【完結】使物語~なでこエンジェル~   作:燃月

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なでこエンジェル~その8~

~018~

 

 先に断っておく事がある。これは夢オチだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日談というか、今回のオチ。或いは序章(プロローグ)

 翌日、いつものように二人の妹、火憐と月火に叩き起こされる―――より先に、僕は目を覚ましていた。

 

 

 昨日は一日中歩き回って疲れが溜まっていたこともあり、夜更かしすることも無く、日付が変わる前には布団に潜り込んで眠っていたので、どうやら起きる時間も前倒しになったらしい。

 

 時計を見ると、まだ朝の6時になったばかり。

 カーテンの隙間から、朝を告げる陽光が差し込んでいる。昨日の夜から降り始めた雨は既にあがったようだ。

 窓を開けっぱなしにしていたようで少し肌寒い。

 

 日曜だし、今日の予定は自宅で自主勉強するぐらいだろうか。

 ちなみに昨日は祝日で学校が休みだったから、連休だ。土曜でも普通に授業があるから、有り難く祝日の恩恵を預かっている。

 

 

 十分な睡眠時間も確保したことだし、偶には優雅なブレックファーストでも堪能しようかと思い立ち、ベッドから抜け出そうとしたのだが―――僕はそこで思いとどまる。

 

 本末顛倒というか、大変理不尽な話ではあるのだけど、僕こと阿良々木暦は、勝手に起床する権利を有していない、とは言い過ぎにしても、勝手に起きて寝床を抜けると、奴らに怒られてしまう。

 

 奴ら―――言わずもがな、僕の妹であるところの阿良々木火憐と阿良々木月火のことだ。

 

 使命感からか、惰性からか、それも正義を行使する一環なのか検討もつかないのだけど、僕の妹達―――ファイヤーシスターズは、僕を起こすという職務を、自身の権利として、自認しているようである。

 

 つまり、例え僕が妹達に起こされるよりも先に目覚めたとしても、部屋の外に出ることは勿論、ベッドから抜け出す事さえ禁じられているようなものだった。

 

 まあ、あいつ等にとって数少ない登場シーンではあるのだから、その気持ちは酌んでやらないこともない…………だけど、二度寝してまで、妹達に起こされたいなんて、これっぽちも思わない。

 

 そもそも、その起こし方が最近エスカレートして(過去にはバールで寝込みを襲われたこともあったし、この前なんかは、熱々に茹だったおでんを鍋ごとぶっかけられそうになった。本気で洒落になってないし、僕はリアクション芸人じゃない)身の危険を感じている今日この頃だった。

 

 僕が不死身に近い体躯を有していなければ、冗談抜きにして死にかねない―――致命傷を負いかねない、起こし方をしてくれるので、僕としても第六感に任せきりではどうにも心許ない。

 

 怪我を負うのはいいとして、いや、ちっともよくないが、奴らの前でその傷が回復していくのを目撃されることの方が問題なんだよなあ。この体質というか、吸血鬼だった頃の名残、後遺症を妹達に見られるのは拙い。

 

 然るに、こうして先に起きたのなら、取れ得る対策は取って置いた方いいってことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ぼーっと時計の針が進むのを眺めて、規則正しい人力目覚ましが来るのを待ち構えていると、部屋の外から話し声が聴こえてくる。

 

「うん、まだ部屋の中にいるみたいだね。昨日の夜から一歩も部屋の外に出てないよ」

 

 この声は月火のものだった。僕がこうして起きて待ち構えているとも知らず、呑気なものである。

 

 ってあれ? なんでこいつ僕が部屋から出てないなんて事がわかるんだ? 夜通しずっと部屋の外に居た訳でもあるまいし、夜中に催してトイレに行ったかもしれないじゃん。

 

「ふっふ~ん、何でわかる、みたいな顔になってるね、そりゃわかるよ」

 

 一緒にいる火憐の顔色を読んだのだろう、月火が得意気な口調でそんなことを言う。

 

「だって、昨日お兄ちゃん寝静まったのを見計らって、ドアノブに細工をしておいたからね。一番上まで上ってるドアノブの位置を、元の位置から5ミリぐらい下げておいて、蝶番のとこにシャー芯を仕込んでおいたんだよ。ドアノブの位置も変わってないし、シャー芯も折れてない。以上の理由からお兄ちゃんは、この部屋から外へは出ていないと言い切ることができるってわけだね」

 

 何してくれてやがんだ、この妹はっ!!

