「誰よ、この女ぁ!?」
合流して開口一番、叫んだのは鈴だ。
場合は旅館の大部屋。
大声でふすまが揺れた。
「は? オータム、だろ?」
呆けたように口を開けた後、縛られた女性を指さして、一夏が答える。
「様をつけろよ、デコ野郎!」
吠えるように言う様子はさながら狂犬である。
「うるさいぞ」
ラウラの爪先がオータムの鳩尾に食い込む。
息を詰まらせるオータム。
「私たちが聞きたいのは、こっちの女だ! さっきからお前にまとわりついている! ……ああっ! な、な、何をしている!?」
箒に話を振られた女性は得意顔をしてみせる。
「何って、この子、いい匂いがするのサ。
シャニィもお気に入りなのサ」
シャニィ-と呼ばれた白猫が上機嫌とばかりに鳴き声を上げる。
それはそうとして、女性はとにかく一夏を抱きしめたり、触ったりと、ベタベタしている。
「おい、わざとらしい真似はやめろ」
頭が痛いとばかりに千冬が呟く。
「ふふん、ひさしぶりサね。
ブリュンヒルデ。
さすが、かわいがるだけの弟くんなのサ♪」
言って、一夏を放す女性。
一夏は一夏で、別段嫌がる様子もなかったのが、ヒロインズには、気に入らなかった。
「あんた! なんで抵抗しないのよ!?」
「い、いや、あの人、いい匂いだなって……」
「ムキー!!」
地団駄を踏みながら、鈴は一夏にパンチを繰り出す。
「そう、そうですの。
私の最高級フレグランスよりもいい匂いがしますの……ホホ、オホホホ♪」
言いながら、セシリアは【スターライトmkⅡ】を撫でる。
いまにも発砲しかねないその雰囲気はまさに一触即発だった。
「一夏って、挨拶するたびに女の子を連れてくるよね? どういうことなのかな」
シャルロットが天使の笑みを浮かべるが、目は笑っていない。
「いい加減にしろ! 」
頭中色恋沙汰の十代乙女を叱りつけ、その場を仕切り直す。
「あー、先ずは自己紹介から入ってもいいのサ?」
「……好きにしろ」
もうどうにでもしてくれとばかりに千冬は額を押さえる。
「私の名はアリーシャ。 『嵐-テンペスタ-』のアーリィと言えば、一応知ってくれているのサ?」
もちろん、第2回モンド・グロッソ覇者の名前を知らないわけが無い。
その名前は、欧州組には聞きなれた名前だ。
「あなたが『テンペスタ』の……あの、失礼ですがその腕と目は……?」
セシリアがアーリィの刀の鍔を模した眼帯をつけた右目と隻腕を見て尋ねる。
「ああ、これは『テンペスタⅡ』の起動実験でちょいとやらかしてね。
あいにく不在なのサ」
あまり聞くべきではなことの気がして、セシリア含めた一同は押し黙る。
「……」
重い沈黙がその場を支配した。
「おい! このオータム様をいい加減解放しやがれ!」
空気の読めないオータムに、今度は千冬の爪先が横腹に食い込む。
「ぐぇっ」
女だろうと男だろうと、おいも若きも容赦ない。
「さて、こちらの戦力はマイナス二、しかし敵の戦力もマイナス一、だが、アーリィを足してこちらプラス一だ。
悪くはない数字だが敵の数字はプラス2であることも忘れるな」
マイナス二とは亡国機業に裏切った3年のダリル・ケイシーと2年のフォルテ・サファイアのことだろう。
千冬の言葉に、全員が気合いを入れ直す。
……アーリィだけはぷらぷらとISの待機形態のキセルを弄んでいたが。
「ともかく、先手を打たれただけでは終われないわよ。
今度はこちらから攻めましょう」
いままどどこにいたのか、楯無が現れる。
「敵の潜伏先はふたつに絞られたわ。
ひとつはここから遠くない市内のホテル。
もうひとつは空港の倉庫よ。
さすがは亡国機業、盲点をついてくるわね。
堂々と一般人として宿泊し、物資は空港の倉庫……うまい考えだわ」
