【完結】孵化物語~ひたぎマギカ~   作:燃月

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シャンブルズ(shambles):【大混乱】【修羅場】


【第04章】いったい何の意味があるんだい?
こよみシャンブルズ~その1~


~028~

 

 結ばれた提携関係が、数分と経たないうちに瓦解してしまった!

 

 ほむらの慈悲なき一言に、悲嘆に暮れる僕ではあったが…………結局のところ、僕の反応を見て楽しんでいただけということで――一応、魔女退治に同行するのは承諾されることになったのだった。

 

 

 それから――僕とほむらの間で、今後の方針を決めに掛かったのだけど――いや、方針と言うより、ほむらの都合を訊いて、僕がそれに合せるだけ、と言った方が正鵠を射ているだろうか……。

 

 僕的には、全てありのままに語ってしまっても、問題ないと思っていたのだが、ほむらとしては、そういう訳にもいかないらしい。

 

 巴さんにはある程度事情を明かしてもいいが、鹿目さんと美樹さんにはでき得る限り伏せておきたいというのが、ほむらの意向だ。

 ただ、『心渡』に関してだけは、巴さんにも内密したいとのこと。この刀を『奥の手』として認識しているのだろう。

 

 

 あとキュゥべえには、一切情報を与えたくないところではあるが――現場を目撃されている以上、隠し通すということは既に不可能。

 それでも、馬鹿正直にこれ以上情報を与えてやることもない。

 

 

 段取りも確認したし、あとは時間停止を解除するだけだ――と、その前に、『心渡』を忍に回収して貰っておく。僕と密接にリンクしている為か、忍も行動可能のようだ。

 

 無論、解除する前に、元の位置に戻っておくのも忘れずに――

 

 

 

 

 

 そして――――静止していた時が動き出す。

 

 

 本来なら、死んだはずのキュゥべえが現れた事で、大混乱とした場の収拾に、手を焼いていた筈だが――しっかりと対策を練ることができたので、中々スムーズに事を運ぶことができた。

 

 まずはキュゥべえに、自身の生態について語らせることにした。

 要は以前、僕と戦場ヶ原が訊いた『肉体の死が、そのまま精神の死と直結している訳ではない』という人類には理解できそうもない話を、本人の口から説明させたのだ。

 

 ほむらの目論見としては、当人の口から説明させることによって、キュゥべえの異常性を喚起する為だとか。

 

 まぁその説明前に、自分の死体を平らげる姿を視線の集まるなか晒した訳で……その時点で十分に、異常性は露見することになったのだけど。

 

 マスコットキャラ的な立場は剥奪され、信用度が失墜――毛嫌いされる程ではないにせよ、キュゥべえの扱いが2ランクほど下がる結果と相成った。

 

 

 そして、それ以降キュゥべえには、緘口令(かんこうれい)が敷かれることになる。

 少し意味合いが違うけど……簡単に言ってしまえば『許可がない限り、喋るの禁止』ってことだ。

 こいつが喋ると何かと面倒なので、強制的な措置をとっておく(有無を言わせず厳命したのはほむらだけど)。

 

 そうそう、厳命と言えば、僕もほむらからの命令により(何に於いてもこれが一番重要だと念を押された)――鹿目さんに、僕がほむらの彼氏ではないということを、ちゃんと釈明しておいた。

 

 あとは、僕に関する説明をしなければいけないのだが、この状態では話せない。ほむらと打ち合わせた諸々の事情を踏まえ、僕等がとった対応策はこうだ。

 

 

 全員揃った状態で、簡単な自己紹介だけ済ませた後――鹿目さんと美樹さんには一時的に席を外して貰う事にした。

 邪魔なキュゥべえを二人に預け(美樹さんが嫌そうな顔で受け取ってくれた……押し付けたともいう)、その間に巴さんへ『詳細な説明』を済ませ、話しが終わり次第、こちらから連絡をいれる――そういう手筈になった。

 

 

 美樹さんが多少駄々を捏ねたが、巴さんの説得と、話せる事に関してはちゃんと説明するという条件で引き下がってくれた。

 まぁ一番問題視していた、キュゥべえは生きてる訳だし、彼女としても食い下がる理由が稀薄になっている。

 

