六月も最終週に入り、IS学園は月曜から学年別トーナメント一色となる。
こうして第一回戦が始まる直前まで、全生徒が雑務や会場の整理、来賓の誘導度を行っていた。
それから解放された生徒たちは急いでアリーナの更衣室へと向かうのだ。
「しかし、すごいなこりゃ…」
更衣室のモニターから観客席の様子を見て一夏が呟く。
そこには各国政府関係者、研究所員、企業のエージェント等のそうそうたる面々が一堂に会していた。
「三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認にそれぞれ人が来ているでござるからな。
一年には今のところは関係ないようでござるが、それでもトーナメント上位入賞者には早速チェックが入るでござろう」
「ふーん、ご苦労なこった」
っと、一夏は興味なさげに言う。
「一夏殿はボーデヴィッヒ殿との対戦だけが気になっているようでござるな」
「まあ、な」
鈴とセシリアはやはりトーナメント参加の許可は下りず、今回は辞退せざる得ない状況になっていた。
二人は国家代表候補生でありその中でも選りすぐりの専用機持ちである。
それがトーナメントで結果を出すどころか参加すら出来ないというのは、二人の立場を悪くする要因になるだろう。
「自分の力を試せもしないのは、正直つらいだろ」
先日の騒動を思い出して一夏が拳を強く握りしめる。
「あまり感情的になるではござらん、彼女はおそらく一年の中では現時点で最強の対戦相手になるでござろうからな。
さて、そろそろ対戦表が決まる頃でござる。」
どういう理由かは不明だが、突然のペア対戦への変更がなされてから従来まで使っていたシステムが正しく機能しなかったらしく、本来なら前日には出来るはずの対戦表も今朝から生徒たちが手作りの抽選クジを作っていた。
「一年の部、Aブロック一回戦一組目なんて運がいいよな」
「そうでござるか?」
「待ち時間に色々と考えなくても済むだろ。こういうのは勢いが肝心だ。
出たとこ勝負、思い切りの良さで行きたいだろ」
「ふっ、一夏殿らしいでござるな
ぬっ、対戦相手が決まったようでござるな」
モニターがトーナメント表へと切り替わり、朔乃と一夏はそこに表示される文字を食い入るように見つめる。
「―え?」
「―ぬ?」
出てきた文字を見て、朔乃と一夏は同時にポカンとした声をあげた。
一回戦の対戦相手はラウラとシャルロットのペアだったからだ。
「一戦目で当たるとはな。
待つ手間が省けたというものだ」
「そりゃ何よりだ。こっちも同じ気持ちだぜ」
ピリピリとした空気がアリーナに流れる中一夏とラウラがそう言葉を交わす。
試合開始まで後五秒。四、三、二、一 …開始。
「「叩きのめす」」
一夏とラウラが同じ言葉を放つと同時、先ず動いたのは一夏、そして朔乃であった。
一夏が瞬時加速(イグニッション・ブースト)を連続使用しながらラウラの側面へと回り込む。
「おおおっ!」
「ふん………」
だがラウラもそれを読んでいたかのようにAICを作動させて一夏を捉える。
「一夏殿!」
「おっと!余所見してたら駄目だよ!!」
一夏同様に朔乃もまた対戦相手―シャルロット・デュノアに苦戦していた。
デュノア社第三世代IS『ラファエル』―その一番の特徴と言うのがAICを応用した三次元機動‐空間跳躍‐である。
これは任意の空間をAICで固定、足場とする事で可能となるものでありこれに加えて高速切替(ラピッド・スイッチ)で銃器を高速展開させる事で可能となる弾幕に朔乃は苦戦しており防御の一手であった。
『敵ISの大型レール砲の安全装置解除を確認、初段装填―警告!
僚機のロックオンを確認―警告!』
シャルロットの銃弾を捌きながらハイパーセンサーから警告音が響く。
しかし、その直後に
『『フォトンブラスター』上空への配備完了』っとのバイパーセンサーが告げる。
ラウラ達もそれについて気づいたようだがもう遅い。
纏雷を発動させて一夏へと向かうと彼を捕まえて再加速、ラウラから距離を取り電磁フィールドを展開。
直後に上空に展開させた総数90にものぼる小型のプラズマスフィアがアリーナへと一斉に降り注いだ。
時間は対戦組み合わせが発表された直後にまで遡る。
「参ったな…ラウラだけでもやっかいなのにその上、シャルロットと組むとは…」
渋面を作りながら一夏が呻く。
確かにラウラのPICだけでも厄介なのにその上、シャルロットの機動力が加わるのだ、一夏のような顔にもなるだろう。
「一夏殿、方法は無いことは無いでござる」
「あるのか!?」
一夏が目を見開いて朔乃を見る。
そんな一夏に朔乃は首を縦に振り頷く。
「実は拙者の黒鉄には広域殲滅用の武装が使用可能なのでござるが、使用するためには高い演算と時間を必要とするのでござる」
「時間ってどれぐらいいるんだ?」
「三分…纏雷を使用しなければ一分といったところでござる。
問題は纏雷を使用していない状況では装甲が紙のように薄い状況になりアサルトカノン一撃でやられるでござる―」
分の悪い賭けになるでござるよー。
っと続ける朔乃に一夏はニヤリと笑みを浮かべて言った。
「良いぜ、分の悪い賭けは嫌いじゃない」
