椿を追って昨乃が見つけた場所は学園から近い臨海公園である。
『なるほど…米軍のステルス空母でござるか…』
海上には何も見えないのだがISのハイパーセンサーは誤魔化すことは出来ない。
昨乃の視覚には星条旗を掲げる空母の姿がしっかりと写っていた。
『となれば…学園の制服に着替えねばいかぬでござるな…』
そう心の中で呟くと同時に量子変換してあるIS学園の制服をスーツの上から展開する。
この地球上のいかなる国家、組織、宗教に所属しない完全な独立地帯であるIS学園。
その制服を着ている限り何が起きても国際問題にはならないのである。
IS学園外での展開は、基本的にはアラスカ条約で禁止されている。
だが、忍び緞帳の原理を用いた光学迷彩はちょっとやそっとのことでは見破れない。
『即ち…バレなければ問題無いでござる…』
そう考えながら昨乃はPICによる慣性飛行で飛行甲板へと降りるとISを除装、艦内へ潜入を果たした。
「全く、昨乃ったら…。
これは一週間オモチャになってもらうだけじゃ済まさないわよ」
楯無はISを展開して昨乃の跡を追いかけていた。
10分ほど前に昨乃から不審人物を追跡しているとの連絡があったのだ。
それと同じくして楯無のIS ミステリアス・レイディに秘匿回線通話が入ったのだ。
曰く、米軍の光学迷彩を備えた空母がIS学園近くの臨海公園に停泊しているとの事だった。
昨乃が追いかけていった侵入者も空母と関係あるだろう…。
『何にしても…嫌な予感がするわ…』
昨乃の無事を祈りながら楯無はスピードを上げた。
『おかしいでござる…』
昨乃が空母へと侵入してから既に10分以上過ぎているのだが椿はもちろんの事、船員の誰とも会わないと言うことは有り得ないのだ。
『考えられる可能性は…艦内を亡国機業に押さえられている可能性でござるな…』
等と考えながら熱探知センサーをチェックするが、人間の反応は無い。
『乗務員は殺されてはいないはず…メリットがないでござるし…今の状態は…』
確実に罠だろうと考える昨乃。
『とにかく、急がねばいかぬな…』
思いながら足を早める昨乃であるが、次の瞬間にはその表情をひきつらせる。
『現在、コノ艦ハ自沈装置を作動サセテイマス。
乗員ハ、タダチニ避難シテクダサイ。
クリカエシマス。
現在、コノ艦ハ………』
(ッ………! 冗談でござろう!?)
そんな事をすればアメリカは本格的に対テロ部隊を動かすはずである。
忍の基本は隠密行動である。
それは悪忍であろうと善忍であろうと変わらない。
『まさか…』
亡国機業がアメリカと手を組んでいる可能性を考える昨乃は後方に現れた火球に気づくのが僅かに遅れた。
「―ッ!?」
気配を感じて昨乃が纏雷を発動させると同時に爆発が起こった。
「………どういうこと?」
昨乃が爆発に巻き込まれる数分前、空母にたどり着いた楯無はセントラル・ルームへ赴くと電子端末をハッキング。
ディスプレイに表示された情報に目を顰めるる。
艦内で『亡国機業』の実働部隊『モノクローム・アバター』リーダー、スコール・ミューゼルの情報を発見したのだ。
そのまま、調査を続行して判明したことはスコールは死亡していたという事実だ。
軍隊では、特殊部隊所属の者を死亡者扱いにして経歴を消すことも少なくはない。
だか、楯無が手に入れた情報ではスコールは十二年前に偽装ではなく完全に死亡していたのである。
データを喰い入るように見ていた楯無は背後に、火球が漂っているこに気づかない。
「ツ―!?」
嫌な予感に振り向く楯無。
だが、その刹那にその姿は大爆発に飲み込まれた。
『流石に死んだかしら?』
『気を抜くな、スコール』
黄金のIS ゴールデン・ドーンを展開したスコールを真紅のフルスキンIS 炎帝を装着した道元が窘める。
「そういうことでござる!」
「ここで倒させてもらうわ!スコール・ミューゼル!」
纏雷を展開した昨乃とミステリアス・レイディを完全展開した楯無が攻撃を開始する。
相手はテロリスである。
国際問題などを気にしていればやられる!
