オッス、オラ猫神 イリヤ 弐っス!
やっと、第一話です。
ほんと待たせてスンマセン、というわけで第一話をどうぞ。
I.ライトの降格
静かに鳴く緑の地に、黒と赤の軽鎧を身につけた黒髪の男が、蒼穹を眺めながら寝そべっている。
男の名は《ライト・アーカディア》–––と言う事になっているが、理由を知る者はいない。それ以前に《アーカディア》を偽名だと知る者がいない。
幾ら親友であってもだ。
「おぉ、ライト。久々に戻ってきたと思ったら、早速サボっているのか?」
「本当、相変わらずみたいね」
そんなライトに話しかける者がいた。ライトが親友と呼べる者のうちの二人だ。
大国ディグナードの第二上将軍。《リブラ・バイデント・ディグナード》。誇り高きバイデント家の末子である男。長い金髪と細い切れ長の碧眼を持ち、いかにも王族と言った雰囲気を醸し出す。
同じくディグナードの第四上将軍。《ユリーカ・ロッセリーニ・ディグナード》。騎士団常連のロッセリーニ家に産まれ、その剣の腕で中軍隊を率いる第四上将軍に上り詰めた女。リブラとはまた違う金髪を靡かせ、同じ金色の瞳を輝かせる。
ライトは二人を見上げると、溜め息混じりで答えた。
「サボりではなく、『俺のみに許された休日』と、そう言ってくださりますか、上官殿?」
リブラとユリーカは二人して気持ち悪いものを見る顔をした。
「やめなさいよ、気持ち悪い」
「全くだ、お前に上官と呼ばれるのは違和感を感じる。やめてくれ」
「いいだろ、別に?今は本当に上官なんだしさ」
ライトは呆れた顔をして、いかにも自分が二人の元上官かのようにそう言った。
しかし、まぁ、これが案外本当のことなのだ。
その名を聞けば、ほとんどの奴が血に染まった剣を鞘にしまうだろう。
理由はただ一つしかあるまい。
《ライト・アーカディア》–––大国ディグナード最強の第一上将軍と言えば、その桁外れの強さだ。
互角以上に戦う者がいれば、そいつは高度な魔法を操る魔法使いか、未だ存在が曖昧な神–––神竜“ドラゴン”を倒した《ドラゴンスレイヤー》くらいのものだろう。
そんなライトが、なぜ元部下の二人を上官と呼ぶのか。
それは、ほんの三日前のことである。
ライトには少し変わった趣味がある。
–––《旅》と《骨董品集め》だ。
良い趣味ではないかと思う者が大半だろう。だがしかし、軍の者の一部はそうは思っていない。
ライトには確実な強さがある。一人で、数部隊を相手にできるほど強さが。だからこそ、傭兵上がりでディグナード軍の第一上将軍に選ばれたのだ。
それなのに最近は、大切な時にはいつも《旅》で留守。気付けば、軍費は骨董品に消え。好き勝手し放題だ。
ディグナードの現国王、ナドルブ王は流石に怒りを鎮めることができず、三日前にとうとう招集をかけた。
そこで、ナドルブ王はライトに言う。
『貴様は、己の立場を弁えておるのか?何のために、ワシが領地持ちの第一上将軍にしてやったと、思っておるのだ?』
そこまでは、良かったのだ。招集されている者の中にいた、リブラとユリーカも、注意で終わるものだと思っていた。ナドルブ王本人もそのつもりだったのだろう。しかし、ライトはその期待をあっさりと裏切るのだった。
『陛下、それは俺がいないと何もできないということですか?それは、さすがにどうかと思います。ぶっちゃけ、俺がいなくても大丈夫な位にして貰わないと、この国が心配ですね』
イヤミなほど大きな声を上げるライト。
ナドルブ王は巨眼に怒りの炎を燃やし、不遜な男を睨みつけた。
『貴様っ、その口の利き方は何のつもりだっ。今度という今度は、ワシも黙ってはおれんぞ!』
いい加減にしろ。という、リブラの思いは届かず、ライトは顔色一つ変えずに、淡々と言う。
『俺には、黙られた記憶がないのですが。と言うか、すでに黙っていませんよね、陛下』
ナドルブ王の大きな顔に無数のシワが寄り、怒りを鎮めることは、すでに不可能だった。
『ぬぅぅ、ライト・アーカディアよ……』
『はい?』
『即刻、貴様を第十上将軍へ降格させる!』
「–––ってことで、今、お前らは俺の上官だろ?」
「『ってことで』じゃないわよ」
「上官なのは事実だが、関係は今まで通りで頼む」
リブラは、その後も頼むから頼むからとお願いし続けたが、ライトはそれを面白がって、呼び方を一向に変えようとしなかった。
しかし、ユリーカが上官命令としてライトに頼んだところ、あっさりと元に戻ったのだった。
その後、とりあえず解散してそれぞれの仕事に戻った。
〜☆〜★〜☆〜
「ユリーカ上将軍殿!」
パングダム城の広い中庭で行われていた上等兵の訓練を、三階の渡り廊下から覗いていたユリーカは、その声の持ち主に答える。
「どうかしたのかい、ハード少佐?」
ハードと呼ばれたその黒短髪男は、凛々しい顔つきをした、ユリーカの副官だ。若く見られることが多いが、ユリーカの一つ下の20歳である。
「あ、いえ、特に何もないのですが……。その、先ほどはリブラ上将軍とライト上将軍、お二人とどのような話をされていたのかと……」
ユリーカは少し笑うと、自分より少し背の高いハードの目を見た。
「そんな聞き辛いことではないだろう?難しい顔をするんじゃない」
