あらゆるところで、金属音と火花が散る。正体は弾丸。大小の弾丸が寸分狂わず、お互いの中央を捉えていた。
『…………』
「…………」
お互い一言も話さず、お互いの銃の引き金を引き続ける。言葉など必要ない、言葉を放つなら弾丸を撃つ。弾丸一つ一つに見えない言葉が込められる。
"この角度ならどうだ"
"甘い、なめるな"
"ここだ"
"いい角度だ、が、まだ甘い"
""これだ"
"貴様は馬鹿か"
言葉を弾丸に乗せ、会話を交わす。今2人は撃ち合っているのではない。話を、討論をしているのだ。どうすれば相手の弾丸を撃ち落とせるか、どうすれば当てられるか、その討論をしているのだ。そしてKの右の二の腕にライフルの弾丸が掠る。
『…………やるな』
Kもスナイパーキャノンの狙いを付け直し、大口径弾を連射する。ライフル弾で確実に大口径弾の中央を捉えて、迎撃。リロードの隙間を縫うように、ライフル弾を撃ち込む。そのライフル弾がKのさらに後ろから来た大口径弾に撃ち落とされる。
『…………お前の力…………どうやら侮っていたようだ』
Kの背後に多数のワインレッドの円形の空間が現れる。そしてスナイパーキャノンの砲口にも、ワインレッドの円形の空間がある。
『…………本気を出そう、これより一切、無駄弾を使うつもりはない』
そしてKの背後のワインレッドの空間が閉じると、もう一度砲口の部分のワインレッドの空間に大口径弾を撃ち込む。そして一拍遅れて、背後や左右、頭上、正面などにワインレッドの空間が開く。そしてコンマ1秒の時間差で大口径弾がワインレッドの空間から撃ち出される。
それを下に加速する事で回避する。大口径弾はそのまま明後日の方向に飛んでいくが、大口径弾が通る先にワインレッドの空間が開き、大口径弾はそのままワインレッドの空間に吸い込まれる。
『本気で行くといったはずだ、そしてこうも言ったはずだ』
そして正面の進路を塞ぐようにワインレッドの空間が多数開く。
『無駄弾を使う気は無い、とな。』
そして五発の大口径弾が撃ち出された。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎
死神部隊"K"。元は彼女は時空管理局輸送部隊の一局員だった。感知魔法と転送魔法が他より優れていただけの何処にでもいる平凡な局員。実質彼女もそれで満足はしていた。あの事件が起きるまでは。
その日、長期遠征のために移動していたのは彼女を含めた混成大部隊で、すべての人員がバランスよく配置されていた。そこに、レジスタンス連合の奇襲を受けた。部隊も反撃はしていたが、移動していた場所が悪かった。左右は絶壁と崖、移動は前後にしか出来ず、それも敵に塞がれていた。数分もしない内に部隊の3分の2ほどが殉職、そしてレジスタンス連合が崖を爆破した事で落下、その際に爆風の衝撃で意識を失う。
そして目が覚めた時には、崖下の森林にいた、が、爆破された際の大岩に両脚を潰され、身動きが取れないでいた。
地質が柔らかかったこともあり、死なずには済んだ。他の人員は木に叩きつけられたか、打ち所が悪く死んだものが殆どだった。
そして何日もその状態で放逐され、死に直面する前に、あの男が目の前にいた。
『君には諦めを淘汰する権利がある。同時にそれをする義務がある。それを、果たしてもらうよ』
そして彼女はもう一度眼を閉じる。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎
再び目覚めた時には知らない天井だった。少なくとも管理局の医務室ではないことをさとり、上体を起こす。見れば潰されたはずの足には鉄の義足が付けられている。
『目が覚めたかい?』
そして男の声が聞こえるとその方向を向く。そこにはディスプレイとそこに浮かんだ奇妙なエンブレム。
『おっと警戒しなくていいよ?どうせ君は生物的に死んでいなくても社会的…………いや、世間的に死んでいるからねぇ。』
その言葉を聞いた瞬間、彼女はらしくもなく声を荒げた。"巫山戯るな、そんなはずはない"と。だが、男は現実を突きつけてきた。
『それじゃ、証拠を見せようか。』
