プロローグとなる今回ですが、前もっていっておきます。このプロローグにはまだ主人公は出てきません。
しかし、重要な人物が出ますので、どうか「うむうむ」とご観覧ください。
プロローグ
大国ディグナード。主城パングダム城の隠れ地下道。
薄暗い地下に青い炎の光が一つ。ハザーデル王は、顔を浮かばせている。
突き当たりの隠し扉を開け、そこにいた者に声をかけた。
「久しいな。旧友よ……」
「そうであるな、ハザーデル……。また、貴様と出会うことになるとはの……」
「ふ、互いの目的のためだ。そうだろ?」
「あぁ。そういえば、そっちの“若僧”は強くなったのか?」
「フッ、当然のことを聞くな。そもそも《ドラゴンスレイヤー》に敵などおらんわ」
「そうか」
ハザーデル王ともう一人は、どちらも錆びた声を喉で響かせ、そう話した。
「ところでハザーデルよ」
「なんだ?」
「其奴は誰だ?」
隠し扉を–––正確には、隠し扉の向こう側を指差しながら、もう一人は言った。
ハザーデル王は「忘れていたよ」と話を切り出した。
「紹介しよう。アーナス・ルチアーノ……私直属の間諜を務めている」
「初めまして、アーナス・ルチアーノと申します」
扉の向こう側からは、女の声が聞こえた。若いのは確かだろうが、不思議なことに声だけでは、年齢を断定できなかった。幼くもあるが、大人らしくもある、どこか寂しいような、それでいて楽しそうな、そんな不思議な声だった。
もう一人は、姿を現さないことを不思議に思い
「なぜ、姿を見せぬのだ」
と問うと。扉の向こう側から、答えが飛んで来た。
「私は、間諜という身でありますので、本名を名乗る時は、決して誰であろうと姿は見せぬようにしているのです。どうか、お許し下さい」
「ははは、すまないな。彼女は私の股肱の臣なのだが、仕事が命なものでな………」
「構わぬわ。最もな正論だと、ワシは思うたぞ?」
「すまないな」
「構わんと言っておろう」
「あぁ。ところで本題だが………」
ハザーデル王が話を切り出すと、すべてを問う前に、もう一人は答えた。
「そのことなのだが、すまない。実はの、つい昨日のことなのだが、怒りに任せてディグナードの第一上将軍を第十上将軍に降格させてしもうたのだ」
「貴様のところの……確か–––ライト・アーカディアだったか?腕が立つらしいな。しかし、それがどうした?」
「嫌な……、あいつは変なところで勘が鋭い奴なのだ。降格させてしまったせいで、自由に動けるようになるだろう?少し、心配なのだ」
「うむ………………」
「すぐにでも、奴を戻すか…………」
「ふ、貴様の考え過ぎだ。そんな事で我らの“契約”が崩れるものか。たかが上将軍一人で何も出来はせんよ」
「貴様がそう言うのなら、放っておくか」
〜☆〜★〜☆〜
私は…………誰なの?
私の名は…………本当に、《アーナス》なの?
私は………何なの?
私の知っていること–––ボロボロの服を着て、鎖に繋がれ、売り物にされ、ノーデンスの王に買われた。金で買われた。間諜になった。ある時は明るく、ある時は泣き虫、ある時は病弱に、ある時は馬鹿な人間として振舞った。最後には、ターゲットは必ず死んだ。
それ以前の幼い頃の記憶は一切ない。
全くもって、覚えているものはない。
それがなぜなのかも分からない。
もう感情もない–––はずなのに。
私は……………誰なの?
なぜこんなにも、苦しいの?
「アーナス……、次の仕事だ」
アーナスは振り向き跪く。
「何でもお申し付けください、ハザーデル様」
「わざわざ、細かな報告はしなくても良い。ディグナードの元第一上将軍、ライト・アーカディアを監視しろ」
「了解しました」
「次に会うのは、私の計画が完了した時だ、良いな?」
ライト・アーカディア–––次に私のせいで、殺されてしまう人の名前。
いつものように、自分を演じ、ターゲットの死を眺めるだけ。
アーナスは、ハザーデル王にこう返す。
「わかりました………」
記憶の中で、何かくすぐるものがあるのを感じながら、アーナスは離れていくハザーデル王のあとを眺めるだけだった。
時は幻歴七〇〇年代前期。大陸最大の戦争の前兆は、誰も気付くことなく、微かに揺れ始めた–––。
プロローグなので短めになるのは分かっていましたが、予想以上に短くなってしまいました。
大国ディグナードの敵対国ノーデンスの間諜という立場のアーナスですが、一応彼女が本作品の、メインヒロインとなっています。
話が展開していくうちにいろいろなことがわかってくると思いますので、今後ともお願いします。
もう一作品の方も、お願いします。
それでは–––。