戦い始めてから、何時間ほどだろうか。まだ足りない。数多くの傷を付き、付けられたがあの男を殺すのにはまだ足りない。もっと早く、もっと鋭く、もっと、もっと、もっともっともっともっともっともっと。
『そうだ、来い。敵を殺すのは武器でも技術でもない。』
そう、あの男の言うとおりだ。敵を殺すのは武器でも技術でもない。極限まで研ぎ澄まされた、自分自身の殺意だけだ。その殺意を乗せてレーザーブレードを振るう。下から上に切り上げ、胸部装甲を縦に溶断する。が、カウンターで膝蹴りを喉に受ける。が、今さらこんなものは痛くも痒くも無い潰れる喉も潰れ切ってしまった、が、体は後ろへと仰け反る。バイザーの下で目を見開き、サマーソルトの要領で顎を二段蹴りで蹴り上げる。そのままバック転でレーザーブレード一本分の距離を取ると、ブースターユニットを起動し、爆発的な加速で男にぶつかる。そのまま男ごと加速し続け、岸壁に叩きつける。そして、まず右腕をレーザーブレードで肩から切断し、返す刀で、もう片腕を切断して、蹴りを打ち込んで僅かに距離を取る。
『フッ…………』
『満足かい?J』
『そんな訳がないだろう』
そして一瞬の刹那の空白で相手の手の内を読み取る。そこからの行動は二人同時だった。展開していたプライマルアーマーを半暴走、反転させる。自分を中心とした殲滅魔法『アサルトアーマー』。そして青白い光の中から脱出する。
『ジェネレーター出力再上昇…………オペレーションパターン2』
男の装甲の一部が展開すると、そこが赤く赤熱し始め、周りの岩が溶解し、溶岩へと戻っていく。そして、傷口に粒子が集まり、腕の形を形成した後、レーザーブレードに変わる。
「…………」
再びレーザーブレードを出現させる。まだ自分も男も戦える。その事実に胸が熱くなるような気がした。そしてお互いに再びレーザーブレードをぶつけ合う。レーザーブレードだけではない、蹴り、体当たり、頭突き、使える物は何でも使う。レーザーブレードが弾かれると、蹴りを撃ち込まれ吹き飛ばされ、岸壁に激突する。素早く体勢を立て直した後、岸壁の一部を切断し、蹴り飛ばす。
男は飛んで来る岩に右手を翳すと、右腕がエネルギー球となり、そのまま岩を消し飛ばす。そして、右腕がすぐさま粒子によって再生される。消し飛ばした反動の粉塵に紛れて、後ろから強襲、それがレーザーブレードで受け止められる。そしてお互いに弾いた後に、全く同じタイミングで蹴りを放つ。蹴り同士がぶつかり、お互いの脚部装甲と脚の骨が砕ける。激痛を歯を食いしばって耐える。そして砕けた脚を軸に逆の脚で側頭部を蹴りつける。同時にこっちも蹴りを喰らい、二人同時に吹き飛ばされる。
『ふ、ふふふふふふ…………ははははははは…………よく人の身で其処まで鍛え上げた…………。だからこそだ。やはり貴様は黒い鳥だ。本物だ。そして、その本物を私が殺す。なぜなら私は死神だから』
「…………」
お互いに岩壁から身体を起こす。そして、少しずつ距離を詰めていく。そして、男と自分に多種多様な多数の弾丸が飛んで来る。それをそれぞれで回避する。
「あれか…………死神部隊ってのは…………」
「黒い鳥もいやがるって話だ。」
「つうことはあのガキか」
そして自分と男の周りを多数の傭兵が囲む。
『うーん、まるでゴキブリみたいな連中だね。どうする?J。』
『邪魔をするなら殲滅する』
「…………」
男とは逆の方向を向く。すると、フィオナ達が近くに降り立つ。
「おー、おー、こりゃ壮観だな。ざっと百人強はいるんじゃねぇか?」
「なら、我ら人で一人頭30人、といったところですね。最低で。」
フィオナはこちらに振り向くとお辞儀をする。
「無粋ながら主人様。あれらの相手は私たちがいたします。貴方はあの方との決着を」
フィオナ達が傭兵たちに向かっていく。それを見ながら両手を広げては握り締める。そして、掌にゴツゴツとした感触と確かな重みが掛かる。
「…………」
