合宿二日目には午前中から夜まで丸1日ISの各種装備試験運用やデータ取りが行われる。
「さて、せれでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。
専用機持ちは専用パーツのテストだ。
各自、迅速に行え」
ハーイ、と一同が返事をする。
現在、昨乃達一年生がいるのはIS試験専用のビーチである。
ここに搬入されたISと新型装備のテストが今回の合宿の目的である。
「ああ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」
「はい」
打金用の装備を運んでいた箒は、千冬に呼ばれてそちらへと向かう。
「お前には今日から専用―」
「ちーちゃ~~~~~ん!!!」
千冬の言葉を遮り猛スピードで走ってきた人物は誰と尋ねるまでもない。
篠ノ之束である。
「会いたかったよ、ちーちゃん! さぁ、ハグしよう! 愛を確かめ―ぶへっ」
ルパンジャンプしながら飛びかかってきた束の顔面を千冬が片手で掴む。
「うるさいぞ、束」
「ぐぬぬぬ…相変わらず容赦ないアイアンクローだねっ」
千冬ね拘束から抜け出した束は着地すると箒の方を向く。
「やあ!」
「……どうも」
「久しぶりだね。
こうして会うのは何年ぶりかなぁ。
おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいがって…痛い!ちーちゃん!! 日本刀の鞘は!流石に痛いよ!!! ひどい!箒ちゃんひどい!」
セクハラ発言をした束の頭部を箒が日本刀の鞘で叩く。
頭を抑えながら涙目で訴える束。
そんな二人のやりとりを、一同は呆けた表情で眺める。
「え、えっと、このが合宿では関係者以外―」
「んん?珍妙なことを言うね。
ISの関係者というなら、一番は開発者の束さんをおいて他にいないよ」
「えっ、あっ、はいっ。
そ、そうですね………」
束の言葉に真耶は口を閉じる。
その言葉に今まで呆けていた一同は、やっと目の前の人物がISの開発者であり天才科学者・篠ノ之束だと言う事に気づき騒がしくなる。
「一年、手が止まっているぞ。こいつの事は無視してテストを続けろ。
何かわからないことがあるなら山田先生に尋ねろ」
「こいつはひどいなぁ、らぶりぃ束さんと呼んでいいよ?」
「うるさい、黙れ」
「あの…それで…頼んでおいたものは………?」
そんな旧知の間柄である二人のやりとりに躊躇いがちに箒が尋ねる。
「うっふっふっ。
それはすでに準備済みだよ。
さあ、大空をご覧あれ!
来い!ガン●ーム!!!」
束音が直上を指差すと同時にどこぞのガンダムファイターのように叫ぶ。
その言葉に従って箒も、他の生徒たちも上空を見上げる。
「ぬおっ!?」
それと同時に激しい衝撃を伴いながらMSの強襲ポッドのような形状の金属の塊が砂浜に落下した。
銀色のそれは次の瞬間には正面らしき壁が倒れてその中身の真紅の装甲を覗かせる。
「これこそが箒ちゃん専用IS『紅椿』!
全スペックが現行ISを凌駕する束音さんの特性ISだよ!」
真紅の機体は、束の言葉に応えるように動作アームにより外へと出てくる。
「さあ!箒ちゃん、今からフィッテングとパーソナライズを始めようか!