 それにこの持て余した時間を丁度いいと、友達のお見舞いに向かうことにしたようだ。

 どうやら、この病院に居たのも、お見舞いが主目的だったようで――その折に孵化しかかったグリーフシードを見つけたんだとか。

 

 これで本日二度目のお見舞いになるらしいのだが、一度目はリハビリ中で会えず仕舞いだったようで、そのやり直しを待っている間にしておこうって算段らしい。

 

 

 場所も、自転車置き場の前から、リハビリテーション用に設けられた遊歩道脇の、休憩スペースへ移す。

 入院患者さんが憩いの場として使用するのだろう。雨避けの屋根の下には、石製のテーブルと円筒型の椅子が設置されてある。

 夕飯時の為か人の姿もなく、落ち着いてゆっくり話すことができそうだ。

 

 とはいえ、少なからず、人目に触れている。

 破けた制服を着たままだとあまりに目立つので、学ランは脱いでしまい、カッターシャツを腕まくりして、夏服仕様に――これで大分見た目はましになったはず。

 

 

 

 ざっと話したが――このような経過を経て、僕、ほむら、巴さんの三人でテーブルを囲むことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

~029~

 

「改めて阿良々木さん、命を救ってくださって、ありがとうございます――――それに暁美さん……私があなたの忠告を素直に訊いていれば…………本当にごめんなさい」

 

 移動を終え、さて腰を下ろそうかとしたその間際――巴さんが僕とほむらに向かって頭を下げてくる。僕には必要以上の恩義を、ほむらには相当に罪の意識を感じているようだ。

 

「……別に、謝って貰う必要なんてないわ……」

 

 ほむらは謝られるとは、欠片ほども考えていなかったようで、その謝罪に戸惑い、そっぽを向いて素っ気無い返事を返すだけだった。

 

 折角巴さんが態度を軟化させてくれているのに……ほむらめ……険悪な雰囲気に逆戻りさせるつもりかよ。

 これだとまた話が拗れかねないので、僕がほむらの言葉を引き継ぎ――努めて明るい感じで声を掛ける。

 

「そうそう、巴さんがそこまで気に病むことはないよ。あと命を救ったなんて大げさだって…………まぁ取り敢えず座って話そうよ」

 

 僕の隣にほむら、対面に巴さんという配置で、石で出来た円柱型の椅子に腰を下ろす。

 

 これで、なんとか話せる空気になった。

 

 

 そして――真っ先に口を開いたのは巴さん――

 

「はい…………それで、私の錯覚でなければ…………腕はあの時に……」

 

 ――魔女に喰い千切られたはず。

 

 沈痛な面持ちに、憂いを帯びたか細い声で、明確に口に出すことを憚り、視線だけで疑問を訴えかけてくる。

 

 どう説明したものかと、しばし迷ったが――その問い掛けに僕は、まどろっこしい前置きを省略して、単刀直入に打ち明けることにした。

 

 

「信じられない話かもしれないけど、実は僕、吸血鬼なんだ」

 

 僕の突拍子もない発言に、きょとんとした表情を浮かべる巴さん。どうも理解が追い付いていない様子。

 

「……吸血鬼って、あの血を吸う?」

 

「そう、あの吸血鬼。正確には『吸血鬼もどき』なんだけど、それは一先ず置いておくとして――人間離れした運動神経があったり、腕が完治したりしたのも、吸血鬼としての力の一端ってこと。あ、そうだ。初めて会った時にキュゥべえが見えるのは、霊感が強いとか適当な事言ったけど、それも僕が吸血鬼だったから見えたんだと思う――ええっと、随分とざっくりした説明になっちゃったけど、大丈夫かな?」

 

「…………本当に…………阿良々木さんは本当に吸血鬼なんですか!? ヴァンピーロなんですか!?」

 

 大きな声で念を押して確認してくる。というかヴァンピーロってなんだ? 一連の文脈から考えると、吸血鬼――ヴァンパイアの別称だろうか?

