【完結】孵化物語~ひたぎマギカ~   作:燃月

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つばさサーチ~その6~ (おまけ:まどかホーム)

~091~

 

 現在、僕達は卓袱台を囲んで座っている。

 さて、よくよく観察してみれば――羽川がノートに書き上げた地形図は、元々卓袱台の上に設置されていた、見滝原市内全域が記された地形図の縮小版みたいなものだった。

 

 故に――卓袱台上には大きさが違うだけの地形図が二つあることになる。まぁそれぞれ違う書き込みがされているので、違いはあるのだろうが――

 

「なんで縮尺が違うだけの地図をわざわざ用意したんだ?」

「ん? ああ、ちょっと色々書き込みしながら話をしたかったから――ほら、暁美さんの私有物に直接書き込むわけにもいかないし」

 

 だから自作しました――ということらしい。

 全然大したことないように言っているが、片手間で作成できる完成度じゃないんだぜこれ。

 

「ではでは、随分待たせちゃったし前置きは飛ばして早速始めましょうか」

 

 と、羽川は筆記用具の中から赤ペンを取り出し――

 

「暁美さんは『ワルプルギスの夜』の出現予測地点を可能性として5箇所まで絞っていたようだけど、私の考えではこの範囲」

 

 ――ノートに書かれた地形図の一点に円を描いた(どうでもいいがコンパスを使ったかのような歪みのない円形である)。

 要はこの赤丸で記した箇所が、羽川の予測するワルプルギスの出現する場所ってことか。

 

「…………確かに、私も確率でいえばその地点が一番高いと考えてはいたけど…………なぜそう言い切れるのかしら?」

 

 羽川の見解に対し、疑問を呈するほむら。

 他にも『ワルプルギスの夜』が出現するかもしれない予測地点があるようだから、一点に絞れる根拠を提示してみせろと言いたいのだろう。

 

「んーと…………なぜって、それはさっき見せてもらった資料に纏められていた通りだよ。私がしたことは数ある統計を元に、そこからただ検証して導き出しただけだから……一から説明することもできるけど、ちょっと問題があるし……」

 

 はぐらかすように言葉を濁す。

 これは少し妙だ。こういった説明に関しては、僕にも理解できるよう噛み砕いて説明してくれるのが羽川の本来の在り方なのだが?

 

「問題と言うのは何? 有耶無耶なまま話を進めることはできないわ」

「それはそうだけど、暁美さんにとって不都合な話になるよ」

 

「私にとって?」

「うん。暗号で書かれていた箇所が真実であればの話だけどね。まぁ私は、事細かに調べ上げられた暁美さんの資料を見させてもらったから、もう信じちゃってるんだけどさ」

 

「………………解けたというの?」

「『時間』『統計』『繰り返し』、暁美さんならこの意味、解るよね」

「…………そう。まさか、あの短時間で本当に………」

 

「どうしようか。暁美さんがどうしてもと言うのなら、阿良々木くんに席外してもらう?」

「いえ、その必要はないわ。このまま先を進めて」

 

 二人の間だけで話が纏まったようだが、僕は完全に置いてけぼりだった。

 まぁほむらが納得してくれたようだし、別にいいんだけどさ。

 

 ただちょっと、ほんのちょーっとばかり疎外感を感じた僕は、自身の存在をアピールするため口を開く。

 

「なぁ羽川。お前が書いた地図のその記号は何を表しているんだ? あと隅の方にも記号と一緒に英数字が書き込まれているようだけど?」

 

 黙って二人の話を訊いているしかなかったからこそ、気付いた点だ!

 

 地図記号とは全くの別物で、地図の中に様々な形の記号が散りばめられている。

 あと、その記号と同じものが地図の枠外に記されており、それをイコールで結んで英数字の羅列が並んでいた。うん、全くもって意味不明だ。

 

 表記としてはこんな感じなのだが。

 

 ○=『M224』/△=『BGM-109』/□=『RPG-7』/☆=『AT4』/などなど。

 

 

「ああ、英数字は暁美さんが所持している武器の通称名で、記号がその武器の配置場所を表しているの」

「はぁーなるほどな」

 

 地図に書き込まれた記号が、どの武器を指しているか枠外に表記しているわけか。

 しかし、何で当たり前みたいに武器を通称名で書いてるんだよコイツ。いや、多分、正式名称を言われても僕にはわからないんだろうけど……羽川はそれを把握していることになる。

 

「それ私に見せてもらっても?」

「ええ、どうぞ」

 

 羽川の了承を受け、ほむらが僕の手元にあったノートを持っていく。

 気になることでも書いてあるのか、食い入るような眼つきだ。どこか平静でない感じ。

 

「羽川ってミリオタなの?」

「……なんでそうなるのよ」

 

 ほむらがノートに集中している間の、場繋ぎ的な意味合いの会話なので、まさか本当に羽川がミリオタだと思って話をふったわけじゃないのだが――

 

「お前って銃とか爆弾とかの知識もちゃんと持ち合わせているようだし、どういう経緯で知ったのかなって?」

 

「ん? 過去の歴史を知る上で戦争は付き物で、今現在もあちこちで武力紛争が起こっているんだよ。そういったことを深く理解する為には、兵器・武器の知識は必要なことじゃない。まぁ他にもドラマとか映画ででてきた銃なんかを興味本位で調べたりしているけれど」

