【完結】孵化物語~ひたぎマギカ~   作:燃月

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トリック(trick):【策略】【悪計】【巧妙な手段】


【第07章】私に出来ることは、何だってするわ
つきひトリック~その1~


~052~

 

 僕としては近日中にでも、予定を調整してから会合の場を設ければいいかと考えていたのだが――ほむらの強い要望もあって即日、取るもの取り敢えず月火を紹介する運びとなった。

 

 本当ならこれから、十七時を目処に巴さん&美樹の魔法少女ペアと合流し、日課となった魔女探し(パトロール)に向かう手筈になっていたのに…………キャンセルするよう強要された。

 まぁ何でも独りで対処する傾向にあった彼女が、僕なんかに相談を持ちかけてきたことからも、よっぽど逼迫した状況なんだと推測できるし、仕方あるまい。

 

 そんなこんなで――僕はほむらをマウンテンバイクの後ろに乗せ、阿良々木家へと帰還する事に相成った。

 見滝原に着いて三十分も経たぬ内にとんぼ返りだ。

 

 

 

「あ、お兄ちゃん、おかえんなさーい」

 

 我が家のリビングに足を踏み入れると、月火の間延びした気怠げな声がした。

 浴衣姿でソファに寝そべって雑誌(ヘアカタログ)を捲りながら、おざなりな態度でのお出迎え。

 

「おう、ただいま。なぁ月火ちゃん。あいつは家に居ないのか?」

「ふぇ? あいつ? ああ火憐ちゃんなら道場に行ってるよ」

 

 お、これは好都合――火憐の常人離れした足でさえ、道場まで片道一時間は掛かる距離だからな。自主練(行きはウォーミングアップで、帰りはクールダウン)の目的がある為、バスや自転車なんかの移動手段は使わない。空手の稽古時間も鑑みれば、それなりに帰りは遅くなるだろう。

 それに日曜日であろうとも関係なく、両親揃って仕事に出ている。即ち、今この家には月火しかいないってことだ。

 

 これで周りを気にすることなく、ほむらの紹介ができる。ちなみにほむらは外で待機中。

 いきなり紹介したんじゃ、月火も身構えてしまい兼ねないので、ある程度は“場”を整える必要があるのだ。

 

「そっか。でさぁ」

「ん?」

「折り入ってお前にお願いしたいことがあるんだけど」

「むむ、お兄ちゃんが、私にお願いとな?」

 

 雑誌をテーブルの上に置いて体勢を起こし、細めたたれ目で僕を見やる月火ちゃん。

 物珍しい発言と感じたのか、少し怪訝な感じ。

 

「おう。お願いだ。これはファイヤーシスターズの出来た方の妹であるお前にしか頼めないことなんだ! あの体力馬鹿とは違って、お前は可愛いくて頭も良いからな!」

「あははははー、そうかなー」

「やっぱり頼りにするなら、優秀な妹の月火ちゃんしかいないぜ!」

 

 取り敢えず火憐ちゃんを引き合いに出して褒めまくる(比較対象がいた方が褒めやすいのだ)。

 機嫌を良くして、扱いやすくする作戦である。

 よし、ここでもうひと押し!

 

「それにしても月火ちゃん、今日も和服姿が似合ってるな! 思わず見惚れちまったぜ! 正に平成の大和撫子! 羞花閉月(しゅうかへいげつ)とは、お前の為にある言葉だ!」

「やだなーお兄ちゃん。ほんとのことでも照れるよー」

 

 相好を崩し大喜びしている。実に乗せやすい性格である。

 

「もぉー仕方ない兄なんだから! お願いぐらいお安い御用だよ!」

「おう! なんて頼もしい妹なんだ!」

 

 ふっ。妹の扱い方など、とうに心得ている。

 

「お金なら利子なしで貸してあげるってば! 二千円あれば足りる?」

「……………………」

 

 兄からのお願いとして、真っ先に想定したのがコレか! 妹に軽んじられていることが、よーく分かった! 舐めやがって!

