空飛ぶ古代の戦艦『聖王のゆりかご』。その甲板では、榴弾の爆発する轟音、銃声、そして。
「…………!」
『グッ!?』
一人の男の苦悶の声と金属と金属を強く叩きつけるような音が響いていた。
『想像以上にやる…………!(チッ…………不味いな、悪いなJ。多分俺はここまでだ)』
死神部隊"D"が手にしたキャノンを傭兵に向かって撃つ。轟音を轟かせ山形の軌道を描くそれは、傭兵の白い装甲を傷つけることかなわず、明後日の方向に飛んでいく。
『速いっ…………!?』
傭兵は白い閃光のように一瞬でDの懐に潜り込む。そして、側頭部をライフルの銃床で殴りつけた後に、蹴りで吹き飛ばし、追い打ちでライフルを連射する。
『まさに黒い鳥だな…………その暴力的なまでの強さ、全てを黒く焼き尽くす容赦の無さ、だからこそお前を殺さねば成らん』
すでに連れてきていたUNACはすでに全滅、劣化版とはいえJの戦闘データをインプットし、ガジェットすら余裕で全滅させたUNACが三機とも、ものの数分で、フォーミュラブレインを撃ち抜かれ、機能を停止している。
もともと、D自体の実力はそれほど無い。それはDも自覚している。だから普段の任務は高性能なUNACを引き連れているのだ。重火力も自分の力の無さを隠す為、重装甲も自分の弱さを隠すため。そしてそうやって今日まで生き延びてきた、が、目の前の黒い鳥は理不尽な迄にこちらを焼き尽くそうとしている。
『やはり…………俺が勝てる道理などなかったか。』
ヒートキャノンを撃ちながら、キャタピラを動かし下がる。が、それでも速度差が埋められずに、距離を詰められる。そして放たれた弾丸により、キャノンの弾倉が撃ち抜かれる。
『チッ!』
Dは咄嗟の判断でキャノンを傭兵に向かってパージする。キャノンは傭兵の目の前で爆発する。そして傭兵は黒い煙を突っ切ってDに向かっていく。Dも残ったヒートキャノンを撃つが、全てが装甲にかすりもせずに、避けられる。そしてDの顔面に膝蹴りが撃ち込まれる。
『グハッ!?』
キャタピラのため仰け反ることもできずに、その場に留まる。傭兵はキャタピラの隙間にライフル弾を撃ち込む。ライフル弾は見事にキャタピラの噛み合う部分に命中し、隙間に入り込む。これによりDは機動力を失う。
『不味いな…………!?』
更に胸部に膝蹴りを受ける。そして両肘を両手のライフルで撃ち抜かれる。これにより戦闘力の大半を失う。
『…………ここまでだな…………遠慮はいらん。やれ。』
Dは諦めたように全ての武装をパージする。傭兵はDの心臓に狙いを定める。
『狙うところが違うだろう…………?ここだ。』
頭部のセンサー部分を点滅させる。遠回しにこう言っていた。"頭を撃て"と。
『流石にもう疲れた…………。地獄でゆっくりしたいもんだ。』
そして一発の銃声が鳴り響いた。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎
一方、タワーの中ではソファに座る財団と側に立つJがモニターを見つめていた。片方のモニターにはゆりかごのあらゆるところを攻撃する傭兵の様子が、もう片方のモニターにはこちらへ向かってくる機動六課の姿がある。
「死神部隊はJを残して全滅、か…………。流石は黒い鳥だね、R。」
『奴はもう出来ている。私ももう出来ている。後は私か奴かが死ぬだけだ。』
「J、君は先に行っていてくれ。お客が来たようだ。勿論、僕も後でいくよ。あ、Rにもちゃんと言ってから行ってくれ。多分君が着く頃にはゆりかごは落ちてる。」
『無論だ。』
Jが財団のいる部屋を出て行こうとした瞬間、扉が吹き飛ばされる。
「財団!」
真っ先に飛び込んできたのは機動六課部隊長、八神はやて。それに続いて、なのはとフェイトが入ってくる。
「おやおや、ノックも無しに入ってくるとはね。管理局には礼儀も無いのかな?」
「良く言うわ…………既にあんたと死神部隊のつながりは掴んだで?そして黒い鳥のこともなぁ!」
はやては一冊の、古ぼけた本を突き出す。
「レイヴンって名前はある男の幼少期の名前やった。そしてその男の名前は…………"ジョシュア・O・ブライエン"!そして死神部隊リーダー、J。あんたはその張本人のクローンや!」