「申し訳ありません」
「だから、硬くなるんじゃない。それと、話の内容は本当にどうでもいいものだ。ライトの奴、久々に帰って来たというのに、挨拶一つもなかったから、私から声をかけただけだ」
「そう……ですか」
ハードは、薄々感付いている。ユリーカがライトのことを、異性として見ていることにだ。
そして、その気持ちにユリーカ本人が気づいていないことも、何となくわかっている。
さらに、ハードのユリーカに向ける好意も、気付かれていないこともわかっている。
要するに、ユリーカは鈍感なのだ。自分の気持ちにも、相手の気持ちにも。
ライトを想う気持ちを、友情と勘違いし。ハードに向けられる好意を、忠誠心だと勘違いしている。
しかし、そんなユリーカも鈍感なばかりではない。ここ最近、少し怪しげな気配がしてやれないのだ。どこからか、視線が来るわけではなく、この国で何かをしようとしている者の、邪悪な気配である。
そこで、ユリーカはハードに任務を与えることにした。
「ハード少佐、やってほしいことがある。–––––––––を頼みたい」
「わ、わかりました」
ハードは、迷いながらも渋々了解した。
頭の切れるハードも、今回の命令が何のためなのか、よくわからずにいた。
〜☆〜★〜☆〜
「リブラ上将軍殿!」
枯れたような、重たい声が部屋に響いた。
「…………………」
「リブラ殿––––––!!!!」
「はいっ!」
机に向かい、部下からの報告を真剣な眼差しで確認していたリブラは、二度目の大声でやっと、副官が自分を呼んでいることに気付いた。というか、あまりの大声に、だらしの無い悲鳴のような返事を返してしまった。
硬直した方の力を抜き、普段の顔付きに戻るとリブラは、背後に立つであろう、巨漢の男に言った。
「どうかしたのか、グーグドル大佐兼監視役?」
「監視役、ですか。やめてくだせぇ、オレァ、あんまり好きじゃねぇんですわ、リブラ殿のことを監視相手だと認識するんは」
「そうか、やはり君は少しおかしいな」
リブラは微笑みながらそう言う。
「しかし、正直ありがたいよ。国の方針だとは言え、第三、第二、第一上将軍に監視をつけるのは、少しどうかと思っていたからな。ところで、何か用があったんじゃないか?」
「あぁ、はい。実は、先日リブラ殿から頼まれた件なんですが、–––––––––––––––という事が」
「やはりか。いいか、この事は呉々も私と君以外には漏らさぬように。特に、あいつには–––」
「ライト上将軍殿ですか?あの方には、むしろ相談したほうがいいのでは?」
「いや、あいつは腕は確かだが、何をしでかすかわからないからな」
「なるほど」
「では引続き、逆間諜を頼んだぞ?グーグドル大佐」
〜☆〜★〜☆〜
「うぅ……、なんか最近妙に寒いよな」
「だな。俺たちの仕事も財布も寒いけどな」
「言うなよ」
「事実だろ?」
ディグナードの南門、二人の門兵の会話が響くだけの寂しい裏門だ。ディグナードが位置するのは大陸フォックザールの最南西端であるために、南門と西門は全くと言って良いほど人が通らない。そこを見張る意味もほとんどないくらいだ。
「これじゃ、いつまで経っても出世できないな。あははははははは!」
一人の門兵が笑い出すと「あははははははは」と二人目の門兵もつられて笑い出した。さらに、二人の門兵の真ん中で馬に跨っている黒髪の男も笑った。
「ふははははは!」
二人の門兵は目を点にして、その男を見て声を上げる。
「「ら、ラララ、ライト上将軍殿!?」」
「よう、お前ら。確か、アギエルとノームだったよな、出世はお前らの頑張り次第だぞ?お前らの先輩南門兵は、いま俺の副官についてるからな」
「ライト上将軍殿…………!」
「俺たちの名前を………!」
「名前くらい覚えるのは普通だろ?それより、マジで頑張れよ、じゃーな」
南門から逃げるように馬を走らせようとしたライトに、門兵の一人が問う。
「上将軍殿はどちらに?」
「あ?許可は取ってるぞ、一度自分の城に戻ろうと思ってな。たまには、部下の顔も見たいしな」
「了解いたしました。我々も精進します」
「おう、じゃーな」
ライトは馬を走らせ南門からディグナードを去った。
二人の門兵はライトが走り去るときにようやく気付いた。ライトの後ろにボロ布で姿を隠したもう一人の存在に–––。
「おい、もう大丈夫だぞ?」
「あれ、完全にばれたでしょ?」
ライトの問いに、ボロ布越しに女の声が答えた。
「大丈夫だっつってんだろ。あいつらは、俺が今まで見てきた中で一番口の固いやつらだからな」
「君、人の事をよく見てるんだね。ストーカーみたい」
「お前が言うな!俺を監視してたくせしやがって」
ライトは布で隠れたその頭を軽く叩くと、「掴まってろ」と一言言って、自城ルシヴィーナ城へと真っ直ぐ加速した。
ライトとボロ布に姿を隠した女が出会ったのは、ほんの数十分前の事だ–––。
えー、どうだったでしょうか。
まぁ、まだなんとも言えませんよね。
ストーリーもあまり絡んでませんからw
次回は、主人公のライトとメインヒロインのアーナスが出会う話になると思います。
次話もどうぞご観覧ください。