 

「信じ難い話ではあるとは思うけど……」

 

「いえ……信じてない訳ではないんですが、でも……阿良々木さん、日光とかも平気そうですし……あまり吸血鬼っぽくないかなって……」

 

「あーそういうことか。さっきも言ったけど、僕は『吸血鬼もどき』――真っ当な吸血鬼じゃないから。力も半減してるんだけど、その分吸血鬼としての弱点が消失してる。日光もニンニクも聖水だって効かない、便利と言えば便利で、融通がきく身体ではあるかな」

 

 

 そう言った意味では、ヴァンパイアハーフ――あの性悪なヴァンパイアハンター『エピソード』と体質的には近い状態と言える。利点が半減する代わりに弱点がほぼ全滅するとは忍の言だったか。

 

 ただ僕の場合――不死力に関してだけは、半減した上で尚、凄まじい効果を現している。伝説の吸血鬼様様である。

 

「春先に吸血鬼に襲われたことがあって、こんな異常体質になったんだけど…………いや、本筋から外れるし、この話はやめておこうか」

 

 ついさっきも、僕が吸血鬼に成った経緯をほむらに話そうとしたのだが、何の興味も示してくれなかったからな……「無駄話は必要ない」と、一蹴されてしまったのだ。

 初めてほむらと出会った時にも、似たような対応で断られたと記憶している。

 

 ほむらから不評を買うのも嫌だし、ささっと話を進めてしまおう。

 

 ……そう、思ったのだけど。

 

「いえ、そんなこと言わずに是非是非!! まさか本当に吸血鬼がいるなんて!! もう夢みたい!!  そのお話、詳しく聴かせて貰ってもいいですかっ!?」

 

 異常にテンションを上げ、机に身を乗り出してきた! 目がキラキラと輝いている。

 どうも『吸血鬼』というワードが、彼女の琴線に触れてしまったようだった。

 

 さっきまで鬱屈として沈み込んでいた筈なのに…………いや、元気になるのはいいんだけど……。

 

 

 う~む……ここまで熱望されては、無下にも出来まい。

 

 となれば、語り手としてじっくりと、僕と忍との間に起こった“物語”を話してあげたいところではあったが…………美樹さん鹿目さんを待たせている状況なので、そうも言っていられない。

 何より、ほむらの無言の圧力が怖かったので、手短に纏め簡単に語ってしまう。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、一通り話し終えた訳だが…………。

 

 

「命を捧げて、吸血鬼を救い…………互いに傷付け合いながらも、生涯を賭して、一緒に生きていく事を望む…………こんなこと……誰にでも出来ることじゃないですよね。阿良々木さんが自身の身を顧みず、庇ってくれた理由が、この話を訊いて分かった気がします」

 

 色々と端折って、あらすじのような概略を話しただけなのに、巴さんは、感涙せんばかりの面持ちで、自分の世界に入っていた。

 

 いや、余計な内容(主に体育倉庫内の出来事など)を削ぎ落としたからこそ、こんなにも認識に齟齬が生じてしまっているのだ。

 

 巴さんの中ではとんでもない美談に仕上がっているようだけど……そんな綺麗な話じゃあない。

 這い蹲って傷を舐めあうような、見るに堪えない救いようのない話なのだから……。

 

 

 だというのに、巴さんの僕を見る瞳が、もう純真なこと純真なこと。

 もう、憧憬と言い切っていいレベルの眼差しを向けられると、無性にむず痒く決まりが悪い。

 

 隣で黙って話を訊いていたほむらは表情一つ変えていないというのに……この違いはなんなのだろう。感受性の違いか。

 

「魔女をどうやって倒したのか気になっていたんですが、阿良々木さんは、伝説の吸血鬼の眷属同然なんですよね。だったら、私が仕留め損ねた魔女を、あんなにも容易く、切り伏せたのにも納得です」

 

 『心渡』のことは伏せておく方針の為、どう言い逃れしようかと考えていたが、巴さんの方で勝手に解釈してくれていた。

 好都合ではあるけれど…………これでは僕自身が、途轍もない戦闘能力を持っているってことにならないか? 

 

 巴さんの中で、僕のイメージが独り歩きしている気がしてならなかった。

 いいのか、これ?

