学年合同IS実習-。
グラウンドには、一年生全員が整列していて、いつものように千冬が腕組みをして立っていた。
「影宮、神崎、織斑、篠ノ之、オルコット、、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰、更識、前に出ろ!」
授業開始早々、専用機持ち全員が千冬に呼び出される。
「先日の事件で、お前たちのISは殆どが深刻なダメージを負っている。
自己修復のため、当分の間ISの使用を禁止する」
「はいっー」
さすがにそのあたりのことは言われなくてもわかっているようで、それを証明するかのように、全員がよどみなく返事をする。
「さて、そこでだが……山田先生」
「はいみなさん、こちらに注目してくださーい」
そう言って真耶が千冬の後ろに並んでいるコンテナの前で、「ご覧あれ!」とばかりに手を開いて挙げる。
グラウンドに集合したときから、昨乃を含めて全員がコンテナを注目し騒ぎ出す。
「なんだろ、あれ?」
「もしかレて、新しいーIS?」
「えー? それならコンテナじゃなくてISハンガーでしょ?」。
「なにかななにかな? おかしげ おかしかなあ!」
……最後は言わずもがな本音の言葉だった。
「静かに!
…ったく、お前たちは口を閉じていられないのか。
山田先生、開けてください」
「はい!
それでは、オープン・セサミ!」
真耶の掛け声の意味がいまいちわからなかった一年生は、きょとんとする。
その反応を見て、わずかに涙ぐみながら、、真耶はリモコンのスイッチを押す。
「うう、世代差って残酷ですね……」
『山田先生、大丈夫でござる。
拙者、今し方ようやくその言葉の意味を理解したでござるから…』
っと心の中でフォローを入れる昨乃をよそに
内部駆動磯構を搭載しているコンテナはモーターの駆動音を響かせながら、その重厚な金属壁を開いていく。
「こ、これは……」
一夏が驚いて声を上げる。
「……なんですか?」
ボケた一夏に千冬の出席簿アタックが炸裂する。
『ドンマイでござるよ…一夏殿』
痛む頭を押さえる、一夏を一瞥しながら昨乃は改めてコンテナを見る。
中からあらわれたのは、金属製のアーマーのようなものだった。
「教官、これはもしやー」
「織斑先生と呼べ」
ラウラはそのアーマーに見覚えがあったのか、ついついドイツ軍時代の呼び方をしてしまい、千冬に軽く睨まれる。
敬愛している千冬にきつい表情をされて、ラウラはついつい怯んで口を閉ざした。
「これは国連が開発中の外骨格攻性機動装甲『EOS』だ」
「イオス・…」
「Extended Opesation Seeker。
略してEOSだ。
その目的は災害時の救助活動から、平和維持活動など、様々な運用を想定している」
「あの、織斑先生。これをどうしろと・・?」
箒が恐る恐る尋ねる。
そうすると、返ってきたのは至ってシンプルな言葉だった。
「乗れ」
『えっ?』
一夏&朔乃+女子八人が声を揃えて口を開ける。
「パーソナルデーターデータを提出するようにと学園上層部に通達があった。
お前たちの専用機はどうせ今は使えないのだから、レポートに協力しろ」
「は、はあ……」
なんとなくの返事でうなずく九人。
その後ろに移動した真耶は、その他の一般生徒たちにぱんぱんと手を叩いて指示をはじめた。
「はーい。
みなさんはグループを作って訓練機の模擬戦はじめますよー。
格納庫からISを運んできてくださいね~」
どうやらEOSの性能を見たかったらしい多くの女生徒は、不満げに声を上げるが干冬の一睨みで即座に運搬作業に取りかかる。
とりあえずどうしたものかと考えている専用機持ち九人の頭を順番に叩いて、千冬は行動を促した。
「はやくしろ、馬鹿ども。
時間は限られているんだぞ。
それとも何か?