 

「あれ? 違った?」

 

 だけど、悲しいかな――阿良々木暦くんはドーナツを大量購入して現在金欠なのである。財布の中に百十七円しか入っていないのだ。自販機でジュースも買えやしねぇ。

 

「違うけど違わない。有り難くお借りするぜ!」

 

 ここは素直に妹の厚意に甘えるとしよう。

 

 

「でもそれとは別に、月火様にしか頼めない案件があるんだ」

「うむ、苦しゅうない。ほれ、何でも私に言ってみそ。下々の願いを叶えて信ぜよう」

 

 下手にでたら、直ぐ図に乗る小妹だった。

 浴衣の帯に忍ばせていた扇子を取り出してパタパタ仰ぎながら、足を組んで偉そうな態度で月火は言う。

 前髪ぱっつんのロングヘア――世に言う姫カットに古めかしい口調、着ているのも着物ということもあって、どこぞの小国のお姫様みたいな雰囲気だ。ただ間違っても大国の姫でない。小物臭がプンプンだ。

 

 うぜぇ……けど我慢我慢。煽てたのは僕だし、寧ろ上機嫌でいて貰わなければ困る。 

 

「慈悲深きお言葉、ありがとうごぜぇますだ」

 

 まぁここは月火のノリにあわせ、へりくだって下々の民を演じてみる。兄より上の立場というこの構図に、大そうご満悦そうだ。

 

「でだ――お前に紹介したい子がいてさ」

「ん? 紹介することがお願い?」

 

「早合点するな。その子の相談を訊いてやって欲しいというのが僕からのお願いだ」

「ふむふむ。まぁお兄ちゃんたってのお願いというのなら、相談を訊いてあげるくらい構わないけどさ……どういう関係の子なの?」

 

「ああ、僕の同級生の妹さんでな。暁美ほむらさんって言うんだけど、ファイヤーシスターズの、いや阿良々木月火個人の名高いアドバイザーとしての評判を、噂で聞き及んだらしい。で僕の方から、お前に取り次いでくれないかと頼まれた訳だ」

 

 無論、同級生の妹というのは偽称であり真っ赤な嘘。方便だ。

 ありのままに僕達の関係性を伝える訳にもいかないので、“設定”としてそういう事にしておいたのだ。ほむらには事前に話を通してあるので問題ない。口裏は合せてある。

 依頼者という立場なので、割り合い素直に応じてくれた。

 

「じゃあ、相談ってのは恋愛相談ってことなんだね」

「おお、流石月火ちゃん。察しがいいぜ」

「うんうん、私の名声も止まる所を知らないなー」

 

 知名度の向上が嬉しいらしく、有頂天の月火だった。

 兄としては調子に乗る妹を見るのは、ただただ腹立たしい。

 

 しかし何にしても、これで月火からの承諾は得られた。

 その場凌ぎの設定だったので怪しまれるかとも思ったけれど――彼女にとっては意外なことでもなかったらしい。どうやら火憐経由で、こういう類の相談を持ちかけられる事は、ままあったようだ。

 

「よし。じゃあ早速なんだけど頼むよ」

「早速?」

「ああ、実はその子、家の前で待たせてるんだ」

「なんと!」

「なんか差し迫った状況らしくてな。取り敢えずお前は僕の部屋で待っててくれよ。直ぐ連れて行くからさ」

 

 リビングじゃ、帰ってきた家族の誰かと鉢合わせする可能性があるので、協議の場は僕の部屋でいいだろう。

 

「あーあと、あまり愛想がよくないというか、気難しい感じのする子だけど、ここは兄の顔を立てて上手く対処してくれ。信じてるぜ月火ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

~053~

 

 玄関先で待たせていたほむらを招き入れ、そのまま僕の部屋へと案内する。

 日頃から整理整頓は心掛けているので、部屋の中は割かし綺麗なほうだ。見られて困る物は、厳重に施錠し隠してあるので露見する心配はなかった。

 ただ、勘違いしないで欲しい。見られて困る物とは言っても、如何わしい参考書のような有り触れたモノではない。それだけはしっかりと提言させて頂こう。

 

 そうこれは、そんな低俗なモノではなく――僕にとって掛け替えのない宝物なのだ。例え家が火事になったとしても、これだけは死守することを僕は固く胸に誓っている。

 しかし、もし誰かの目に触れれば、僕の社会的地位が一瞬にして瓦解する代物でもある。まぁぶっちゃけると、羽川さんの下着(上下セット)なんだけどね。

 デスノートなんて可愛いものだ。

 

 そんなことは兎も角、ほむらを引き連れて部屋に這入ると――

 

「うわ。綺麗な子!」

 