 同じ『月』を冠する名前だからって、デスノートの所有者みたいなことしてんじゃねぇよ! しかも何気に本編とは用途の違う応用編だし! 

 

「最近お兄ちゃん、夜中に抜け出す事が多いんだよね。大方、エッチな本でも買い漁ってるんだろうけど」

 

 違う! それは忍に血をやりに抜け出しているだけで、断じてエッチな本の購入など…………そのうちの2割程度だ!!

 

「そうだね。静かにしないと気付かれちゃうね、ごめんごめん」

 

 一方的に僕の人権を侵害していた月火だったが、相方の火憐の叱責でも受けたのか、やっと本来の目的を思い出したようだ。

 まあ、その目的は、僕を起こすことにあるのだから、気付かれても問題ないと言えば問題ないんだろうけど、“僕が起きる”ことに意味があるのではなく、“僕を起こす行為”に意義があるのだろう。

 

 

 

 

 ガチャリと慎重にドアを開く音。

 奴らが踏み込む前に、布団を頭から被って起きていることを悟られないようにしておく。

 

 さて今日は、どんな悪逆非道な、暴虐の限りをつくした起こし方をしてくる!?

 傾向的に、火憐がいた方が、まだましな起こし方(少し内臓が飛び出してしまいそうな程度)になるのだけど、だからと言って油断はできない。

 

 忍び寄る気配。

 あ。そう言えば肝心の対応方法を何にも考えてなかった。これでは先に起きて待ち構えていた意味がないじゃないか!

 兎に角、いつでも布団から抜け出せるように、身構えておく―――

 

 そうこうしている内に妹達がベッドに上に乗り込んできた。布団の両脇が沈み込む。

 

「お兄ちゃん、朝だよ~」

 

 月火の声。

 そして、布団の上に手をかけ、繊細な動作でゆっくりと揺り動かしてくる。

 

 お。いつになく優しい起こし方だな。普段はもっと激しくシェイクするみたいな起こし方なのに。

 うん、兄を労わる気持ちが生まれたのはいいことだ。いいことなのだが、何か物足りなさも感じる。これでは、オチになってないじゃんと、いらぬ心配をする僕だった。

 

 やはり落しどころとして、僕が人肌脱ぐしかないようだな。

 

 ふふふふふふ、僕の悪戯心がむくむくと活性化していく。

 

 

 

 僕は布団の両端を掴んで広げ、その状態で腹筋を駆使して跳ね起きる。

 その結果―――布団の上に乗っかって僕を起こそうとしていた二人をまとめて包み込むことに成功する。

 

「ちょ、何すんのよお兄ちゃん!」

「ひゃ、ひゃ」

 

 布団に包まれ、袋の鼠状態になったファイヤーシスターズ。

 月火が声を荒げ僕を非難する一方、火憐は柄にもなく、声が裏返ったような悲鳴なんかあげちゃたりして。

 効果は覿面のようだ。油断するからだ、バーカ。

 

 よし。まずは手始めに―――布団の中に手を入れ、胸を揉みしだいてやるとしよう。

 

 

 さぁ兄妹のスキンシップの始まりだ!!