なるほどと、全員が納得したところで、オータムが口を挟んできた。
「へ、いままで気づかずにいたんだろうが、マヌケ!」
「「うるさいぞ」」
千冬とラウラ、師弟コンビのつま先が再びオータムの服部に食い込む。
「げほげほっ!」
血反吐を吐いて、オータムは2人を睨む。
「…………」
しかし、あまりの眼光の鋭さに、逆におののいてしまった。
「それじゃあ、私たちは部隊をふたつにわけましょう。
アーリィ様率いるホテル襲撃部隊、これには箒ちゃん、鈴ちゃんがアタッカー、セシリアちゃんがサポートね」
「了解した」
「任せなさいよね」
「後衛は私の独壇場ですわ」
それぞれが頷く。
さすがに、ここにきてまで一夏と一緒にしろというほど馬鹿ではない。
「残る一夏くんと朔乃、シャルロットちゃん、ラウラちゃん、簪ちゃんは倉庫に潜入。
ラウラちゃんがエスコートしてあげて」
「了解にござる」
「無論だ。潜入任務は任せておけ」
「みんな、がんばろうね」
「足を引っ張らないように、する……」
「俺も気合いいれていくぜ」
こちらも各々とも緊張した面持ちで任務に挑むのだった。
「織斑先生、山田先生、そして私はこの本部で待つわ。
何かまずい動きがあれば、駆けつけるからね」
そう言って頼もしくウインクしてみせる。
『さすが、楯無殿でござるな……』
学園最強の座、生徒会長の肩書きは伊達ではないと朔乃は感心する。
「それでは、作戦開始!」
ぱんっ! と楯無が広げた扇子には、出陣の二文字。
それを合図に全員が行動を開始した。
「ここに亡国機業の手がかりがあるのか」
闇に紛れて、一夏と朔乃、ラウラ、シャルロット、そして簪が駆ける。
昼間の戦闘から、こちらの動向は完全にバレてしまっている。
それなら、あとは急ぐしかない。
「!待て」
先頭のラウラが足をとめる。
「おかしい…なぜこうも静かなのだ」
たしかに、ISはおろか警備員さえ見当たらない。
流石に何かがマズイと感じたラウラは、すぐさま『シュヴァルツェア・レーゲン』を朔乃は『黒鉄』を展開した。
「一夏!」
「一夏殿!」
いきなりの光一閃に、朔乃とラウラは身を盾にして一夏を守る。
「ぐっ」
「つっ!」
「ラウラ! 簪、シャル、俺たちもー」
ISを展開する前に、目の前で倉庫が吹き飛んだ。
かろうじてIS展開によるシールドを張ったが、体勢を崩す一夏達。
そして、そこに一直線に突っ込んでくる機体があった。
「……『サイレント・ゼフィルス』!!」
すなわち、マドカの強襲であった。
「ぬるい……!」
銃剣のついたロングライフルで簪とシャルを切り払い、瞬時加速によって一夏に詰め寄る。
「私の狙いは貴様だ、織斑一夏!」
タックルで弾き飛ばされた一夏だったが、すぐさま姿勢を立て直し、マドカと同じタイミングで瞬時加速に入る。
「ふん、少しは成長しているようだな」
「おかげさまでな!」
剣戟を交わしながら、二つの流星が夜空を走る。
朔乃も、ラウラ、シャルロット、簪も奇襲のダメージが予想以上に大きく、二人を追うには時間を浪費してしまった。
それでも、一夏の身を案じて四人は飛び立とうとする。
その前に、ふわりと躍り出る影があった。
「にゃーん。 せっかくの『黒騎士』のお披露目を邪魔させないよ☆」
陽気な声の主、それは篠ノ之束その人だ。
「きらきら☆ぽーん♪」
右手で構えたステッキをくるくる回し、朔乃、ラウラ、シャルロット、簪に向ける。
刹那、四人のISが地面に這いつくばった。
「ぐっ!」
「なっ!?」
「う、動けない」
「これ、は……重力!?」
なんとか立ち上がろうとする三人を、まるで巨人の手で押さえつけられるような重量感が襲う。
「にひっ。 束さんの再新作、空間圧搾用兵器試作八号【王座の謁見】はいかがかな?