Jはバイザーの奥の瞳を細く絞り、そして財団はソファーに座りながら、口元を押さえて震えている。
「あははははっ!まさかそこまで調べられているとはね!感服したよ機動六課!」
財団は満面の笑みを浮かべながら、拍手を送る。
「何がおかしい!?」
シグナムが叫ぶが、フェイトがそれを制す。
「一体何が目的なんですか、財団。タワーの中に住み着き、ひたすらにそれを解析しては兵器を生み出し、各地で戦争を激化させる…………貴方は一体何をしようとしているんですか!?」
フェイトが財団に向かって問いかける。
「ふう…………前も言ったはずだけど、僕たちには目的なんて、無いんだよ。ただ、プログラムに従って動いているだけだ。…………けどまぁ、調べ上げたご褒美として教えてあげるよ。僕はね、黒い鳥に殺されたいんだ。本当に黒い鳥に、ね。」
「殺されたい…………?んなことのために今までやってきたってのか!?」
ヴィータがアイゼンを握り締め、突きつけながら叫ぶ。
「そうだ。僕は黒い鳥に殺されたい。彼は、Jは戦いたい。だから僕らは手を結んだ。それだけさ。でもまあ、よく調べたものだねぇ。ま、スカリエッティもこの真実には薄々気づいていたみたいだけど。」
財団は扉の陰に目を向ける。
「そこにいるんだろう?スカリエッティ」
財団が呼ぶと、扉の陰からいつものにやけ顏ではなくこれ以上にない険しい顔をしたジェイル・スカリエッティが財団に姿を現した。
「やはり間に合わなかったか…………」
「今回は…………いや、今回"も"、僕の勝ちだよスカリエッティ。」
財団は笑みを浮かべ、スカリエッティは顔をしかめる。
「一体どういうこと…………!スカリエッティ!」
フェイトがスカリエッティに向かって叫ぶ。スカリエッティは俯いた後に、口を開く。
「財団のやろうとしている事、それは…………真の黒い鳥による全人類の全文明の抹殺だ……………!」
「全人類の…………」
「全文明の抹殺…………?」
機動六課の面々がそれぞれ驚きを隠せずにいた。そしてスカリエッティは続けて口を開く。
「ふふ、だからゆりかごを起動させて時間稼ぎをしようしたんだろうけど、すでに勝敗はついていたんだ。見なよ。」
財団が巨大な空間投影ディスプレイを出現させる。そこには黒煙を上げながら墜落する暴走した聖王のゆりかごとそれを遥か空から見つめる白い装甲を纏った人影。
「やはりダメだったか…………!」
スカリエッティは、少しだけ歯をくいしばる。
「ジェイル・スカリエッティ…………説明しろ!一体どういうことだ!」
「私は…………財団の計画を知った時、まだ覚醒する前の黒い鳥をゆりかごを使って殺そうとしたんだ…………。そしてあえて証拠を残すことで私の指名手配と引き換えに君達が動き、そして財団にたどり着く事に賭けたのだ。」
「つまり…………最初からわたしらは利用されてた、ゆうことか…………」
「すまない…………」
スカリエッティが俯く。無限の欲望を持つ彼も、まだわずかに人としての情が残っていたらしい。
「愚かだね。無限の欲望、なんていうコンセプトを持った君が、まだ人間なんかを信じているのかい?」
「そうだ、人間は私の考えを良い意味でも悪い意味でも覆してくれる…………。財団、そういう君は人間に対してペシミストすぎたのではないかな?」
「君にしてはらしくない勘違いだねぇ、スカリエッティ。僕の開発コードを忘れたかい?僕の開発コードは"終わらない絶望"《エンドレス・ディスペアー》。僕はとっくの昔に人間自体には、絶望しているんだ。」
財団が座っていたソファーを離れる。
「けれどね、それでも僕は知っているんだ。どんな状態になろうと、どうな姿になろうと、人間は賢しく生き続けようとすることを…………!人間の飽くなく、あらゆる欲求の先にこそ、人間の未来も開かれてきたことを…………!」
財団はリモコンを取り出す。そしてそれを操作すると、ある場所が映される。
「なん…………だと…………!?」
「これは…………!」
「そんな…………まさか…………」
その映し出された場所、それは三つの脳髄が保管されている管理局の最高評議会の地下最下層。
「醜いよねぇ…………だからこそ、一度、人は人によって滅びる必要がある。それが必然だ。そしてその滅びた後の世界の生物の頂点は、滅びをどんなに、何度繰り返そうと人間であるべきだ。」
