ISカグラ‐雷光の担い手‐   作:灰音穂乃香

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第二十一話 『文化祭(後編)』

「ありがとうでござるー」

 

朔乃は礼を良いながら笑顔で冊子を渡す。

現在、彼が着ているのは以前、生徒会でメイド喫茶を催した時のようなミニスカメイド服である。

一組で催しているご奉仕喫茶の衣装である。

本人は断固拒否したのであるが女子の勢いに負けてしまい結局着ることになったのである。

『ご奉仕喫茶』はメイド服の朔乃と執事服の一夏目当ての客により大盛況となっていた。

しかも楯無が途中参戦してきたこともあり店内は一層の混雑を極めていた。

あまりの混雑ぶりに怪我人が出る可能性があったため、朔乃はこうして簪と共に所属するアニ研の同人誌の即売を手伝う事になったのだ。

そして、即売には朔乃目当ての客が長蛇の列を作り、用意していた同人誌200部は朔乃が来てから僅か一時間で完売。

それと同時に簪の携帯が軽快なアニメソングが響く。

教室にいる一夏からである。

一夏曰わく楯無が生徒会の用で帰った為に教室へと戻ってきてほしいとの事だった…。

 

「お待たせして申し訳ないでござる、お嬢様」

 

「きゃー!影宮くんだ~!」

 

「ゲーム! ゲームしよ!」

 

クラスへと戻った朔乃に客の女子生徒が嬉しい悲鳴を上げる。

やはりと言うべきか楯無がいない状態であってもご奉仕喫茶の盛況ぶりは相変わらずであった。

特に、普段はとっつきにくいラウラがメイドの格好をしているのが受けたらしく、あっちこっちに呼ばれてはゲームで対戦をしている。

 

「さて…拙者もがんばるでござるか…」

 

一人ごちると朔乃は女子生徒の接客に向かったのであった。

それから一時間ほどして、店が一度食材の追加買い出しの為に一時休店になるまで朔乃は店の中を東奔西走していた。

 

 

 

 

 

 

「うむ、旨いでござるなー」

 

模擬店で購入したクレープをかじりながら朔乃はその顔に幸せそうな笑みを浮かべる。

その表情はどう見ても女の子にしか見えない。

 

『ああ…朔乃は可愛いなぁ』

 

等と本人が聞いたら絶対に怒るような事を思いながら簪は朔乃を見る。

現在、休店の一時間を利用して朔乃と簪は各クラスの出店巡りをしていた。

 

「ぬ?」

 

朔乃がそう言いながら足を止める。

「どうしたの?」

 

尋ねる簪に朔乃はある場所を見つめる。

 

 

「簪殿、あそこで何か面白そうな事をやるようでござるよ!」

 

子供のようにはしゃぎながら第四アリーナの方向を指差す朔乃。

 

簪がそちらを確認するよりも早く朔乃は簪の手を取って走り出した。

 

 

 

「むかしむかしあるところに、シンデレラと言う少女がいました」

 

 

観客いっぱいの第四アリーナに朔乃と簪はいた。

 

幸いにもアリーナで行われる生徒会の観客参加型演劇の席は前の席を取ることが出来た。

 

朔乃の目的としてはこの演劇を楽しむことも一つなのだがそね後に待ち受けているであろう亡国機構のオータムと楯無&一夏の戦闘。

それについて朔乃は気になる所があった。

無論、楯無がオータムに遅れを取ると言うことは無いだろう。

だが、亡国機業に道元達悪忍がついている以上、油断は出来ない。

 

『とりあえず今は…演劇の方を楽しむでござる…』

 

そう考えながら舞台の方に視線を移すと王子役の一夏の王冠を狙ってシンデレラ・ドレスを着た女子達が追い回している。

だがそれは無理から事である。

何故ならば一夏の王冠を手に入れた女生徒は彼と同室になる権利があるのだから。

鬼気迫る勢いで女子が一夏へと肉薄する。

瞬間、何者かが一夏の足を引っ張るのを朔乃は確かに見た。

 

 

 

 

 

 

「全く…どこの誰だか知らないけれど困った事をやってくれるものね…」

 

一夏が何者かに連れて行かれる所を見た楯無はその後を追跡、二人が更衣室に入っていく所を発見する。

 