周りを見渡せば自分を囲んで、ニタニタと笑っている傭兵達。その顔は見ていて気持ちが悪い。こんな奴らに闘争を邪魔されたと思うと、ライフルを持つ手に力が自然と入る。それを意識した瞬間に力を抜き、息を静かに吐き出す。引き金を引くのに力はいらない。余計な力みは身を硬直させ実力を半減させる。そして、センサー部分を傭兵達に向ける。残弾はフル、しかし、聞いたこともない名前ばかりだ。おそらく細々と活動してきた輩ばかりだろう。なら、焼き尽くしても構わない。
ブースターを使って加速し、正面の傭兵の顔面に膝蹴りをめり込ませ、地面に叩きつけ、頭を潰す。
「こ、このガキ!」
残りたった十数人。この程度なら余裕で終わる。左右の傭兵の眉間にライフルを突きつけ、そのまま撃ち抜く。さらに左右と後方から物理ブレードが来る。それをライフルで受ける。
「ガキが!死ね!」
さらにレーザーブレードを展開した複数人が斬りかかってくる、が、すぐさまプライマルアーマーを半暴走、反転させ、消し飛ばす。
「…………」
男の方に視線を向ければ、ある者はレーザーブレードで縦に両断され、ある者は四肢以外の全てを消しとばされ、ある者は口から夥しい量の血液を吐きながら息絶えており、周囲の地面には半ばや根元から切断された足や腕が転がっている。
「死ネェェェ!」
後ろから、レーザーブレードで斬りかかってくる。それを軽く首を曲げて回避、相手の手首を掴み、膝蹴りで肘関節と筋を砕く。
「うぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
痛みでのたうちまわるのを無視して、また別の傭兵の腹部を物理ブレードで引き裂く。
「畜生!ハチの巣にしてやる!」
数人がガトリングガンを手に取り、こちらに向ける。引き金が引かれる前に足元でのたうちまわる傭兵を引き起こし、盾にする。放たれた無数の弾丸が傭兵をハチの巣から挽肉へと変えていく。
「こ、こいつ…………頭イかれてやがる!」
正直そちらには言われたくない、と思いつつ、彼方此方が挽肉に近くなった男の死体を投げつけ視界を奪う。そして、1人を男の死体ごと、物理ブレードで顔面を貫き、蹴り飛ばす。そして素早く後ろに下がり、ライフル弾でガトリングガンの弾倉を撃ち抜き誘爆させる。
片腕が消し飛んで動揺している傭兵たちの一人の懐に潜り込み、顎を蹴り上げて脳を揺らし、さらに踵落としで頭部を蹴りつぶす。さらに後ろ回し蹴りをもう一人に叩き込んで地面に倒した後、ライフルで頭を撃ち抜く。
「…………」
どうやらフィオナ達も、上手くやっているようで辛うじて生き残った傭兵の数人は既に遠くへ逃げていた。周りを見れば、爆炎と乾いて黒ずんだ血で戦場が黒く染まっていた。
『これが黒い鳥だ…………まあ、お前も見覚えくらいはあるだろう』
どうやら、あちらも終わったらしく、こちらに歩いてくる。だが、粒子を使い切ったのだろうか、両腕が形成されていない。そして、喀血し始める。
『…………限界か…………』
どうやら、長くないらしい。なら、今この男を殺す。男もそれを望んでいるだろう。そう思いながら、切っ先と持ち手に血のこびりついた、刃毀れした物理ブレードを取り出す。
『…………そんな物をまだ取っていたのか。』
取り出した物理ブレードは、ずっとこの男と戦う時に使っていた、初めて支給されたブレード。不思議と手になじむが、おそらくあと一回使ったら折れるだろう、という疲労度の為今の今まで使わなかった。
それを、両手で持つ。そして、そのまま加速を付け、鎖骨から袈裟懸けに斬りつける。ブレードの刃は男の装甲を引き裂き、肉を抉った瞬間に根元から鈍い音を立てて折れる。
『ふん、そんな物を使うからそうなる。ちゃんと殺せ。』
男はこちらに、多くの傷を負っているにもかかわらず、しっかりとした足取りで振り向く。それを確認すると同時にライフルを向ける。マギーから教わったように。
『ふん、私から最後に貴様にくれてやる。今からお前が、ジョシュア・O・ブライエンだ。』
