ガールズ&パンツァー 独眼車長の奮進   作:綾春

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今回からVS試錐学園の試合が開幕です。実はここまできて10両を越える戦車をまともに動かしたことが無いので、上手く書けているか不安ではありますが...


強固なる戦車隊です!

戦車前進の合図と共に、16両の鉄馬たちが心臓の唸る音と共に動き始める。それはゆっくりと3つの部隊へと隊列を変える。偵察車3両は車列を飛び出して全速で前進を開始した。

 

「このまま国道を進んで、江崎まで進むよ。接敵したらそのままやり過ごして退避ね」

 

『了解!』

 

ハンガリーが産んだ新鋭軽戦車トルディシリーズの最終系であるトルディⅢと、トルディⅡをそれに準ずる仕様に改造したトルディⅡaを従えて、オリーブグリーンのレオパルト軽戦車が駆ける。

 

今回の任務は初期偵察。もし敵偵察車両が単独であれば、そのまま戦闘に入るのもありかもしれない。

 

比較的道幅の広い国道を進む。緩やかな勾配を昇って峠を越えれば、江崎はすぐそこだ。敵の遊撃部隊の動き次第でもあるが、互いの速度から考えて江崎周辺で敵部隊を発見することになるはずだ。もしかしたらM5軽戦車が単独で偵察に来る可能性もある。しかしその場合は撃退すればいい。性能上、3両でかかれば倒せない敵ではない。

 

 

峠を越える。勾配を下ると、しばしの平坦路。両側を田に挟まれたのどかな風景だが、この風景のどこから凶弾が飛来するか分からない以上気は抜けない。相手には高速・高火力のコメット巡航戦車もいる。不安要素を拭い切ることはできないのだ。

 

「...敵発見!M5軽戦車!」

 

コーナーを抜けると、江崎の街に入る道と、田万川へ向かう国道の交点。そこにちょうど駆け込んできていたM5軽戦車がいた。M5軽戦車の車長はこちらを一瞥するとM3 37mm砲を一発、照準も程々に打ち込み右折、港方面へと撤退していく。

 

「深追いしすぎないように追撃するよ!」

 

こちらも左折。偵察力はこちらの唯一のアドバンテージ。相手の目は潰せるときに潰しておきたい。

 

江崎の港には、街の規模に見合わない大きな橋が架かっている。その橋の根元にある漁港に、M5軽戦車が滑り込む。こちらも陣形を整え、トルディⅡaを先頭に追う。敵陣に近い場所で戦っている以上、警戒を怠ってはならない。この偵察隊の隊長車であるレオパルトを挟み込むように守っているのだ。

 

漁港の道路は格子状になっている場合が多い。小規模な漁港である江崎の港も例外ではなく、そんな単調かつ空き地の多いフィールドを、M5軽戦車はその軽やかな足取りで駆け抜けていく。

 

「挟み撃ちにしよう!3号車、右に展開して!」

 

3号車...トルディⅡaが右折し、隣の道路へと進路を変える。前を行くM5軽戦車の左側に機銃を撃ち込み、右折に誘導する。相手もそれを分かっているだろう。きっとトルディⅡaに照準を合わせているはずだ。

 

 

M5軽戦車が右折。建造物の影に消える。こちらもトルディⅢを先頭に右折する。

 

 

 

その瞬間、目に入ったのはM5軽戦車の正面装甲だった。

 

「...まずい!避けて!!」

 

トルディⅢは左に舵を切った。ドリフトの姿勢だったトルディⅢは弾き返されるように左に吹っ飛び、同時にM5軽戦車の37mm砲に討ち取られる。スピンしながら吹っ飛んだトルディⅢは海に落ちるギリギリのところで縁石にぶつかって歩みを止めた。

 

飛び出してきたトルディⅡaがM5軽戦車に40mm砲を撃ち込む。相手もさすがに軽戦車。装甲はいとも簡単に貫かれ白旗が上がる。しかし、それと同時にトルディⅡaも白旗を上げたのだった。

 

「な...何処から...!?」

 

よく見ると、正面の漁港施設に、布を被せられた物体があることに気がついた。

 

「...撤退、撤退ッ!」

 

悪い予感がした。その予感は的中し、その物体からは長身の砲弾が撃ち出された。

 

「あれは...」

 

布を被せられた物体は、のそりと動いてその正体を明かす。箱型の車台に搭載されるのは新型の砲塔と、短縮された17ポンド砲、77mm高初速砲。イギリス巡航戦車の極み、コメット巡航戦車であった。