 

 いや、そんな一般常識みたいに言われても。

 

「お前はなんでも知ってるな」

「なんでもは知らないわよ。知ってることだけ」

 

 お決まりのやり取りをやっているうちに、ほむらが確認を終えたようだ。

 

「…………これを、この場で考えたというの?」

 

 困惑、疑念――そういったが思いが込められたほむらの呟き。

 

「この武器の配置を決めるに至ったあなたの狙いを訊かせて頂戴」

 

 そして――急き立てるような口振りで問い掛けた。

 

「うん、これは暁美さんがメモ書きしていた武器の配置を元に考えたんだけど――暁美さんが元々想定していた配置は、ワルプルギスの夜が予測地点のどこに現れたとしても対応できるように防衛線を張っていたわよね。私のは、出現地点を一か所に絞った場合の配置」

 

 そこで羽川はノートの赤丸(ワルプルギスの出現予測)を囲むよう、もう一回り大きな円を描き、更に話しながら書き込みを加えていく。

 

「勿論、出現位置にずっと留まってくれる筈もないし、この円で囲んだ一帯までは戦場になると考えた方がいいかな。ただ、避難場所であるこの区画に行かせる訳にはいかない。人的被害を出さないためにも、防衛ラインはここまでとし、この地点で押し止める必要がある。だから、この場所に適した砲台の配置は火力の違いを鑑みてこっちにしておいたんだけど…………とは言っても、これは取り敢えず仮配置だし、あと暁美さんの魔法での誘導補正も、資料のデータから算出した上で組み込んではいるけど、やっぱり魔法のことは解からないし、微調整は暁美さんに任せるしかないかな」

 

「いえ……このままで十分活用できる段階、すごく参考になる……なります。できれば、もっと詳しく教えて下さい」

 

 あの暁美ほむらが、完全に教えを乞う立場で接している!

 羽川に対する信頼度が急上昇した!

 

 わからないなりにもほむらの魔法のことまでちゃんと踏まえて考えているあたり、もう色々おかしい。

 

 

 まぁそこからも羽川主体の講義(話し合い)は続く。

 開始当初は用意されていなかったお茶とお茶菓子まで提供され歓待を受ける。一応僕の分も用意してくれたが、明らかに茶葉の種類と湯呑の質が違ったような気がするが。

 

 ともあれ――文句なしで羽川の加入は認められ、いや、ほむらからお願いされるかたちで、羽川翼の作戦指揮官としての就任が決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※本編が短かったのでおまけ(過去に息抜きで書いた没作品です)

※『孵化物語』本編とリンクしているわけではありません(多分)

※まどかパパ(鹿目知久)視点

 

 

 

 まどかホーム~おまけ~

 

「はじめまして。阿良々木暦といいます」

「いらっしゃい。その……阿良々木くんは…………中学生じゃないよね?」

「え、あ、はい。こんな小さななりですけど、高校三年生です」

 

「あぁ、そうなんだ。高校生か。はは。それで、まどかの“お友達”で、いいんだよね?」

「ああ、はい、そうですよ。仲良くさせてもらってます」

 

 僕の不躾な質問に対し、彼――阿良々木暦くんは戸惑いながらも首肯した。

 でも、そんな訳はないだろう。

 

 高校三年生。

 そうか。ついにこの時がきてしまったのか。

 

 もうまどかもお年頃な訳だしね……“彼氏”ができるのだって、ずっと覚悟していたことじゃないか…………僕の一時の感情をぶつけるのは間違いなんだ。

 

「そうだ。あとでお茶菓子でも持っていくど、飲み物はコーヒーでもかまわないかな?」

「はい。特に好き嫌いはありませんので。お気遣いどうもありがとうございます」

 

 それに礼儀正しい好青年じゃないか……髪が少し長めだけれど、十分許容範囲だろうし、別に不良ってわけでもなさそうだ。

 

 しかし、高校生…………繁華街を歩いている時にでも知り合ったのだろうか…………とはいえ、まどかの性格から考えて、自分から声を掛けたとは考えにくい。

 

 すると、彼の方から声をかけて、ナンパでもされたのだろうか?

 

 うん、我が娘ながらまどかは愛らしく本当に素直で、人をひきつける魅力を備えている――だから、これはある意味当然のことなのかもしれない。

 

 ああ……気になって仕方がない。探りを入れたい。でも駄目だ。堪えるんだ。

 色々問い質したいことが口の先まで這い上がってくるが、言葉になる寸前でどうにか押し留める。

 

 僕は娘の事を信じている。うん、信じている。

 

「そっか……いや、じゃあごゆっくり……」

「はい。お邪魔します」

 

 と、その時――自室の片付けにいっていたまどかが、上階の手すりから乗り出すように顔だけを覗かせ――

 

『パパー話し込んでないで、早く上がってもらってー。ほら、暦お兄ちゃん上がって上がって!』

 

「っ!?」

 

 お兄ちゃん…………だって!? いったい娘とどんなプレイを!?

 

「まど…………鹿目さん!? ここ自分の家って解ってる!? 妙な誤解を生むからねその呼び方はっ!?」

 

 

 


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