名前。それは生まれてから初めてもらう者。なら、自分はもうジョシュア・O・ブライエンなのだろう。そして、数年振りに口を開く。声はもう出せないが、誰も聞こえないし見ていない。これくらい入っていいだろう。そして、口を動かす。
『…………期待外れだ。貴様も候補者ではなかったか…………』
心底ガッカリしたような口調で話す。どうやら、落胆させてしまったらしい。
『撃て…………それで貴様が終わり、貴様が始まる』
そして、引き金に力を入れる。そして、岩場に一発の銃声が響いた。
「主人様!」
そしてフィオナ達が降りてくる。フィオナはすぐに自分に抱きつき、セレはそれを少し離れたところから観察、そしてラナが男の死体を見る。
「チッ…………!死体になっても笑うかよ…………!わかったか…………ぶっ壊れてんのはてめーらだ…………!」
そしてどこかで観察していたのか、次々と他の人たちも空から降りてくる。顔は覚えてはいるが、どうやら名前を忘れたらしい。
『いやぁ、まさかここまでとはね…………』
そして男の死体からノイズの混じった声が聞こえる。人を逆撫でするような喋り方。正しく、彼奴だ。
「財団!」
女性達も一斉に叫ぶ。どうやら男のバイザーから出ているらしい。
『ふふ、でもまあ、これで結果は変わらないし少々シナリオと違うけど、良かったかな?』
「あんた…………何処まで…………!!」
『まあ、いいか。どうやら、彼には世界を破壊する気は無いらしい。良かったねぇ、彼が気まぐれでさぁ。』
財団は全員を逆撫でするように喋る。セレが目を細めながらレーザーライフルを向ける。
「黙れ、下郎。今すぐその口を閉じろ。」
『どうせもうすぐ終わるよ、ラインの乙女、アイビスのセレ・クロワール。人は人によって滅びる。其れが必然だ。けどもし、もし君達が例外だと言うのなら…………生き延びてみるといい。君達にはその権利と義務がある!』
その言葉を最後に、男から声が聞こえなくなる。
「当然や…………生き延びて見せるわ…………!」
その声が終わるのを確認して、バイザーを操作して更新する。そして、今までunknownと入っていた搭乗者名のところに漸くちゃんとした名前が乗る。"joshua.o.buraien"と。
「主人様…………如何なさいますか?」
フィオナはこちらを向きながら、問いかけてくる。その場の全員が自分に注目している。そして、踵を返そうとした時、衝撃が来る。見れば背中に女の子が抱きついている。名前は…………忘れた。
「…………行っちゃヤダ!」
何時の間にか、懐かれてしまったらしい。だが、黒い鳥は一つの所には居着かない、黒い鳥に居場所は無い。プライマルアーマーを展開して弾こうとするが、何故かプライマルアーマーが機能しない。
「ははは、完全につかまってしもうたな、レ…………いや、ジョシュア?」
「観念したほうがいいよ?ヴィヴィオって我儘だから。」
名前は忘れたが、女性二人が笑った顔で自分に話しかける。フィオナ達は口出しする気は無いようで、少し離れたところでフィオナは微笑みながら、セレはいつも通りの無表情、ラナはニヤニヤとしながらこちら見ている。
「大丈夫、貴方はもう焼き尽くすだけの黒い鳥じゃない。」
金髪の女性に抱きしめられる。そして、そのまま語りかけられる。押し返そうとするが、力負けする。
「貴方は、平和望んだ、黒い鳥。もう、飛び去る必要は無いんだよ?」
そして顔に水が流れる感触がする。血かと思い拭うが、血のように赤くなく、無色透明。それが何なのかわからずに戸惑う。
「それは涙、って言うんだよ。流す理由は二つある。一つは悲しい時、そしてもう一つは。」
そして抱きしめられる強さがさらに強くなる。
「嬉しい時に流すんだよ。」
成る程、今までわからなかったマギーの最初の宿題、人の心という物。それが今わかった、今この胸の中にあるのが。
「あ、り、が、と、う…………」
心だ、と。