 

さらに状況は悪く、橋の向こうから遊撃部隊の本隊が現れる。このままではいいように撃ち込まれてしまう。とにかく逃げるしかない。港を離れて沿岸を駆け抜ける。橋の上から遊撃部隊のT-34-85が何両か狙っているのがわかったが、こっちは全速だ。そう簡単に当たるものではない。

 

「...何とか逃げ切ったけど、こりゃマズイなぁ...」

 

トルディ2両は火力も装甲も不足気味ではあるが、コメットやT-34くらいなら何とか相手できる性能はある。こちらはただでさえ数の利を取られているのだ。2両も失ってしまったのは痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程...分かりました。こちらも急いで向かいます」

 

偵察部隊壊滅の一報を受けた遊撃部隊は、予定を早めて前進する。レオパルトが撤退するルートを逆走するように進めば、敵部隊と高確率で鉢会えるからだ。

 

「地味にコメットが厄介だね...こっちの車両も、T29とティーガー以外はスパスパ抜けちゃう威力だし」

 

琴音さんの言うとおり、コメットが非常に脅威だ。もちろん他の車両も強力だが。重駆逐戦車隊に気を取られて、こちらの対策を疎かにしてしまったかもしれない。

 

「ともかく...主力部隊がどこまで持ってくれるかで、この戦いはだいぶ変わるよ」

 

敵遊撃部隊と主力部隊が合流してしまうと、いつものパターンに持ち込まれて一気にやられる。今回の戦術はそれを防ぐためのもので、主力部隊を足止めすることが大前提だ。敵主力は相当な戦闘力だ。突破とまでは言わないまでも、十分な時間足止めができないと、勝ち目はかなり薄くなる。

 

『こちら主力部隊。目的地まではまだかかります』

 

「了解。遊撃部隊は高山麓を全速で前進中」

 

『山猫、R305交点を左折、山岳に入ります』

 

「山猫さんは警戒を厳に、偵察を再開してください。安全を確保しつつ、敵遊撃部隊の所在を突き止めてください」

 

『山猫、了解!』

 

ここまで敵主力が発見できていないことを考えると、恐らくこちらの読み通り、北浦街道を西進しているのだろう。予定通り行けば、接敵は先ほどの江崎の交差点になるはずだ。

 

それまでに敵遊撃部隊を発見し、こちらの遊撃部隊とぶつけて足止めをしたい。そうなれば後は...何とかするだけだ。

 

「ただ、定石通りじゃ勝たせてはくれないんだよね...」

 

セオリー通り。それも間違いではないが、この戦力差だ。セオリー通りになんてしていたら勝ち目は無いだろう。もっと奇を衒った戦術、もっと裏をかいた戦術が必要だ。

 

「今は、とにかく前進しか無いと思いますね」

 

華蘭さんが言う。確かに、今回の戦場は非常に入り組んでいる。射線の通る場所が少ないため、あまり周りを気にせずに前進できるという良さもある。

 

「そうだね。まずは前進あるのみ。敵遊撃部隊を補足します!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵レオパルトは退却した。こちらはこのままレオパルトを追撃する」

 

『了解しました。本隊は予定通り江崎交点まで前進します』

 

比較的高速の戦車が揃う遊撃部隊。装甲が厚く車体も大きいパンターを先頭に、装甲の薄いコメットとフラッグであるT-44-100を挟む。そして後ろからT-34-85が4両という編成で、レオパルトが退却していった沿岸線を進軍してゆく。

 

「こちらの思惑に気づかれていたら厄介だけど...まぁ大丈夫でしょう」

 

キューポラに体を預ける。強い潮風が髪を揺らす。

 

主力部隊は北浦街道を西進、敵主力を発見、突破することを目指す。対するこちらは敵遊撃部隊と接触し交戦、ゆっくりと時間をかけて仕留めていけば火力と装甲で勝るこちらは有利に戦えるはずだ。

 

カーブを抜けて視界が開けたとき、レオパルト軽戦車の姿が民家の影に発見できた。

 

「停止。体勢を整えつつ交戦準備」

 

パンターを先頭に、部隊は戦闘準備を開始。山肌に側面装甲を隠すパンター。それに続いて各車飛び出す準備を整えた。

 

 

隊列が出来上がる頃、向こうも街道から顔を出して砲撃を開始。こちらも応戦を開始する。

 

