【完結】孵化物語~ひたぎマギカ~   作:燃月

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ハッチ(hatch):【孵化する】【企む・目論む】


こよみハッチ~その13~(Walpurgisnacht)

 

~095~

 

 号砲代わりにお見舞いした爆破攻撃は、計り知れない破壊力を示し灼熱の炎が魔女を包み込んだ。

 その威力を物語る爪痕として、コンクリートで舗装されていた道路は数十メートル範囲でえぐれ、巨大隕石が衝突したようなクレーターが出来上がっている。

 

 立ち込めていた黒煙が薄れると、そこには身体の端々に深い裂傷を負った魔女の姿があった。

 豪奢なドレスは半ば崩れ落ち(衣服は繊維質ではないようだ)、魔力的な防壁で防がれた痕跡もない。

 

 奇策は見事成功したとみて間違いないだろう。

 

 だが……逆に言えば、このレベルの攻撃をもってして倒しきれなかったということ。

 あの威力の爆発を耐えきるとは、やはり最強の魔女。正真正銘の化け物だ。そう容易く攻略はできないか。

 

 

『マジかよ……あの爆発をモロに喰らって、ほぼ原形をとどめているって、どんなに頑丈なんだよ』

『……ちょっと、気が滅入るわね』

『そう悲観することでもないわ。相応のダメージは与えられた筈だし、それに周りにいた使い魔も一掃できた』

 

 確かに、敵の戦力を大幅に削れたアドバンテージは大きい。

 まだ幾らか使い魔は残っているが、十分の一ぐらいに数が減っている。

 

 

「ギャァアアアアアアッ!!!」

 

 悲鳴と絶叫が合わさった悍ましい咆哮が上がる。

 

『お、流石に気付かれたようだぜ』

 

 敵対者と見定められたのだろう。

 咆哮が使い魔への命令となっていたのか、まだ体勢の立て直しができていないワルプルギスの代わりに、僅かに生き残った使い魔達が一斉に強襲を仕掛けてきた!

 

『さぁこいつらはアタシの獲物だ!!』

 

 迫り来る使い魔の対処は杏子が引き受け、

 

『トッカ・ストラーダ!!』

 

 巴さんが両の腕を広げながら、魔法を展開させる。

 ちなみに、この魔法の言葉の意味は、直訳すれば『リボンの道』となるそうだ(作戦会議中に説明してくれた)。

 

 射出されたリボンが四方に伸びていき、瞬く間に広範囲に亘って張り巡らされる。

 更にリボン同士が格子状に組み合わさり、武器を配置したポイントを繋ぐ架け橋となった。

 

 最短距離の移動を可能とする、即席の足場を作り上げた訳だ。

 

『暁美さん、頼んだわよ!』

『ほむら! あのデカブツを仕留めてこい!』

 

 二人の言葉を受け、ほむらは決意高らかに宣言する。

 

『今度こそ、ここで決着をつけてみせるッ!!』

 

 ワルプルギスに立て直す隙は与えないとばかりに、即座に行動を開始。

 

 

 周知の通り、彼女は多種多様な銃火器を用いる戦闘スタイルをとる。

 

 巴さんもマスケット銃なんかを使用するが、あれは魔法で作成したものであるのに対して、ほむらは現実社会で使用されている本物の現代火器である。

 

 やはり魔法少女の中でも際立った異質さを誇っている。

 

 そして、今回もその戦闘スタイルに変わりはないのだが、この決戦に当たって、ほむらが用意した武器が色々おかしい。

 

 僕が専用保管庫(廃工場)で見て把握しているものは以下の通り。

 

 各種拳銃、ライフル、ロケットランチャー、手榴弾、地雷、弾薬、先の大爆発を引き起こした爆弾と、その威力を引き上げるために用いられた、危険極まりない類の化学物質。

 地対空ミサイルが積載された軍用の大型トラックと最新鋭の戦車が計10台以上。

 他にも用途不明の機材が並んでいた。

 

 羽川の情報をもとに、ほむらが国内のみならず諸外国から集めてきた代物である。

 

 どうやって調達してきたんだと突っ込みたくなるラインナップだ。

 『武器』って言うか、もう『兵器』じゃねーか。

 

 まぁ彼女の戦闘力は所持する武器の性能によって左右される訳だし、万全を期した下準備だと言えるが……今更ながら、こいつのことを魔法少女と称していいのか疑問を抱かずにはいられなくなってきた。 

 

 とは言え、幾ら武器の性能が高かろうと、それを活かす能力がなければ話にならない。

 多分、僕がそれらの武器を手にしたところで、絶対に使いこなす事はできないのだし。

 

 しかしほむらならば、話は違う。

 彼女の魔法少女としての能力ならば――武器のポテンシャルを最大限……いやそれ以上に引き出すことができるのだから!