 

 

 訂正を加えたいのは山々だけど、『心渡』の力を伏せた状態で、説明するのも難しいし――ここは、流れに身を任せることにした。

 

「……ええっと、他に何か質問とかある?」

 

「そうですね…………あとは…………阿良々木さんと暁美さんってどういう関係なんでしょうか?」

 

「関係と言われても……成り行きとしか……なぁほむら」

「そうね…………元はと言えば巴マミと接触する予定だったのでしょう?」

 

「私……と?」

 

 僕とほむらが知り合う切っ掛けとなった経緯――巴さんの容態確認と、魔法少女のことを調べる為に見滝原までやってきたことを話す。

 今更ではあるが、戦場ヶ原が行った悪逆非道な行いに対しての謝罪もしておいた。

 

 ただ……その所為で、巴さんにとって忘れておきたい、忌まわしい記憶が呼び起こされてしまったのは失敗だった。

 そっと、触れないで置くのが正解だったようだ。

 

 そこまで深刻な様子ではなかったが…………心の傷は、簡単に癒えるものではないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

~030~

 

 

 巴さんへの説明を終え、次は鹿目さんと美樹さんの番だ。

 

 お見舞いに行っている二人を呼び戻すため、巴さんに携帯でワンコール入れて貰う。

 病院内と居るということもあり、携帯で直接話すのは気が引けるので、合図があり次第こっちに来てもらう段取りになってる。

 テレパシーで直接呼び出すという方法もあったらしいが、キュゥべえ経由になるので却下となった。

 

 

 程なくして、二人とお呼びでない白い生き物が一匹やってきた。

 

 

「えっと…………転校生とそっちのあんたは……あら木さん、だっけ?」

 

「いや違う違う。僕の名前は阿良々木。阿良々木暦だ」

 

 覚えにくい苗字であることは自覚しているので、これはいいとして、『転校生』ってのはほむらのことだろうか? 随分な呼び方をするなぁ…………。

 

 そういえばほむらの素性って全く知らないな。まぁ訊いたところで、教えてくれるなんて微塵も思わないけど。

 ミステリアスガール、暁美ほむらである。

 

「そうでしたそうでした……あら、らぎさん。ん~何か言い難いな。えっと『暦さん』、でも構わないです?」

「まぁ好きに呼んでくれて構わないよ。それで、どうしたの?」

 

 一緒にやってきた鹿目さんが、少し後ろでキュゥべえを抱えて控えているので、美樹さん個人で、何かしらの話があるんだと思うけど……。

 

「なんといいますか……え~と…………」

 

 なかなか言い出せず、しどろもどろするばかり。

 それでも、どうにか踏ん切りがついたようで――

 

「なんかあたし……色々と誤解してたみたいで……ごめんなさい」

 

 罰が悪そうに頭を掻きながら、ぼくとほむらに向かって謝罪するのだった。

 

「え? ……何? あなたに謝られる覚えなんて一切ないのだけど」

 

 巴さんに謝られた時と似たような受け答えだが、なんかより、困惑が増している。それ程までに美樹さんの謝る姿が、意外ってことだろうか?

 

 そうは言うものの、僕も概ねほむらと同じ感想だ……巴さんの時はある程度、彼女の心情を察することはできたが……これはいったい?

 

「……いや…………だからさ……まどかから訊いたんだ。あんた達ってマミさんとあたしを助けに来てくれたんでしょ? 転校生のことさ、グリーフシードを獲ることしか考えてない奴だって、勝手に思い込んじゃってた。暦さんは……身を挺してマミさん庇ってくれたわけだし……キュゥべえがあんな摩訶不思議な生き物だってあたし知らなかったからさ……気が立っちゃって」

 

 

 なるほど、そういうことか。

 

 こういうのは、当人の口からよりも、人伝いに訊いた方が、ぐっと信憑性が増すものだからな。

 自分で釈明しようとしても、それは『言い訳』と変換されることが、間々あるもの。

 

 鹿目さん、ナイスな働きである!