そのまま二人に続いて更衣室へと入ろうとしたが部屋のシステムにロックがかかっており中から聞こえてくる戦闘音がよりいっそうに楯無を焦らせる。

 

やっとの事でロックを解除、更衣室の中へと入ると一夏が侵入者のISの装甲脚に殴られて壁に叩きつけられた所であった。

 

 

 

 

 

 

「じゃあなぁ、ガキ。

お前にはもう用が無いから、ついでだし殺してやるよ」

 

「あら、そういうねは困るわ。

一夏くん、私のお気に入りだから」

 

先ほどまでの焦燥を隠すように楯無は制服のポケットから扇子を取り出して広げる。

 

「てめぇ、どこから入った?

今ここは全システムをロックしてんだぞ。

………まあいい。見られたらからにはお前から殺す!」

 

一夏をいたぶる事に熱中していたらしく、侵入者は楯無がロックを解除した事に気づかなかったらしい。

 

オータムは叫びながら身を翻して八本の装甲脚で楯無の身体を貫く。

だが、その身体からは一滴の血さえも流れていない。

 

「なんだ、お前…? 手応えがないだと…?」

 

困惑の表情を浮かべるオータムに先ほどまで装甲脚に貫かれていたものが液体へと姿を変わる。

 

「なっ…こいつは…水か?」

 

「ご名答。水で作った偽物よ」

 

オータムの後ろに回り込んだ楯無はランスを構える。

 

「くっ………!」

 

オータムはすんでのところでそれを避ける。

 

「あら、浅かったわ。

そのIS、なかなかの機動性を持っているのね」

 

「なんなんだよ、てめぇは!」

 

「更識楯無。そしてIS『ミステリアス・レイディ』よ。

覚えておいてね」

 

にっこりと微笑む楯無。

 

同時に手に持つ大型ランスの表面に水が螺旋を描きなから流れ、ドリルのように回転を始める。

 

「けっ! 今ここでころしてやらぁ!」

 

「うふふ。

なんていう悪役発言かしら。

これじゃあ私が勝のは当然ね」

 

そう言いながら楯無はランスによる攻防一体となった攻撃を開始する。

 

八本の脚、そして二本の腕で攻撃を繰り出すオータムとIS『アラクネ』。

それに対して楯無はひとつしかないランスでそれらの攻撃を凌いでいる。

 

「くそっ! ガキが、調子づくなぁ!」

 

腰部装甲から二本のカタールを抜き、オータムは、自らの腕を近接戦闘に、背中の装甲脚を射撃モードに切り替えて応戦する。

 

「そんな雑な攻撃じゃ、水は破れないわ」

嵐のごとく繰り出される実弾攻撃は『ミステリアス・レイディ』を形成する水のベールで全て無効化される。

弾丸はベールに入った瞬間に勢いを失い、その動きを制止させる。

 

「ただの水じゃねぇなぁっ!?」

 

「あら、鋭い。

この水はISのエネルギーを伝達するナノマシンによって制御しているのよ」

 

喋りながらも、その手は止めない。

 

オータムの巧みなカタール二刀流を、ランスで受けては流し、必要に応じて脚を使って完全に攻撃を封殺していた。

 

「なんなんなんだよ、てめぇは!?」

 

「二回も自己紹介はしないわよ、面倒だから」

 

「うるせぇ!」

 

自分の攻撃を完全にやりすごされているオータムは、次第に苛立ちを露わにしていく。

そんな反応などどこ吹く風で、楯無しは涼しげな表情で相手の攻撃を的確に潰す。

 

「ところで知ってる? この学園の生徒会長というのは、最強の称号だということを」

 

「知るかぁ!」

 

右手のカタールを投擲、同時に一気に距離を詰めるオータム。

 

楯無がカタールを弾いた瞬間。ランスを下から蹴り上げる。

 

「あらら」

 

「くらえ!」

 

四本を射撃モード、残り四本を格闘モードへと切り替えててオータムの猛攻が始まる。

「これはさすがに重いわねぇ」

 

「ははは! その減らず口がいつまで続くかぁ! 最強だと?笑わせんなよ、ガキが!」

 

オータムの言葉通り、手数の多さに楯無は次第に押され始める。

装甲に守られているとはいえ、時折その攻撃がIS本体に届き始める。

 