「各車発砲自由。フラッグを優先目標にしなさい」

 

その号令に合わせて各車がタイミングをずらして砲撃を開始する。75mm砲が、77mm砲が、85mm砲が、100mm砲が各々火と煙を噴く。民家や山肌に着弾し、土煙を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり来てた!各車、落ち着いて砲撃を開始!」

 

体勢を整えられなかったこちらが不利だ。まとまりのある砲撃を繰り返す相手に対し、こちらは散り散り。効果的とは言い難い。

 

パンターの正面装甲をコメットの77mm高初速砲の砲弾が叩く。火花と鉄粉を散らしたその砲弾は、そのままはじかれて海面に波を立てた。

 

こちらの砲弾も、相手の巧みな防御体勢の前に効果的な一撃を与えることができずにいた。

 

『こちら主力部隊!江崎交点にて敵主力を発見、交戦開始してます!』

 

「了解しました!無理しすぎずに、押してくるようだったら市街地に退避を!」

 

『了解です、可能な限り引きつけておきます!』

 

優奈さんからの通信。ティーガーⅠ率いる主力部隊が敵と交戦を開始したという。

 

「主力が交戦を開始しました!後はこちら次第です!」

 

『うー...きっついねぇ』

 

舞花がいつになく弱気である。それもその筈、相手はこの大所帯。高校戦車道で最も豪華かもしれない編成だ。対する舞花は相手の装甲を貫くには貫通力に難のある砲と、どこに当たっても抜かれる装甲のクロムウェル。これでも強気でいられるなら、図太いなんてモンじゃない。

 

『このままではダメですね。何とかしないと...』

 

千尋さんも言う。確かにその通り、こうして撃ち合っている間は、こちらに利は存在しないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

民家の影に車体を隠して、敵主力との真っ向からの撃ち合い。こうしてしっかりと車体を隠しているうちは当たる心配は殆ど無いだろう。重戦車たちは『昼飯の角度』を取れているし、しばらくは問題ないはずだ。

 

鐘を突いたかのように、反響音が砲塔内に響き渡る。T29は砲塔が非常に頑丈であるため、ヤークトティーガーの12.8cm砲であっても貫通の心配は無いであろう。

 

敵の編成は、先頭からヤークトティーガーが3両。エレファントが2両、ヤークトパンター3両の後ろにティーガーⅡが控えている。どの砲弾でも駆逐戦車たちは簡単にやられてしまうだろう。

 

ズリーニィⅠの撃ち出した75mm砲弾は上手く後続のヤークトパンターの正面装甲を叩くが、撃破とは行かず。逆にこちらのズリーニィⅡがティーガーⅡの8.8cm砲弾を浴び、撃破されてしまう。

 

「くぅ...やっぱり、キツいか...?」

 

相手はじわじわと距離を詰めている。やはりそう簡単に足止めはくらってくれそうにない。であれば、こちらの行動も自然と限られてくる。

 

「...仕方ない。私の号令で、一気に市街地に退却します。各車準備を」

 

敵を市街地に引きずり込んでの戦闘。相手は背中を見せればやられてしまうため、好む好まざるに関わらず応戦する必要がある。

 

「...全車退却!」

 

相手のヤークトティーガーの装填タイミングを見計らい各々市街地へと逃げ込んでいく。そして敵の主力部隊もそれに続き、戦闘は視界の広い国道から、狭く入り組んだ市街地へと移っていく。

 

 

 

国道から江崎の街を見下ろすことはできる。しかし敵車両では伏角が足りず、砲撃を加えることは出来ない。よって敵重駆逐戦車たちはこちらの遊撃部隊を追撃し、市街地へとゆっくり侵入してくる。

 

そんな敵部隊を、家のガレージにすっぽりと収まって待つ一両の装甲車両。アウトバーンのⅣ号突撃砲だ。少しでも防御力を稼ぐために、冬季杯のときと同じくシュルツェン、そしてコンクリート装甲を装備している。

 

「せめて敵のヤークトティーガーを1両は仕留めたいね...そうすれば先輩たちの役に立てるはずだよ」

 

この狭い道だ。戦車が一両行き足を止めるだけで簡単にふさがってしまう。それにヤークトティーガーの驚異的火力と装甲を真正面から叩くのは不可能に近い。こういう有利な条件があるときに、可能なだけ仕留めておきたいものだ。

 