 

 

 これで、“表面上”は和解したと言っていいだろう。

 まだ、完全に気を許しあっているような状態ではないから、どうにかして、協調しあえる間柄になって欲しいものだ。

 

 烏滸がましい話ではあるが、僕が彼女達の仲を、繋いであげられればなと思う。ほむら一人では、どうにも不安だ。

 

 

 そんなやり取りを経て――二人にも席に座って貰い、事情の説明を行う事になった。

 

 だけど……二人には極力情報を与えたくないというほむらの方針と――テーブルの隅には、丸まった体勢で聞き耳を立てる、キュゥべえも居るものだから、自ずと話せる内容は限られてくる。

 

「どこまで疑問に答えてあげられるかは解らないけど…………えっと、美樹さん、鹿目さん、何か質問ある?」

 

 一応形式として、Q&A方式を用いているが、きっとこの二人……特に美樹さんの抱いている疑問に対し、はぐらかす様な受け答えしかできないだろうな……。

 釈然としない、隔靴掻痒(かっかそうよう)とした説明になるに違いなかった。

 

 が、僕の予測とは裏腹に……。

 

 

「暦さんの謎めいた力とか、転校生との関係とか――いろいろ問い質したいことはあるんですけど……いいです!」

 

「……いいですって、それは?」

 

 今一つ、美樹さんの言っている言葉の意味が掴めず、首を傾げ問い返す。

 

 その問いに答えてくれたのは、鹿目さんだった。

 

「さっき、さやかちゃんと話し合って決めたんですけど……この事ってわたし達には伏せておきたい事なんですよね? だからマミさんにだけ、先に話したんですよね? だったら……わたし達が無理強いして詮索したら、迷惑になるのかなって思って……」

 

 

「うんうん。そういう事。はぁーなんて殊勝なあたし達!」

「……さやかちゃん。そんなこと言ったら、台無しだよ」

 

 おおぉ……なんと健気で気遣いの出来る子達なのだろうか!?

 この、おちゃらけたやりとりだって、僕等が気負わないよう言ってくれているのだ。

 自分の都合を押し通そうとするほむらとは、えらい違いだ。

 

 

「正直、そう言って貰えると助かるけど……ほんとにいいの?」

 

「だったら暦さん……一つだけ訊かせて貰っていいですか?」

 

 

 すぐに話を切り上げればよかったのに……相手が譲歩してくれた事に対し、なんだか申し訳ない気持ちになって、要らぬ発言をしてしまった。

 

「これだけはどうしても知っておきたいことなんです」

 

 急に真剣な顔付きになって、美樹さんは言う。

 

 

「……えっと」

 

 どう返答したものかと、言葉に詰まる僕。

 

 

「阿良々木暦」

 

 横に座ったほむらが、釘を刺すように小声で僕の名を呼ぶ。

 

 余計な事を言うなってことですね……わかってるってば……。

 

「……答えれる範囲でなら答えるけど」

「いえ、暦さんの素性を探ろうとか、魔法少女の問題に踏み込むような話ではないんです」

「そうなの?」

 

 だったら、問題ないか……。

 

「じゃあ……いっか。答える答えないの判断は後でするとして、取り敢えず言ってみてよ。訊きたいことって何?」

 

「はい、それはですね」

「それは……」

 

 一呼吸置いて、じっくり間を空ける。

 そのただならぬ気配に、僕は思わず息を呑む。

 

 

 

 そして、美樹さんは言う。

 

 

 騒乱の幕開けとなる言葉を、口にする。

 

 

 

「マミさんのおっぱいの感触はいかがでしたか?」

 

 

 

 僕は間違っていたのだ。訊いてから判断するという、中途半端な対応なんてするべきではなかったのだ。

 

 

 

「……そ……それは、何のことだ?」

 

 冷や汗を垂らしながら――兎にも角にも、惚けてみる僕だけど…………もう遅い。

 進んだ時計の針を戻すことは出来ない――覆水盆に返らず、だ。

 

 

「美樹さん! あなた何を言ってるのよ! もうぉ、恥ずかしいじゃない!」

 

「阿良々木暦。私は『委曲を尽くして説明して』と言ったはずよね。初耳なのだけど、これはどういうことかしら?」

 

「え? え? なになに? さやかちゃん! それっていったい!?」

 

 

 

 状況は既に、開始されてしまっているのだから。

 

 




『ヴァンピーロ』はイタリア語で『(男の)吸血鬼』。

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