そして見たものは、あの日の事の記録が一切残っていなかったという証拠とそれに参加していた管理局人員の入隊記録が抹消されたという証拠だった。それを見た瞬間に膝から崩れ落ちる。
『諦めを淘汰するのは君だ、が、僕はその手伝いをすることが出来る…………如何する?』
そして彼女は悪魔の手を迷わずとった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎
『そうだ、もっと引き出して見せてみろ…………お前の力。まだそんなものではないはずだ』
Kは傭兵に内心、拍手を送っていた。今目の前の傭兵は今や数十の弾丸を相手に回避を行っている。そしてそれを全て背中のブースターユニットに装甲にもかすらせず、ミリ単位で回避している。
『…………見事だ。だがこれは共同ではなく、決闘なのでな…………』
そしてKはスナイパーキャノンを向ける。レティクルが変化し狙撃用のそれに変化する。そしてその中央に傭兵を捉える。
『さらばだ。』
呼吸を整え引き金を引こうとした瞬間に、傭兵がこちらに片手のライフルの銃口を向けるを視認し、急いでスナイパーキャノンの銃身を畳もうとするが、その前にライフルの銃弾がスナイパーキャノンの銃口に入り込む。そして、スナイパーキャノンの残った弾薬に誘爆、スナイパーキャノンと共に右腕が消し飛ぶ。
『…………っ!』
消し飛んだ右腕を横目にすかさず左手のスナイパーライフルを傭兵へと向ける、が、同時に傭兵は懐と言える距離まで接近してきている。どうやらあの数の大口径弾を全てなんらかの方法で撃ち落としたらしい。
『…………』
「…………」
お互いがそれぞれの急所に銃を突きつけ合う。傭兵はKの額に、Kは傭兵の胸に銃口を押し当てる。その沈黙は。
『!!』
一つの風切り音で崩れる。その正体は傭兵の魔力を付加した加速の乗った膝蹴り、それでKの胸骨が砕ける、その際の激痛によりKのスナイパーライフルの銃口がわずかにずれるのを確認すると、傭兵はステップで後ろに下がって射程を確保しダブルタップでライフルを右肺と左肺に撃ち込む。
『がはっ…………!!』
そのまま甲板の上を血の跡を残しながら崩れ落ちる。
『…………ふっ…………流石は最後の候補者だな…………』
Kは口から吐血しながら、傭兵を見る。傭兵はKの頭部にライフルの銃口を突き付ける。
『…………見事だ、傭兵、お前の勝ちだ』
Kは全ての武装をパージする。スナイパーライフルが甲板の上に音を立てて落ちる。
『撃て…………お前にはその資格が、死神を屠る資格がある。』
そして甲板に一発の銃声が響いた。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎
目の前には額から血液かオイルかの判別がつかない液体を流している死神部隊の一人。蹴った感触からほとんどが、機械だと察した。おそらくそうでないのは脳みそだけなのだろう。そして、甲板の奥の扉が開いて、キャタピラ音がなり始める
『まさかKまで敗れるとはな。流石は黒い鳥といったところか』
通路の奥から現れたのは、下半身が戦車のようにキャタピラになった男。その独特の低い声が甲板に木霊する。そしてキャタピラが重苦しい音を立てて止まる。
『卑怯だとは言ってくれるな?俺は手段は選ばん。それが指名だからな。』
男は両手のキャノンとヒートキャノンを構える。キャタピラの利点、それは通常二脚武器では構えが発生する武器を構えなしで、しかも移動しながら、数ミリのズレもなく正確に打ち込めることだ。
『一応言うか…………俺は死神部隊、"D"だ。元の名前なんぞ覚えておらん。』
Dと名乗った男のキャタピラがキュラキュラと音を立てて動き始める。それと同時に背後から複数のUNACが猛スピードで弾幕を張りながら突進してくる。
『さあ行くぞ、簡単に死んでくれるなよ?』
その言葉を聞いた後に、ライフルの断層を交換。ブースターユニットを変形させて、UNACに突撃、一機目のUNACのコアにライフルの銃口を差し込み、フォーミュラブレインを破壊する。それが開始の合図となった。