 

 

 

『喰らいなさい!』

 

 いつになく感情のこもったほむらの声を認識した時には、既に彼女の攻撃は完了しており、無数の弾丸が浮上しかかったワルプルギスを取り囲んでいた!

 

 これこそ全力全開。魔法少女暁美ほむらの真骨頂。

 

 時を止めている間に、リボンで作られた足場を使って移動し、間合いを詰め、片っ端から発射したのだろう。

 ほむらの周りには、使用済みのロケットランチャーが幾つも転がっている。

 

 そして、弾丸は接触する寸前で位置調整されており、ほむらが時を動かしたと同時に直撃し爆発が巻き起こる。

 

 ワルプルギスにしてみれば、何の前触れもない完全な不意打ちを受けたことになるのだから、たまったものではないだろう。

 

 

『へぇやるじゃねーか』

『お見事ね。暁美さん』

『どうも。でもこんなのじゃまた足りない――もう一撃いくわ!』

 

 と、次の瞬間には何処からともなく飛来したミサイルが次々と着弾!

 更なる爆発がワルプルギスを襲う!

 

 どうやら、会話の最中に時間停止を行い、追撃を敢行したようだ。

 ほむらはいつの間にか(まぁ時間を止めている間にだが)、ミサイルの積載される軍用トラックが配置された地点に移動しており、僕が視認した時には、既に全弾発射されている。

 

『な……やっぱ時間停止って反則過ぎるだろ』

 

 杏子が愚痴を溢すのも頷ける。

 ほむらはあまり自覚していないようだが、『時間停止』という能力は極めて強力無比な力なのだ。

 

 あぁあと、対ワルプルギス戦に当たって、自身の能力を仲間に隠すのはデメリットが大きいとの判断で、『時間操作』の魔法のことは全員知っている。

 

 その後も地対艦誘導弾での攻撃を繰り返し、計五回もの波状攻撃を行うほむら。

 追い討ちは苛烈を極め、攻撃の手を緩めることはない。

 

 

『まだまだ!!』

 

 尚も攻勢は続く!! 

 

 今度は戦車から発射された砲弾が、ワルプルギスの腹部に突き刺さるように何発も撃ち込まれる!

 ジャブの連打からボディブローへ繋げたみたいな感じだ。

 

 これには堪らず、流石のワルプルギスも体勢を大きく崩し地上へと倒れ込む。

 

 と、その矢先、いつの間にか設置されていたクレイモア地雷が作動。炸裂した地雷から鉄球が扇状に発射されワルプルギスに撃ち込まれる。

 

 ほむらのバトルフェイズは終わらない。

 

 地に落ちた魔女に対し、この機を逃すまいと、ほむらは魔法で遠隔操作したタンクローリーを突撃させた! タンクの中に入っていた燃料はただのガソリンではないらしく、またも桁違いな威力の大爆発が起こり、猛烈な炎に包まれるワルプルギス。

 

 どうでもいいが、魔法で遠隔操作するため、車体の屋根に片膝立ち状態で乗車(?)したほむらのポーズが、無駄に決まっていた。

 

 

『……何でもありかよアイツ』

 

 槍を巧みに操り、危なげない戦いで着実に使い魔を仕留めつつ、しっかり状況を見渡せている杏子がぼやく。

 ほむらが使い魔の横やりを受けることなく、戦えているのはこの杏子の働きあってこそだ。

 影の功労者と言える。

 

 

『私も負けていられないわね!』

 

 そして、それは巴さんにも言える事。

 広範囲にリボンの足場を作ることで、魔法少女側に有利なフィールドを形成しているのだ。

 

 ただそちらの方に魔力を注いでいる関係で、あまり攻撃に参加していなかったが、ほむらの八面六臂な活躍に感化されたようだ。

 

『ティロ・フィナーレ!!』

 

 援護射撃となる最大火力の砲撃を放つ!

