「そういえば学園にいる専用機持ちで一人なのはお姉ちゃんだけだっけ?」
昼休み、食堂から教室に戻る途中でそう尋ねたのは簪だ。
自己修復の為に時間がかかるために専用機持ちが全員、二人以上で行動する事を義務づけられているのだ。
「それと一夏殿もでござるな。
アリア殿は一時帰国でござるしー」
前回の襲撃時にアリアのラファール・カトラもかなりのダメージを追ったのもあるのだが治り次第、新型パッケージの稼働実験を行いたいという事で今朝方イタリアへと立ったのだ。
「そっか…織斑君…大丈夫…かな?」
「いや、問題はないでござ…」
ろうと昨乃が言おうとした瞬間、突然廊下の灯りが一斉に消えた。
否、廊下だけではなぐ、教室も、電子掲示板も、すべてが一瞬で消えたのだった。
もちろん、昼間なので日光があるため、真っ暗にはならない。
そう思ったのだが。
「ぬっ?何故、防御シャッターが降りてるのでござる??」
ガラス窓を保護するように、斜めスライドの防壁が順番に閉じていく。
ざわざわとそこら中からどよめきが聞こえる中、すべての防壁が閉じて、校舎内は真っ暗になった。
「二秒たっでござるな?」
「うん。
でも、緊急用の電源にも切り換わらないし、非常灯も点かない。
おかしいよ」
ふたりはISをローエネルギーモードで起動し、視界にステイタスウインドウを呼び出す。
同時に視界を暗視界モードに切り換え、ソナーに温度センサー、それから動体センサー、音響視覚化レーダーといった機能をセットした。
『もしも~し、私、楯無でーす。
二人とも無事?』
それと同時ISによるプライベート・チャネルで楯無のちゃらけた声がそれぞれ届く。
それぞれに返事をしていると、それを割り込み回線の声が遮った。
『専用機持ちは全員地下のオペーレーンョンルームへ集合。
今からマップを転送する。
防壁に遮られた場合、破壊を許可する』
千冬の、静かだけれど強い声。
それは、このIS学園でまたしても事件が発生したことを克明に告げていた。
「では、状況を説明する」
IS学園地下特別区画、オペレーションルーム。
本来なら生徒の誰一人として例外なく知ることのない場所に、現在学園にいる専用機持ち全員が集められていた。
昨乃、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪、楯無が立って並んでいる。
千冬と真耶だけがいた。
このオペレーションルームは完全独立した電源で動いているらしくディスプレイはちゃんと情報を表示している。
ただし、空間投影型ではない旧式のディスプレイだったが。
「しかし、こんなエリアがあったなんてね…」
「ええ。いささか驚きましたわ……」
それとなく室内を観察しながら鈴とセシリアがつぶやくと、すかさず千冬に注意を受けてしまう。
「静かにしろ!
鳳!
オルコット!
況説明の途中だぞ!」
「は、はぃぃっ!」
「も、申し訳ありません!」
千冬の怒号で、鈴とセシリアのひそひそ話は中断される。
それから改めて、真耶が表示情報を拡大して全員に伝えはじめた。
「現在、IS学園ではすべてのシステムがダウンしています。
これはなんらかの電子的攻撃……つまり、ハッキングを受けているものだと断定します」
真服の声も、いつもより堅さがある。どうやら、この特別区画に生徒をいれることは、かなりの緊急事態のようだった。
「今のところ、生徒に被害は出ていません。防壁によって閉じこめられることはあっても、命に別状があるようなことはありません。
すべての防壁を下ろしたわけではなく、ど うやらそれぞれ一部分のみの動作のようです」
だからトイレにもいけますよ、と言ったが、誰も笑わなかった。
「あ、あの、現状について質問はありますか?」
「はい」
ラウラが挙手をする。
相変わらず、現役軍人は有事の際に行動が機敏なのだった。
「IS学は独立したシステムで動いていると聞いていましたが、それがハッキングされることなどあり得るのでしょうか?」
「そ、それは……」
困ったように真耶が視線を横に動かす。
それを受けて、千冬が口を開いた。
「それは問題ではない。問題は、現在なんらかの攻撃を受けているということだ」
「敵の目的は?」
「それがわかれば苦労はしない」
確かにそうかと 、ラウラは質問を終える。
他に挙手するものがいなかったので、真耶は作戦内容の説明へと移行した。
「それでは、これから篠ノ之さん、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴイッヒさんはアクセスルームへ移動、そこでISコア・ネットワーク経由で電脳ダイブをしていただきます。更識簪さんは皆さんのバックアップをお願いします」
すらすらと真耶が告げる。
しかし、それに対する専用機持ちたちの反応は静かなものだった。
「…………… 」
「あれ? どうしたんですか、皆さん」
きょとんとしている真耶の前に、楯無以外の全員がぽかんとしていた。
「「「で、電脳ダイブ!?」」」
「はい。理論上可能なのはわかっていますよね?