...ぎゅらぎゅら。音が聞こえてきた。そして振動。

 

 

...あずき色のボディが見えた。

 

「撃て!!」

 

Ⅳ突の75mm砲が火を噴き、ヤークトティーガーの側面に砲弾を叩き込む。鉄が貫徹される軽快な音と共に、戦闘不能を示す白旗が上がる。いかに重装甲の重駆逐戦車とはいえ、10mとないこの至近距離で側面に75mm砲の直撃をもらって耐えることは出来なかったようだ。

 

当然正面を塞がれる格好になったⅣ突はそのままバックして民家を突破。港湾施設へと飛び出した。

 

そこへ民家を突き破って追撃に来たのは敵のヤークトパンター2両。かなりの速度でこちらへ突っ込んでくる。

 

「どうしよう...防御、防御!」

 

車体を傾斜させる。右側面に装備しているシュルツェンが砲弾の持つベクトルを捻じ曲げて弾く。こちらも黙っているわけにはいかない。敵に突っ込んで、半ばドリフトするように背面を取る。ヤークトパンターはこちらに合わせて旋回をするものの間に合わず、1両を75mm砲の餌食とした。

 

その瞬間、車体が大きく揺られる。弾かれる...いや、吹き飛ばされるような衝撃と共に、民家に叩き込まれる。土煙と木片を頭上から思い切り被り、Ⅳ突は白旗を上げた。

 

ハッとなった茜は、ハッチを開けて鼓動を止めた自車の状況を確認した。すると、無傷であったはずの左側面に、大きな被弾跡があることに気が付く。それも、通常弾かれるシュルツェンをそのまま巻き込み、車体装甲と共に貫通している。

 

カーボン層により砲弾は車外で止められた。しかしその衝撃は激しく、無線機が損傷してしまったらしい。被撃破の報告もままならない。

 

 

 

その時、視界に捉えた。橋の上、謎に包まれていた、最後の1両を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

民家を突き破って尚も進軍を続ける敵主力部隊。こちらも密集し、一気に叩くことで被害を最小限にとどめることとした。各個撃破では数で劣るこちらが不利だ。地の利を活かして一気にケリをつけたい。

 

「敵が見え次第発砲自由。ヤークトティーガーとエレファントを優先的に狙ってください」

 

驚異度の高い重駆逐戦車から仕留めることとして、敵の到来を待つ。

 

 

...街道の角に見えるジャーマングレーの重駆逐戦車 エレファント。それに私たちの火砲が集中的に浴びせられる。

 

...それでも撃破判定は出ない。流石の装甲厚だ。正面からではビクともしない。

 

敵は尚も進軍。こちらとの距離を詰めながら、微速ながらも行進間射撃で攻撃を続けてくる。

 

「ひぇ〜...怖いねぇ、やっぱデカイってスゴイ」

 

T29の車長である瀬玲奈が言う。語彙力不足であるが、彼女の言わんとしていることは正しい。大きいとは、それだけで圧迫感がある。性能だけでなく、精神的にも重駆逐戦車は驚異であった。

 

本能的にか、じりじりと後退を始める。敵も当然だがそれを追いゆっくりと迫る。

 

 

...その時だった。

 

 

 

後方で、激しい音と共にズリーニィⅠが火を噴いた。車体は後部が激しく損傷し、民家へと叩きつけられている。

 

「な、何が...!?」

 

砲撃は右方...すなわち海からだ。優奈がキューポラから顔を出して後ろを振り返ったとき、彼女は声を失った。

 

 

 

 

「あ...あれは」

 

 

 

絶妙に丸みを帯びたボディ。重装甲の上に曲面を描くそれは良好な被弾経始で高い防御力を実現している。

 

 

そしてそのボディに搭載されるのは、角ばった大型の砲塔。そこにはドイツ最強の火砲、55口径 12.8cm KwK44戦車砲と、36.5口径 7.5cm KwK44戦車砲を同軸搭載している。

 

 

即ち、かの超重戦車『マウス』と全く同じ砲塔である。

 

 

 

「...E-100...超重戦車...!!」

 

 

敗北を喫したドイツが産み落とした遺産。史上最強の超重戦車が、そこにはいた。





試錐学園の切り札はE-100。序盤で登場させたのには一応理由があります。

また、現在次回作を模索中です。何個かプロットを用意してはみたのですが、どれも何処かで見たような内容で新鮮味に欠けるんですよね...
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