と競い合ってきた。

 

お互いに隊長になって、同じ試合に出て、戦って...

 

私が成長できたのはきっと彼女のおかげだろう。

 

 

「...んー...っ」

 

大きく伸びをした。潮の香りが肺を満たす。

 

「...帰ろっ」

 

ぴょんっと立ち上がる。唐突に戦車に乗りたくなった。皆いるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

港を離れて田舎の割には広い道を歩く。そんな時、後ろから一台の車が走ってきていることに気がついた。重厚なエンジン音と、ロードノイズ。タイヤの太いSUVタイプの車だろうか。

 

振り返ると、つや消しブラックのSUV、メルセデスベンツ G63 AMGが私の横に停車するところであった。

 

降りてきた女性は、二人とも見覚えのある人物だった。

 

「...西住さん」

 

そこには茶髪と黒髪の姉妹。かの有名な西住流の後継ぎである西住姉妹が立っていた。

 

「来ていたんですね」

 

「はい。やっぱり、気になるカードですから」

 

全国大会を戦う大洗女子学園にとって、試錐学園の戦いは気になるところがあるはずだ。しかもこの時期の練習試合では、全国大会用の新車を投入することも多い。偵察は無駄にはならないはずだ。

 

「...初めまして。西住まほだ」

 

「三城夏紀です。何度かテレビで拝見しましたが...すごい戦いをしますよね」

 

「はは、ここ最近は、もっぱらみほの影響だよ」

 

一部のメディアでは『新派西住流』と表現される西住みほの戦車道。正統派西住流のように正面突破が叶わない場面において、新派西住流は想像を絶する強さを発揮する。

 

正統派の代表格であった西住まほは、みほの突拍子もない戦術の影響を受け、凝り固まった西住流を変革しようとしている。簡単なことではないが、彼女の手腕にかかれば一代にして成すことも可能だろう。

 

「...キミも、面白い戦いをするな」

 

「...そうですかね?」

 

自分でも分かっていた。ここまで個人技を尊重する流派は少ないだろう。近接戦闘に特化し、戦車の性能を100%以上に引き出すことを得意とする源流は、戦車道流派の中でも異端だ。

 

「だが...どことなく、みほに似ている気もする」

 

それは意外だった。みほと違い、少数を指揮するのに特化している私は、小隊を更に分割し、各個の性能的長所を活かして戦うようにしてきた。それが奇しくも似た、ということなのだろうか。

 

「...追い詰められて真価を発揮する。『一発逆転の流派』といったところか」

 

「そう...かもしれませんね」

 

源流は、根本は西住流と似たところがある。『ひたすらに前進を良しとする』『性能を以て押し切る』『長所を徹底的に活かす』。それぞれ解釈は違えど、根本の思想は同じなのだ。

 

「ただ、一つアドバイスをするなれば...」

 

顎に手を当てて考え込んだような表情を見せるまほ。慎重に言葉を選んでいるのだろう。

 

「...キミは戦士であって策士ではない。もっと俯瞰的に考えねば、手遅れになることもある」

 

「...肝に銘じます」

 

私自身の戦闘スキルは褒めてもらえた。しかし、部隊の指揮となると話は違う。個々の戦闘力よりもチームワークが求められる状況で、私の指揮能力不足が浮き彫りになるのだろう。

 

 

「応援してるからな。頑張ってくれ」

 

「うん。頑張ってね、三城さん」

 

「...ありがとうございます」

 

頭を下げた。大学選抜のエース、私からすれば大先輩だ。そんな彼女からのアドバイスを肝に銘じて、私は更に足早に、育英小学校へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多磨小学校のグラウンド。多数並ぶ大型の戦車のうち、ティーガーⅡ ポルシェ砲塔の側面装甲を優しく撫でる少女の姿があった。

 

試錐学園の副隊長を任された一年生、ローラである。試錐学園の戦車整備に携わる彼女も、パイルほどではないにせよ、この戦いにそれなりの意味を見出していた。

 

「...今回投入の二両。ノントラブルで走りきれればいい方かな」

 

一両は、このティーガーⅡ ポルシェ砲塔。部品取り用のジャンクとしてガレージに眠っていたティーガーⅡの車台。それに安価で市場に出回っていたポルシェ砲塔を載せたものだ。ショットトラップという最大の泣き所を持つが、そもそも重駆逐戦車を率いるために採用した戦車だ。最前線で戦うことはないだろう。