ちょっとだけ、出力高めでお送りするよん♪」
ニコニコ笑顔の束は身動き取れない3人に手を伸ばす。
「ついでだから、ISのコアを頂いちゃうよん」
無力化だけでは飽き足らず、IS自体を奪おうとする束にラウラは怒りの表情を向ける。
「貴様、この屈辱を忘れはしないぞ!」
「ふふん、怒りだけではどうにもならないよん。
この世界の不条理と不公平は」
ラウラに手を伸ばす束だが、直ぐさまその手を引っ込める。
よく見ると、その手には刃物による切傷がついていた。
「やあっときたね、ちーちゃん!」
暗闇から飛び出してきた影は、日本刀を振り回す。
的確に、その斬撃は朔乃たちから束を引き離していく。
「情け深いねえ、 ちーちゃん♪」
紙一重で攻撃を避ける束。
二人の戦いはまるで舞のようだった。
「教え子がやられるのをみすみす見逃すわけにはいかないのでな」
一見、互角に見える戦いだが朔乃達を庇っている以上、千冬が押され始める。
「始めようよ、ちーちゃん! 最高のパーティを!」
「そんなものに興味はないぞ、束!」
千冬が日本刀を振るい、束がステッキで応戦する。
どんな素材で出来ているのか、鍔迫り合いの度に2人の獲物から火花が散る。
「これが、『地上最強』と『人類最高』の戦い!」
入学試験の時に朔乃との手合わせは本気を出していなかったのだろう……。
だだだだ圧倒される。
「やーめたっ☆」
突然に束がステッキを投げ捨てる。
それと同時に、千冬も攻撃の手を止めた。
「こんな舞台じゃもったいないよ。
私とちーちゃんの対決に、ぜんぜん相応しくないね」
「はいそうですかと、逃がすと思うか?」
「ん? ぜーんぜん思わないけど、ちーちゃんが教え子を見捨てるとも思わないなぁ」
朔乃達に、指鉄砲を向ける。
「ばーん☆」
刹那、とてつもない衝撃に襲われた朔乃達は、ISもろとも吹き飛ばされた。
「束。 お前……!」
「じゃあね、ちーちゃん。 次に会う時は万全にしておいてね」
ウインクをして、束が指を弾く。
すると煙幕が立ち上り、マジシャンのように束の姿は消え失せた。
束と千冬の戦いから上空で繰り広げられる一夏とマドカの戦いに視線を転ずる。
セカンドシフトを経て漆黒の期待に転じたサイレント・ゼフィルスのランサー・ビットが放つエネルギー弾に対しを一夏はエネルギー無効化シールドを左手の《雪羅》から展開して防ごうとする。
しかし、連続で放たれるエネルギー弾を左腕だけの防壁で防ぐにはあまりにも無防備。
ランサー・ビットの突撃を避けたところにロングライフルが変じたバスター・ソードで斬りかかる。
雪片弍型で受け切ろうとした一夏だが、剣ごと斬り伏せられた。
夜の闇に、一夏は落ちていく。
それを逃さず、ランサー・ビットの放出射撃が地上を焼き払う。
そして炎の中で起き上がれずいるいる一夏を、マドカは何度も蹴りつける。
束の【王座の謁見】の影響か、『黒鋼』の再起動までは少し時間がかかりそうだ。
『拙者はむりょ』
無力……そう言いかけた所で自分に眠るもうひとつの力に思い至る。
「秘伝忍法!!」
素早く印を切り雷をその身に纏うと、2人の間に割って入り意識を失った一夏に振り下ろされんとするバスター・ソードを白刃取りする。
「邪魔をするな!! これでようやく……私は織斑マドカになれ……」
言いかけたマドカが大きく目を見開く。
そのその視線の先にあるのは先程意識を失ったはずの一夏だ。