ISの操縦者保護神経バイパスから電脳世界へと仮想可視化しての進入ができる………あれは、理論上ではないです。
実際のところ、アラスカ条約で規制されていますが、現時点では特例に該当するケース4であるため、許可されます」
「そ、そういうことを聞いてるんじゃなくて!」
鈴がぶんぷんと握り拳を縦に振る。
「そうですわ! 電脳ダイブというのは、もしかして、あの…… 」
セシリアが困惑気味に喋ると、それにシャルロットが続けた。
「個人の意識をISの同調機能とナノマシンの信号伝達によって、電脳世界へと進入させる―」
「それ自体に危険性はない。
しかし、まずメリットがないはずだ。
どんなコンピューターであれ、ISの電脳ダイブを行うよりもソフトかハードか、あるいはその両方をいじった方が早い」
ラウラのもっともな言い分に、簪が付け加える。
「しかも電脳ダイブ中は、操縦者が無防備 。
何かあったら、困るかと……」
最後に箒が全員の意見を代弁した。
「それに、一箇所に専用機持ちを集めるというのは、やはり危険ではないでしょうか」
それらの意見をすべて間いてから、千冬はすっぱりと言い切った。
「ダメだ。
この作戦は電脳ダイブでのシステム侵入者排除を絶対とする。
異論は聞いていない。
イヤならば、辞退するがいい」
その迫力に、全員が気圧される。
「い、いや、べつにイヤとは」
「ただ、ちょっと驚いただけで」
「で、できるよね。ラウラ?」
「あ、ああ。そうだな」
「ベストを尽くします」
「や、やるからには、成功させてみせましょう」
それぞれの同意を得たところで、千冬はパンツと手を叩いた。
「よし! それでは電脳ダイブをはじめるため、各人はアクセスルームへ移動!作戦を開始する!」
その劇を受けて、箒たちはオペレーションルームを出る。
後に残ったのは、千冬と真耶。
それに楯無、朔乃だった。
「さて、お前達には別の任務を与える」
「なんなりと」
「御意に…」
いつものおちゃらけはゼロで、楯無は静かにうなずく。
昨乃もまた同様に前世の―忍時代の任務時の雰囲気に戻る。
「おそらく、このシステムダウンとは別の勢力が学園にやってくるだろう」
「敵―、ですね」
この混乱に便乗して、介入を試みる国は必ずある。
千冬はそう睨んでいた。
「そうだ。今のあいつらは戦えない。
悪いが、頼らせてもらう」
「任されましょう」
「お前には厳しい防衛戦になるな」
「ご心配なく。これでも私、生徒会長ですから。
それに頼りになる相棒もいますから」
そう言って不適に微笑んでみせるが、千冬の顔色は変わらない。
「しかし、お前のISも先日の一件で浅ぐないダメージを負っただろう。
まだ回復しきってもいないはずだ」
「ええ。けれど私は更楯無っこういう状況下での戦い方も、わかっています」
生徒会長どして、一歩たりとも引きはしない。
その強い決意が双眸の奥に見えて、千冬はふっつとため息をついた。
それから真っ直ぐに楯無を見つめて、一言告げる。
「では、任せた」
楯無と昨乃はぺこりとお辞儀をして。
オペレーションルームを出て行った。
「さて、と」
昨乃と楯無は破壊した防壁からひょいっと抜け出ると、軽やかに着地した。
「全校生徒は大体の避難が終わったようだし、それならまあ、大丈夫ね」
扇子を開く楯無。
そこには「迎賓」と書かれている。
お迎えするのは、笑顔ではなく鉄拳だが。
『侵入者アリ。侵入者アリ』
音を立てて携帯電話が鳴る。
楯無はそれを取り出して画面を見る。
「楯無殿…」
昨乃が楯無を冷ややかな視線でみる。
何故ならば携帯には学園のシステムから独立したカメラ…。
即ち無断設置のカメラに敵影が映し出されていたからだ。
「まぁ、まぁ、固いことは言わないで…」
苦笑する楯無にため息をつきながら昨乃は携帯の映像を見る。
画面には男か女かも分からない、枯葉のようなものをつけた「けむくじゃら」が六名見えた。
一見すると森林地帯擬態服に見えなくもないが、まったくの別物である。
「あれは、確か周囲の風景を撮影して表面投射する最新型の光学迷彩ね」
枯葉に見えるのはすべて可動する特殊フィルムで、通常時は葉っぱのようだが、迷彩をオンにするとそれぞれが閉じて装着者を包み込む。
その上に周囲風景を投影して、迷彩効果を発揮するというものだった。
(そ九にしても、システムダウンからこの短時間で最新装備の特殊部隊が学園に突入?