 ――先んじて待機していた月火が喚声をあげた。

 ほむらの整った顔立ちを見て、瞠目しているようだ。気持ちは分からなくもないが、そういった事は胸の内に留めておけよこの妹は……。

 

 ともあれ、ほむらには学習チェアに座って貰い、僕と月火はベッドに腰掛けた状態で会合はスタートした。

 

「事前に軽く紹介はしておいたけど、改めて――こちら暁美ほむらさん。で、こっちのが妹の月火。二人とも中学二年の同学年ってことだし、変に気負わずやってくれな」

 

 まず僕が率先し、仲介役として二人の間を取り持つ。

 

「うん。暁美ほむらさん――ね。どうぞよろしくー」

「よろしく」

 

 笑顔を交え軽い調子の月火に対し、ほむらはあくまでも泰然自若とした面持ちで応じる。

 愛想こそないが、あの戦場ヶ原との談合を思い返せば断然マシな部類だ。ほむらにしては及第点の応対と言えるだろう。

 

 だがしかし、月火にとっては満足のいく応対ではなかったらしく――

 

「う~ん、なんか固いなー。あ、そうだ。私のことは『月火ちゃん』で構わないから、わたしも『ほむらちゃん』、んんーいや、『ほむちゃん』って呼ばせて貰っていい?」

 

 ここで中学生のカリスマ的存在として君臨する、我が妹のコミュニケーションスキルが遺憾なく発揮された。初対面の初絡みで、あだ名を決めてしまうとは…………僕には真似できそうもない。

 

「え、ええ……お好きにどうぞ。私は、月火さん、でも構わないかしら?」

「うん。いいよー」

 

 月火の馴れ馴れしいまでのノリに面食らった様子だけど、それでも、ほむらの表情を窺う限り、言う程不快そうでもない。まぁ表情を取り繕っている可能性も否めないし、ぎこちない受け答えではあるが。

 

「それで、ほむちゃんの相談って恋愛相談でいいんだよね?」

「ええ、間違いないわ」

「うん、おっけー! じゃあちょっと、お待ちあれ」

 

 そう言って月火は、前以て用意していたのであろう手帳とペンを取り出した。相談に乗るにあたって、ちゃんとメモをとる算段のようだ。

 ほう、中々殊勝な心がけではないか。妹に対しては基本捻くれた評価しかしない僕だが、これは素直に感心した。妹の如才なさに心中で賛辞を送る。

 

 と、気付けばなにやら早々にペンを走らせている。

 

 横合いから覗きこむと『ほむちゃん・中二・黒髪ロング』など、簡易情報を記しているようだ。

 

 更に――『顏・表情/95点A評価 ※美人さん、クールビューティー、表情変化が乏しいのがマイナス(要精査)、辛勝』なんて具合に、月火による採点と一口メモが……一応現時点での第一印象を月火なりに書き出している感じか。辛勝が何を意味するかは不明である。

 

 更に更に――『服・身だしなみ/83点B評価 ※服装は至ってシンプルで際立った点はなし、指輪が凄く綺麗(どこで買ったか訊こう!)』

 

 更に更に更に――『スタイル/72点C評価 ※すらりとしたモデル体型(だけど胸はない、勝った)』

 

 勝ったじゃねーよ!

 問答無用で妹の頭を(はた)いておいた。体勢を崩しベッドから落ちて突っ伏す月火。盛大に顔面を強打していた。

 

「痛ッ! ちょ! 何すんのよこの兄は!?」

 

 後頭部と鼻頭を押さえ、声を荒げる。

 非難めいた眼差しで睨んでくるが知ったことか。

 

「下らんことを書いてるからだろーが!」

「下らなくなんかないよ! お兄ちゃんには理解できないかもしんないけど、これはとっても大切なことなんだからね! 情報は武器でありしっかりと把握しておくのが大事なの!」

 

 僕が苦言を呈したのは、あくまでも私的な一口メモに対してなのだが(内容が内容だけに、特定しての指摘は憚られた)――僕の意図するところはちゃんと伝わらなかったようで、月火は自身の正当性を主張しだした。

 兄の心妹知らずとのこのことか(造語だよ)。

 

 高説ぶって持論を展開する月火に対し僕は言う。

 

「情報が大事なのは否定しないが、前提を履き違えていたら何の意味もねーだろ」

「は? どういう意味?」

「相談内容も訊かず、早計に判断すんなっつってんだ!」

 

 幾らほむらのスペックを推し量ったところで、今回その情報が役に立つ機会はないのだから。

 

「何よ偉そうにうるさいなー。じゃあ、ほむちゃん、教えてくれるかな? 情報はどんな些細なことであれ全部、知ってる事は余すことがないように伝えてね! 特に意中の相手の情報は念入りに――容姿、性格、交友関係、趣味嗜好、あーあと、苦手なモノとか弱みとかもあったら忘れずに、脅しをかける時に役立つかもしれないから」

 

「待てコラ! 脅しってなんだよ!」

 

 当たり前のように言うから、聞き逃しそうになったわ!