「そう言うと思ったでござる」
対する朔乃もまた、笑みを浮かべていた。
そして時間は再び、今へと戻る。
「どうやら賭けは拙者達が勝ったようでござるな」
いくら三次元機動を用いたとしてもフォトンブラスターによる面制圧攻撃を回避することは出来なかったらしくラファエルのシールドエネルギーは底をつき、シュヴァルツェア・レーゲンの方もシールドエネルギーは僅かな状態であった。
「ぬ?」
端から見たならばチャンスとも取れる状況であるが朔乃は大きな違和感を感じていた。
高速機動が売りのラファエルですらもフォトンブラスターを避けることが出来ずにシールドエネルギーを全耗しているのに、シュヴァルツェア・レーゲンにシールドエネルギーが残っていることはおかしいのだ。
もともと、原作のようにシュヴァルツェア・レーゲンに搭載されたVTシステムを発動する前に決着をつける為に放ったフォトンブラスターであるがラウラはそれをどういう方法を使ったのか回避したようだった。
「まさか…」
朔乃の嫌な予感がよぎる。
瞬間ー
「あああああああっ!!!!」
突然、ラウラが絶叫を発し、シュヴァルツェア・レーゲンから激しい電撃を放ちながらその姿を変質させる。
装甲がどろどろしたものになり、ラウラの全身にを包み込む。
黒い、深く濁った闇がラウラを飲み込んでいった
「なんだよ、あれは…」
ほぼ無意識に一夏がそう呟く。
恐らく、朔乃を除いた全ての人間が同じ事を思っているだろう。
シュヴァルツェア・レーゲンだったものはラウラの全身を包み込むとその表面を鼓動のように脈動を繰り返し、ゆっくりと地面に降りる。
それが大地に立つと高速で全身を変化、形成していく。
そしてそこに立っていたのは黒い全身装甲ISに似た何かであった。
だがその形状は道元の炎帝とは全く違う。
ボディラインはラウラのそれをそのまま表面化した少女のそれであり、最小限なアーマーが腕と脚につけられている。
そして頭部にはフルフェイスアーマーに覆われ、目の箇所には装甲の下にあるラインアイ・センサーが赤い光を漏らしていた。
そしてその手に握られている武器を見て一夏が目を見開いて呟く。
「《雪片》……!」
それはかつて千冬が現役時代に振るっていた武器の名であることを朔乃は思い出す。
「てめぇ!」
一夏は怒ったように《雪片弐型》を握りしめて、構えると黒いISへと向かっていく。
刹那、黒いISが居合いに見立てた刀を中腰に引いて構え、必中の間合いから放たれる必殺技の一閃。
それは紛れもなく千冬の太刀筋だ。
「ぐうっ!」
一夏の構えた《雪片弐型》が弾かれる。
そしてそのまま上段へと構え、落とすような残激を繰り出す。
「!」
刀で受けるのは間に合わない。
一夏は白式に『後方回避』の緊急命令を送る。
千冬ね戦術を知っていたからこそ、避けることができたのだ。
一夏は再度、《雪片弐型》を構えようとした、瞬間。
ワイヤーのようなものが白式に絡まり思いっきり引っ張られる。
それと同時に、十発程のプラズマスフィアが黒いISに飛来する。
朔乃が放った誘導性のプラズマスフィアだ。
完全に死角からの攻撃、直撃は免れないかと思われたが黒いISは驚くべき方法でそれを回避する。
空中へと跳躍すると再び、何もない空間を蹴り左右から迫っていたプラズマスフィアの同士討ちを狙う。
「そんな!空間跳躍!!!」
驚愕した表情でシャルロットが叫ぶが朔乃はあまり驚かない。
ラファエルとシュヴァルツェア・レーゲン、どちらも空間を固定する能力を持っている。
シュヴァルツェア・レーゲンが《空間跳躍》を使えても何ら不思議は無い。
『非常事態発令!トーナメントの全試合は中止!状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む! 来賓、生徒は速やかに避難すること! 繰り出す!』
「どうするの?多分、一撃でも当てれば終わるだろうけど《空間跳躍》が使えるって事はそう簡単に攻撃を喰らってはくれないよ?
それとも先生に任せる?」
シャルロットがアナウンスを聞いて不安そうに言う。
当然のことながら一夏は首を横に振ると朔乃を見る。
「朔乃、あいつの動きを止められるか?」
「お安いご用でござる!」
朔乃は一夏に答えると《纏雷》を発動させ黒いISに向かう。
同時に黒いISは朔乃の存在に気づいたのか腰を落とした居合いの体制を取る。
朔乃は右手に小太刀を展開すると左手に雷撃を集める。
黒いISの間合いに入ると同時に刀が振り抜かれる。
朔乃はそれを小太刀で受け流すと雷撃を黒いISへと打ち込む。
あくまでも黒いISの動きを止める事が目的のため威力は低めだ。
「一夏殿!」
叫ぶと同時に朔乃が一夏と入れ替わり、縦に黒いISを切り裂く。
紫電が走り、黒いISが真っ二つに割れる。
そして、気を失うまでの一瞬だけ眼帯が外れて露わになった金色の左目が朔乃と一夏の姿を捉えた。
それ捨てられた子犬のように酷く弱っていたように感じた。
結局のところ、トーナメントはヴァルツェア・レーゲンに搭載されていたVTシステムの暴走により、中止。
優勝して一夏との交際を狙っていた女子達が酷く落胆していたのは言うまでもない。