私が補佐するからすぐに終わるよん♪」
「…それでは、頼みます」
「堅いよ~。実の姉妹なんだからもう少し軽くいこうよ~」
「はやく、始めましょう」
とりつく島もなく、箒は束の言葉に取り合わずに行動を促す。
「ん~。まあ、せうだね。始めようか」
言いながら束はどこからかリモコンを取り出してボタンを押す。
同時に紅椿の装甲が割れて、操縦者を受け入れる。
「箒ちゃんのデータはある程度先行して入れてあるから、あとは最新データに更新するだけだね~」
コンソールを開いて指を滑らせる束。
さらに空中投影型のディスプレイを六枚ほど呼び出すと表示される膨大なデータに目を通していく。
それと同時進行で、同じく六枚呼び出した空中投影のキーボードを叩いていった。
「近接戦闘を基礎に万能型に調整してあるから、すぐに馴染むと思うよ。
あとは自動支援装備もつけておいたからね!」
「それは、どうも」
っと、束の言葉へ素っ気なく応える箒。
だが束もそんな箒など気にせずに話を続ける。
「箒ちゃん、また剣の腕前があがったねぇ。筋肉の付き方をみればわかるよ」
「……………」
「ありゃりゃ、無視されちった。
―っと、フィッテング終了~」
等と無駄話をしながらも束の手は休まずにキーボードを走らせ、秒単位で切り替わる画面を処理している。
「あの専用機って、篠ノ之さんがもらえるの………?
身内ってだけで」
「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」
っと、群衆の中から聞こえてきた声に反応したのは束である。
「おやおや、歴史の勉強をしたことがないのかな? 有史以来、世界が平等であったことなど一度もないよ」
っと、ピンポイントに指摘を受けた女子は気まずそうに作業に戻る。
それをどうでも良さげに調整を続ける。
それも、直ぐに終わり、束は並んだディスプレイを閉じていく。
「あとは自動処理に任せておけばOK牧場っと。
あ、いっくん、さくちゃんIS見せてー」
全部のディスプレイとキーボードを片付けて、束が一夏と朔乃の方を向く。
「え、あ。はい」
「良いでござるよ」
頷くと二人はISを…一夏は白式を、朔乃は黒鉄を展開させる。
「データ見せてね~。うりゃ」
言いながら、束は白式と黒鉄にコードを刺す。
すると、先ほど同様に同じようなディスプレイが空中へと浮かび上がる。
「ん~………二人とも不思議なフラグメントマップを形成してるねー。
何でだろ?
二人が男の子だからかな?」
「束さん、そのことなんだけど、どうして男の俺がISを使えるんですか?」
「ん~…どうしてだろうね?
私にもさっぱりだよ。
ナノ単位まで分解すればわかると思うんでけど…」
「お断りします!」
「お断りするでござる」
束がセリフを言い終わるよりも早く、一夏と昨乃が答える。
「にゃはは、そう言うと思ったよ…。
っと、紅椿の処理が終わったようだね。
んじゃ、試運転を兼ねて飛んでみてよ。
箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだから」
「それでは試してみます」
空気の抜けるような音と共に紅椿に接続されたケーブル類が外れていく。
それから箒が瞼を閉じて意識を集中させると、次の瞬間に紅椿はもの凄い速度で飛翔する。
急加速の衝撃で舞い上がる砂煙が上がる。
それから箒の姿に追うと、二百メートルほど上空で滑空する紅椿の姿を捉える。
「どうどう?箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」
「え、ええ、まぁ…」
楽しげに話す束と少し困惑したような箒の会話がオープンチャンネルを通して聞こえてきた。
「じゃあ、刀を使ってみよう。
右が天月、左が空裂ねー。
武器特性のデーターを送るよー」
言ってから空中に指を踊らせる束。
武器データーを受け取った箒は慣れた動作で二刀を抜き放ち、天月で突きを放つ。
同時に周囲の空間に赤いレーザー光が幾つもの弾丸となって現れて雲を穿つ。
「ではこいつを撃ち落としてみよう~」
言いながら束は十六連装ミサイルポッドを呼び出し一斉に撃ち出す。
「箒!」
「―やれる!この紅椿なら!」
その言葉の通り、空裂を一回転するように振るい、赤いレーザーを帯状に撃ち出してミサイルを撃ち落とす。
『実際に見ると凄いものでござるな…』
圧倒的なスペックの紅椿に昨乃は息を呑み言葉を失う。
昨乃だけではなく、 その場にいる全員が言葉を失っていた。
そんな中―
「たっ、大変です!織斑先生っ!」
一同の沈黙を破ったのは手元の小型端末を見て慌てふためいた声を上げた真耶だった…。
前回から一週間程経って福音編二話目を上げさせていただきますー