お前たちはいきなりこいつを乗りこなせるのか?」
「お、お言葉ですが織斑先生。
代表候補生であるわたくしたちが、この程度の兵器を扱えないはずがありませんわ」
自信満々に言い切ったのはセシリアだった。
「ほう。そうか。ではやってみせろ」
にやりと唇をつり上げる千冬に全員がぞくっとした恐怖を感じながら、各々が各機への乗り込みをはじめた。
金属の動く感触。
全く自由に動かない四肢に、自然と眉間にしわが寄る。
「くっ、このっ……!」
「こ、これは……」
「お、重い……ですわ…」
「うへえ、うそでしょ……」
「う、動かしづらい……」
一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロット。
その全員が、EOSの扱いに困っていた。
なにせ、重いのである。
無論、総重量ならばISの方が上だが、あちらにはPICという反重力システムが搭載されている上に、各部に搭載された補助駆動装置、それにパワーアシストなどの恩恵から、ほとんど重量を感じることなく扱える。
それに対して、EOSは一言でいえば金属の塊だ。
補助駆動装置は積んでいるものの、そのレベルはISよりも遥かに低い。
しかも、エネルギーの運用関係上、常にオンにしておけるものではない。
さらにはダイレクト・モーション・システムにより、操縦者の肉体動作の先回りをして動くISとは異なり、すべての動きは操縦者の後になる。
その上、問題は背中に搭載された巨大なボックスだ。次世代型P P Bと呼ばれるそれは、単重量だけで三〇キロを超す。
それほどの重量がありながら、EOSのフル稼働では十数分程度しか持たない。
いかに、ISが優れた装備であるかを、今更ながらに実感するハメになる。
しかし、その一方で黙々とEOSの感触を確かめていたラウラやアリア昨乃は、それから少しして小さく頷く。
「それではEOSによる模擬戦を開始する。
なお、防御能力は装甲のみのため、基本的に生身は攻撃するな。
射撃武器はペイント弾だが、当たるとそれなりには痛いぞ」
千冬がぽんぽんと手を叩いて仕切る。
それからすぐに響いた「はじめ!」の声と同時に、昨乃は脚部ランドローラーを使って未だに操縦に手こずる一夏に間合いを詰めた。
「げっげ!」
「遅いでござる!」
反撃のへろへろパンチを回転運動でかわし、懐へ潜り込む。
そして腰を落としての足払いを放つ。
「ぐえ!」
一夏が転倒したところに、素早くEOS用サブマシンガンをセミオートで三発撃ち込んで、すぐに離脱。
次の目標であるセシリアへと向かう。
「もらったでござる!」
「わたくしはそう簡単にはやられませんわよ!」
サブマシンガンを構えてフルオート連射をするセシリアだったが、その照準はまったく合っていなかった。
「くっ!なんという反動ですの!」
通常、ISは射撃・格闘を問わず反動を自動で相殺するPICとオートバランサーが搭載されている。
しかし、EOSにはそんな便利な機能はない。
つまりすべての行動と反動を生身で制御しなくてはならないということだった。
「ああもう! 火薬銃というだけでも扱いにくいのにー」
最初こそ戸惑ったものの、セシリアは国家代表候補生である。
当然、生身での戦闘訓練も軍で受けているため、段々と反動制御に慣れが出てきた。
しかし、昨乃はその上を行っている。
完全にセシリアが銃器を使いこなす前に、ジグザグ走行でセシリアへと接近した。
「速いですわね!