 

『暁美さん、有り難く使わせて貰うわ!』

 

 と、そこでほむらより宛がわれたグリーフシードの予備で魔力を回復し、一気に畳み掛ける!

 

『ティロ・フィナーレ・ドッピエッタ!!』

 

 それと同時。

 

『全弾発射!!』

 

 軍用トラックに積載されたミサイル発射装置から、一際巨大なミサイルが射出される!

 確かあれは巡航ミサイル『トマホーク』!

 

 ティロ・フィナーレとトマホークによる挟撃体制の集中砲火が爆裂する!

 

 爆発に次ぐ爆発。

 ワルプルギスに反撃の隙を一切与えない怒涛の攻撃。

 

 

 そして、ほむらが次に持ち出したのは――

 

『何……だと!?』

『え!? 嘘!?』

『んな馬鹿な!?』

 

 僕、巴さん、杏子の驚愕の声が重なる。

 

 目に飛び込んできたのは、翼を広げた鳥のような流麗なフォルムで、大空を旋廻する鋼鉄の塊。

 

 はい、誰がどう見ても戦闘機です。

 こんなものまで用意してるなんて聞いてねーよ!!

 機体名称は解からないが、多分、これも最新鋭のものだろう。

 

 コックピットは無人で、ほむらは戦闘機の羽に搭乗(?)している。

 タンクローリーの時と同様、魔法で外部から遠隔操作しているようだ。

 

『とっておきをくれてやるわ!』

 

 ほむらの声に応じて、両翼に搭載されたミサイルが連続で発射され、魔法の弾道補正により、全弾逸れることなくワルプルギスに直撃!

 

 更に、もののついでとばかりに、戦闘機自体をそのまま突っ込ませる!

 こいつ戦闘機を使い捨てやがった!

 

 

 突貫する戦闘機から飛び降りたほむらは、リボンで作成された足場に着地した。

 

『はぁ……はぁ…………』

 

 荒れた呼吸を整えながら、爆心地を見やるほむら。

 燃え盛る炎と黒煙に包まれ、ワルプルギスの状態を目視することはできない。

 

 

 その濛々と立ちこめる煙が仇となった。

 ほむらからは魔女の姿が見えない。

 

 だが、相手は人間の居場所を特定して移動する魔女。

 煙で視界が塞がれようが、人間の位置を特定することなど容易なのだ。

 

 黒煙の奥深くから夜空の煌めきを押し込めたような怪しい光線が放たれ、無防備に棒立ち状態のほむらへと強襲する!

 

『暁美さんッ! 避けてッ!』

 

 逸早く攻撃に気付いた巴さんが必死に呼び掛ける。

 その声に反応し、どうにか回避体勢に入り身を躱す。

 

 しかし、黒く煌めく光線はほむらの横を通り過ぎた瞬間に、使い魔へと姿を変え体勢を崩したほむらに肉薄した。

 

 少女のシルエットをした使い魔が三体。

 

 それでも、使い魔程度なら問題なく対応できる。

 即座に小楯の中から拳銃を取り出し発砲。

 

 それで終わりだ。

 

『ッ!』

 

 本来であれば、終わりのはずだった。

 だがほむらの放った弾丸は使い魔達に避けられる。

 

 あのほむらが銃撃を外した!?

 

 縦横無尽に動き回る使い魔に、標準が絞れていないのか!?

 らしくもなく焦りの表情を浮かべ、銃を乱射。が、一発も当たらない。

 

 使い魔相手に悪戦苦闘するほむらは、余裕のなさから、ワルプルギスへの警戒が完全に切れていた。

 使い魔に応戦するのに気を取られ過ぎ、ワルプルギスが放った炎の槍に気付いていない!!

 

 螺旋を描きながら猛烈に迫る火炎の渦が、ほむらを呑み込んだ!