財団がパチンと指を鳴らす。それに反応するようにタワーの天井が開いていく。
『先に始めていても、問題は無いな?』
「別にいいよ?僕も直ぐに追い付く」
Jは、黒い装甲を纏う。更にそこにブースターや機首などが装着される。それをモニターで確認すると財団は笑う。
「一つ質問があります。」
なのはが財団に問いかける。その表情は任務についている時の厳しい表情を浮かべている。
「何かな?」
「貴方は今でも人間ですか?」
「人間だよぉ?昔はねぇ!」
そして財団が背中を向けた瞬間、桜色の魔力の奔流が財団の半身を飲み込んだ。そして財団が壁に叩きつけられる。
「…………ッ!!」
「財団…………その状があんたか…………!それがあんたか!財団!」
財団の有様を見たスカリエッティさえ、息を飲む。そしてその有様を見たはやてが顔を顰めながら、財団に向かって叫ぶ。
「そうだよぉ?これが僕だ。」
はやての叫びに、財団が顔をにやけさせながら答える。その半身はコードや回路、ケーブルなどが露出し、バチバチと紫電をあげていた。
「機械…………!?」
「ずいぶんと失礼だねぇ。これでも昔はしっかり人間だったんだよ?」
スバルが小さく呟くが、財団はそれを聞き取り、返事を返す。すると開いたタワーの天井から白い影が入ってくる。
「…………」
「来たね、R。Jからはもう聞いているんだろう?それじゃあ、撃つといい。僕はこの身体では抵抗はしないからさ」
白い影の青く光るセンサー部分が、無機質に財団を見つめる。そして、素早く右腕のライフルの銃口を合わせるとそのまま引き金を引く、引く、引く。
「…………」
引き金を引く、その度に金属片が飛び散る、引き金を引く。その度にオイルが舞い飛ぶ。引き金を引く、その度に人工皮膚が破れ飛ぶ。そうして十数発分を財団の機械の体に撃ち込んだあと、ライフルの弾倉を交換する。
「………レイヴン」
フェイトが触れようと近づく。そしてレイヴンの半径1メートルのところで手が弾かれる。
「フェイトちゃん!?」
「…………」
レイヴンの周りに薄緑色の膜、防御魔法、プライマルアーマーが張られる。それはまるで拒絶するかのように。そしてそのままバックユニットを変形させ、そのまま空へと飛び立った。
「レイ…………ヴン…………」
「…………」
そしてその加速していく背中を、機動六課の誰もが、そしてその場に居合わせたスカリエッティすら、見ているしか出来なかった。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎
そして、Jがレイヴンに伝えた決戦の場。毎日の様にJとレイヴンが殺し合いを演じた舞台でもあった。Jは、黒い装甲を纏い、そこの上空に腕組みをしながら佇んでいた。
『これで全て終わる…………私と奴の因縁も…………』
「そうね、私が終わらせてあげるわ」
そしてJに向かって小口径のヒート弾が多数飛んでくる。
『ふん…………』
ヒート弾が着弾する前にJの周りに薄緑色の膜、防御魔法であるプライマルアーマーが展開される。それに阻まれヒート弾は全て防がれる。
『ブルーマグノリア…………まさか貴様が出てくるとはな…………』
「ええ…………落とし前をつけさせに来たわ。死神部隊。」
マギーは青い装甲の、徹底的に自分専用にカスタムしたセルデバイスを装備し、Jの前に立っていた。
『一度は退いたものが、また私の前に立つ。面白いものだ』
「それが人間ってものよ。覚悟が決まればどんな事でもできる。それがたとえ、大多数の確率で失敗するとわかっていても。雀の涙ほどの成功率しかないとしても。」
『ならばどうする?今の、隻腕の貴様の勝率はいくらだ?十に一つか?百に一つか?千に一つか?万に一つか?億か?兆か?京か?それとも、垓か?』
Jが両手の銃の銃身で十字架を作るようにして構える。
「それがたとえ不可説不可説転に一つでも、私には十分すぎるわ。能書き垂れてないでさっさとかかって来なさい…………ハリー!…………ハリー!」
『ふん…………こうだ…………やはり戦う者は、素晴らしい。』
マギーのヒートマシンガンとJの特異な形をしたライフルが同時に火を吹いた。