「…………」
旅館―朔乃にあてがわれた一室。
壁の時計は四時半を示している。
福音の攻撃を受けた一夏は既に三時間以上も意識不明の状態だ。
『拙者のせいでござる…』
歯噛みしながら朔乃はうつむく。
思えば転生前から任務で殆どミスを犯すことがなかった…。
それ故に自分の油断のせいで一夏が傷ついてしまった事が胸の奥深くに突き刺さる。
「いつまでそうしているつもりよ?」
客室の壁にもたれながらそう言ったのはアリアだ。
「アリア殿…」
惚けた表情で言葉を発した朔乃にアリアは歩み寄る。
「ラウラが福音の位置を特定したわ、あんたはいつまでそうやってしょげているつもり?」
「拙者は…戦えぬでごるよ…」
弱音を吐く朔乃にアリアが掴みかかる。
「あんたの前世に何があったかは知らないけど!甘えたことを言ってんじゃないわよ!!転生者!!
それ以前に専用機持ちはそんなワガママが許されないぐらい知ってるでしょうが…」
アリアのその言葉に朔乃は目を見開く。
「…まあ…それでも戦えないと言うなら私達だけで福音をぶっ倒すからあんたはその報告を待ってなさい」
ふん、っと胸を張りながら宣うアリア。
彼女の言葉に今までうなだれていた自分が無性に情けなく感じる。
「アリア殿…すまぬでござるな…後で必ず追いかけるでござるから先に行っておいてはくれぬか?」
「全く…いつまでもウジウジしてるんじゃないわよ…」
首をすくめながら笑みを漏らすアリア。
「ぬ?」
それと同時に部屋の入り口の方でに感じる人の気配に朔乃は立ち上がり襖を開ける。
………そこに立っていたのは簪であった…。
「すまぬしばらく一人にしては頂けぬか…」
任務から戻ってきた朔乃は生気の無い顔つき言って客室に引きこもってから既に三時間が経とうとしていた。
『朔乃…』
一夏が任務中に重傷を負ったと聞いた。
更織の家にいた時も朔乃は人一倍責任感が強かった…。
だから一夏の怪我についても責任を感じているはずだ。
『こんな時お姉ちゃんなら上手な言葉で慰める事ができるんだろうな…』
そのような事が出来ない自分が嫌になりそうだ。
「カンちゃーん」
等と考えていた簪に後ろから抱きついたのは本音である。
朔乃と一緒の部屋を出てから彼女の部屋で世話になっているのだ。
「サクちゃんのこと?」
本音の言葉に頷く。
普段からのんびりとしている彼女ではあるが割と察しがきくのだ。
「私…落ち込んでいる朔乃に何もしてあげる事が出来ない…」
俯く簪に本音は普段と変わらぬ笑顔で答える。
「何もしてあげられなくても側にいてあげるだけでも良いと思うよ~」
その言葉に簪は顔を上げる。
「ありがとう…本音、私…行ってくるね…」
そう言うと簪は立ち上がり朔乃の部屋へと歩き出した。
「…ラが福音の位置を特定したわ、あんたはいつまでそうやってしょげているつもり?」
『…この声は神崎さん?』
朔乃の部屋の前にまでやってきた簪は聞き覚えのある声に耳をそばだてる。
声の主は同じクラスの神崎アリアだ。
いけないと思いつつも簪は二人の会話に集中する。
「拙者は…戦えぬでごるよ…」
朔乃が吐いた弱音に簪は耳を疑う…。
朔乃がこのような弱音を放つとは思っていなかったからだ。
それと同時に朔乃がこうして弱い部分を見せるのが自分で無いことに些か嫉妬のようなものを覚える。
『って…私なに嫌な事を思ってるんだろう』
そんな自分に自己嫌悪していると部屋の障子が開き、朔乃が姿を現す。
「ごめん…朔乃…私…」
盗み聞きしていたようで申し訳無い気持ちになる簪に朔乃は首を横に振る。
「拙者もいつかは話さねばならぬと考えていたでござるよ…けどそれは今ではござらん」
「それはさっきの任務と織斑くんが意識不明なのと関係があるの?」
簪の問いに朔乃は頷く。
「わかった、なら必ず無事で戻ってきて…」
「もちろんでござるよ」
簪のその言葉に朔乃は力強く頷いた。