「た、楯無さん!」

 

「一夏くんは休んでなさいな。

ここはおねーさんにお任せ。

君は君の望みを強く願ってなさい」

 

「ガキが!余裕ぶるんじゃねぇよ!」

 

鉄壁のガードを崩したオータムが、装甲脚で楯無をはじき飛ばす。

同時に両手で練り込んだクモの糸を放出し、楯無の自由を奪う。

「はぁ…はぁ…。

てこずらせやがって………ガキがっ!」

 

「うーん、動けなくなっちゃった」

 

 

「今度こそもらったぜ……!」

 

八本の装甲脚を構えて、ゆっくりと楯無に近づいていく。

しかし、楯無はというと焦った様子も怯えた姿もない。

 

「ねえ、この部屋暑くない?」

 

「あぁ?」

 

「温度ってわけじゃなくてね、人間の体感温度が」

 

「何言ってやがる……?」

 

「不快指数っていうのは、湿度に依存するのよ。ーねえ、この部屋って湿度が高くない?」

 

ぎくりとしたオークムが見たのは部屋一面に漂う霧。しかも、自分の体にまとわりつく、異様に濃い霧だった。

 

「そう、その顔が見たかったの。己の失策を知った、その顔をね」

 

にっこりと、女神のように微笑む楯無。しかし、その表情には死神の鎌と呼ぶべき、必殺の意図が含まれている。

 

「ミステリアス・レイディ… …『霧纏の淑女」を意味するこの機体はね、水を自在に操るのよ。

さっきも言ったように、エネルギーを伝達するナノマシンによって、ね」

 

「し、しまっ-」

 

「遅いわ」

 

楯無が指を鳴らす。次の瞬間、オータムの体は爆発に飲み込まれた。

 

「あはっ。何も露出趣味や嫌味でベラベラと自分の能力を明かしているわけじゃないの

よ? はっきりこう言わないと、驚いた顔が見られないもの」

「ぐ……がはっ……。まだ……まだだ!」

 

よろめきながら立ち上がるオータム。

 

「いいえ、もう終わりよ。ーね、一夏くん?」

 

嫌な予感がして、後ろを振り向く。そこで見たのは、右腕を掴み、意識を集中している一夏の姿だった。

 

「…来い、白式!」

 

その全身が光に包まれ、百式が展開される。

同時に『零落白夜』を発動させ、オータムに肉薄する。

 

だがその瞬間、オータムの顔が笑みを紡ぎ出しその言葉を紡ぎ出す。

 

「秘伝忍法!『絶対零度‐アブソリュート・ゼロ』!!」

 

その言葉と共に凄まじい冷気が吹き荒れ一夏の足を凍らせて地面に縫い付け、楯無のミステリアス・レイディが纏う水の装甲もナノマシンごと凍りつく。

 

「なっ!」

 

「つっ!!!」

 

一夏と楯無が目を見開いて驚愕する。

 

「残念だったなガキ共…今度こそぶっ殺してやるから覚悟しろよ」

 

目を血走らせてオータムが装甲脚の火器を一夏達に向ける。

 

だが―。

 

「そうは問屋が卸さぬでござる」

 

声と共に昨乃が更衣室のドアを切り裂きそのままオータムに肉薄、装甲脚を切り裂く。

 

「ちっ!」

 

舌打ちと共に圧縮空気の音を響かせてオータムのISが本体から離れる。

 

光を放ち始めたアラクネに昨乃は電磁フィールドを展開、一夏と楯無しを守る。

 

大爆発が起きたのはそれから直ぐ後の事であった…。

 

 

その後の事を記すとすればオータムを追っていったセシリアとラウラはサイレント・ゼフィルスの介入により取り逃がす事になった。

 

『しかし…』

 

昨乃は眉間に皺を寄せながら今回の件でオータムが使用した秘伝忍法について考える。

教えたのは確実に道元だ。

 

どちらにしても、このまま道元が某国機業の人間に忍術の手解きを行えば昨乃だけでは戦力的に不利な状況に陥るのは確実だ。

 

『最悪の場合は皆に頼らねばならぬでござるな…』

 

そう考え始める昨乃であった。




文化祭編後編をupー

予定していたよりも遅くなってしまった…orz
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