 

 

『ごめんなさい!! 咄嗟だったから!』

『……いえ…………助かったわ』

 

 だが、どうにか間一髪で炎の槍を凌ぐことに成功したようだ。

 右足首にリボンを巻き付けたほむらが、逆さで宙吊り状態になっていた。

 どうやら、緊急措置としてリボンの足場を解除し、落下させることで攻撃を躱させたのか。

 

 スカートが重力にしたがい、何か見えちゃいけない物が見えているが、それについて言及している場合ではないだろう。

 

 

 ここで一度攻撃を切り上げ、間合いを取り、次の一手を模索する。

 いや…………違う。模索しなければならない状況に陥っていた。

 

 正直、さっきの猛攻で倒しきれなったのは痛い。

 

 それに、ほむらの様子がおかしい。あの状態で深追いは危険過ぎる。

 

『暁美さん。あなた大丈夫なの?』

『もしかして魔力切れかよ? なんならアタシの分のグリーフシード貸してやってもいいぜ?』

 

 そう。精彩に欠ける動きだったのは、誰の目から見ても明らかだ。

 

『……魔力切れではないわ。ただ『時間操作』の魔法はもう使えない』

『は? どういうことだよ?』

 

『言葉の通りよ。詳しく説明している暇はないけれど……簡単に言えば、私が操作できる時間、つまり時を止められる総時間は決まっている。それを使い切ってしまった、だからもう使えない。こんな大事な時に…………本当にごめんなさい』

 

 

『そんな謝罪は不要よ。暁美さん。あなたの働きは皆が知っている。さぁ今は、戦況の把握が最優先よ!』

 

 沈みそうな重い空気を打ち払うように、巴さんが声を張り上げる。

 

『暁美さんのお陰で、ワルプルギスはかなり弱っているわ。その証拠に動きが大分鈍くなっている。きっとあともう少しで仕留めきれるはずだわ』

 

 ここでリーダーシップを発揮してくれる存在がいるのは非常に助かる。

 

『暁美さん。確認だけど、火力になる武器はどれぐらい残っているのかしら?』

『前線に配置した分はもう……』

 

 そうなのだ。ほむらが用意した兵器はほぼ使い切っている。

 戦闘機なんて隠し玉もあったが、それさえも既に投入している。

 

『一応、盾の中に拳銃とライフルが収納されているけれど、正直どれも威力は乏しい。効果の程は見込めないわ』

『なら、最終防衛ラインに設置してあるのはどう? あれはまだ残っているはずでしょ?』

『確かにまだ残っているけれど、移動に時間がかかりすぎるわ。時間停止はもう使えないのだし』

 

『おいおい、ほむらお前が自分で言った通り、中途半端な武器じゃアイツに効果はない。だったら行くしかねーだろ』

 

『大丈夫よ。ここは私と佐倉さんに任せて!』

『………………わかった。ならここは任せるわ。どうにか時間を稼いで頂戴』

 

 

『おいおい、時間稼ぎだ? あまり見縊ってんじゃねーよ。別に倒しちまっても構わねーんだろ?』

 

 ほむらの言葉に、杏子は不敵に笑みを返し、心外だとばかりに言う。

 

『そうね。暁美さんと羽川さんが、二人で頑張っている間、私達も遊んでいたわけじゃないのよ。ねぇ佐倉さん』

『あぁ、あらかた目障りな使い魔は始末したし、アタシはそもそもあのデカブツと戦いたかったんだ。"アレを試す"には、こんぐらいの相手じゃないとな』

 

『期待してるわ。でも……くれぐれも無茶はしないで』

『おう、とっとといってこい』

 

 二人の後押しもあり、ほむらは巴さんが作成したリボンの道を全力で駆けていく。

 

『さぁて、マミ。やってやるか!』

『私ね、正直ずっと恐かったの』

 

『何だよ、いきなり?』

『でも私はもう一人じゃない。一緒に戦ってくれる人がいるだけで、私の心は強くなる。阿良々木さんも見守ってくれている。こんなにも心強い仲間が傍にいてくれる。ええ、相手が誰であっても負ける気がしないわ!』

 

『おいおい、んなこっ恥ずかしい台詞やめてくれ……耳が痒くなるだろ』

『でも本心よ! 身体が軽い。こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて』

 

 恐怖に打ち勝ち、万感の想いを込め巴さんは声を張り上げた。

 

 

『もう何も恐くない!』

 

 

 




 既視感のある台詞や展開が多々あるかとw
 某作品の赤い外套を纏った弓兵の台詞からの引用もあります。


 この間発売された原作『撫物語』読み始めました。
 小説を書くいい刺激になりそうです!

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