なんだかおかしな話ね)
「いくらなんでもシスタムダウンから敵の侵入までの時間差が短すぎるでござるな…」
昨乃も楯無と同じ事を考えているらしく顎に手を当てて難しい顔をしている。
だがしかし、システムダウンを起こしているものとは別の勢力だろう。
同じ勢力だった場合、ダウンと同時に突入、制圧がもっとも効率的だからだ。
(まあ、常時監視され
てるってことね。
まったく、無粋なんだから)
ここはIS学園であると同時に、花の十代が通う女子枚でもある。
それを二十四時間監視とは、まったく大人はロマンが足りないーと、楯無は思う。
「あら?」
遠くまで真っ直ぐ続く廊下。
そこには何も見えない。
足音もしない。
しかし、何かがいる。
昨乃もそれを感じたのかISを展開している。
「こんなに早く接触だなんて。
私ってば運命因果に愛された女かしら」
短く音が鳴り、特殊合金製の弾丸が楯無に飛んでくる。
しかし、それらはすべて楯無の目の前で止まった。
「!?」
「ふふん。なんちゃってAICよ」
実際には、正面にあらかじめ『ミステリアス・レイディ』のアクア・ナノマシンを空中散布していたのだった。
IS専用の射撃武器ならいざしらず、通常兵器の弾丸程度はこうしてたやすく遮ることができる。
動揺する目に見えない敵兵に微笑む楯無。
そもそも、目に見えない彼らを索敵していたのも、このアクア・ナノマシンだった。
音がなくとも姿がなくとも空気には触れる。
その空気に感知粒子を混じらせておけば、見つけるのはたやすい。そしてー
「ぱちっとな」
楯無がかちんと親指を閉じる。
刹那、大爆発が廊下を飲み込んだ。
「ミステリアス・レイディの技がひとつ。『クリア・パッション』のお昧はいかが?」
こういった屋内戦闘は、本来ミステリアス・レイディの独壇場だ。なにせ、ナノマシンの分布密度から流動まで、すべてコントロールできるのだから。
しかも相手は最新装備の特殊部隊とはいえ、ただの人間。
いくら完全展開できないISであっても、相手になるはずがない。
「弱いものイジメみたいよねえ」
はぁ……っとため息をつく楯無。……しかし。
「うふふ。そういうのって大好き」
にこ一とと、魔性の女が微笑む。
大体、相手はほとんどの生徒が非武装の女子校に乗り込んできたのだ。
大義名分は楯無<BR>にある。
「さあ、行くわよ。必殺、楯無ファイブ!」
言うなり、その姿が五人に分かれる。
ずららっと並んだ、制服姿にランス装備の更識楯無×5。
「まあ、ミステリアス・レイディの機能なんだけどね」
すなわち、五体の内いくつかはナノマシン・レンズによって作り出した幻であり、その他はアクア・ナノマシンによって製造した水の人形だ。
問題は、その内訳が分からないことだった。しかも、水人形に至っては
「どっかーん」
爆発機能付きの実体なのだ。
しかも、水で出来ているので銃弾は効かない。
「は、班長! このままでは―」
「うわああああっ!?」
訓練された兵士、それも最高スペックの男たちがどんどんとやられていく。
さっきカメラに映った六人とは別の班も合流してきたが、一切楯無に歯が立たない。
「ひ、避け! 退けーッ!」
これで十六歳。しかも、機体も本人も本調子ではない。
それでこの有様なのだ。
つくづく、ISとは既存の認識を破壊し尽くしたのだと実感させられる。
「うふふふ♪」
炎の中、微笑む楯無。
一〇〇パーセント、悪役だった。
「うわぁ…」
そんな楯無の様子を若干、引き気味で見る昨乃。
侵入者が圧倒的に悪いのであるがここまでいくと可愛そうに思える。
「昨乃、次はISが10機ほど来るみたいだけど頼める?」
「無論でござる!!」
小太刀を展開すると敵に向かっていった。
学園のシステムが復旧したのは昨乃と楯無が侵入者を迎撃し終えた一時間後であった。
六~八巻の話を割と駆け足で書かせて頂きました。
楽しんでいただければ幸いだったりしますー。