朔乃もそちらの方に視線を向けると一夏がゆっくりと立ち上がろうとしていた。
いや、立ち上がると言うよりも見えない力に押し上げられたと言うほうが正しいかもしれない。
「…………」
ゆっくりと、そして唐突に開かれた一夏の瞳は金色に輝く。
「一夏殿!?」
「貴様、いったい……!?」
その問いに答えない。
その傷ついた装甲を下から別の装甲が押し上げていく。
まるで脱皮するように古いアーマーを脱ぎ捨てる白式。
そしてその姿はー。
「『白騎士』だと……!? 馬鹿な、データは完全に初期化されているはずー」
言い終わるよりもはやく、『白騎士』が動く。
瞬時加速と同等かそれ以上の速度で繰り出された蹴りは、マドカを背後の巨木ごと吹き飛ばす。
困惑するマドカに、一夏……否IS『白騎士』は攻撃を再開する。
それに応戦するようにマドカも応戦する。
3度、ふたつの機影が衝突する。
ようやく使用可能になった『黒鋼』に纏雷を展開した状態でマドカと白騎士の戦闘を追いかける朔乃。
最初こそマドカを圧倒していた白騎士だが、人の意志のない暴走状態の白騎士に対して攻撃に転じる。
大型のバスター・ソードを鞭剣に変貌させるとランサー・ビットで追い込んだ白騎士を捕まえ、エネルギー刃が白騎士の装甲をノコギリのように刻んでいく。
ついに絶対防御のシールドエネルギーが切れると思われた瞬間、白騎士はその手で鞭剣を引きちぎった。
白騎士に何かを言われたのか激昂したマドカは白騎士の首を締める。
しかし、本来一夏であるはずの白騎士は、ものともせず、逆にマドカの首を取る。
そして、そのままマドカを地面に押し付けながら、瞬間加速の最高速度で突き進む。
無論、マドカも無抵抗で終わるつもりもなく、膝で何度も胸部装甲に蹴りを放つ。
装甲限界に到達したのか、白騎士はマドカの拘束を完全にとく。
「死ねええええええっ!!」
ランサー・ビットを片手近接武装に切り替えたマドカは、その槍先を白騎士の額に向けて伸ばす。
しかし、その望みは叶わなかった。
槍先を切り上げた白騎士は、その刃を今度はマドカの胴体へと振り下ろす。
マドカの胸部装甲が裂け、中からペンダントがこぼれ落ちる。
どちあにか空中でキャッチするが、同時にそれは白騎士の攻撃に再度付け入る隙となった。
「潮時よ、エム」
いつからそこにいたのか、上空からIS『ゴールデン・ドーン』を身に纏ったスコールが現れた。
すぐさま新たな敵影に反応する白騎士だが、スコールへの近接は強力な熱波により遮られる。
「なかなかいいわね、このパッケージ。 気に入ったわ」
よく見ると、その右腕にはオータムを抱いている。
「さようなら、織斑一夏くん。 また会えるといいわね」
「離せ、スコール! 私は、私はっ!!」
「聞き分けのない子は嫌いよ。 お仕置は嫌でしょう?」
マドカの腕をきつく握りしめたスコールは、そのまま瞬時加速とパッケージ・ブーストによって空域を離脱する。
「………」
あとには、白騎士となった一夏だけが残された。
「……来る」
誰に言う訳でもない白騎士のつぶやき。
そろに呼応するように、箒と鈴とセシリアが現れた。
「な、何よ、あれ……白式は、一夏はどうなったのよ!?」
鈴の悲鳴じみた叫びが響く。
「力の、資格が、ある者たちよ………」
白騎士は、その刃を箒たちに向ける。
「私に、挑め……」
最悪の戦いが、始まろうとしていた。
次の話……朔乃をメス堕ちさせようか悩む(;´д`)