けれど、この距離なら逆に外しませんわ!」
「甘い!」
さっきー夏に見せた円運動回避とは違う、一直線の特攻。
弾丸は左腕の物理シールドで受けて、そのままセシリアに向かっていく。
「げ!」
「はっ…!」
身構えたセシリア、その肩部アーマーを慣性のまま突き進んだ朔乃が掌で叩く。
「きゃあ!」
バランスを崩し、背中から地面に倒れるセシリア。
EOSはその重量の関係上、倒れるとなかなか起き上がれない。
もちろん、そのための背部起立アームは装備されているが、いかんせん遅すぎる。
体を起こす前に、セシリアはラウラのペイント弾連射を浴びた。
「これで二機!」
昨乃が叫ぶと同時に顔を上げるとアリアが鈴と簪、ラウラが箒とシャルロットを打ち倒していた。
「やはり残ったのは貴様らのようだな」
「まっ、これが私の実力よ」
ラウラの言葉にアリアが答える。
それと同時に三機、共に円運動を開始する。
「はぁぁ!」
先ず最初に昨乃にしかけときたのはアリアだ、急加速してサブマシンガンを撃ちながら昨乃へと向かってくる。
ペイント弾をシールドで受け止めていると…。
「もらったー!」
そう叫びながらラウラがタックルを仕掛けてくる。
アリアが昨乃を引きつけている間にラウラ接近する作戦らしい。
昨乃はアリアをギリギリまで引きつけて回避、同士討ちを狙う。
「「っつ!」」
だが、 ラウラは昨乃が回避運動を取ると同時に射撃を止め、アリアもまたラウラにぶつかるより先に機体を停止させる。
即席で組まれたペアであるのに二人とも息はぴったりであった。
その後もアリアとラウラは幾度も攻撃をしかけては昨乃が回避するという事が繰り返された。
そしてアリアとラウラが昨乃へと十回目の攻撃を仕掛けようとした時―。
「よし、そこまで!」
流石にこれ以上続けても決着は着かないと判断した千冬の号令でEOS模擬戦が終了する。
「さすがだな、ポーデヴィッヒ」
「いえ、これはドイツ軍で教官にご指導いただいた賜物で 」
ばしんーと、出席簿アタックならぬ、スペック表アタックが炸裂した。
「織斑先生だ」
「は、はい……」
頭を押さえるラウラに、それぞれEOSを装備解除した面々が集う。
「ラウラ、昨乃、アリア三人ともこのEOSって使ったことあったのか?」
「いや、これではないが、似たようなものがドイツ軍で存在したのだ。
主に、ISの実験装備の運用試験などに用いられた」
「こんなの慣れよ、慣れ」
「右に同じでござる」
一夏の間いに、三人が答える。
そうしていると、次に話しかけてきたのはシャルロットだった。
「へえ、それであんなにうまかったんだ…ってアリアに昨乃、慣れって!?」
昨乃とアリアの言葉に唖然とするシャルロット。
「どんだけのチートよあんたら」
鈴がそう言いながら苦笑を浮かべる。
「それにしてもお前たち……ぷ、ふ、くくっ」
いきなりラウラが笑いをこらえる。
どうしたのかと一夏たちはお互いの顔を見合わせると、顔面やら運動服やら、とにかくペイントト弾のインクまみれになっていたのだった。
「く、くそ、昨乃…。
わざと俺の顔面狙っただろ」
「ね、狙われる方が悪いのだろ……はははっ」
昨乃の変わりに答えたラウラの珍しい笑い顔に、箒たちはちょっと面食らう。
まるでそれは、友達とじゃれ合う、どこにでもいる少女の顔だったからだ。
「それにしても、このEOSとやらは、本当に使い物になりますの?」
「それは私も気になったな」
セシリア、箒が答えを求めて千冬に視線を向ける。
「まあ、ISの数に限りがある以上、救助活動などでは大きなシェアを獲得するだろうな」
性能差で言えば、例えEOS千機でもIS一機に及ばないだろう。
ということは、伏せておく。
一応、これは建前上では『ISとの戦闘を考慮していない』というものなのだ。
『そんなものをこのIS学園に送りつけてくるなどとは、思い切ったものだ。
それに、それを受け入れた学園長の思惑もいまいち分からないな…。』
しかし、今は考えないでおく。
ー『その瞬間』まで、干冬は考えない。
もちろん、備えはしておくが。
そんなことを考えていると黙り込んでしまったようで、EOSを脱いだ全員が次の指示を待って視線を送っていた。
「全員、これを第二格納庫まで運べ。カートは元々乗っていたものを使うように。
以上だ」
千冬が手を叩くと、全員がその指示通りに動きはじめる。
さすがにカートに戻す作業は真耶がISを使用したが、結局運ぶのは各人の生身なので、鈴があからさまに「うえー」っとイヤそうな声を漏らした。
そんなこんなで、今日もまた実習の時間が過ぎていった。