 

もう一両は前々からちょっとずつ組立を進めていた秘密兵器である。今もカバーをかけて厳重に保管している。この車両のトラブルシュートと、使用方法の研究を目指しての今回の投入である。全国大会までに強いところ、弱いところを洗い出しておかねば。特異な車両だけに、実戦を重ねることが必要だと考えていた。

 

「...はぁ...大丈夫かなぁ」

 

正直、この二両に労力の殆どを費やしてしまったため、新たに導入した他の戦車は外部機関に任せきりなのだ。特にM5軽戦車やコメット巡航戦車など、不安な車両も多々ある。

 

「...ま、何とかなるでしょ」

 

もうここまで来てしまった。となると後は運任せである。壊れやすいドイツ戦車。何事もなく終わることを祈りつつ、ざらつく装甲板をそっと撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、試合当日がやってきた。絡み合う思い。向かい合う視線に様々な心を感じ取りながら、私はゆっくりと歩み出た。

 

「只今より、アウトバーン女子学院 対 私立試錐学園の練習試合を開始します。双方、礼!」

 

 

『お願いします!』

 

 

 

 

 

頭を上げたツインテールの少女に歩み寄る。

 

「...今日も負けないよ、パイル」

 

「私だって負けるつもりはない。正々堂々勝負しよう」

 

ぎゅっと握った手。少し震えている気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちのスタート地点は、キャンプを設営していた育英小学校。同時にここがステージの西端でもある。

 

そこには、私たちの車両の全てが並んでいた。今日限りの連合チームである。

 

 

アウトバーン女子学院からは、パンター中戦車G型仕様、レオパルト軽戦車、Ⅳ号突撃砲、クロムウェル巡航戦車、クルセイダー巡航戦車、四式軽戦車、T29重戦車、そして新車であるT-34-57駆逐戦車。

 

バラトン水産からは、トゥラーンⅢ中戦車、ティーガーⅠ重戦車、Ⅳ号戦車H型が二両、ズリーニィⅠ突撃砲、ズリーニィⅡ突撃砲、トルディⅢ軽戦車、トルディⅡa軽戦車。

 

両チーム合わせて合計16両。結構な大所帯になった。

 

「各チーム、準備はどうですか?」

 

『こちら山猫。偵察班はいつでも出れるよ』

 

レオパルトとトルディ二両で構成される偵察班。初期偵察は今回のカギにもなる。彼女たちには頑張ってもらう必要がある。

 

『こちら主力部隊です。特に問題はありません』

 

主力部隊は、重戦車と駆逐戦車を中心に編成されている。部隊長にはティーガーⅠの車長である優奈さんを指名した。彼女たちの頑張り次第で戦況は大きく変わる。今回の防御の要である。

 

「遊撃部隊、全車準備完了とのことです」

 

華蘭さんからの報告。フラッグ兼隊長車、そして部隊長を兼任する私たち虎さんチーム。忙しくはあるが、遊撃部隊には副隊長である千尋さんのトゥラーンⅢもいる。いざとなれば頼ることも可能だ。

 

 

 

 

「...えー、この戦いは、ごく個人的に負けたくありません。そのために、皆さんの助力が必要です」

 

ぎゅっと拳を握り締めた。ずきりと一瞬痛んだ右目。それもすぐに気にならなくなった。

 

「...皆で、勝利を掴み取りましょう」

 

『副隊長、依存なしでありますっ!』

 

元気に返事したのは千尋さん。きっと自分が副隊長を任されたことを誇張したかったのだ。

 

「...よろしくね、副隊長さん」

 

手を振ると、彼女も手を振り返した。

 

 

「では、まずは手はず通り。偵察隊は全速で前進、遊撃部隊はゆっくりと森のルートを進みます」

 

地図に目を落とす。今回のマップは狭い。接敵はすぐだろう。

 

 

 

「...パンツァー・フォー!」





次回からはVS試錐学園の試合が開幕します。本当は部隊名や車両ごとの識別名称などもつけようとしたのですが、全く思いつかず...

精一杯執筆しますので、次話からもよろしくお願いします。
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