そう考えた楯無はガンランスから超高圧水流弾を連射する。
だが、スコールはそれを余裕の眼差しで受け止める。
「あなたのISでは私のゴールデン・ドーンは倒せない」
よく見れば『ゴールデン・ドーン』の周りには薄く熱線のバリアが張られている。
「この程度の水では、この炎の結界《プロミネンス・コート》を破れないもの。
そしてー」
スコールが楯無に向かって手を向ける。
掌に火の粉が集まっていき、凝縮された超高温の熱火球を形作る。
「ミステリアス・レイディのアクア・ベェールでは私のソリッド・フレアを防げない」
その言葉とともに放たれた火球は、バリアを貫通してアーマーに直撃する。
なんとか、絶対防御でしのいだがシールドエネルギーが大きく損耗する。
「楯無殿!ぐっ!」
「他人の心配などしている場合か?」
楯無が攻撃を受けた事を心配する昨乃だが、炎帝が背負うバックバックから発射された小型の杭状ビット《ファング》がシールドエネルギーを貫通して激痛を昨乃に与える。
絶え間ない攻撃に反撃の余裕すらない。
「つまらぬ……大した反撃も無いまま…死ぬがいい…」
そう道元が言うと背部の装甲が開きそこから一斉にファングが放出、昨乃に襲いかかる。
「つぐぅぅぅぅ!」
痛みにか顔を歪める昨乃の目には大剣を展開、刀身に炎を纏わせるのが見えた。
道元の秘伝忍法‐火倶神だ。
以前のように御武雷を展開しようにもファングの猛攻にその余裕が無い。
『せめて…楯無殿だけでも…』
楯無だけでも逃がそうと気力を振り絞りサブマシンガンを展開する昨乃。
楯無はゴールデン・ドーンの食虫植物を思わせる尾の先端に捕まえられている。
霞む意識の中で、昨乃は狙いをつけようとする。
だが、そこでゴールデン・ドーンは楯無のを拘束から解放すると放り投げたー。
そう、昨乃の方へ。
『楯無殿!!』
ファングが飛び交う中、昨乃は楯無を受け止めると彼女を守るように覆い被さる。
「二人仲良く死ねぇ!」
そこへ道元が放った炎が二人を焼き尽くさんと放たれる。
放たれる熱波だけで身体が焼けそうになる。
喰らえば、昨乃も楯無も跡形無く焼失するだろう―。
「昨乃!お姉ちゃん!!」
聞こえてきた簪の声と共に昨乃は先ほどまで、自分たちに襲いかかってきていた熱波がいつの間にか止んでいる事に気づく。
霞む目を見開くと、シールドパッケージ『不動岩山』を装備した簪が炎を防御しており、アリアが医療用ナノマシンフィールド『エリクシル』で昨乃と楯無の傷を癒していた。
「アリアちゃんに、簪ちゃん…どうして?」
「イタリアからパッケージの稼働試験から戻る途中、戦闘してるのが見えたからね!!」
「私だって、守られてるだけじゃない!私だって、守ってみせる! お姉ちゃんを!! みんなを!!!」
言いながら簪は投射型のキーボードを激しく叩く。
「受け取って、お姉ちゃん!」
簪の言葉と共に、複雑な記号の羅列が光りとなって集約する。
それこそが、ミステリアス・レイディ専用パッケージ『オートクチュール』。
名前を『麗しきクリースナヤ』。
赤き翼を広げたユニットは、楯無の背中へと接続される。
瞬間、アクア・ウェールの色が青から赤へと変わる。
通常エネルギーから超高出力モードに切り替わったのである。
「私も見せてあげる! 私の本気………ワンオフ・アビリティ…《セックウァベック》を!」
《セックウァベック》…北欧神話の主神、オーディンの第二の妻ゎサーガのみが住むことを許された館。
「くっ…機体が…」
「私とゴールデン・ドーンが空間に沈んでいくですって!?」
「そう、これが《沈む床‐セックウァベック‐》。
超広範囲指定型空間拘束結界よ」
その拘束力はラウラのAICを遙かに凌ぐ。
何せ、周囲の空間すべてに飲み込まれていくいくのだから、脱出も回避も不可能な文字通り結界なのである。
「こんなもの!私と道元殿の炎で焼き尽くして―」
「させると思う?」
余裕満々の笑みを浮かべた楯無が《ミスとるティンの槍》を発動させていた。
「なっ!?どこにそんなエネルギーが!?」
叫ぶスコールであるが実を言えばミステリアス・レイディにそれほどエネルギーは残っていない。
アリアのトランザムによるものであった。
そんな事も知らないスコール達な体は更に沈んでいく。
見えない水面が腰まで迫ってきているのだ。
コノ状態では脚部スラスターを操ることは出来ない。
にっこりと微笑むとチャージを終えたミスとるティンの槍の矛先をスコールに向け、一直線に突っ込む。
「この私が………やられる?
いいえ、まだよ!」
突進してくる楯無に向けて右とを向け、素早く火球を生み出す。
「今更そんなもので!」
今のまま押し通るつもりの楯無は、減速はせず。
そのまま加速するとミストルティンの槍と一体になる。
「ふっ……」
槍がスコールの体を貫くそのまさに一瞬手前で、スコールは火球を自らの身体にぶつける。
「なっ!?」
制限無しの極大火力を受け、スコールの体は大きく吹き飛ぶ。
同様の方法で道元も結界から抜け出したようだが二人ともその体はただでは済まされない。
そのあかしに―道元のちぎれた左腕は人形の関節が覗き、スコールは機械部分が露出していた。
「サイボーグと倶ぐつどござざるか…」
呟く昨乃…。
「くくく、やはり野望というものはなかなかにうまくいかぬものだな…」
「じゃあね、生徒会長さん」
二人はそうい言うと煙幕代わりに火球を並べて一斉に放つ。
「お姉ちゃん!昨乃!!」
だが、間一髪でスコールの最後の攻撃を簪が防いだ。
「強くなったね…簪ちゃん…」
「本当に…見違えたでござるよ…」
ボロボロの二人の体を簪は支える。
「ううん、二人ともの方こそお疲れさま」
そんな二人の体を支えながら簪は労いの言葉をかけたー。