 

 

 おっ。この感触は月火ちゃんの胸だな。まだ発展途上の青い果実のような頼りない膨らみ。うん、日頃揉み慣れた感触。

 まあ、こんなことしても別段エロチシズムを感じることもないし、なんの罪悪感も生まれない。欧米諸国で挨拶代わりにキスするような感覚で、僕は妹の胸を揉む、ただそれだけのこと。代わり映えしない日常の一コマ。

 

「ちょっ! お兄ちゃん、妹のおっぱい触りすぎ!」

 

 粗方下の妹の胸を弄った僕は、最早、定番になりつつある月火ちゃんの台詞を聞き流し、次の標的である火憐ちゃんをロックオン―――一切の躊躇もなく、上の妹へ手を伸ばす。

 

「さぁ次は火憐ちゃん。お前の番だ!」

「ってお兄ちゃん、そっちは駄目! 駄目だって!」

 

 怒り心頭だった月火の声が一転し、なにか切迫したような、狼狽した声をあげる。

 

 まぁそんな事言われても、

 

「駄目と言われて引き下がる僕だと思ったか!?」

 

 ふっ。僕は火憐ちゃんと月火ちゃんとで扱いを変えたりする、矮小な男じゃないぞ!

 随分と見くびられたものだ。ちゃんと姉妹二人まとめて同じように相手してやるさ!

 

 月火ちゃんの制止の声など我関せずで、火憐ちゃんの肢体に手を這わせる。

 

 

 なんだろう…………そこはかとない、違和感が…………。

 

 布団に包まれている状態なので、一発で胸には行き着けず、一通りお腹なんかにも触れていたのだけど、いつもの引き締まった腹筋ではなく、妙に女の子らしい柔らかな肉質だったような気がする。

 

 って今更ながら、火憐ちゃんいつになく大人しいよな。もっと反撃なんかされるのを想定してたのに。本来僕が想起していたオチは火憐ちゃんに返り討ちにあうオチだったんだけどな。

 

 まぁそれはさて置き、そんな訳で、何の抵抗もしない火憐ちゃんの胸をタッチ……いやキャッチした。鷲掴みである。

 一回、二回と僕が胸を揉むとそれにあわせて「ひゃん!!」とか「あん!」妙に可愛らしい声をあげる火憐だった。

 

 

 う~ん、なんだろう……火憐の奴……声変わりでもしたのかな? なんだかいつもと声の感じが違う気がする。だけどこの声には聞き覚えがあるというかなんというか…………。

 

 

 

「なにしとんじゃこらぁああああああああああっ!!」

 

 曖昧模糊とした形容できない心地悪さを感じていると、布団を跳ね飛ばし、般若の形相をした月火が一喝の下姿を現した。

 当然のことながら、布団が取り払われたことにより、僕の手の先―――より正確に言うのなら、おっぱいを揉み続けている相手の姿も露になった。

 

 そこに居たのは、僕の妹“達”ではなくて……僕の妹、月火ちゃんと、妹的存在の―――

 

 

「…………………千石?」

 

 

 千石撫子だった。欠片もなかった罪悪感が一瞬にして心の中を埋め尽くす。

 

「いや……なんで?」

 

 意味不明だった。だって此処僕の家だぞ? 千石が僕を起こしにくることなどありえない。それに火憐はどうしたのだ?

 そう言えば、昨日の今朝方に何処かに行くとか言っていた気もしないでもない。

 どっかに出掛けたっきり、一日二日帰って来ないことも日常茶飯事なので、火憐がいないことは別段おかしいことではないか。

 けれども、千石が僕の家にいる理由の説明にはなってない。

 

 

 となるとこれは……考えられる答えは一つ。真実はいつだって一つなのだ。

 考えられる可能性―――これは夢だ。なるほど、これが噂に名高い夢オチか。

 

「ふ~」

 

 大きく深呼吸を一つ。

 

「なぁんだ。びっくりしちゃったぜ」

 

 モミモミと、丁度手のひらに納まる柔らかな感触を堪能する。夢の中なのだから、普段出来ないことだって可能なのだ!

 

「暦お兄ちゃん、おはよう」

 

「あ……あぁ、おはよう」

 

 胸を揉んだ状態で挨拶を交し合う僕と千石。

 う~む……夢だとしても、面と向かって千石に挨拶されると気後れするもんだな。

 

 それに夢にしてはやけにリアルな感触だし、横の月火は喧しく喚き続けている。

 

 夢の中の出来事とは言え、こうして新たな一日が始まったのだった。

 

 

 


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