 

「やだなーお兄ちゃん。これはもしもの時の最終手段だよ? 備えあれば憂いなしっていうじゃない」

 

 自分の発言が、然も正論のように月火はのたまう。百パーセントの解決率を誇る、恋愛相談の裏を垣間見た。

 我が妹ながら、どういう感性してるんだ! 正義の味方を自称することさえも烏滸がましいわ!

 

「駄目だ、ほむら。やっぱこの馬鹿に頼るのは考え直そう。僕の人選ミスだ」

「いったい何が駄目なの? 毅然たる意気込みが感じられて、とても頼もしく思うわ」

 

 こっちにも同じ感性の奴が居た。そう言えば『如何なる手段を以ってしても――』とか何とか言ってたな……。

 

「テメェ等、自分のことじゃないからって、勝手なこと言ってんじゃねーぞ!」

「うん? お兄ちゃん、私のことはいいとして、ほむちゃんまで一緒くたに『自分のことじゃない』ってどういうこと? それっておかしんじゃない?」

 

 僕の言い分に違和感を覚えたようだが――

 

「だから、前提が違うってさっきから言ってんだろうが! 今回の恋愛相談は、別にほむら自身の相談って訳じゃなんだよ!」

「ん? どいこと?」

「ごめんなさい。言い出すのが遅れてしまったけど、月火さんに相談したいのは、彼が言う通り私の事じゃなく――想いを寄せる相手に告白できない知り合いに対し、私がどうアドバイスをしてあげたらいいかという話なの」

「ああ、前提が違うってそういうことね」

 

 ほむらの説明により、やっとのことで本題に入れた。

 

「はー、ふーん、そっか……じゃあ、ほむちゃんの恋路を応援しようってことじゃないんだね――」

 

 と、そこで月火は顎に人差し指を宛がい思索に耽り、改めて事実確認をする。

 そして、事も無げにさらっと言った。

 

「――でも、そういう話だったら、私、力になれないよ?」

 

「は? 力になれないってどういうことだよ?」

 

 月火の職務放棄発言に、少し語調を強め問い質す。

 

「少しニュアンスが違うかな、気乗りしないというか…………あ、そう、“前提”が違うの!」

「何を今更! 得意気にアドバイザーとしての実績を語ってたクセに、はっ、お前は所詮、口先だけか?」

 

「お兄ちゃんも人の話全然訊いてないじゃん。何が『内容も訊かず、早計に判断すんな』だよ。バッカじゃないのっ!」

 

 月火の暴言に加え、僕の発言を再現したのであろう完成度の低い声真似が(かん)に障って、腸が煮え繰り返る。

 それでも、月火の言い分に思うところがない訳でもないので、ぐっと言い返したい衝動を抑え込み、平静を装う。

 

 どーどー、落ち着くんだ僕。

 

「なら、お前の言う前提ってどういうことなんだ?」

 

「だーかーらー、幾ら私が相談に乗った相手の恋縁を確実に結ぶとはいっても――前提として、本人の意志ありきの話だからね、こういうのって。言い方が悪くなるけど、第三者による勝手な依頼は受け付けてないの。まぁその代わり、正当な依頼主からの要請には、全力で応えるよ」

 

 むむ、この妹のことだから、手当たり次第、片っ端から依頼を受け付けていると思っていたのに……ちゃんと月火なりの線引きは設けていたのか。

 

 至極真っ当な理由に、上手く言葉が出てこず返答に窮するしかない。

 

 と、そこでほむらが口を開いた。

 

「月火さん、あなたの言い分は尤もだと私も思う。でも……そこを曲げて協力をお願いできないかしら? 勝手な言い草だと自分でも承知しているけれど、私にも譲れない事情があるの」

 

「う~ん、そうだね。私が納得できる理由があれば、考えないでもないよ。何だか訳ありって感じだし」

 

 ほむらの重みのある言葉が届いたのか、月火は妥協案を提示する。

 ただ――

 

「そもそもお兄ちゃんの紹介って時点で“普通”じゃないんだよね――ねぇお兄ちゃん、改めて訊かせて貰うけど、ほむちゃんと“どういう関係”なの?」

 

「……………………」

 

 疑惑の視線が突き刺さり、僕が二の句を継げずにいると――月火が畳み掛けるように自身の推測を述べ立てる。

 

「まず同級生の妹ってのが怪しいよ。そんなの“友達の友達”以上に稀薄な関係な訳じゃない? なのにお兄ちゃん、ほむちゃんのこと名前で呼び捨てにしてたよ。多分、無意識だったんだとは思うけど、でも、それって言うなれば“習慣”なんだよね。それと、ここ数週間ずっと帰りが遅かったのって、二人の関係に起因してのことじゃないのかな? 結論として――私は、二人から強固な繋がりを感じずにはいられない、なーんて色々想像しちゃってるんだけど、どうなのかなお兄ちゃん?」

 

 再度月火は問い掛けを繰り返す。くそ……余計な事に勘付きやがった。

 

 阿良々木月火。

 ファイヤーシスターズの頭脳(ブレーン)――参謀担当。

 小賢しいまでに抜け目なく、したたかにして狡猾で、馬鹿な事を仕出かす妹ではあるけれど、決して馬鹿ではないのだ。

 

 ほぼ完全に看破されている。だけど……だからと言って僕とほむらの関係性を語るべきではないし、ほむらとしても自身の正体――魔法少女であることを開示したいとは思わないだろう。

 もうこれは……相談を諦め、有耶無耶にしてばっくれてしまうのが正解か?

 僕一人であれば、どうとでも言い訳できるし、兄の強権を発動して突っぱねることも容易い。

 

 なんて、対策を講じていたのだが――

 

「月火さんの推察通り、私の素性が同級生の妹だというのは嘘よ。ごめんなさい。でも悪意があって、あなたを騙そうとしていた訳ではないの」

 

「まぁそれはいいけんだけどね――で、結局のところ二人の関係は教えて貰えるのかな?」

「いえ、関係は話せない――というよりも、話さないのがお互いの為。その上で私が伝えられる事は全て伝える。月火さんが“納得できる理由”になるかは解からないけれど」

 

「んっと、つまり、お兄ちゃんとの関係は伏せた状態で、ほむちゃんが言うところの“譲れない事情”を話してくれるってことでいいのかな?」

「ええ、その通りよ」

 

「まぁそうだね。元から本題はそっちだし、二人の関係については目を瞑るよ」

「助かるわ――兎も角まずは、大まかな概要の説明から」

 

 ――僕が口を挟む暇もなく、当人の間で話しが纏まった。僕のいる意味が失われつつあるな。

 

 

 ともあれ、ほむらが語った話の大筋を纏めるとこんな感じになる。

 

 所謂三角関係のもつれが根幹にあって――構図としては、一人の男の子に二人の少女が思いを寄せている。実際にはもっと煩雑とした細々とした問題があるらしいが。

 

「それで、私はその内の一人に肩入れしてる訳だけど――」

「――もたもたしてる間に、もう一人の子に先を越されちゃいそうってことでいいのかな?」

「そういうことね」

 

 大の恋愛ドラマ好きの月火は「よくあるベタな話だねー」なんて三角関係という単語に反応し面白がって多少は興味を示したが、結局――

 

「うん、まぁ、差し迫った状況だと言えなくともないけど…………でもやっぱり、そういう話なら本人の意思を訊かないと、私は動けないかな」

 

 食い付きこそ良かったが、すぐに餌を離してしまった。

 月火を納得させるには至らない。

 

 が――しかし。

 

「いえ、ここで判断を下して貰っては困るわね。まだ話の核心部分には触れていない」

 

 話はまだ終わっていないらしく、真剣な様相でほむらは言葉を紡ぎ――

 

「突拍子もない発言なのは重々承知して言わせて貰う」

 

 ――力強い声音で彼女は言った。

 

「恋に破れた時、その少女は命を落とすことになる」

 




 阿良々木くんからの視点(客観的な印象)だけなので、ほむらの心情が少しは解かり辛いかもしれません。後々ほむら視点に切り替え、カバーしていこうと考えています。

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